国際医学誌 Nature Medicine上で本日公開された論文「体細胞変異の免疫認識が転移性乳がんの完全かつ永続的な消滅を導く(私の適当な日本語訳)」があちこちで話題になっていますね。米国NIHの研究グループが発表したこの成果は、「末期乳がん患者にも希望を与える」として英国BBCでも採り上げられ、うちの研究センターでも乳がん研究ラボの方々が驚いていました。
Zacharakis et al. Immune recognition of somatic mutations leading to complete durable regression in metastatic breast cancer. Nature Medicine (2018). doi:10.1038/s41591-018-0040-8
要旨をざっくり言うと、患者の乳がん細胞における4つの体細胞変異(生殖細胞変異ではない)を特異的に認識する腫瘍浸潤リンパ球を、IL2と免疫チェックポイント阻害剤と共に患者に投与したら、これまで22ヶ月以上にわたってがん細胞の完全な消滅が認められているということですね。
転移乳がんを完全かつ永続的に消滅させているということで治療効果ははっきり劇的ですし、新しい免疫療法の可能性を示すという意味においても、たしかに重要な論文だろうと思われます。これまでのがん免疫療法の研究の流れに詳しいわけではないので、正直言って、この論文にどのくらいインパクトがあるのかは判りませんが、専門外の私が読んでも「まあ、そういうこともあるだろうな」と納得できるような気がしました。従来の予想を裏切っているわけではないので画期的とまでは言えないかもしれませんが、患者さんに試してみて実際に劇的な治療効果が認められたというのはやはり臨床的にはとても意義深く、医療従事者にとっても患者さんにとってもご家族にとっても励まされる内容でしょう。
それにしても近年のがん免疫療法の研究の発展は凄まじいものがあります。
私が医学生だった頃、がんプロフェッショナルプランの策定とともに全国の各医学部にすこしずつ腫瘍内科講座が整備されはじめていたものの、がん免疫療法の講義なんてありませんでした。今はまるでがん免疫療法の大家のような顔をしていらっしゃる日本の先生も、当時、「がん治療において有望」だなんて言っていた方はいらっしゃらなかったように思います。いわゆる民間療法では存在していたのかもしれませんが、それらは科学的な裏付けがほとんどないデタラメな治療だったはずです。
がん免疫療法は、感覚的には、ここ5年くらいの間に一気にがん治療の中心に躍り出たような気がします。免疫チェックポイント阻害剤はすでにメジャーな存在となっていますが、これから腫瘍特異的な変異を免疫認識させる治療法がどんどん出てくると、一昔前に比べてがん治療の現場はきっと一変することでしょう。2000年代に外来化学療法が普及したことでがん治療の現場は大きく変わったのですが、2010年代は「がん免疫療法の登場」が一つのエポックメイキングとして記憶されることになるでしょう。
私がかつてお世話になったある看護師さんは残念ながら乳がんで亡くなられたのですが、彼女が生きている時にこういう治療法が出ていればと。この論文を読みながら、ふとそんなことを思いました。
Zacharakis et al. Immune recognition of somatic mutations leading to complete durable regression in metastatic breast cancer. Nature Medicine (2018). doi:10.1038/s41591-018-0040-8
要旨をざっくり言うと、患者の乳がん細胞における4つの体細胞変異(生殖細胞変異ではない)を特異的に認識する腫瘍浸潤リンパ球を、IL2と免疫チェックポイント阻害剤と共に患者に投与したら、これまで22ヶ月以上にわたってがん細胞の完全な消滅が認められているということですね。
転移乳がんを完全かつ永続的に消滅させているということで治療効果ははっきり劇的ですし、新しい免疫療法の可能性を示すという意味においても、たしかに重要な論文だろうと思われます。これまでのがん免疫療法の研究の流れに詳しいわけではないので、正直言って、この論文にどのくらいインパクトがあるのかは判りませんが、専門外の私が読んでも「まあ、そういうこともあるだろうな」と納得できるような気がしました。従来の予想を裏切っているわけではないので画期的とまでは言えないかもしれませんが、患者さんに試してみて実際に劇的な治療効果が認められたというのはやはり臨床的にはとても意義深く、医療従事者にとっても患者さんにとってもご家族にとっても励まされる内容でしょう。
それにしても近年のがん免疫療法の研究の発展は凄まじいものがあります。
私が医学生だった頃、がんプロフェッショナルプランの策定とともに全国の各医学部にすこしずつ腫瘍内科講座が整備されはじめていたものの、がん免疫療法の講義なんてありませんでした。今はまるでがん免疫療法の大家のような顔をしていらっしゃる日本の先生も、当時、「がん治療において有望」だなんて言っていた方はいらっしゃらなかったように思います。いわゆる民間療法では存在していたのかもしれませんが、それらは科学的な裏付けがほとんどないデタラメな治療だったはずです。
がん免疫療法は、感覚的には、ここ5年くらいの間に一気にがん治療の中心に躍り出たような気がします。免疫チェックポイント阻害剤はすでにメジャーな存在となっていますが、これから腫瘍特異的な変異を免疫認識させる治療法がどんどん出てくると、一昔前に比べてがん治療の現場はきっと一変することでしょう。2000年代に外来化学療法が普及したことでがん治療の現場は大きく変わったのですが、2010年代は「がん免疫療法の登場」が一つのエポックメイキングとして記憶されることになるでしょう。
私がかつてお世話になったある看護師さんは残念ながら乳がんで亡くなられたのですが、彼女が生きている時にこういう治療法が出ていればと。この論文を読みながら、ふとそんなことを思いました。