『人生を遊ぶ』

毎日、「今・ここ」を味わいながら、「あぁ、面白かった~ッ!!」と言いながら、いつか死んでいきたい。

  

震災短編『贖罪』12

2022-11-18 09:22:03 | 創作

 

 初診から六週目に、ようやく、女医は患者をトラウマと対峙させるべく、院内の心理師にサイコ・セラピー(心理療法)を任せた。 

 圭子は、いよいよその時が来た、と腹を括った。

「こんにちは。
 カウンセラーの高梨です」
 と、優しげな目をした初老の男性が挨拶した。

「はじめまして。
 よろしくお願いします…」
 と、圭子は、カウンセラーの醸しだす仄暖かなオーラを感じとって、いくらか安心した。

「ドクターからメモを拝見いたしました。
 ずいぶんお辛い体験をなさいましたね…」
 いきなり核心から迫られてきた。

「えぇ…」
 とは言ったものの、やはり、二の句が出ずにいた。

(泣いてもいいんだ…)
 と、圭子は、自制のサイド・ブレーキを外すことにした。 

 すると、苦もなく涙があふれた。

 カウンセラーもまた、その涙が溢れるにまかせ、すぐには問い質すことはしなかった。 

 哀しく辛い出来事を、カウンセリング室という自由にして護られた空間で、再体験して、その感情を十分に味わうことがグリーフワークの第一歩でもあった。 

 それは、習熟したカウンセラーによって、安全感・安心感・大丈夫感を提供された場でこそ出来る「こころ」と「たましい」の治療でもある。


 高梨は、ひとしきり、涙が出切るのを待って、
「ご自身を責めておられるんですね…」
 という言葉をかけてみた。

 クライエントは、鼻水を啜(すす)りながらコクリと頷いた。 

 

       


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