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ARF年次安保概観2011

2011年07月03日 | 安全保障

ARF年次安保概観2011

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目次

  1. 第1章 地域的な安全保障環境に対する日本の認識
  2. 第2章 我が国の安全保障政策及び防衛政策
    1. 1.日本の安全保障政策
    2. 2.日本の防衛政策
      1. (1)基本政策
      2. (2)防衛計画の大綱等
      3. (3)防衛関係費
    3. 3.日米安全保障体制
  3. 第3章 我が国の地域的な安全保障に対する貢献
    1. 1.災害救援への我が国の取組み
    2. 2.テロ対策
    3. 3.軍縮・不拡散
    4. 4.国境を越えた犯罪対策
    5. 5.海上安全保障にかかる我が国の取組み
  4. 最終章 ARFの機能向上のための我が国の将来的貢献

第1章 地域的な安全保障環境に対する日本の認識

 アジア太平洋地域においては,相互依存関係が拡大・深化する中,安全保障課題の解決のため,国家間の協力関係の充実・強化が図られており,特に非伝統的安全保障分野を中心に,問題解決に向けた具体的な協力が進展しつつある。一方,グローバルなパワーバランスの変化はこの地域において顕著に表れている。我が国周辺地域には,依然として核戦力を含む大規模な軍事力が集中しており,多数の国が軍事力を近代化し,軍事的な活動を活発化させている。また,領土や海洋をめぐる問題や,朝鮮半島や台湾海峡等をめぐる問題が存在するなど不透明・不確実な要素が残されている。

 この中で,北朝鮮による核・弾道ミサイル開発については,国際社会全体の平和と安定に対する重大な脅威であり,容認できない。また,北朝鮮は,昨年11月にウラン濃縮活動を公表し,韓国延坪島を砲撃する等,挑発行為を繰り返しており,我が国を含む地域の安全保障の観点から重大な不安定要因である。

 北朝鮮が公表したウラン濃縮活動は,安保理決議及び六者会合共同声明の違反であり,国際社会の懸念が国連安保理等の場で適切な形で示されるべきである。また,国際社会が一致して,関連安保理決議に基づく対北朝鮮措置を着実に実施する必要があり,我が国としては,安保理決議に基づく措置に加え,我が国独自の措置を引き続き着実に実施していく。

 六者会合は引き続き問題解決のための有効な枠組みであるが,「対話のための対話」は不適切である。対話再開のためには,まず北朝鮮が,非核化を始めとする六者会合共同声明におけるコミットメントを完全に実施する意思があることを,具体的な行動によって示すことが必要である。我が国は,引き続き,米韓,さらには中国を始めとする関係国と緊密に連携し,北朝鮮による具体的行動を求めていく考えである。

 日朝関係については,日朝平壌宣言にのっとり,拉致,核,ミサイルといった諸懸案を包括的に解決し,不幸な過去を清算して日朝国交正常化を図る方針である。拉致問題は我が国の国家主権と国民の生命・安全にかかわる重大な問題である。すべての拉致被害者の一刻も早い帰国を実現するため,北朝鮮の具体的行動を引き続き強く求めていく。

第2章 我が国の安全保障政策及び防衛政策

1.日本の安全保障政策

 日本は,安全保障上の諸課題に対処するため,我が国自身の防衛力を着実に整備していく。次に,日米同盟を21世紀にふさわしい形で深化・発展させていく。同時に韓国や豪州との協力や海上安全保障等の利害を共有するパートナー国との関係の強化や,地域の安全保障に大きな影響力を持つ中国やロシアとの安定した関係の構築に努めていく。さらには,ARF等の地域枠組みにおける連携・協力を推進していく。

2.日本の防衛政策

(1)基本政策

我が国は,憲法の下,専守防衛に徹し,他国に脅威を与えるような軍事大国とならないとの基本理念に従い,日米安保体制を堅持するとともに,以下に述べるように,文民統制を確保し,非核三原則を守りつつ,節度ある防衛力を自主的に整備してきている。

ア 非核三原則
非核三原則とは,核兵器を持たず,作らず,持ち込ませずという原則を指し,菅内閣としてはこれを堅持する方針に変わりはない。
イ 文民統制の確保
国民を代表する国会が,自衛官の定数,主要組織などを法律・予算の形で議決し,また,防衛出動などの承認を行うこととなっている。
(2)防衛計画の大綱等

 2010(平成22)年12月に,「平成23年度以降に係る防衛計画の大綱」が策定された。「防衛計画の大綱」は,我が国の安全保障の基本理念や基本方針,防衛力の意義や役割,さらには,これらに基づく,自衛隊の具体的な体制,主要装備の整備目標の水準といった今後の防衛力の基本的指針を示すものである。

ア 我が国の安全保障における基本理念
 新大綱において安全保障の目標は,1)脅威の防止と排除,2)脅威発生の予防,3)世界の平和と安定及び人間の安全保障の確保とし,その達成のため,「我が国自身の努力」,「同盟国との協力」,「国際社会における多層的な安全保障協力」を統合的に推進することとしている。
イ 防衛力の在り方
 新大綱では,将来に向けて,我が国が持つべき防衛力の基本的方向性として「動的防衛力」を構築するとの方針を示した。これは,安全保障環境の変化(周辺国の軍事力近代化や活動活発化,国際協力の重要性増大)等を踏まえ,1)情報収集・警戒監視等の平素の活動の常時継続的な実施,2)各種事態への迅速かつシームレスな対応,3)諸外国との協調的活動の多層的な推進を重視し,「運用」に焦点を当てた防衛力を実現しようとする考え方である。こうした考えの下,新大綱では,1)実効的な抑止及び対処,2)アジア太平洋地域の安全保障環境の一層の安定化,3)グローバルな安全保障環境の改善といった役割を実効的に果たすため,自らの防衛力を構築するのみならず,域内諸外国の能力構築支援等の取組みを行うこととしている。このため自衛隊は,即応態勢,統合運用態勢,国際平和協力活動の態勢を保持することとしている。
ウ 防衛力の能力発揮のための基盤
 防衛力の整備,維持及び運用を効率的・効果的に行うため,1)人的資源の効果的な活用,2)装備品等の運用基盤の充実,3)装備品取得の一層の効率化,4)防衛生産・技術基盤の維持・育成,5)防衛装備品をめぐる国際的な環境変化に対する方策の検討,6)防衛施設と周辺地域との調和を重視する。
エ 動的防衛力実現のための取組
 動的防衛力を実現するためには,統合的・横断的な視点から,自衛隊全体にわたる装備,人員,編成,配置等の抜本的な効率化・合理化を図り,真に必要な機能に資源を選択的に集中して,防衛力の構造的な改革を行うことが必要であることから,1)統合による機能強化・部隊等の在り方の検討,2)横断的な視点による資源配分の一元化・最適化の検討,3)人的基盤に関する抜本的な制度改革の推進,4)防衛装備品をめぐる国際的な環境変化に対する方策の検討や総合取得改革の推進,5)衛生機能の強化に関するについて,総合的な検討を実施している。
(3)防衛関係費

 防衛関係費は,自衛隊の維持運営経費のほか,防衛施設周辺の生活環境の整備,在日米軍駐留支援などに必要な経費を含んでいる。

 平成23年度防衛関係費は,歳出予算で,SACO(Special Action Committee on Okinawa)関係経費および米軍再編関係経費(地元負担軽減分)を除き,対前年度201億円の減(対前年度比0.4%の減)と9年連続のマイナスとなった。

 なお,平成23年度予算では,SACO関係経費として101億円及び米軍再編関係経費(地元負担軽減分)として1,027億円が予算措置されており,これを含めた防衛関係費の総額は,前年度と比べて151億円(0.3%)減額の4兆7,752億円となる。

3.日米安全保障体制

 日米安保体制は,日本及び極東に平和と繁栄をもたらし,また,アジア太平洋地域における安定と発展のための基本的な枠組みとしても有効に機能してきた。日本及び地域の平和と安全を確保するために,日米安保体制を一層深化させていくことは重要な課題である。2010年は日米安全保障条約締結から50年を迎える節目の年であり,日米両国は,同盟深化のため,地域の安全保障環境の認識を共有するとともに,グローバル・コモンズ(海上安全保障,宇宙,サイバーなど),拡大抑止 ,ミサイル防衛,人道支援・災害救助といった幅広い分野における日米安保協力を推進しており,さらに,2011年1月の日米外相会談では,共通の戦略目標の見直し・再確認を推進すること等に一致した。上記の日米安保・防衛協力に加え,日米安保体制の円滑かつ効果的な運用の確保のためには在日米軍の活動が地元に与える負担を軽減し,米軍の駐留に関する住民の理解と支持を得ることが重要である。この観点から引き続き在日米軍の兵力態勢の再編を通じて,在日米軍の抑止力を維持しつつ,地元の負担を軽減することに取り組んでいく方針である。

第3章 我が国の地域的な安全保障に対する貢献

 本年3月11日,マグニチュード9.0の大地震が日本を襲い,死者・行方不明者数が28,000名以上にのぼるなど甚大な人的被害が出るとともに,社会インフラにも被害が発生した。これまでに,159カ国・地域及び43国際機関から支援の申し出があり,救助チーム等については28の国・地域・機関が来訪し,活動した。(6月3日現在。)このような国際社会による大規模な支援は,我が国がこの大きな困難を乗り越え,前進するための大きな励みとなるものであり,国際社会に対して深甚なる謝意を表明する。福島第一原発事故については,現在,我が国は,一日も早い事態の収拾を目指し,政府の総力を挙げてその解決に取り組んでおり,引き続き,最大限の透明性をもって国際社会に対する迅速・正確な情報提供を行う所存である。

1.災害救援への我が国の取組み

 東日本大震災直後の3月15日から19日,ARFの枠組みにおいて,我が国はインドネシアと共催でARF災害救援実動演習を実施した。本演習には,計25カ国・地域・機関以上から4,000名以上が参加し,大規模災害への対処能力を向上させるとともに,各国・機関の相互理解を深めるという所期の目的を達成できた。

 また,我が国は,世界各地で発生している大規模災害に対する支援も積極的に行っている。昨年,我が国はパキスタンで発生した大洪水に対して自衛隊部隊及び医療チーム,インドネシアで発生したメラピ山噴火に対して専門家チーム,今年2月のNZクライストチャーチで発生した地震に対して救助チーム・自衛隊部隊をそれぞれ派遣したほか,ARF参加国に対して,計5件の緊急援助物資供与及び計8件の緊急無償資金協力を行った。

 我が国は,マルチの枠組みにおいても,一昨年4月より,EAS各国関係者に防災分野の研修を実施しているほか,東日本大震災を踏まえ,防災に関する情報共有の推進,災害発生時の迅速かつ円滑な意思疎通の確保,支援派遣・受入れ調整を容易にする仕組みの構築,訓練の実施・能力の向上に関する協力に取り組んでいく所存である。具体的には,日中韓や日ASEAN,ARFの枠組みにおいて,経験共有のためのセミナー・会議の開催,ASEAN防災人道支援調整センター(ASEAN Coordinating Center for Humanitarian Assistance on Disaster Management:AHAセンター)を通じた通信設備等の整備支援及び人材の派遣,救助チームの能力向上のための研修やARF災害救援実働演習の定期化等を提案している。

2.テロ対策

 日本は,これまでアジア太平洋諸国との多国間・二国間協議(日韓,日米豪,日中,日中韓)を継続的に開催してきており,国際テロ対策協力の強化を進展させてきている。例えば,2010年はアジア太平洋経済協力(APEC)のCTTF(テロ対策タスクフォース)において議長を務め議論をリードした。特に,東南アジアにおけるテロの問題は,我が国の平和と安全にも直結している問題であり,日本はこれまで,同地域のテロ対策能力向上支援につき,「日ASEANテロ対策対話」,「国境を越える犯罪に関するASEAN+3閣僚会議(AMMTC)及び高級実務者会議(SOMTC)」などの枠組みを通じ積極的な貢献を行ってきた。ARFにおいても,テロ対策及び国境を越える犯罪に関する会期間会合(CTTC-ISM)を活用していく方針であり,2010年-11年の共同議長をマレーシアと共に務めた。途上国に対するテロ対処能力向上支援については,これまで出入国管理,航空保安,海上・港湾保安,法執行等の分野において,技術協力,機材供与等を行っている。

3.軍縮・不拡散

 日本は,核兵器のない平和で安全な世界の実現のために,NPTを基礎とする国際的な核軍縮・不拡散体制の維持・強化を極めて重視し,様々な外交努力を行っている。毎年国連総会に提出する核軍縮決議案(「核兵器の全面的廃絶に向けた共同行動」決議案)採択や,昨年5月に開催されたNPT運用検討会議におけるNPTの3本柱(核軍縮,核不拡散,原子力の平和的利用)それぞれについての将来に向けた具体的な行動計画を含む最終文書の採択への貢献はその代表例である。また,2010年9月に我が国及びオーストラリアが主導して,地域横断的な10か国と共に,核軍縮・不拡散に関する外相会合を開催した。同会議では,「核リスクの低い世界」に向けた現実的取組を進める決意を表明する外相共同声明を発表した。我が国は,このような取組を含め,NPT運用検討会議での合意事項の着実な実施に貢献すべく,関係国とも協力しつつ努力していく。

 アジア地域における国際的な軍縮・不拡散体制の整備・拡充は引き続き喫緊の課題である。北朝鮮によるミサイル発射及び核実験に対し,我が国は安保理決議第1874号の履行を目的とした貨物検査法を2010年5月に国会で成立させた。また,アジア地域においては,1)軍縮・不拡散関連条約の締結促進及び国内履行強化,2)輸出管理体制の整備及び強化,並びに,3)拡散に対する安全保障構想(PSI)の理解促進及び取組強化の三つを大きな柱としてアウトリーチ活動を実施しており,アジア不拡散協議(ASTOP)やアジア輸出管理セミナー等の各種会合を毎年開催している。

 2010年4月,米国の主催により核セキュリティ・サミットが開催され,4年以内にすべての脆弱な核物質の管理を徹底することが合意された。日本は,これまでIAEAとの協力等を通じて主にアジア地域の核セキュリティ強化のための協力を実施してきたが,核不拡散・核セキュリティ総合支援センターの設立等を通じ,引き続き,特にアジアにおける核セキュリティ強化のための国際協力を推進していく。

4.国境を越えた犯罪対策

 アジア太平洋地域においても,麻薬,人身取引,マネーロンダリングなどの国際組織犯罪が依然として問題となっている。

 第1に,国境を越えた法的枠組み等の強化が重要である。日本は,麻薬新条約を始めとする薬物関連条約に基づいてARF各国・地域と協力しつつ麻薬問題に取り組んでいる。また,関係省庁と連携をとりつつ,国際組織犯罪防止条約,国連腐敗防止条約,サイバー犯罪条約の早期の締結に向けて必要な検討を進めていく。

 第2に,キャパシティ・ビルディングを含む途上国支援が重要である。日本は,国連薬物犯罪事務所(UNODC)の犯罪防止刑事司法基金(CPCJF)及び薬物統制計画基金(UNDCP)を通じて,東南アジア地域の不正薬物対策,人身取引対策,腐敗対策のためのプロジェクトを支援している。

  第3に,日本は各国及び国際機関との政策協調を積極的に推進している。日本は,バリ・プロセス,ASEAN+3国境を越える犯罪に関する閣僚会議といった地域的な枠組みの閣僚会合・高級実務者レベル会合等にも積極的に参加しているほか,二国間での政策協調も推進している。

5.海上安全保障にかかる我が国の取組み

 近年,ソマリア沖で海賊行為が急増していることから,我が国は2009年3月より自衛隊艦船及び哨戒機を派遣し海賊対策に当たっている。また,2009年6月には海賊対処法を成立させた。

 アジア地域においては,日本の主導の下に作成されたアジア海賊対策地域協力協定(ReCAAP)」に基づき,情報共有センターがシンガポールに設立され,アジア地域における海賊情報の共有体制や各国協力網の整備のための積極的な活動が展開されている。同協定には,欧州の国も加盟するなど,国際的な評価も高まっている。我が国は,同協定に対し,財政的な貢献に加え,事務局長を送るなどの人的貢献もしている。現在,海賊事件の多発に悩むアフリカ地域において,ReCAAPをモデルとした地域協力の枠組み作りが進められている。

 また,ARFにおいては,本年2月,日本は東京で第三回海上安全保障会期間会合(ISM)を共同議長国であるニュージランド,インドネシアとともに共催した。同会合においては,今後優先的に取り組んでいく分野を示した「ワークプラン」に合意するなどの具体的な成果があった。日本は,7月以降は共同議長ではなくなるものの,引き続き,優先分野を具体化していく過程でリード国をつとめるなどの貢献をしていきたいと考えている。

最終章 ARFの機能向上のための我が国の将来的貢献

 ARFは,アジア太平洋地域全体の安全保障枠組みとして,安全保障に関する情報交換や本年3月に我が国とインドネシアで共催したARF災害救援実動演習のような現場に即した演習を行う場としては非常に有効に機能しつつある。我が国としては,ARFが,第1段階の「信頼醸成の促進」から第2段階の「予防外交の推進」へと進み,更に第3段階の「紛争へのアプローチ」を目指して発展していく道を着実に進むことが重要であると考えている。この中で,国家間の対立の問題など伝統的安全保障の問題については,国家主権などの関係もあり,メンバー国間で考え方が異なることから,ARFの枠組みを発展させることについては困難も存在するが,引き続き地域の安全保障環境の向上のための対話を続けることが重要である。

 他方,ARFをこれまでの単なる意見交換の場(a talk shop)から行動指向型の(action oriented)枠組みに変えていくべく,テロ対策,災害救援,不拡散・軍縮,海上安全保障,PKOといった非伝統的安全保障分野での協力も着実に進化させていくことが重要かつ現実的なアプローチと考える。非伝統的安全保障分野での課題に対しては,各国の利害も一致しやすく,ARFにおいてもワークプランの策定,机上演習・実動演習の実施といった具体的な協力が少しずつ進み始めている。ARFビジョン・ステートメント行動計画も策定され,各分野の協力の方向性も示されたことで今後具体的な活動が進み,ARFの機能向上に繋がることが期待されるところ,我が国としても各分野で具体的イニシアティブを発揮し,ARFの機能向上に積極的に貢献していく。

 

 

 

 



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