◇母郁子さん「時効は関係ない」
「お帰りなさい。元気だった?」。横浜市旭区本宿町、野村香(かおり)さん=当時8歳、同市立本宿小3年=が91年10月、自宅付近で行方不明になって15年がたった。母郁子さん(53)は香さんが帰った時、最初にその言葉をかけてあげたいと願い続けてきた。だが今年は新しい情報が1件も寄せられていない。旭署は今月20日、ホームページに情報提供を呼びかけるコーナーを開設した。
香さんは91年10月1日午後、書道教室に行くため一人で自宅を出た後に行方が分からなくなった。当時パートに出ていた郁子さんが最後に香さんを見かけたのは当日の朝。台所で洗い物をしていた時、忘れ物を取りに家へ戻ってきた香さんに「他に忘れものはないの」と聞き、玄関の外まで見送った。軽やかに歩く後ろ姿。愛娘に関する記憶は、そこで止まっている。
公開捜査となった後、駅頭でビラを配り続けた。「どんな情報もありがたかった」。本宿小の卒業式では、香さんの代わりに卒業証書をもらった。少しずつ大人びていく同級生たち。香さんだけは、ショートカットの8歳のままだった。不明直後に事件に巻き込まれたとすれば、今年で時効を迎える。だが、淡々と話す。「香の生死は分かっていない。だから私たちに時効は関係ない。今までと同じように香が帰ってくるのを待って過ごすだけ」心残りがある。
行方不明になる3カ月前のことだった。病気で学校を休んでいた香さんは、郁子さんがミシンで手提げ袋を作っているのを見て、せがんだ。「私も一緒にやりたい」「まだ香には早いから、また今度ね」その時の残念そうな娘の表情が忘れられない。「あの時一緒にさせてあげれば良かった、と今でも思うんです」「汚れないように」と布をかけて段ボールにしまわれた香さんのランドセル。触るとほこりで手が黒ずみ、止まった年月の重さを語りかけてくる。野村香さんに関する情報は旭署(045・361・0110)まで。 ホームページのアドレスは
http://www.police.pref.kanagawa.jp/ps/46ps/46mes/46mes004.htm。
(以下略)(2006年10月28日 毎日新聞) |