夢のゴンドラ(poem)
春の日差しの降りかかる舟の上
大男の船長は悠然とオールを漕いでいる
ナーラはパレットに絵具をなすりつけている
ゴンドラはゆったりと動く
ここはヴェニスか蘇州か、それとも夢の中
ふと美しい蝶がゴンドラの上にとまる
金色の素晴らしい羽をゆっくり動かす
いのちは花も小鳥も昆虫もそれぞれの形を変えて現れる
DNAの長い鎖が思い出される
ATGCの塩基が暗号のように階段状に並び、
二重螺旋につながっている。
夢想の中では、それぞれの塩基には色がついていた、どんな色だったか忘れた
ゴンドラはゆっくりと周囲の風景を変えながら、進んでいる
川の向こうに明珠の街角が見える
ビルの窓には、可憐なバラの花が咲いている
夢見ごこちで見る、ナーラの微笑そして町の静けさ
ああ、その時、青空の街角で
パパ、ママと言う兄弟の泣き声がする
上の子の表情は悲しみと苦しみに満ちている
何がかくも悲惨な表情を作り出すのか
ああ、救え、この悲しみをこの地上からなくせないのか
戦争がある、地震があると耳元で、ささやく声がある
川の向こうに古典的な古い美しい廃墟の城が見える
遠くで稲光がした。
しばらくすると、空に黒雲が続き
稲光と雷の来襲と共に、夜のように、暗くなった
やがて、一瞬の暗闇に光が射すと、
天から聞こえるように
先ほどの緑に満ちた美しい街角で
再び、パパ ママと泣き叫ぶ声がする
雷が天から地に落ち、空間を引き裂くように
その表情に痛ましいものはなかったか
天と地にひそむ神々の心をゆるがすものはなかったのか
ああ この平凡なゴンドラの上で
いのちの神秘を知り
ああ、パパ、ママと叫ぶ子供たちにほほ笑みと食料を渡し
どうしたのと優しい言葉をかけようではないか
大男の船長はゴンドラをとめ、
「坊や、どうした」と声をかける
その満面の笑み
それが子供達を救った
ああ、子供たちの美しい笑い声
誰もが慈しみあっている町になった。
そこは、永遠の今が見える広場になっている。
おそらく、そこで、コーヒーを飲む時、永遠が舞い降りてくる
そのような時、どこからともなく祭りの太鼓 祭りの笛が聞こえてくるものだ
そうした夢のような幻想からはっとして、ナーラに呼びかけられているのに気付く
ナーラの絵には、青色の川と河岸のビルや広場や森が描かれている
確かに今まで気がつかなかったのが不思議なくらいで、あちこちから心地よい小鳥の声
幾種類の声がまるで室内楽のように、自然の音楽をかなでていた。
ナーラの髪は岸に向かって吹く春の微風にひらひらしていた。
この女性そのものを理解するという論理を科学は持つていない
人間は一個の分割できない宇宙なのだ。
この宇宙そのものが生命なのだ。
ゴンドラから見える、鳥のさえずり、アカシアの並木、川の流れ、春の青空そうした全ての風景を一つにする
この人間という宇宙こそが生命なのだ、自然は奇跡であり、人こそ奇跡の人なのだ
鳥のさえずり、アカシアの並木、川の流れ、春の青空、そうしたすべての風景を一つにするこの人間という宇宙こそが神秘そのもなのであり、生命は分割しては理解できない。
せいぜい、そのあまりにも複雑な細胞組織に驚嘆するくらいのものだろう
河岸の風景にうっとりすると、「全世界は一個の明珠である」と囁く声がする
【久里山不識】
1 読んでいただき、ありがとうございました。
2 年相応の故障のため、三月下旬までお休みします。よろしくお願いします。新しい作品「明珠の町」はgooブログ「空華ー日はまた昇る」に
掲載しました。【2023年 3月 21日】