図40:プトレマイオス。©Corbis-ベットマン。
プトレマイオス
プトレマイオス(トレミー、アレキサンドリアのプトレマイオスとも。クラウディウス・プトレマイオス、100年-170年頃)は、厳密に言えば、ギリシア人ではなかったし、プトレマイオス家の人間でもなかった(図40を参照)。すなわち、彼は、元々のマケドニアの将軍とは関係がなかったし、またエジプトのプトレマイオス王とも関係がなかった。彼はアレキサンドリア近辺に住んでいたエジプトの天文学者であり、地理学者であり、そして数学者であった。
彼がアレキサンドリアの博物館や図書館に関係していたとか、いなかったと言うことも含めて、彼の生涯についてはほとんど知られてない。その人となりについては、著書の中の短かいコメントや同時代の人たちから出た話をつなぎ合わせて得られたものだ。彼の生地は、おそらく、エジプト北部にあるギリシアの都市プトレマイス・ヘルミである。ローマの市民権は、彼の先祖が得ていたようだ。彼が図書館長あるいは博物館の最高責任者だったと書いている人もいるが、これは確認することができない。彼は、多分、博物館で研究職に任命されたのだろうという点では見解が一致している。アシュマンドAshmandは、ホエーリーのテトラビブロスの翻訳本で、「彼は非常に質素で、よく馬に乗っていた」とアラビア人が伝えている、と述べ、更に、「装いは小ぎれいだった」が、彼の息は心地良い匂いではなかったとも付け加えている。
プトレマイオスは、ヒッパルコスが導き出したデータを使って1,028星の位置(ヒッパルコスの星図に172の星を加えて)を星図に描き、また48の星座を記載し、およその地球の経度および緯度の線についても記述し、そして地球中心の太陽系という間違った考えを発展させた。
プトレマイオスの最も有名な著書は、13巻からなる数理天文学書のアルマゲストあるいはマセマティケ・シンタクシス(数学大集成)である。ヒッパルコスとプトレマイオスは、地球は宇宙中心に静止していて、すべての物がそれを中心に回っている、と信じていた。でも、諸惑星(太陽と月は違う)が、短い期間ではあるが、軌道上で後ろに移動し、その後また前進し続けるように見えることを知っていた。この後向きの運動(逆行)を説明するため、巧妙で複雑な機構を考案した。つまり、惑星は地球を中心とする大きな軌道(大円)上を回転するが、各惑星は、その中心がより大円上にあるより小さく、より速く回る円(周転円)の上でも回転している、と考えた。さらに、ずっと外に球があって、それに星々がついていて私たちのまわりを動くとされた。これがプトレマイオス体系で、お世辞でもないが、14世紀もの間生き続けたプトレマイオスのメリーゴーランドであった。
バートキーは「中心に立ち、惑星が回転する様子を見られるなら、プトレマイオス体系を理解することができる。また、天球同士がぶつかるから、神々と敬虔な人々だけの特権である「天球の音楽」も聞くことができるだろう」と言っている。現代科学は、この考えが全く正しくないので、この奇妙な考えを占星術の衰退の始まりを示すものとしてとらえている。問題は、それが正しかろうと間違っていようと、天宮図(ホロスコープ)の体系には違いが生じないことだ。われわれが地球上にいる限り、天体間の「アスペクト(ホロスコープ上の天体と天体が作り出す角度のこと)」も同じである。
プトレマイオスの他の著作としては、『地理学』、『光学』、音楽を扱った『ハーモニカ』、それから占星術についての4巻の大作「数学大全4巻」、別名「Syrusシーラスに捧げられた予言書」がある(シーラスは占星術に熟練していた医者だったと思われる。アルマゲストもシーラスに献呈されている)。その後、その著作は「テトラビブロス」と呼ばれるようになり、その名が今日でも使用されている。驚くべきことは、現代の西洋占星術がプトレマイオスがテトラビブロスの中で述べていることや議論していることをほとんどそのままその基礎としていることである。
プトレマイオスは、ベッティウス・バレンスやその時代にアレキサンドリアの医学校にいたあの有名なギリシアの内科医ガレノス(130年-200年頃)のような同時代の人については全く言及していない。ガレノスは、プトレマイオスを「天の原動力に生気説の基本概念を当てはめようとする活力説信奉者」と評している。プトレマイオスがテトラビブロスで駆使している知見をどのようにして得たかは知られていない。でも、2世紀のアレキサンドリアでは、占いに関するカルデア人等の考えについての粘土板やパピルスが図書館にあった。確かめられているわけではないが、プトレマイオスはバレンスから占星術の情報を得ていたのかも知れない。
テトラビブロス-1
パピルスの巻物に書かれたプトレマイオスの原著は存在していない。実際のところ、古代の原典はどれも失われててしまい、すべては写し取られたものと翻訳である。テトラビブロスの最も古い翻訳は9世紀のアラビア語版である。後のラテン語の翻訳によってヨーロッパ人はテトラビブロスを知ったのであった(図41を参照)。本書で引用している英語版はF. E. ロバンズがギリシア語から1940年に翻訳したものである(図42を参照。ケンブリッジ、マサチューセッツ: ハーバード大学出版社(1964年)から、出版社およびローブ古典図書館の許可による)。
第1巻で、プトレマイオスは、天文学を補足するものとして占星術を追究する理由として自論を次のように述べている。
予測は偶然性に依拠しているという考えを言う者がいるが、それは間違いである。そうかと思えば、当然前もって知ることができないようなことも含め、様々なことを予言することで評価されていることを傘に来て、無知な大衆を惑わすやからもいる。しかし、それは哲学でも同じだ。哲学者を装っているものの中に似非者がいるという理由で、哲学を捨て去る必要はないのである。
図41:テトラビブロス、16世紀の原稿の一部分。©大英図書館。
プトレマイオスは、火星と土星は好ましからぬできごとを引き起こし、木星と金星及は好ましいできごとを、そして水星はそのどちらかを引き起こすと言う。サン・サイン(太陽星座、太陽宮sun signは個人の出生時に太陽があったサイン)は特に大きな特徴が付与されている。惑星間の角度を調べ、これがトレイン(太陽、月あるいは惑星が120度離れている)やセキスタイル(60度離れている)であれば好ましく、スクエア(90度離れている)とオポジション(衝、180度離れている)は良くない。コンジャンクション(合、同じ角度±数度)はそのどちらか、とされる。
5惑星は、その年の各季節と直接の関係があって、ある決まった時に太陽が位置するサイン(12宮)を支配する役目を持っている。
しし座というサインは、一年の最も暑い時期(晩夏)と関連している。太陽がその支配星として割り当てられている。それは男性のサインであり、定着を表すサインである。真夏は女性の暖かさを象徴して、かに座と関連づけられている。こうしたサインの反対にあるのがみずがめ座とやぎ座で、冬の数か月に及ぶ寒さと関係している。土星がこれらのサインの支配星として割り当てられている。その理由はこの惑星が太陽から最も遠く離れていて、明らかにより冷たいからだ。
春の火のような酷暑はおひつじ座によって表され、そして乾燥し、朽ち果て、焼けつくような季節はさそり座によって象徴的に表されている。火星は赤みがかった炎のような色調を放っているので、この星はおひつじ座とさそり座の2つのサインの支配者とされている。いて座とうお座という温和な季節を支配する星は最大の惑星木星とされている。秋および春の暖かさは、てんびん座とおうし座の季節にあたり、金星によってうまく代表されるように感じたようだ。
最後に、最も速く動く惑星、水星は太陽のまわりを回転するその速度のために、乾いているかもしれないし湿っているかもしれない。一般に天候が変わりやすいと考えられる季節(ふたご座およびおと座)と関係している。
夏至と冬至がかに座とやぎ座のサインに入るので、これらは至点のサインである。昼夜平分時に始まるおひつじ座とてんびん座は、昼夜平分時のサインである。(これらの用語が後になってカーディナルという用語に置き換えられた。それらは四つの季節の始まりを意味している。)ソリッド(不動、その後フィックスドと呼ばれている)サインはしし座、おうし座、さそり座およびみずがめ座。双体サイン(後に、ミュータブルと呼ばれるようになった)がふたご座、おとめ座、いて座およびうお座。
カーディナルサインは、春、夏、秋および冬の季節の始まりである。不動ソリッドと呼ばれた理由は「太陽がそれらのサインにあると、前の季節にそこはかとなく感じられた湿気、熱、乾燥および寒さなどがりっかり分かるようになる季節だからだ。
<テトラビブロス-2に続く>
テトラビブロス 目次
1巻
- はじめに。
- 天文学的な手段によって得られる知識、その範囲。
- それは有用である。
- 惑星の力について。
- 吉惑星と凶惑星について。
- 男性惑星と女性惑星について。
- 昼間惑星と夜間惑星について。
- 太陽に対するアスペクトの力について。
- 恒星の力について。
- 四季と4つのアングルの影響力について。
- 至点サイン、分点サイン、不動サイン、および双体サインについて。
- 男性サインと女性サインについて。
- サインのアスペクトについて。
- 命令と服従のサインについて。
- 互いに注視するサインと同等の力のサインについて。
- 分離サインについて。
- いくつかの惑星のハウスについて。
- トライアングルについて。
- 高揚について。
- 区界の性質について。
- カルデア人によれば。
- 場所と度数について。
- フェース、チャリオット、その他について。
- 接近、離反、その他の力について。
2巻
- はじめに。
- 地域全般の住民の特徴について。
- 国々とトリプリシティおよび星々の間の同族関係について。
- 個別の予測を行う方法。
- 影響を受ける国々の調査について。
- 予測されたできごとの時刻について。
- 影響を受けるもののクラスについて。
- 予測されたできごとの性質について。
- 日月食、彗星などの色について。
- 一年の中の新月に関して。
- 部分ごとのサインの性質、および天候に与える影響について。
- 天候の詳細な調査について。
- 大気の示す兆候の意味について。
3巻
- はじめに。
- ホロスコープ点の度数について。
- 出生時天宮図の科学の細分化。
- 両親について。
- 兄弟姉妹について。
- 男性と女性について。
- 双子について。
- 奇形児について。
- 育たない子について。
- 寿命について。
- 体形と気質について。
- けがと病気について。
- 精神の性質について。
- 精神の病について。
4巻
- はじめに。
- 物質フォーチュンについて。
- 品格フォーチュンについて。
- 活動の性質について
- 結婚について。
- 子どもについて。
- 友人と敵について。
- 外国への旅について。
- 死の性質について
- 年代・年齢の区分について
図42:テトラビブロスの内容。F.E.ロビンズ訳、プトレマイオス、テトラビブロス(ハーバード大学出版社、1964年)から。
福島憲人・有吉かおり
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