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映画・舞台の感想や俳優さん情報等。基本各種メディア込みのレ・ミゼラブル廃。近頃は「ただの日記」多し。

『人生に乾杯!』(2007)

2010-02-24 23:58:21 | 映画・DVDレビュー

今日はかなり気温が上がって暑いくらいでした。
さて本日は、女子フィギュアSPを気にしつつも、ハンガリー映画『人生に乾杯!』を鑑賞。

ストーリー:1959年ハンガリー。共産党の諜報機関で運転手をしていたエミルは、機関が収用に行った伯爵家の屋敷で、ひょんなことからその家の令嬢ヘディを匿う。
そのとき恋に落ちた二人が連れ添って50年後。体制も経済状況も変わった今、ギックリ腰に苦しむ81歳の夫と糖尿病でインシュリン注射を欠かせない70歳の妻は、心を通わせることも少なくなっていた。
年金だけでは日々の暮らしもままならず、共同住宅の家賃は滞納、ついには電気も止められてしまう。現品差し押さえに蔵書や車を手放すことを拒否するエミルを前に、ヘディは二人の思い出の品であるダイヤのイヤリングを差し出した。
そんな妻の姿を目にした夫は、数十年ぶりに愛車の58年製チャイカを動かし、同じく旧ソ連のトカレフを手に、郵便局強盗を決行する。
当初は警察に協力しようとしたヘディも、夫と手を取り合っての逃避行そして強盗行脚へ。
彼らを追うのは女性刑事アギと同僚であり恋人でもあるアンドル。彼の浮気や単独行動のせいでぎくしゃくする二人は、いつもすんでの所で老夫婦に逃げられてしまう。
やがて事件の報道が続くうち、エミルとヘディに同情的な世論も現れ、それは次第に高齢者軽視の社会を変えるべきだという動きへと発展して行ったが──

昨夏、小規模公開され、「高齢者版ボニーとクライド」として一部で話題になった作品です。当時観る機会を逸してしまいましたが、うちの方の市民ホールで一日限り上映されたので行って来ました。
一日4回の上映で、自分が行った時間帯は平日昼にも関わらず八割方の座席が埋まっていたように見えました。
そして、観客の年齢層が半端なく高かったです。内容が内容だからかも知れませんが、実際は老若男女それぞれに楽しめる作品だと思います。日本では、ポスターやパンフレット、また公式サイトの作りなどから、何となくいわゆる「スイーツ層」を狙った感もありますが、ハートウォーミングで甘いだけの映画ではありません。
クライムコメディであり、社会派作品でもあり、そしてピュアなラブストーリーでもあります。

エミルが強盗を決意したのは、高齢者に冷たい社会への憤りからと言うより(もちろんそれもあるはずですが)、何よりもヘディのイヤリングを取り返したかったから、だったのではないでしょうか。
彼らが欲したもの、取り戻したかったものは、財産ではなくて人としての尊厳であり、出会った頃の純粋な愛だったと思います。もちろん、そのためにはちょっとお金も必要(笑)。高級リゾートホテルのスパでのんびりしたり(ハンガリーは温泉大国でもあります)、ヘディのお誕生日のためにエミルがスペシャルケーキをプレゼントしたり。マッサージ嬢にやきもちを妬くへディも、反対に、彼らに手を貸してくれるキューバ出身の旧友とダンスするへディに文句を言うエミルも可愛いです。
扱うテーマはシビアでも、作品全体に温かいユーモアが流れ、二人が互いの愛と信頼、思いやりを取り戻して行く過程はロマンチックで、警察を出し抜いての逃避行は爽快です。
警察の新型車ではまるで歯が立たない砂利の山を難なく越えて行くチャイカとエミルの運転技術はスゴイ!諜報機関の運転手だった彼はあらゆる道も熟知しているというわけですが、それにしても作中のハンガリー警察は無能過ぎませんか?(笑)
もちろん「昔は良かった」と懐古だけしているわけではなく、と言って共産党支配から自由になった現在の方が素晴らしいわけでもなく、へディと近所のおばさんたちのお気に入りテレビ番組が【クイズ$ミリオネア】だったりするあたりに皮肉が感じられます。

クライマックスシーンは、そうなるんじゃないか?と思っていた展開。そして、あのラストは──
(この先ネタバレ→)アギが「そうであってほしい」と願った結末なのか、それとも彼女が推理した通りだったのでしょうか?日本映画やアメリカ映画なら、エンドクレジットの後などに「海」のシーンを入れたりしそうですが、そんなベタな演出はせず、あくまでも観客の想像に委ねる手法を取ってくれたのが良かったと思います。(←ネタバレ終わり)
アギとアンドルのダメップルもまた、愛と信頼を取り戻すことが出来ました。生きていれば、この先もいろいろあると思いますが、それでも初めの頃の気持ちを忘れなければ大丈夫。そう感じさせてくれて、後味いい終わり方でした。

生きる気力を失いかけていた老人が、いったい自分にとって「お国」とは何だったのか?という疑問を抱き、犯罪行為に手を染めることで輝きを取り戻し、警察と世間を翻弄し、そして──というあたり、岡本喜八監督の映画化作品も名高い天藤真の小説『大誘拐』を思い出したりもしました。あの作品が好きなかたなら、きっと気に入ると思います。

人生に乾杯!公式サイト

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