「とりあえず、これからの生活をどうするか…だが」
「外にうかつに出たら危ない…だっけ??」
「そうだ。まだテレビでは報道されてないようだが…流れてたラジオはFMだ。県外へ出ればこっちのものさ」
僕はそういったが、美都は猛反対した。美都は僕が思っていた以上にこの家が気に入っているらしくて、ここを離れたくないという。美都は何としても動かないつもりのようで、僕は新しい案を考えた。
「じゃあ、信頼できる友達に買出しを頼むか…」
「え!?お兄さんに信頼できる友達なんているの??」
なんて失礼なこの娘。いい友達はいなくとも、信頼できる友達はいる。僕はそう公言した後、携帯を取り出して、ある番号をプッシュする。相手はすぐ出た。まるで暇人じゃないか。というか、今日今この時間は学校じゃ…。
“サボってねぇけど。お前と違って真面目だからよ”
「うるせぇ。僕は暴力沙汰を起こしてないよ」
“お前が戦略立ててんだろ~が!!”
「まあまあ、とりあえず。学校早退して、僕の頼み聞いてくれよ、こっちきて」
“あ?しょーがねぇなぁ、お前、めったに頼みごとしねぇ癖に”
「めったにしないから、言ってるんだよ。じゃあ、今から場所説明するから……
僕は、この家の場所を説明して、電話を切った。美都が僕の服を引っ張る。
「その人…なんかあやしそうだったけど…大丈夫??」
「ああ、一応。見た目ワルっぽいけど、ちゃんと信念通ってるから説得しやすい」
「なんかお兄さんって…」
「ん?」
「策士だね」
それがほめられたのかはよくわからないが、とりあえずスルーすることにした。そして、彼の到着を待つ…。待つこと30分。予定よりずいぶん遅れてはいるが、文句は言わない。扉を思いっきりノックする音が響く。美都だって、慌てて自分の部屋から出てきた。
「おーい、竜樹~。いねぇのか?人呼んどいていねえならこの扉ぶっ壊すぞ~??」
「い、いるって!!返事もしてないのに壊すとか言うなよ」
僕は急いで扉を開ける。美都に、自分の部屋に戻るように合図してから、扉を開けると、やはりそこには彼が立っていた。ていうか、僕が呼んだのだが。彼は僕の学校の友達、頼れそうだけど、人に頼られない。見た目不良。温厚篤実容姿冷淡。優しい不良という奴。
「ったく。もうちょっと普通に登場できねぇのかよ……」
「しょうがねぇだろ、カルシウム不足だ」
「カルシウム不足のイライラを僕にぶつけるな、伊織」
彼の名は、祀祇伊織(マツリギ イオリ)。女のような名前だが、ちゃんとした男だ。伊織と廊下でぶつかって、僕がビビりまくってたら、向こうから謝ってきてくれたのでびっくりした…というのが始まりだが、この話はまた今度。
「それで、話って何だ?」
「それで…じつは…これこれこうで………」
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「ハァ!?小さい女の子誘拐したって?」
「確かに小さいけど、中身は中学生」
「それで、太鼓の達人??」
「そこはどうでもいいけど…まあ、とにかく任意誘拐だ」
僕は、床の扉を見つめながら答えた。美都…この話聞いてんのか?聞き耳でも立ててんのかな……??とりあえず、事をかいつまんで説明した僕は、改めて伊織に頼んだ。
「伊織も知ってると思うけど、僕ら……今捜索願出されてて。これじゃ、ちと困るんだ…。まだ家に帰すわけにはいかない。いろいろあってだな……。だから、協力してくれないか?」
「誘拐に?」
「いや、食料その他調達に」
「パシリってことか?」
「そ……そうじゃないけど」
「竜樹はいつだってそうだ。嫌なことなら真実でも目をそらそうとする。そこはお前の悪いところだ」
「………」
「でも、協力はしてやる。お前のダチだからなぁ」
「伊織」
「追われる身の気持ちは分かってる。探されてるのに逃げる気分は分かんねぇけどな。どう行動すべきかは十分に把握してる」
「ありがとう」
「………そ、そんな露骨に褒められたら照れるじゃねぇか……」
照れるというより、デレたな。やっぱりこいつは悪い奴じゃない。皆の誤解は相当激しいな。
「んで……その子はどこだ?」
「は?」
「だから…その小さい子だよ」
「えっと、中2だからな。身長が低いだけで」
僕は断りを入れてから、床下のドアをノックする。美都はすぐにドアを少しだけ開けて、僕を見てくる。出てきていいよ、と合図すると、美都はゆっくりと出てきた。美都は最後の数段を飛び越え、すこしスカートを整えた。
「で、その人がお兄さんのオトモダチ?」
「ああ、祀祇伊織。見た目怖いけど、中身は優しいから。安心しろ」
「ふうん………よろしく?祀祇さん」
美都は少し、いや、かなり見上げながら呼びかけるように言う。伊織は、少し目を開いて小さく、よろしく……といった。あれ、少し伊織の勢いがそがれたような……。まあ、いいか。
「おいおい、この子。超可愛いじゃねぇか」
伊織は僕に囁く。僕は苦笑いしながら美都の顔を見る。美都は、ん、と何かに気づいたかのようにしてもう一度口を開く。
「立原美都って言うの。ワザワザすいません」
「い、いや…いいんだ」
「でも、アタシはお兄さんしか、信じないから。………たとえ、お兄さんのお友達でも」
美都は冷たく言い放って、僕のうしろに隠れた。僕としては、嬉しい発言なのだが、伊織にとっては少々落ち込む発言のようだった。まったく、行く先が案じられる。この2人の仲は、これからも少し警戒しなければならないな。