下記の記事は日刊ゲンダイヘルスケアデジタル様のホームページからお借りして紹介します。(コピー)です。
血糖値の1~2カ月の平均を反映し、血糖コントロールの指標となるHbA1c(ヘモグロビンエーワンシー)。この数値を良好に、さらに長期的に保つと、新型コロナウイルスに感染しても重症化しないことが、米国の大学の調査で明らかになりました。
調査をしたのは、レンセラー工科大学の研究グループです。米国で医療サービスのネットワーク提供を行うオプタムヘルスの医療データベース(2017年1月から20年11月)を解析。対象になったのは1万6504人の男女で、平均年齢は67.6歳でした。
すると、コロナ感染の2~3年前からHbA1cの平均値が1%高いごとに、集中治療室(ICU)に入院するリスクが12%上昇するという結果が出たのです。HbA1cが7%にコントロールされている群は、コロナの重症化リスクは1.12倍でしたが、8%以上の群は1.34倍、9%以上の群は1.48倍に上昇していました。
糖尿病治療ガイドライン(日本糖尿病学会)では正常範囲を4.6~6.2%とし、6.0~6.4%を「糖尿病の可能性が否定できない」、6.5%以上を「糖尿病が強く疑われる」としています。また、すでに糖尿病と診断されている場合には、合併症予防のために、HbA1cは7.0%未満を目標に、コントロールすることとなっています。
この米国の調査では、「高血圧」「男性」「腎障害」「肥満」もコロナの重症化リスクを高め、しかし血糖降下薬で治療を受けている人は重症化リスクが抑えられるという結果も出ました。コロナに感染した時、血糖降下薬のメトホルミンを服用していた糖尿病患者はICUの入院リスクが12%低く、メトホルミンとインスリンを使用していた人は入院リスクが18%低かったのです。
■感染2~3年前までさかのぼって調査しているところがポイント
この調査結果を、私は非常に興味深く見ました。実はこの結果が発表される前、HbA1cの数値とコロナの重症化リスクとは関係あるという調査結果も、またないという調査も発表されていました。コロナに感染した一時点のHbA1cだけが重症化に関わるという調査結果には、疑問を抱かざるを得なかったのです。
というのも、たとえば、「HbA1cが高い」といっても、コロナに感染した時期がたまたまその数値だったのか、過去何年にもわたり数値が高いのか、今まで低い数値をコントロールしていたけど数カ月前から生活の変化などで数値が高くなっているのか。
糖尿病の合併症は短期間で起こるのではなく、悪い数値を長く継続していることで生じます。もちろん、HbA1cは一時的に高くなると、白血球の働きが悪くなり、免疫力が落ちて感染症になりやすいという点はありますが、「これまで」を見ずに、血糖コントロールとコロナの重症化の関係を結びつけることは無理があるのです。
今回の「HbA1cが7%にコントロールされている群は、コロナの重症化リスクが低い」という結果は、コロナに感染した時だけのHbA1cを見ているのではなく、コロナ感染2~3年前からのHbA1cの動きを見ています。過去に数年さかのぼって数値が高い人はコロナの重症化リスクが高いという結論は、非常に納得しやすいのです。
そしてもうひとつ、私が着目したのは、数値を良好に保てている期間が2~3年と短くても、効果があるという点です。HbA1cを2~3年から5年くらい良好に保てれば、コロナに限らず感染症の重症化リスクを抑制でき、体に対してさまざまな良い影響があるとは言われていましたが、2~3年でも効果がある。もしかしたら、1年間良好な状態を保つだけでも、効果があるかもしれない。大切なのは、継続するということです。
コロナの重症化抑制だけではありません。糖尿病の薬は日進月歩しています。効果が高く、使いやすい薬が続々と登場しています。血糖コントロールが良い状態を1年でも長く継続していれば、新しい薬が出た時の恩恵を受けやすい。複数の合併症に見舞われた後では、せっかくの新薬の効果を得られない可能性があるのです。
坂本昌也
国際医療福祉大学 医学部教授 国際医療福祉大学 内科部長・地域連携部長
専門は糖尿病治療と心血管内分泌学。1970年、東京都港区生まれ。東京慈恵会医科大学卒。東京大学、千葉大学で心臓の研究を経て、現在では糖尿病患者の予防医学の観点から臨床・基礎研究を続けている。
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