震災短編『母燃ゆ』5
舞衣は、必死になって瓦礫の中へと歩んだ、そして、腹から搾り出すように「お母さぁ~んッ! サトシぃ~ッ!」 と絶叫した。 しかし、その佇(たたず)む処からは何の音沙汰もなかった。
震災短編『母燃ゆ』4
内陸の盆地に住む舞衣にとって、津波の心配は皆無であったが、祖父母の代からの旧家で築六...
震災短編『母燃ゆ』3
周囲の民家は新しいものは頑健にその姿を残していたが、何処か昭和臭のするような木造の古家は梁から柱から折れ、崩れ落ちるように半壊、ないしは全壊しているものもあった。 すさまじきは...
震災短編『母燃ゆ』2
激しい揺れの間は、誰もが、その場に立ち尽くし、あるいは、しゃがみこんで、離れることな...
震災短編『母燃ゆ』1
理不尽な天災・天変地異による「愛別離苦」は、当人や遺族には悲劇としか言いようがないが、それを聞かされた者にも強烈なトラウマ(心的外傷)を残すものである。 これは、6,400人も...
震災短編『贖罪』最終話
治療を開始してから、一年を経て、ようやく圭子の鬱は完全寛解を迎えた。 女医からも、「もう、おクスリはやめても大丈夫でしょう」 とのことだった。 カウンセラーの高梨からは、「
震災短編『贖罪』14
服薬とカウンセリングとお祈りを続けて、三月ほど過ぎると、圭子の鬱は、目に見えて回復に向かっていた。 この頃では、朝夕、ひとりで散歩をしたり、母親の付き添いで買い物にも出れるま
震災短編『贖罪』13
抗うつ剤と安定剤、眠剤によって、体調は大分に回復してきた。 両親が揃っている実家...
震災短編『贖罪』12
初診から六週目に、ようやく、女医は患者をトラウマと対峙させるべく、院内の心理師にサイコ・セラピー(心理療法)を任せた。 圭子は、いよいよその時が来た、と腹を括った。「こんに
震災短編『贖罪』11
初診から一月ほど経ち、ようやく安眠がコンスタントにとれるようになり、食欲もぼちぼち出てきはじめた。 ただ、ナイトメア(悪夢)とフラッシュバックには、しばしば悩まされた。
震災短編『贖罪』9
抗うつ剤であるパキシルが効いてくるには、個人差もあるが、だいたい四週から六週を要するものである。 その間、抑うつ症状は、抗うつ作用のある安定剤ソラナックスが役立ってくれる。 パ