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周囲の民家は新しいものは頑健にその姿を残していたが、何処か昭和臭のするような木造の古家は梁から柱から折れ、崩れ落ちるように半壊、ないしは全壊しているものもあった。
すさまじきは巨大地震の破壊力である。
ブロックや煉瓦作りの塀なぞは、ことごとく散乱するように路上にばら撒かれていた。
歩きながらもケータイは相変わらず「地震警報」のたびごとにブルルと揺れ、直後に、バランスを失うほどの巨大余震が襲った。
後日、解った処では、この日、裕に二百回以上もの大小さまざまな余震が襲ったという。
そんな震災というのは、日本史上、ここ千年は起こっていないはず、と学者が新聞のコラムで述べていた。
崩れ落ちた屋根瓦や、無残にも真ん中でへし折れたコンクリの電柱を目にするたび、舞衣は何かに憑かれたようにそれをケータイで撮影した。
歩きながらワンセグに切り替えてみたら、まるで映画のワンシーンのような光景が展開されていた。
真っ黒な津波が田畑を飲み込み、目の前を必死で逃げる乗用車を今まさに捉えようとしていた映像である。
「早くッ!」
路上にもかかわらず、舞衣は、思わず大きな声で小さな画面に向かって叫んだ。
それは、まさに手に汗握るような緊迫のシーンであった。
今、「6強」を三分もの間体験した舞衣は、それが絵空事でないことを重々承知していた。
小さなケータイ画面の中の白いボックスワゴンは、どうにか黒い魔物の虎口から逃げ果(おお)せた。その一部始終を、上空ヘリ目線のライヴとして観ていた彼女も、肩の力が抜けたように安堵した。
(海沿いの所では、大変なことになってるんだ…)
と、この春、理系の大学に進学することになっている舞衣には、その恐ろしい顛末が容易に想像できた。
「超巨大」地震がもたらすもの。
それが、深海でのプレート移動によるものであれば、間違いなく「超巨大」津波が発生するはずである。
あの三分も続いた「6強」がもたらす海底変動とすれば、どれほどの規模なのか想像すらできなかった。
(とてつもない大津波が来たんだ…)
大地を何キロも遡上する津波は上空から観るとコールタールのように「漆黒」なんだ、ということを舞衣は初めて知った。
それは不気味な黒。
「死の黒」であった。
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