夕方の月と金星 ©アストロアーツ
惑星
アッシリア人にとって、黄道帯の星座と同じように、いや、それ以上に重要だったのが黄道帯の星座の中をさ迷う5つの神々、つまり惑星の位置であった。それぞれの惑星は神、あるいは神の住家と考えられていた。ムル・アピンmul.APlN文書の2つ目の粘土板では、5惑星ならびに月と季節の関係が言及されている。普通、惑星と同定されている名前は次のとおりである。
太陽: シャマシュ
月 : シン
金星: イシュタル
水星: ネボ、あるいはナブ
火星: ネルガル
土星: ニヌルタ
木星: マルデュック
こうした名前は、やがて、ギリシャの神々に代わり、ギリシャ名はローマ名に代わり、そして時にはローマ名が英語名に代わった。イシュタルは初め、愛と戦争と肥沃の女神だったが、その後、愛だけを司る女神となった。マルデュックは元はバビロンの都市の神で、次に、バビロニア帝国の最高神になり、最後はすべての神々の長になった。ネボは神々の書記とされたり、科学と知識の神、知恵の神、あるいは神々の使いなどとされた。ネルガルは、戦争と悪疫の神、冥府の神、あるいは狩猟の神などといろいろ言われていた。ニヌルタは、ベル(あるいはエンリル、冥府の神)の戦士であり、肥沃の神であり、戦争の神でもあった。
ジャストローによれば、ネルガル(火星)は、戦いによる破壊の象徴であって、戦いにおいて臣民を助ける強い大将ではなかった。ネルガルは本質的に破壊者で、時には「火の神」であり、「激怒した王」、「野蛮人」、および「燃える者」とされることもあった。(注:火星は、実際には氷点下以下の非常に冷たい惑星で、平均気温は-30Cほどである。)
惑星で一番大きいのが木星と考えられていたので、それにマルデュック(神々の長)の天が割り当てられた。水星の公転周期は最も短く、最も速く動くので、ネボの天球が与えられた。火星の赤みがかった光がネルガルの領域を一番良く表しているように思われた。金星は季節によって明け方見えたり、夕方見えたりする明るい星だから、イシュタルの領域だった。そして、最後の土星は小さく冷たい点のように見えたから、荒涼とした冥府と戦争の神のニヌルタが最も似合うと思われた。地球は宇宙の中心にあって静止し、すべてのものがそれを中心に回っていると考えられていた。
まとめ
こうして、5惑星と黄道帯の全星座に紀元前700年までに名前が付けられ、その特徴が明らかにされた。だが、黄道帯のサイン(占星術用の黄道12宮)はまだ登場していなかった。月と惑星の基本的な周期関係が示され、矛盾のない暦体系(サロス)が紀元前5世紀までに完全に実用化されるようになった。後に天文学の問題に応用されることになった数値上の方法論も発展して行った。近代的な占星術の仕組みの発展に必要とされるもので、この時にまだ現われていなかったのは、(1)同じ30度幅の弧という黄道12宮という占星術のサイン、(2)個人の誕生日に基づく解釈や予測(出生占星術、もしくは遺伝占星術)(3)ホロスコープ、などであった。
サイン、黄道12宮
さて、いよいよ現代の西洋占星術の基礎となる黄道12宮=サインの登場である。次回以降、詳細が語られるが、その前に簡単に予備知識として整理しておこう。
元々星座は極めて恣意的に星々をグループにまとめて星空を区分けしたもので、大きさはまちまちであった(現在でもそうだが)。加えて、すき間があったから星座に属さない星もある始末で、12あるとは言え、これを各月に対応させることはできなかった。そこで、機械的に黄道を12に等分し、黄道星座の名前を借りて、これをサインsignと呼び、日本語では12宮と言うようになった。以下のとおりである。なお、白羊宮や金牛宮という漢語名を採用している人もいるが、これは中国での用語で、西洋占星術に中国語というのは馴染まないように思うので、筆者らはほとんど使用しない。
サインの出発点はおひつじ宮となっている。西洋占星術が完成した紀元0年前後にはおひつじ座に春分点があり、ここに太陽が来ると春分の日となった。冬から春に移る季節で、1年の始まりにふさわしいと思われたのだろう。ところが、承知かと思うが、春分点は星々の間を移動し、現在ではうお座に移っている。だが、西洋占星術では、依然、おひつじ宮が出発点である。星座とサインは名称こそ同様だが、概念的には異なるものだから、対応していなくても問題はない。ところが、それを問題視する人もいる。これまた、笑止なことである。各サインは様々な性格を付与されている。ここではプトレマイオス流の分類法の一部を紹介しておく。これらがさらに惑星と対応させられる。
プトレマイオス流の分類法
サイン |
分類4 |
分類5 |
分類6 |
分類7 |
分類8 |
標準的な期間 |
おひつじ宮 |
分点 |
男性 |
-- |
3 |
NW |
3月21日-4月19日 |
おうし宮 |
立体 |
女性 |
命令1 |
2 |
SE |
4月20日-5月21日 |
ふたご宮 |
双体 |
男性 |
命令2 |
1 |
NE |
5月22日-6月21日 |
かに宮 |
至点 |
女性 |
命令3 |
-- |
SW |
6月22日-7月23日 |
しし宮 |
立体 |
男性 |
命令4 |
1 |
NW |
7月24日-8月22日 |
おとめ宮 |
双体 |
女性 |
命令5 |
2 |
SE |
8月23日-9月22日 |
てんびん宮 |
分点 |
男性 |
-- |
3 |
NE |
9月23日-10月23日 |
さそり宮 |
立体 |
女性 |
服従5 |
4 |
SW |
10月24日-11月22日 |
いて宮 |
双体 |
男性 |
服従4 |
5 |
NW |
11月23日-12月21日 |
やぎ宮 |
至点 |
女性 |
服従3 |
-- |
SE |
12月22日-1月20日 |
みずがめ宮 |
立体 |
男性 |
服従2 |
5 |
NE |
1月21日-2月18日 |
うお宮 |
双体 |
女性 |
服従1 |
4 |
SW |
2月19日-3月20日 |
福島憲人・有吉かおり (2007.2.5.)
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