les 60 ans

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  (60歳を前にして 日々思うこと つれづれに:改題)
 小型AT二輪免許とその周辺の話

小型AT限定二輪免許の話 (055) 「卒業検定 受験(10)」

2022-10-03 10:39:53 | バイク

 

「いま二輪の検定を受けてきたんですが,体調が悪くなって... どこか救護所はありますか?」

 

 受付の方に申し出ます.同時に体温計の前に立ち「体温正常」であることを示します.耳の後ろの脈拍は,まだバクバクいっています.足はふらつきます.

 「では,まず講義室わきのベンチでお休みいただいます」 ときどきそういう方がいるのでしょう.指示に従って講義室(本来ここで合否発表などがあるはずです)の奥の待合室のベンチで横になります.

 この車校に通い始めた時にも同じようなことがありました.日曜日の午前中に教習を受け,帰宅してから体調を崩して寝込んでしまったこと.過度の緊張に耐えられる年齢ではないのです.体調管理を行ってきた「炎の八日間」でしたが,うまくいきませんでした.

 荷物を枕にして横になります.そうだ,冷たい飲み物を買っておきましょう.わきにある自販機でスポーツドリンクのペットボトル1本買い,横になってから首のあたりに当てます.クールダウンです.

 しばらくして検定員の方の一人が私のわきに座っていいます.「どうしましょう.救急車を手配しますか?」

 そんな大事になってしまいました.

 現時点ではⅠ-1にもなっていない状況です.「いまはまだ大丈夫です.もうすこし休みます」 「では,そのまま休んでいてください」

 

 人が来ないような隅のベンチで,年寄りが顔を青くして寝ています.車校というのは10代20代の方々が集まるところです.私はおとなしく隅にいなければなりません.

 

 うとうとしたり,また意識がはっきりしたり.ほかの受験生の方々は講義室内でなにか説明を受けています.わたしはここで寝ているので,この車校ではどのように合否を通知するのかがわからない状況です.ただ寝ていて体調の回復を待ちます.桑畑三十郎です.いや六十郎か.

 

 約1時間後.講義室内にほかの受験生が順次入っては出てきます.1-2人ずつでしょうか.自分もだいぶ楽になってきたので,ベンチに座りなおします.

 

 検定員の方が私のそばに寄ってきます.「体調はいかがですか?」 「いまはなんとか落ち着いてきました」声がはっきり出ています.

 「では中に入ってください」 後について室内へ.

 

 講義室内では最前列の右端と左端に椅子とテーブルが向かい合わせにおいてあります.右端で別の検定員の方と受験生が向かい合って話をしています.内容は聞き取れません.空いている左橋の椅子に座ります.

 検定員「クランクをしっかり通過できたのに出口ですこし傾きましたね」 .そのとおりです.「はい.あれは自分でも残念でした」

 検定員「ウインカーの消し忘れには気が付いれたようです」   はい.あれは自分でもよく気が付いたものです.

 検定員「合格です」

 

 

 はい?

 

 検定員「合格ですよ」

 

 六十年も人生をやっているのに,ピンチの時に弱い人間でした.恥の多い人生でした.

 私は,いま自分がなぜここにいるのかをすっかり忘れていました.ここはスイスとリヒテンシュタインの国境ではなく,私はアランではありません.いろいろなことをわすれていました.まだ緊張が解けていなかったのです.

 

言葉の意味を理解するのに数秒.どっと緊張がとけて体が沈みます.

 

トシヨリの特徴として「涙腺がゆるい」ということがあります.今の自分もそうです.涙が出て,検定員の前で顔を両手で覆ってしまいました.

検定員「おめでとうごさいます.このあと合格証書の授与式を行いますので,廊下で待っていてください」

 

まだ足がふらつきますが,廊下で待機です.私は最後の受験生です.廊下にはまだたくさんの若い方々が立っています.みな授与式をまっているのです.

 

わたしもその一人です.涙を流している59歳.

前頭筆頭に勝って,小結になったのです.

 


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