舞衣は、必死になって瓦礫の中へと歩んだ、そして、腹から搾り出すように
「お母さぁ~んッ!
サトシぃ~ッ!」
と絶叫した。
しかし、その佇(たたず)む処からは何の音沙汰もなかった。
咄嗟に、彼女は家を周回して四方八方から声掛けをした。
そして、台所の辺りで何やら微かな呻き声が洩れてきた。
それは耳を澄ますと、母が自分を呼ぶ声であった。
「ま、い…」
ハッとすると、舞衣は絶叫した。
「お母さぁ~んッ!
どこぉ~ッ?」
すると、またしてもか細い、消え入りそうな声で
「ここ、よ…」
それは、明らかに倒壊した瓦礫の中から漏れ聴こえてきた。
「お母さぁ~んッ!
聴こえるよぉ~ッ!
今すぐ助けるからね~ッ!」
とは、言ったものの、何をどうしていいのか分からない。
とりあえず、声の漏れてくる辺りの瓦礫を一つずつ取り除くことしかできなかった。
それも、小片なら可能だったが、家の梁や柱に至っては、とうてい少女ひとりの手に負えるものではなかった。
さりとて、周囲の家々も潰れていて、何処からも救い手が現われるでもなかった。
「お母さぁ~んッ!
大丈夫だから~ッ!
すぐ助けるからね~ッ!」
と、必死の思いで、そう声を掛けてはいるが、瓦礫の撤去は全くといって進捗しなかった。
その間にも、巨大余震が幾度も足元を揺らし、そのたびに、まるで母を苦しめるように瓦礫が圧縮されていった。
「いや~ッ!」
舞衣は、その自然の容赦ない猛攻に悲鳴を上げて抗った。
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