バットマン ビギンズ 特別版ワーナー・ホーム・ビデオこのアイテムの詳細を見る |
クリストファー・ノーラン監督、クリスチャン・ベイル主演コンビによる『バットマン ビギンズ』。続編『The Dark Knight』の撮影も始まり、ベイル・ファンサイト様情報によればクリスチャンのインタビュー等も上がって来ているようで、いろいろ楽しみです。
で、同じ監督&主演俳優による『プレステージ』も公開されたことだし、先日またDVDを観直してみました。
作品全体の感想は以前ここに書いたこととあまり変わりません。
『バットマン』の世界観としては、私はティム・バートン版の映像美や、悪趣味すれすれのあのセンス、そして「異形のもの」への偏愛の方に心惹かれていました。
しかし最近になって、『ビギンズ』に対しては別の見方をするようになったのです。
映画の絵空事を支えるため、ノーラン監督は(『プレステージ』もそうですが)あくまでも「リアル」さにこだわる、とはよく言われることです。その傾向は、セット、小道具、バットモービル(タンブラー)等の作り込み方に顕著ですが、メイキングを観直すと、それが果たして本当にリアリズム追究やシリアス志向の結果であるかは疑問だと思い始めました。
もちろん「リアル」に作りたい意思はあるでしょう。しかしそれは、男の子がプラモデルやジオラマを作成する上で求める「リアル」さへのこだわりと同等なのではないかという気がします。
お小遣いをふんだんに与えられた男の子が、好きなだけ凝りまくってジオラマを作り、細部にまで手をかけたフィギュアやプラモを配置して遊んでいる──あれはそういう世界です。
「頭良さそー」「クール!」と評されることの多いノーラン監督ですが、そのココロにはオタクを秘めているのではないか、と。
同じオタクのこだわりと言っても、バートンの関心はやはり「絵」作りに向けられ、ノーランの場合は三次元の造形に向かっています。「絵」に自らの想いや情念を塗り込めるか、「好きなもの」の配置や設計に(もちろんストーリイ構成も含めて)専念するか、という違いですね。
ファンタジー派かリアリズム追究派か、ではなく、両者の差異はあくまでもオタクとしての方向性の違いに他ならないと、今では考えています。
あ、オタクオタクと連呼してますが、別に悪い意味じゃありませんよ。要はそれぞれの美意識の拠り所や、その表出のされ方の問題という意味です。
そして、ブルース・ウェイン=クリスチャン・ベイル中心にこの作品を観ると、更に別の面白さや楽しさに気づかされました。
実はノーランは意外なほど、俳優の持ち味や個性、演技の質を役に反映させていて、それは『プレステージ』の主演二人の扱い方にも現れています。
で、『ビギンズ』のブルース坊ちゃまはと言うと──
裕福な家庭に生まれ育ちながら、不慮のアクシデントにより両親を失って彷徨い、敵味方さまざまな大人たちの中でひとり生き、闘い続ける「少年」。
そういう要素だけを取り出してみれば、誰かに似ていますね。そう、『太陽の帝国』のジェイミー(ジム)です。(「東洋」でいろいろ苦労する所まで一緒……というのはこじつけ?)
ノーランが見たクリスチャン・ベイルとは、結局そういう「少年」だったのでしょうか。ブルースのその設定に誰よりも相応しいのがベイルだったのか、彼をキャスティングしたからそういう要素が強くなったのかは判りません。それもまた、「好きなもの」やマテリアルをそう配置してみました、の一環であるかも知れないとも思います。
一方でブルース坊ちゃまには、アルフレッドさんという絶対の守護者をはじめ、様々な形で援助し庇護してくれる「大人」たちがいる。
そこに何となく監督の愛情めいたものが見える気がします。ヴェルナー・ヘルツォーク→クラウス・キンスキーやティム・バートン→ジョニー・デップの関係とも、またちょっと違った感じで。
個人的に、並みいるおじさま(ベテラン俳優)たちに囲まれてひとり立つ「天才少年」の図──は非常に好みですが、その図式もまた、『ヘンリー五世』『Treasure Island』(邦題は『デビルズ・パイレーツ』というスゴイものですが、もちろん『宝島』です)等でベテラン俳優陣に囲まれていた、かつてのベイル少年の写し絵であるかも知れません。
これは『Rescue Dawn』(ヘルツォーク監督ですよ)プレスカンファレンス時の画像。こんな感じにニコッと笑った顔は子供の時と変わりませんね(各ベイル・ファンサイト様でご紹介下さっている同作品NYプレミア画像では、もっとかなりブルース仕様になってましたが)。
お坊ちゃまなのに、自分でせっせとバットスーツにエアブラシをかけたり、旋盤を回したりするブルース=クリスチャンも、それだけで可愛いし、こんな子(…子?)に「僕を見捨てない?」なんて言われたら、そりゃアルフレッドさんじゃなくても「Never.」と答えますよ。
遊びほうけるブルース坊ちゃま、確かに、役の上でもご本人も無理してないか?と思いました(笑)。
もっと若い頃には、『若草物語』のローリーとか『真夏の夜の夢』のディミトリアスとか、本当の本当にお坊ちゃまな役も演じているんですけどね……