RIKAの日常風景

日常のちょっとしたこと、想いなどを、エッセイ風に綴っていく。
今日も、一日お疲れさま。

連載小説「冬枯れのヴォカリーズ」 vol.25

2009-01-04 21:24:39 | 連載小説


     §

 冬休みはホントに短い。1月6日、再び大学が始まった。
 まず応用物理学実験のレポートを提出する。年末に片付けておいて正解だった。

 この日、なんと緑が島根から戻り元気な姿を見せてくれた。三人で喜び合い、学食のドリンクで乾杯した。緑は拒食症もすっかり良くなって、かえって少し丸くなったぐらいで健康そう。

「しばらくの間、目白のアパートにお母さんが滞在してくれることになったの。ほら、うちのお母さん早期退職して家でただいるから」

「それは安心だね」
 私は心からそう言った。

 大学は、テストを二週間後に控え、学生があちこちでテストの話をし、ノートをコピーしたり、プリントを渡し合ったりしていた。生協に4台あるコピー機は皆長蛇の列で、私も奈歩とコピーし合うものがあったけれど、一旦大学を出てどこかコンビニでしよう、と言うことになり、学バスを使わずに目白通り沿いを歩き、コンビニに寄った。その後目白駅前の喫茶店でお茶をした。

 二人共カフェラテを注文し、奈歩が席を取りに二階へ上がる。
 席について、一息ついたところで私が口を開いた。

「奈歩、私の危ない恋は終わったわ。私、ときめいていた。不安だった。こんなにも人を震える程好きになったのは、きっと後にも先にもこれが初めて。すごく、哀しい程嬉しい気持ち、そして純粋な気持ちを知ることができたように思う。だけどね、奈歩が言ってくれたように、松崎に言わなくて正解だったわ。って言うのは、彼に付き合う事は出来ないって言われた直後に松崎の実家にお邪魔して、初めて泊めてもらって、松崎とのこれまでのことを思い出して…。もっと大切にしなきゃ、彼だけを見ててあげなくちゃって強く感じたの。奈歩には感謝してる」

 一気に話して、カフェラテをぐいっと飲んだ。

「そうなるって分かってたよ。理美はいずれ松崎に戻るって。だって私、一年ん時から二人を見てるわけじゃん。二人には、見えないけど、その赤い糸っていうの?がちゃんとあって、しっかり結ばれているもの。私にはその糸がちゃんと見えるわよ」

 私は、奈歩とずっと友達で良かったと心の底からそう思った。
「奈歩、ホントありがとね」

 私は、自分の心が浄化されていくのを感じた。店内はとても明るく、隣にいた赤ちゃんの笑顔がめちゃくちゃ可愛かった。

「ところで奈歩は、井上くんとのクリスマスデートはどうだった?カウントダウン・ライヴも楽しかったよね」
 すると奈歩は嬉しそうに答えた。
「クリスマス・イヴを一緒に過ごしたの。彼がデートの内容を考えてくれて…。うまくやっていけそうな気がしたわ。カナダでの色々な珍しい話をしてくれた。例えば世界的な団体が経営しているファームに1か月滞在して、にわとりや馬のお世話をした話とか、マイナス40度の中で、まゆげを凍らせながら空一面のオーロラを見た話とかね。向こうの人は近所付き合いも盛んで、バーベキューとかホームパーティとかもしょっちゅうやってたんですって。もともと移民の多い国ってこともあって、外国人に対してとても理解があるのだそうよ」

 奈歩たちのこれからを応援したい気持ちでいっぱいだった。松崎と私もずっと続いていくとしたら、この四人はずっと離れないんだなと思う。大学生になる時に掲げた夢の一つに「生涯の友人を作る」っていうのもあったことを思い出していた。

 その日の夜アパートで爪のケアをしていると、メールが来た。なんと高村くんからだった。

「冬休み香港に行って来たんですが、夏木さんにちょっとしたお土産があるんですが、受け取ってもらえませんか?」
 もう会わないって言ったのに…。すごく迷った。しばらく考えた。

 無視できるほど、私は心が強くなかった。
「ありがとう。じゃあ今からあそこのコンビニに行くね。十分後くらいでいいかな?」
 私はマシな普段着に着替え、顔と髪を整え、赤いPコートを着てプーマのスポーツシューズを履いて家を出た。

 コンビニに着くと、高村くんは既に着いていて雑誌コーナーにいた。すぐ私に気付き、雑誌を戻し近付いて来た。

「お久しぶりです」
 やはり綺麗な笑顔で、そう言った。微かに、あの懐かしいエキゾチックな香水の匂いがした。その匂いをかいだら、いろんな思い出が甦って涙が出そうになった。でも、コンビニの外で5分ぐらい立ち話してお土産をもらったら、後ろ髪を引かれる思いですぐに帰ってきた。

 向かいの家の犬に吠えられた。

 アパートに入り、大事に抱えてきた包みを丁寧に開ける。

 それはジャスミンティーだった。






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