Ryo's factory

札幌在住の四児の父親のブログです。

「あなたに逢えてよかった」 心の琴線に触れるお話 44号より

2011年08月10日 | モーニングセミナー/学び
それはたった四歳の天使がくれた思いやりだった。
 夫の借金、ギャンブル、不倫で、私はうつ病を抱えたまま離婚した。娘との二人暮らしも軌道に乗ったころ、それでも夫の金の無心は続いた。
「絶対家族に戻るから」
 その言葉に私はすっかり洗脳され、お金は右から左に消えてゆく毎日。
 そんな苦悩の日々が続いていたある日、娘のいつものお気に入りのパンを買おうとしたら、自分のお酒が買えないことに気づいた。私はアルコール依存症も併発していたのだ。
 生活はどん底に陥っている。なのに私はお酒を買おうとしている。自分のあまりの状況に凍りついた。
 そのとき、娘がこう言った。
「ママ、お酒買っていいよ。パンはいらないよ」
 生活保護の申請に行った日だった。市の役人は「偽装離婚ではないですか」と私を犯罪者扱いにした。こんなに苦しく哀しい離婚を誰が好んでするものかと腹が立つ。力が脱けて体が震えるのをこらえて家に帰った。その夜、お酒を飲み、涙は流れっぱなしで、死を考えた。そっと、先に眠った娘の顔を見る。死ぬ前に誰かに娘を頼まないと・・・・。
 しかし、その寝顔に私はハッとなった。寝顔がまだ赤ちゃんのままの娘。頬がふっくらして、唇を少し開けて、長いまつげ。天使のような寝顔だ。生まれてまだ四年しか経っていない娘が「自分のパンはいらない」と私を気遣った。
 この娘を私は置き去りにしようとしている。私は柔らかい天使の髪を撫でながら泣いた。こんなに可愛い子を捨てるなんて。愛おしくてならないのに。この子のためなら何だってできると自信があったのに。
 私は死ぬことができなかった。
娘を抱いて眠れぬ夜を明かした。涙はいつまでも止まらず、静かに静かに頬を伝って流れ続けた。そのなかで、私は確実に生きる気力を取り戻していった。あなたに逢えてよかった。絶対離さないからね。
 数日してから、親戚の叔父が来て、父のいる信州に戻れと言われ、それに従った。そして今がある。心の病は一進一退。しかし、娘の笑顔を見て今の私は笑えるのだ。心から・・・・。
 現在、娘は小学三年生。どんなに生意気になっても、寝顔はまだ赤ちゃんのままだ。ありがとう。やっぱりあなたに逢えてよかった。
 せめてあなたが私を必要としなくなる日まで頑張るよ。きっと、頑張れると、こころから思えるの・・・。


長野県上田市 岡野紀子(四十歳)

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