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作家・精神科医の帚木蓬生 白血病になって意識した「解決できない事態に耐える力」を身に付ける方法

2021-12-07 13:30:00 | 日記

下記の記事を婦人公論.jp様のホームページからお借りして紹介します。(コピー)です。

 

『閉鎖病棟』などの小説で知られる、作家で精神科医の帚木蓬生さん。世の中に立ちこめる不安な空気に押しつぶされないためにも、ある「能力」を身につけることの重要性を説きます。自分らしく生きることにもつながるその力とはーー(構成・撮影=樋田敦子)

「ネガティブ・ケイパビリティ」という考え方

コロナ禍による生活の変化は、私のクリニックを訪れる患者さんの心や体にもさまざまな影響をおよぼしました。孤独や不安を訴えたり、気分が落ち込んでやる気が出なくなる、いわゆる「抑うつ状態」に陥ったりする人が増えたと感じます。

特に中高年の女性たちは、移動を制限されたことによって、介護施設にいる親と面会できなかったり、子どもや孫、友人と会う機会を失ったりして、「寂しい」と口にする人が少なくありません。抱えている思いを話す相手がいなければ、不安は消えないのです。

こうした出口の見えない非常事態のときこそ、医師として「ネガティブ・ケイパビリティ」という考え方を、みなさんにぜひ知ってほしいと考えています。

 

私がこの言葉と出会ったのは、今から35年ほど前。精神科医になって5、6年目のことです。偶然、雑誌に掲載されていた論文を目にしました。当時私は、統合失調症の患者さんを抱えていたのですが、治療してもなかなかよくならず、自分の無力さに失望する毎日だったのです。

ネガティブ・ケイパビリティとは、「どうにも答えの出ない、対処できない事態に耐える力」という意味です。この概念は、もともとイギリスの詩人、ジョン・キーツが19世紀に言及していて、その後、イギリスの精神分析の権威、ウィルフレッド・R・ビオンが発展させました。解決できない事柄の理由を性急に求めず、《中ぶらりんの状態を持ちこたえる》という考え方です。

本来「ケイパビリティ(capabil-ity)」とは、才能や解決処理能力などポジティブなものを指す言葉ですが、この場合はまったく逆で、答えを出さないことに重きを置いています。

人間の脳はもともと「知りたい、わかりたい」という性質を持っているため、わけのわからないものに直面すると脳が苛立ち、とりあえず意味づけをして理解しようとするのです。その「わかりたい」という欲望を制御しながら、結論が出ないまま持ちこたえる力こそが、ネガティブ・ケイパビリティなのです。

どうしたら患者さんによりよい治療ができるのかと悩み、答えを急いでいた私にとっては、ありがたい概念でした。症状が思うように改善しなくても医師として寄り添っていけば、結論を出さなくても悪い方向にはいかない。そう考えられるようになったのです。

60歳で白血病に。治るか治らないかは半々

この概念は、60歳のときに急性骨髄性白血病と診断された私自身の人生においても、大きな助けとなりました。当時の私は、勤務先の病院を辞めて独立したばかり。どうやってクリニックを維持していくのか。代わりにやってくれる医師を手配できるのか……。いっそのこと閉めてしまおうか、などといろいろ悩みました。

まさに解決策が出ない「中ぶらりん」の状態のまま半年間、無菌のクリーン・ルームで過ごすことに。そのときネガティブ・ケイパビリティを意識したのです。

白血病になってしまった事実は変えられない。受け入れるしかない。主治医には、治るか治らないかは半々と言われたけれども、その中ぶらりんに耐えて、明るく最後まで生きていくように気持ちは変えられるはずだ。治るほうに賭けようと思ったのです。

 

そして悟ったのは、今日という日は私に残された人生の第一日だということ。めげてなんていられない。

さっそく妻に頼んで、消毒したパソコンや資料を病室に持ち込み、執筆に没頭。そうして2冊の小説『水神』『ソルハ』を書き上げることができました。あれこれ思い悩まず、忙しくしていた結果だったのでしょう。いまは定期検診に行くだけで、再発の気配もなく病状は落ち着いています。

おもに精神科の現場で用いられるネガティブ・ケイパビリティの考え方ですが、不安や困難に押しつぶされないための「生きる力」とも言えるでしょう。先ほど述べたように、脳には「わかろう」とする性質があるため、読者のみなさんが実践するのは容易ではないかもしれませんが、この力を身につけるためのヒントをお教えしたいと思います。

ネガティブ・ケイパビリティの力を身につけるための3つのヒント

【ヒント1】手っ取り早く答えを求めない

私たちは早く物事を解決しようとするあまり、すぐに手の届くものに頼りがちです。問題解決のためのマニュアルを鵜みにしない、ハウツーものにはまらないことが大事。この新型コロナの感染拡大で、世の中は答えの出ない、中ぶらりんの状態です。

 

「コロナなんか怖くない」「ワクチンなんて打たなくていい」という言説もSNSを中心に飛び交いました。スマホで情報を調べる癖のついた人々は、中ぶらりんに耐えられなくなって、重箱の隅をつつくように詳細な情報を求めてしまいがちです。

 

でも、それでわかったつもりになってはいけないと思います。大多数の意見は得てして眉唾のこともあるので、簡単に賛同してしまうのではなく、少数派になってもいいから、自分の意見を貫いてみる。少数派には真実が宿りやすいのです。

 

【ヒント2】考えないで置いておく

 

働かない息子の将来が心配、姑のあの言動が許せない、酒飲みの夫とは今後どうしたら……など、みなさんさまざまな悩みを抱えていることでしょう。小さな脳みそを働かせて早く解決したいと動くけれど、カッカした状態で考えても、うまくはいきません。

 

コロナ禍の混乱だけではなく、身の回りで起こる問題に直面したとき、焦るのがいちばんよくないので、大きな流れに身を任せる、考えないで置いておく、というアプローチも必要なのです。そうするといつの間にか事態が改善しているということもあります。

 

【ヒント3】日頃から芸術に触れる

芸術や創作活動には、これといった正解やゴールがありません。ずっと中ぶらりんの状態。これはネガティブ・ケイパビリティにも通じるところがあります。

 

ですから芸事を始めてみるのはいかがでしょう。昔好きだったピアノや書道をもう一度やってみる。絵を描いたり小説を書いてみるのでもいい。絵や写真を見て、「なんとなくいいなあ」と思うことがあるでしょう。昨今はそうした柔らかな感性を失いがちなので、今後の人生を豊かにするためにも芸術に触れるのはおすすめです。

これらの3つを意識しておくと、小さなことに思い煩うことなく中ぶらりんの状態を耐える能力が徐々に養われていき、柔軟な生き方ができると思います。

弱った心に効く「目薬」「日薬」「口薬」

とはいえ、どうしても落ち込んだり気分が滅入ったりしてしまう人もいるでしょう。クリニックを訪れる中高年女性に多いメンタルの不調としては、「ひょっとしてどこかに悪い病気が隠れているのではないか」という病気不安症があります。ほかに、めまいや体のしびれなどに悩まされ、診断して病気が見つからなくても自分は重い病気ではないかと不安を訴える身体症状症なども。また、不眠の訴えも尽きません。

こうした患者さんと向き合うとき、私はネガティブ・ケイパビリティの考え方とともに大切にしていることがあります。それは3つの「薬」です。

いつもあなたのことを見ているけれど、こんなに問題を抱えながら本当によくやっていますね、という「目薬」。状況を見守り、必要に応じてサポートしていく方法です。

 

2つめは、人間の小さな脳みそでいくら考えても答えが出ないことがある、それは日々が解決してくれるという「日薬」。時間をかけて何とかしていくうちに、何とかなります。

3つめは、「がんばって」とは決して言わずに、「めげずに、よくここまで来ましたね」と声をかける「口薬」です。こう言うと患者さんは安心するみたいですね。

さらに、日々の暮らしを忙しくすることをすすめます。一通り新聞を読み、日記をつけ、町内会の役職を引き受けるなど、忙しくして暇を作らないことは大事です。悩む時間がないから、忙しい人は病気を口にしません。

悩みや不安があっても焦らず、悩めばいい。ハラハラ、ドキドキの状態もまた楽しんでみてはどうでしょうか。大局に任せれば、自然と出口が見えてきます。

出典=『婦人公論』2021年11月24日号

帚木蓬生

作家・精神科医

1947年福岡県生まれ。東京大学文学部仏文科卒業後、TBSに勤務。2年で退社し九州大学医学部入学。卒業後は精神科医として依存症などに取り組む。作家としても活動し『、三たびの海峡』『閉鎖病棟』『ネガティブ・ケイパビリティ答えの出ない事態に耐える力』など著書多数



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