非常に奇妙な水晶である。
これを売っていた作業着姿のおっちゃんが、
「万珠鉱山でとってきた。重晶石の後のヌケガラ水晶だよ」
と、おっしゃっていた。
裏側を見るとこんな感じだ。
おっちゃんが、「ヌケガラ水晶」と言っていたこの奇妙な水晶は、いわゆる「仮晶」の一種である。
重晶石というのも、板状だったり、鳥のとさか状だったりと、様々な形状をあらわす鉱物なので、こんな形というのもあり得るのだろうか。そういえば、柱状の結晶もあるらしいので、こんな角張った形になることもあるのかもしれない。
その道のプロっぽいおっちゃんとその友達が言ってたのだから、きっと重晶石の後にできた水晶なんだろう。だから、「重晶石の仮晶をなす水晶」とちょっと専門家っぽく呼んであげていいものなんだろう。
表側を見てみると、結晶がびっしり寄り集まっているらしく、こんな風にもこもことした形状になっている。半透明な色合いは、「カルセドニー」かなと思わせる。でも、よくみると、先の尖ったちっさな結晶がたくさん見えるのだ。
色も色んな色が混ざり合って、まるで色んな絵の具を置いて絵を描いているときのパレットみたいだ。
断面図を見てみても面白い。
重晶石のすぐ上を覆っていた半透明の水晶の層、その上には、酸化鉄のような赤茶色の薄い層が見える。さらにその上を正体不明の岩石の層が覆って、一番上に細かい結晶の水晶が覆っている。ざっと見てみるだけでも4層構造だ。
ブルガリアの仮晶は真っ白で、ほんのり一部ピンク色に色付いていた。繊細な感じの結晶だ。
栃木県・万珠(まんじゅ)鉱山の仮晶は、見た目は無骨なのだけど、見る度にちょっとした発見があったりして、なかなか味わい深い結晶だと思う。
なにより、これを売っていたおっちゃんの笑顔が楽しそうで嬉しそうで、なんだか忘れられなくてこれを見る度にっこりしてしまうのだ。