NoblesseΘOblige

持つべき者の義務。
そして、位高きは徳高きを要す。

1、ある日のゲームセンター

2012-05-03 | 海の向こうの家の事情。




僕はある日、出会ってしまった。魔女とか、イタイ子とか、正義のヒーローならまだましだったかもしれない。
よりによって、出会ったのが太鼓の達人だったなんて。

あの有名なゲームの話じゃない。
そのまま、まんま太鼓の達人なのだ。
しかも、明らかに僕より年下で小学生と思われる女の子だった。
ときどきゲーセンでマイバチもって叩いてるスペックの高いやつは見かけるけど、それを凌駕していた。
でも、その子はちゃんと付属のバチを使っていたし、特に目立っているわけでもなかった。
しかし、その子は普通の子供のようにゲームを始めたかと思ったら、レベルが高すぎてすぐに人だかりができてしまった。
まだ台を使わないと届かないくらいの小さな体で奏でられる太鼓の音は、あっという間に人を引き込んだ。

「お兄さんは…あのゲーム、できないの?」

「ん…まあ、な」

「ふ~ん……変なの」

「……っく」

なんで僕がこの子と話しているのかというと…。
話は2日前にさかのぼる。
ゲーセンでなんとなくぶらぶらしていたら、この子がゲームをやっているのが見えた。
人だかりができていたので、すぐにわかったが、僕はあまり興味がなかったからそのままぶらぶらしつづけた。
やがて、終ったのだろうか。人がまたゲーセンの中に散り始めていた。
そんな中、僕の服の裾が引っ張られたので、振り返ると僕の目線には入っていなかった。
それもそのはず。
その子は僕の167センチの目線には入らなかったのだ。小さすぎて。
あの太鼓の達人ちゃんだった。

「お兄さん…さっき人ごみの中にいなかったよね?」

「まあ……そうだけど。なんで?」

「どうして見なかったの?」

「ん~……特に興味なかったから、かな」

「ふ~ん………」

今思えば、あまりにストレートな表現すぎたかもしれない。
しかも、相手は小学3年生程度に見える。しかし、最終的にはこの発言がすべての結果をもたらしたのかもしれない。

「お兄さん…アタシを誘拐してよ」

「………は?」

――――――――そして現在に至る。
筋道が通っていないだろう。
僕もびっくりしたのだから。理由にもびっくりしたが。

「アタシは………家にいれないから。家に帰れないから」