「不可視の両刃」放射線に挑む~英国大学院博士課程留学~

英国に留学して放射線研究に取り組む日本人医師ブログ

医師の留学事情 ~留学の動機2~

2016-04-17 | どうして留学しようと思ったのか
明治以来の伝統もあって、医師のキャリアパスの中で「留学」はそれほど珍しいものではありませんでした。
医師のキャリアパスはどんどん多様化してきていますが、医局に在籍する医師らを中心として、留学する者は常に一定数いると思われます。研究であったり、臨床であったり、MPHなどの専門職学位取得であったりと留学の目的は様々ですが、いずれにせよ専門分野への理解を深めるだけでなく、語学力を養い、国際感覚を身につけ、自身の蒙を啓くという意味で古今やはり重要なステップでしょう。

我が国の場合、国内臨床系大学院で博士(医学)号を取得してから「Postdoctoral fellow」(ポスドク)として留学するパターンがこれまで最も多かったと思われます。博士号の前後で専門医資格を併せて取得できますから、いわゆる一人前の医師として確立してから「よし、留学しよう」と自分で考えたり、他人から「そろそろ、どうか」と勧められることが多かったからでしょう。留学助成金の種類も、日本ではポスドクを対象としたものがほとんどなので、経済的な理由もあったのかもしれません。医師免許は各国で共通ではありませんから、日本の医師が海外でそのまま医療行為をすることはできません。したがって、ポスドクとして主に基礎研究を海外の研究機関で行う、いわゆる「研究留学」をする医師が大多数でした。
また、海外でも「Medical Doctor」(医師)として活躍したいと考える日本人医師も昔から少なからずいました。横須賀や沖縄の米国海軍病院でインターンを行いながら、米国の医師免許取得試験を突破して、米国内のレジデントドクターに採用されるというコースが確立されており、このキャリアパスで現在も米国を中心に世界中で活躍されている方々がいます。
私自身も医学部時代にこの臨床留学に憧れていた時期があり、実際に、在沖縄米国海軍病院エクスターンシップ(内科コース)に参加したことがあります。英語を使って診療をすることは格好良く見えたのですが、現実には母国語以外で診療を行うのはとても大変なことですし、「日本の医学部で学んだ者が日本で診療せずにどうするのだ」という想いが自分の中に出てきたので、沖縄での貴重な体験を最後に臨床留学の希望はなくなりました。
そして、21世紀以降で増加してきたのが、MPHなどの専門職学位の取得を目指して1~2年間を海外の大学院で学ぶというパターンです。専門職学位とは、学術的な学位とは異なり、実務的な専門職に与えられる学位のことで、たとえば経営学修士課程のMBAなどが有名ですね。医師の場合、もちろんMBAを取得することもありますが、公衆衛生学修士課程のMPHの取得を目指す場合の方が多いかもしれません。医局によっては、キャリアアップの一環として、このようにMPHを海外で取得することを推奨しているようです。

私の場合、前記に当てはまらないパターンとして、海外の大学院で博士号を取得を目的とした留学を志しました。
実は、私の母校の医学部には、日本の医学部を卒業した後で米国イェール大学大学院で博士号を取得されたという異色の経歴を持つ教授がいらっしゃいました。私も医学部在学中にサマースチューデントとして英国に3カ月間滞在しましたが、彼も医学部6年生時にスイスで3カ月間サマースチューデントをしていたそうです。彼と同じように、私も海外の大学院で博士号を取得しようと考えましたが、彼と違うのは、私は英国の大学院に行くことを希望している点でした。私には英国でなければならない理由がありました。