小生の友人演出家・翻訳者でもある横田安正氏がダライ・ラマについて述べているのでご紹介いたします。
先日、日本に立ち寄った際ダライ・ラマ14世は「我々は独立や分離を望んでいるわけではない。ティベット人の人権回復を願っているだけなのだ」と述べた。TVの報道をみると発言にたいし殆どの有識者と称される人たちは「ダライ・ラマがそう言っているのだから抗議行動は穏健にしてもらいたい。また中国政府もダライ・ラマとの会談に臨んで欲しい」などと当たり障りのないことを言っている。宮崎某という評論家は「ティベットは経済・国防・民生などすべての面で中国のもとでなければやっていけない。独立などしょせん無理な話で、ダライ・ラマもそれが分かっているからああいう発言をしているのだ」という趣旨の解説をしていた。イヤハヤ、日本の偉い人たちのナイーヴさ、ここに極まれり!(ナイーヴという英語は日本語に直すと「無邪気な」とか「おバカさん」という意味になります)
ティベット亡命政府の長(おさ)であるラマがこういう発言しかできないのは当たり前ではないか。もし「我々は当然の権利として独立を求める」などと宣言したらどうなるか?中国政府はいっそう激しい弾圧に乗り出し、ティベット人の命そのものが危険にさらされることになる。ダライ・ラマ14世の発言は「ウソも方便」あるいは「建前」と思ったほうが良い。中国政府はそのことを百も承知なので、ダライ・ラマをウソつき、反乱分子のリーダーと呼び対話を拒んでいるのだ。もしダライ・ラマが本気で中国の統治を望んでいるなら、亡命政権を続ける理由がなくなってしまう。
日本の先住民族であるアイヌ人は優勢な大和民族に圧迫されて北海道まで逃げのびたが今や言語を含むその文化は絶滅の1歩手前といわれている。混血がすすみ純粋なアイヌ人は存在しないという。したがって「北海道をアイヌ共和国にしよう」などという運動は起きようがない。アイヌの日本化は千年の時間をかけて徹底的になされたのである。ダライ・ラマが最も恐れるのは謂わば「ティベットのアイヌ化」であり中国が理想とするのはやはり「ティベットのアイヌ化」なのだ。ダライ・ラマも今の中国政府が続くかぎり、早急なティベット独立は望めないことを知っている。恐らく100年、200年のスパンで独立を考えていることだろう。それを実現するにはティベットの文化と民族を守り通す以外に道はない。自治権をなるべく強固にして漢人の無制限な流入を阻止する必要がある。「アイヌ化」をもっとも効率的に推進するのは人口で圧倒することで、中国政府がティベットに大量の漢人を送り込んでいるのはそういう理由からである。ダライ・ラマもティベット人そのものの消滅を恐れている。100年後、200年後、ティベット民族はどれだけの人口を維持できるのか、が問題なのだ
ダライ・ラマ14世はあくまで敬虔な仏教徒であり、ギンギンの政治家ではない。絶対独立といったスローガンよりも自分が率いることになったティベット民族の存続と安寧こそが最優先事項である。しかし、ティベット民族の存続と安寧が中国の統治下でなく独立のもとでなされるのに越したことはない。当たり前の話だ。
ヒマラヤ地帯ではネパール、ブータンなどの小国も中国・インドという大国の狭間でなんとか独立をたもっている。はるかに広大な国土と豊富な資源を持ち、独特の仏教文化を持つティベットが独立できないわけがない。かつてソ連の支配下にあった地域が続々と独立したように民族自決は世界の流れである。中国の共産党1党独裁もソ連の例に倣えばあと4-50年の命脈ともいえる。ティベット民族は少なくともあと半世紀、艱難辛苦に耐え、あらゆる知恵をしぼって頑張る必要があり、世界の国々はそれをサポートしなければならない。それは中国にしつこく抗議し続けることである。
横田安正氏 筆
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