◆約30年前・・高校の教室
ヒロコ:アンちゃん、おはよう。
ヒナコ:あんず、おはよう。
杏:ひろポン。ヒナちんも、おはよう!
ヒロコ:ねえ、アンちゃん。「ひろポン」って呼び方、やめない?
杏:えっ、どうして?
ヒロコ:だつて…。昨日の夜、刑事ドラマ見て知ったんだけど、「ヒロポン」ってヤバい薬のことでしょ!私、今まで知らなかった。
杏:確かにそうね。いわゆる、「ヒロポン」は「メタンフェタミン」のことで覚◯剤とも言うわね。
ヒロコ:杏、知ってたの?
杏:そんなこと、常識でしょ!でも、ヒロポンは自分でそう呼んでって、言ったじゃない?
ヒロコ:確かにそうなんだけど…。そんな意味あったなんて知らなかったし。
ヒナコ:あの〜。「ヒナちん」もやめない?「ヒナちん」だけならまだいいけど、私の家のこと言うときの「ヒナちんち」とか、言われたらなんか…。聞こえが悪いでしょ!
杏:まあ、そうね。わかったわ。それじゃ、ふたりとも別の呼び方にしましょ。ついでに私の「アンちゃん」の呼び方もかえない!「アンちゃん」って、「兄ちゃん」みたいで、なんかいやなの。
◆現在・・・華緒洲家リビング
葵:そういえば、この前ジャム調べてて、衝撃的なことわかったんだけど。お母さんの名前「杏」でしょ。それで学生時代からのニックネームは「プラム」でしょ。でも、「杏」は英語で「アプリコット」らしくて。私、みんな呼び方が違うだけで一緒と思ってたから全然違和感なかったんだけど。知ってた?お姉ちゃん!
茜:うちも細かいことはわからんけど、「杏」は「アプリコット」、「プラム」は普通「すもも」のことやな。
葵:えっ、知ってたの?
茜:知ってたって程の事じゃないんやけど、お菓子や料理の食材の知識として少しあるだけや。まあ、お母さんのあだ名の「プラム」のことは、前に聞いたことがあるわ。お父さんから聞いたんやけど。
葵:それで?
茜:お父さんが言うには、中学生のころまでは、「アンちゃん」とか「あんずちゃん」とか、男子からは「あんず姫」なんてよばれていたらしいんや。高校に入ってから「アンちゃん」は「兄ちゃん」みたいで「イヤ」ってクラスメートに言ったら、「それじゃ新しい呼び方考えましょ」って話になったらしいねん。
それで、最初は「杏」やから「アプリコット」にしようとしたんやけど、かわいくないし呼びづらいからボツになったんやて。それで誰かが見た目が「プラム」に似ているから「プラム」にしようって話になったらしいねん。「プラム」は「すもも」やから、酸っぱさのある所もお母さんにピッタリってことで落ち着いて、それから「プラム」で定着したらしいねん。
灯:杏の種とか熟していない実には毒があるしね。タネの中にある「さね」って呼ばれる部分に「アミグダリン」という物質があるんだけど、体内で分解されるとシアン化合物に変化するみたいだよ。シアン化合物ってのは「青酸カリ」とかのことダネ!
葵:なんか怖いわね。
茜:確かに。お母さん毒持ってるねん。
葵:それに込み入ってごちゃごちゃして、わかりずらいところもお母さんにはピッタリね。
茜:せやな。お母さん「華緒洲(カオス)」やからな。
灯:灯は「あんず姫」に1票。なんか、すごくわかる。
葵:そうね。若いときはそっちのほうが合ってそうね。
茜:おてんばなお姫様って感じやもんな。今も変わらへんけど。
杏:あなた達、何の話してるの?ずいぶん楽しそうね。
葵:別に。何も。
茜:ああ、学校。早くせんと。
灯:あんず姫、行って来ます。
杏:私の秘密がわかっちゃったらしいわね。まあいいわ。いずれわかることだし。