下記の記事は日経ビジネス様のホームページからお借りして紹介します。(コピー)です。
20年後の未来はどうなるのでしょうか? 元日本マイクロソフト社長の成毛眞氏は、年金・社会保障・医療などを筆頭に暗い未来がやってくると予想します。その中でも、あまりにも巨大すぎるがゆえに、正面から向き合えていないもののひとつが天災です。果たして、私たちは災害をどう考えればよいのでしょうか。『2040年の未来予測』(日経BP)を上梓した成毛氏が、地震学と火山学に詳しい、京都大学大学院人間・環境学研究科の鎌田浩毅教授と考えます。
成毛眞氏(以下、成毛):老人だらけになり、年金ももらえず、経済成長がゼロに限りなく近づく。2040年はそうした世界になるのが現実的になってきました。ただ、未来を予測する上で、みなさんが見落としがちで絶対に避けられそうもないのが災害リスクです。
鎌田浩毅氏(以下、鎌田):それは間違いありません。2035年から前後5年、つまり、2030年から2040年までの間に、南海トラフ巨大地震というとてつもない災害がかなり高い確率で起き、その合間に富士山噴火と首都直下地震が加わるのではと私は考えています。
成毛:私も同意見ですが、多くの読者には新年早々、重い話ですね。まず、巨大地震から伺います。2040年までに南海トラフはどの程度の確率で起きますか。
鎌田:私は限りなく100%に近いと思っています。『2040年の未来予測』にも書かれていますように、国ですら、今後30年で南海トラフは「70~80%」で発生すると試算しています。それも、この数値は18年2月にそれまでの「70%程度」から引き上げられています。発生確率は確実に高まっているわけです。
鎌田浩毅氏 プロフィル
1955年生まれ。東京大学理学部地学科卒業。通商産業省(現・経済産業省)を経て97年より京都大学大学院人間・環境学研究科教授。理学博士。専門は地球科学・火山学・科学コミュニケーション。京大の講義は毎年数百人を集める人気ぶりで教養科目1位の評価。「世界一受けたい授業」「情熱大陸」などに出演しテレビ・ラジオ・雑誌で科学を明快に解説する「科学の伝道師」。週刊エコノミストに「鎌田浩毅の役に立つ地学」を連載中。著書に『首都直下地震と南海トラフ』(MdN新書、2月4日発売予定)、『富士山噴火と南海トラフ』『地学ノススメ』(ブルーバックス)、『京大人気講義 生き抜くための地震学』(ちくま新書)、『地球の歴史(上)(中)(下)』『理科系の読書術』(中公新書)、『火山噴火』(岩波新書)、『日本の地下で何が起きているのか』(岩波科学ライブラリー)、『新版 一生モノの勉強法』『座右の古典』(ちくま文庫)など。 ホームページ:http://www.gaia.h.kyoto-u.ac.jp/~kamata/
成毛:厄介なのは、南海トラフは東海・東南海・南海の3地震が同時に発生する連動型の地震で、関東から九州まで広域の大災害になる可能性が濃厚ですよね。
鎌田:はい。太平洋ベルト地帯を直撃することは確実で、全人口の半分近い約6000万人が深刻な影響を受けます。
国のシミュレーションでも犠牲者の総数は約23万人、全壊または焼失する建物は約209万棟です。また、土木学会は地震発生後20年間での直接間接の経済損失は約1400兆円と試算しています。日本どころか世界の経済が停滞する引き金になります。大きすぎて実感がわきませんが、これが私たちが直視しなければいけないリスクなのです。
成毛:『2040年の未来予測』でも書きましたが、地震で亡くなるリスクは正直、交通事故や未知のウイルスで亡くなる確率よりはるかに高い。小学生でも分かります。けれども、試算されている数字があまりにも大きい上に、いつ起きるかが分からないのでイメージがわかない人が多い。結局、いつ、どの程度かがはっきり分からないと人は動きません。多くの人が締め切りがないと仕事が進まないのと同じですよね。
鎌田:はい。ですから、私はことあるごとに、「あと15年で東日本大震災の10倍以上の被害をもたらす巨大地震が日本を襲う」と訴えてきたわけですが、いまいち浸透していません。
成毛:そして、恐ろしいことに、首都圏は首都直下地震のリスクもあります。首都直下も国は30年以内に起きる確率を70%程度と試算していますが、鎌田先生は「明日起きてもおかしくない」と常々公言されています。危機をいたずらにあおられているわけではなく、明日か明後日起きてもおかしくない地殻変動が日本では起きています。
鎌田:正直、私に言わせれば毎日が「ロシアンルーレット」のような感じです。
首都圏の地下には4枚のプレートと呼ばれる厚い岩板がありますが、2011年の東日本大震災以降、ひずみが生じています。そのひずみを解消しようとして、地震が頻発しています。「ここ10年ほど地震が多い」と感じている人は多いかもしれませんが、震災前に比べて内陸地震は3倍に増えています。私は「大地変動の時代」に入ったと言っているのですが、約1100年前にも日本は今と同じような地殻変動を起こしています。
869年に東北沖の震源域で貞観地震が発生しました。これは東日本大震災(マグニチュード9)に匹敵するM(マグニチュード)8.4と推定されますが、この地震以降、地震が頻発しました。そして、9年後の878年に関東南部でM7を超える地震が発生しました。現代に置き換えると東日本大震災の9年後は2020年です。単純に足しただけなので、もちろんその通り起きるわけではありませんが、地殻の状況は1100年前と似た不安定な状況にあります。
今、富士山は「噴火スタンバイ」状態
成毛:2つの巨大地震がいつ起きても不思議ではないわけですが、忘れてはいけないのが富士山の噴火です。私はこれが日本が抱える最大の気候変動リスクだと思っています。前回噴火したのが1707年。約300年前の江戸時代ですね。これほどの期間、富士山が噴火しないことは歴史上ありません。そして、巨大地震との連動も予想されます。
鎌田:まさに富士山は「噴火スタンバイ状態」です。いずれ噴火する火山から、近い将来、必ず噴火する火山に日々近づいています。地殻がこれまでにない変動を起こしている日本では、直近数十年間の常識は通じません。事実、終戦後から1995年の阪神大震災までの日本は、地殻変動の「静穏期」にありました。ちょうど高度成長期に地震が少ない幸運が重なったのですね。そして富士山が前回噴火したときの状況としては、当時の南海トラフ地震で富士山地下のマグマが不安定になっていたため、大噴火となりました。まさに、今、これと似た状況にあります。
成毛:政府も2020年に富士山が大規模噴火した場合の被害想定を初めて公表しました。放置できないリスクとして認識しはじめています。本に詳しく書きましたが、富士山が噴火すれば日本のインフラは壊滅します。数ミリ火山灰が積もっただけで電気系統や通信機能は破壊され、電車も動かなくなり、水道や道路設備も止まります。農作物への影響も甚大です。
鎌田:富士山の噴火と聞くと、「東京にいるから関係ない」と考えるかもしれませんが、火山を甘く見てはいけない。江戸時代の噴火では江戸に5センチ、横浜に10センチ積もっています。ご指摘の通り、数ミリでインフラがまひするわけですから、江戸時代のような噴火が起きれば、首都圏はしばらく廃虚と化します。
成毛:仕事どころか暮らしもままなりませんよね。政府の試算では、噴火から3時間で首都圏に火山灰が降る。みんな右往左往して買い占めているうちに、灰だらけになってしまう。どこかに逃げようとしても時間もありません。
鎌田:東京以外に拠点を持っておくことは、精神的にも物理的にも有効かもしれません。例えば、私が住んでいる京都は天災リスクには強い。湧き水があるから水には不自由しないし、観光客が多いので食料の備蓄もあります。
日本人は、揺れる大地に住みながらも生き延びてきた
成毛:本では不動産についても言及していますが、2040年に住宅の世界は一変しています。例えば空き家も増え、定額で全国住み放題のようなサービスがもっと活性化するはずです。そういうのを利用すれば、会社員でも多拠点を構えるのは決して非現実的ではないですよね。
鎌田:重要なのは「不意打ちを食らわないこと」です。現在の最先端の地球科学でも地震や噴火が起きる日付を特定するのはまったく不可能です。日本地震学会も地震予知に白旗をあげました。ただ、これまでお話ししたように、災害が起きる場所と期間の範囲を示すことは可能です。実は、2035年±5年に南海トラフ巨大地震が起きるというのは、本当に「虎の子」の情報なのです。そして教科書的ですが、平時から危機を想定して備えるしかありません。
成毛:リスクはゼロにはできませんが、個人の取り組みでも減らせますからね。そうしたヒントを得るためにも、あらゆる分野に対するアンテナの感度を良くしておくことが欠かせませんよね。
鎌田:はい。最後に明るい話をしますと、2040年の日本は復興の途上にあると思います。巨大地震が起きて、富士山も噴火して大変だと思われるかもしれませんが、どん底を経験すれば、上向くしかないわけですから。南海トラフは約100年周期で起きましたが、歴史を振り返るとひとつの時代の区切りになっているんですね。時代がガラガラポンされています。
成毛:確かに、前回起きたのは1946年ですね。太平洋戦争が前年に終わり、日本は人類史上、まれに見る経済成長をとげました。その前は1854年、黒船が来航して、明治維新に向かって走り出した頃ですね。痛みは伴いますが、南海トラフで旧世代が一掃されて新しい時代が始まっています。
鎌田:そうなんです。日本人はこんな揺れる大地に住みながらも、必ず生き延びてきたわけです。完璧主義に陥らず「減災」の発想で被害を可能な限り抑え、新しい時代に備えることが求められているのではないでしょうか。
成毛 眞
元日本マイクロソフト社長、HONZ代
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