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さる2/18、日生劇場にてミュージカル『ラブ・ネバー・ダイ』を娘と共に観ました。以下その感想を記しますが、正直ネガティブな感想になると思います。特に伏せ字にもしませんので、危険を察知されたかたはここで引き返された方がよろしいかと──
当日とその翌日の旅行記的なものはこちらで。
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トップ画像は当日のキャストボードです。
上演時間を見ると、幕間を入れても2時間半くらいですから、そこまで長いわけではありません。実はこの作品、2010年のロンドン初演の脚本で冗長だった個所などに手を入れ、演出も舞台装置や衣装デザインも大幅改訂して、翌2011年のオーストリア公演では一定の評価を得ることができた──という経緯があります。今回、また前回前々回の日本版演出も、豪版のサイモン・フィリップス氏が手がけています。
2019年に石丸幹二さんの主演で観た時には、絢爛豪華な舞台美術に息を呑み、圧倒され、数々の名曲に酔いしれましたが、ストーリーは忘却の彼方に去ってしまいました。思い出すことを脳が拒否していたのかもしれません。
このたび、同じ石丸さん主演で再び(正しくは3回目を)観ることとなったのですが──
舞台美術は今回も素晴らしく、装置のスペクタキュラーな動き(特に「美の真実」)には感嘆しました。
しかし劇場を出る時には、母娘とも悪い意味で押し黙ってしまいました。二人とも心に残るのは「無」のみ。お互い石丸さんの舞台を観てこんな気持ちになったのは初めてです。
少し前、舞台ファンの間で「虚無舞台」なる言葉(タグ?)が話題になったことがありましたが、自分にとってはこの作品こそがそれでした。
石丸さんの歌は素晴らしく、演技も深化していたと思います。しかし、それがむしろ仇になった感もあります。娘が言っていましたが、クリスティーヌ役の笹本玲奈さんとは共演経験も多く、相手役として相性が良いことが裏目に出て、彼女は夫のラウルなど全く愛していないとしか見えなかったと──自分も2幕冒頭ででラウルが歌う「なぜ彼女は僕を愛する」に「そ、そうか?」と思ってしまいました。
そのラウルも、そしてメグも可哀想すぎます。今回メグを演じた小南満佑子さんが素晴らしかっただけに、なおさら……カーテンコールで彼女が登場した時には涙が出るほどでした。今回の舞台で泣いたのはそこだけです。
これも娘の言ですが、この話はエリック(ファントム)とクリスティーヌというモンスター二人に普通の人間が食い荒らされ貶められ、全て奪われる話である、とも言えます。しかし彼らのアーティストとしての狂気を是とするには、前提となる設定が俗っぽ過ぎるのですよ。『オペラ座の怪人』で見られたエリックの「ファントム」感も消し飛んでしまいました。
「月の見えない夜に」など、二人で盛り上がっているところ悪いけれど、歌詞の内容が変に生々しい上に、その前提となっている設定がアホらし過ぎて、もうその時点でスッと心が冷めてしまい、そのあと持ち直すことはありませんでした。
実のところこの作品に於いては、主役の二人でさえALW卿の楽曲を生かすための「装置」であって、生きた人間を表現したいわけではないのでしょう。グスタフくんもあまりにも都合の良い存在でしかなく、あの子もまた「子供」の皮をかぶった装置の一つに過ぎません。
ついでに書いておくと(無理矢理な)クライマックスの前のクリスの「グスタフがいない!まさかラウルが?」とかいうセリフもいかがなものかと……法的にはラウルが夫であり子供の父親なのだから、連れて行ったところで問題はないでしょう。彼女は男二人の「賭け」など知るよしもないのですから。
で、その無理矢理クライマックス、よく「2時間サスペンスみたい」と揶揄されたりしますが、出来の良い2時間サスペンスの方が、人間の感情も心理もちゃんと描いていると思いますよ。
まったく、石丸幹二さんの歌唱をもってしても許せない舞台というものはあるとつくづく思い知りました。ALW卿の意図からすれば、掘り下げた演技などせず、作品のためのパーツの一つに徹してしまった方がむしろ良かったのではないかと思えるほどです。他の俳優さんで観れば、また別の感想を抱けたのかもしれませんが……
繰り返しになりますが、音楽と美術は素晴らしく、それだけでも一見一聴の価値はあります。しかし本当に「それだけ」です。それらを生かす演出、そして演者さんたちの力で何とか観るに耐えるものにしているだけで、ストーリーだけなら世紀の大駄作だと思います。
当日のツイートや旅行記にも書きましたが、娘は近くのバルでもホテルの部屋でもやけ酒を呑み、また、部屋で観られる動画で、娘は『ウィキッド』関連、自分は『グレイテスト・ショーマン』(サーカスキング!)で厄落とししました。もはや災厄レベル。実は2/18は夫の、そして娘にとっては父親の命日でもありました。ああそれなのに、よりにもよってその日に……!
早く忘れたいですが、自分は来週早々にもまた観に行く予定があるのです
TGSの話を出したついでにもう一言。この作品とTGSの間の相似性については、ブログの過去記事などでも言及した覚えがあります。LNDでもファンタズマのショーが始まる「コニーアイランド・ワルツ」や、「バーナム博物館」めいた雰囲気で幻惑する「美の真実」のシーンなどは大好きです。
しかしミスターYことエリックがファンタズマの皆を愛していたかは疑問です。メグにさえあの扱いなのですから、彼らもまた「装置」でしかなかったのでしょう。案内役だったはずのフレック、スケルチ、ガングルのトリオも、2幕では単に「怪しい挙動をするだけの人たち」に成り果てています。
エリックに「あんたはペテン師だったかもしれないけど居場所をくれた。サーカスは自分たちの『家』だった」と言ってくれるような仲間は果たしていたのでしょうか。「そうやって自分を憐んでいるだけか」とトム将軍に怒られれば良いです。
気を取り直し、最後にTGS関係で嬉しい情報も貼っておきます。
映画館で何回も観た作品ですし、Blu-rayも持っていますが、地上波で盛り上がれるのは嬉しいです。それはそれで、初見の人たちがバーナムさんのダメ男っぷりやペテン師っぷりに呆れることになるかもしれませんが
当日とその翌日の旅行記的なものはこちらで。
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トップ画像は当日のキャストボードです。
上演時間を見ると、幕間を入れても2時間半くらいですから、そこまで長いわけではありません。実はこの作品、2010年のロンドン初演の脚本で冗長だった個所などに手を入れ、演出も舞台装置や衣装デザインも大幅改訂して、翌2011年のオーストリア公演では一定の評価を得ることができた──という経緯があります。今回、また前回前々回の日本版演出も、豪版のサイモン・フィリップス氏が手がけています。
2019年に石丸幹二さんの主演で観た時には、絢爛豪華な舞台美術に息を呑み、圧倒され、数々の名曲に酔いしれましたが、ストーリーは忘却の彼方に去ってしまいました。思い出すことを脳が拒否していたのかもしれません。
このたび、同じ石丸さん主演で再び(正しくは3回目を)観ることとなったのですが──
舞台美術は今回も素晴らしく、装置のスペクタキュラーな動き(特に「美の真実」)には感嘆しました。
しかし劇場を出る時には、母娘とも悪い意味で押し黙ってしまいました。二人とも心に残るのは「無」のみ。お互い石丸さんの舞台を観てこんな気持ちになったのは初めてです。
少し前、舞台ファンの間で「虚無舞台」なる言葉(タグ?)が話題になったことがありましたが、自分にとってはこの作品こそがそれでした。
石丸さんの歌は素晴らしく、演技も深化していたと思います。しかし、それがむしろ仇になった感もあります。娘が言っていましたが、クリスティーヌ役の笹本玲奈さんとは共演経験も多く、相手役として相性が良いことが裏目に出て、彼女は夫のラウルなど全く愛していないとしか見えなかったと──自分も2幕冒頭ででラウルが歌う「なぜ彼女は僕を愛する」に「そ、そうか?」と思ってしまいました。
そのラウルも、そしてメグも可哀想すぎます。今回メグを演じた小南満佑子さんが素晴らしかっただけに、なおさら……カーテンコールで彼女が登場した時には涙が出るほどでした。今回の舞台で泣いたのはそこだけです。
これも娘の言ですが、この話はエリック(ファントム)とクリスティーヌというモンスター二人に普通の人間が食い荒らされ貶められ、全て奪われる話である、とも言えます。しかし彼らのアーティストとしての狂気を是とするには、前提となる設定が俗っぽ過ぎるのですよ。『オペラ座の怪人』で見られたエリックの「ファントム」感も消し飛んでしまいました。
「月の見えない夜に」など、二人で盛り上がっているところ悪いけれど、歌詞の内容が変に生々しい上に、その前提となっている設定がアホらし過ぎて、もうその時点でスッと心が冷めてしまい、そのあと持ち直すことはありませんでした。
実のところこの作品に於いては、主役の二人でさえALW卿の楽曲を生かすための「装置」であって、生きた人間を表現したいわけではないのでしょう。グスタフくんもあまりにも都合の良い存在でしかなく、あの子もまた「子供」の皮をかぶった装置の一つに過ぎません。
ついでに書いておくと(無理矢理な)クライマックスの前のクリスの「グスタフがいない!まさかラウルが?」とかいうセリフもいかがなものかと……法的にはラウルが夫であり子供の父親なのだから、連れて行ったところで問題はないでしょう。彼女は男二人の「賭け」など知るよしもないのですから。
で、その無理矢理クライマックス、よく「2時間サスペンスみたい」と揶揄されたりしますが、出来の良い2時間サスペンスの方が、人間の感情も心理もちゃんと描いていると思いますよ。
まったく、石丸幹二さんの歌唱をもってしても許せない舞台というものはあるとつくづく思い知りました。ALW卿の意図からすれば、掘り下げた演技などせず、作品のためのパーツの一つに徹してしまった方がむしろ良かったのではないかと思えるほどです。他の俳優さんで観れば、また別の感想を抱けたのかもしれませんが……
繰り返しになりますが、音楽と美術は素晴らしく、それだけでも一見一聴の価値はあります。しかし本当に「それだけ」です。それらを生かす演出、そして演者さんたちの力で何とか観るに耐えるものにしているだけで、ストーリーだけなら世紀の大駄作だと思います。
当日のツイートや旅行記にも書きましたが、娘は近くのバルでもホテルの部屋でもやけ酒を呑み、また、部屋で観られる動画で、娘は『ウィキッド』関連、自分は『グレイテスト・ショーマン』(サーカスキング!)で厄落とししました。もはや災厄レベル。実は2/18は夫の、そして娘にとっては父親の命日でもありました。ああそれなのに、よりにもよってその日に……!
早く忘れたいですが、自分は来週早々にもまた観に行く予定があるのです
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TGSの話を出したついでにもう一言。この作品とTGSの間の相似性については、ブログの過去記事などでも言及した覚えがあります。LNDでもファンタズマのショーが始まる「コニーアイランド・ワルツ」や、「バーナム博物館」めいた雰囲気で幻惑する「美の真実」のシーンなどは大好きです。
しかしミスターYことエリックがファンタズマの皆を愛していたかは疑問です。メグにさえあの扱いなのですから、彼らもまた「装置」でしかなかったのでしょう。案内役だったはずのフレック、スケルチ、ガングルのトリオも、2幕では単に「怪しい挙動をするだけの人たち」に成り果てています。
エリックに「あんたはペテン師だったかもしれないけど居場所をくれた。サーカスは自分たちの『家』だった」と言ってくれるような仲間は果たしていたのでしょうか。「そうやって自分を憐んでいるだけか」とトム将軍に怒られれば良いです。
気を取り直し、最後にTGS関係で嬉しい情報も貼っておきます。
\✨地上波初放送✨/📺3/28(金)よる9時〜『#グレイテストショーマン』日本テレビ系 #金曜ロードショー<本編ノーカット>で放送※一部地域を除く世界が、日本が、大熱狂‼️#ヒュージャックマン #ザックエフロン など豪華キャストが迫力のダンス&シング・パフォーマンスを繰り広げる🎶… pic.twitter.com/1CiiNxsHIV
— 20世紀スタジオ (@20thcenturyjp) February 21, 2025
映画館で何回も観た作品ですし、Blu-rayも持っていますが、地上波で盛り上がれるのは嬉しいです。それはそれで、初見の人たちがバーナムさんのダメ男っぷりやペテン師っぷりに呆れることになるかもしれませんが
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