Ancient Bone-Cruncher Hyenas : T H E ♦ R E P L A C E M E N T
(第四紀・骨砕き型ハイエナの交代劇)
今回の主役は、古代ハイエナ群。
舞台は更新世中期のユーラシア中西部、初期人類化石の発掘で著名なジョージア(グルジア)のドマニシ近辺に該当する地域。
およそ65万年前…
イラスト&テキスト Illustration and text by ©the Saber Panther (All rights reserved)
更新世中期から後期終盤にかけて、汎ユーラシア規模の広大な分布を持ち、大いに栄えていたステファノリヌス属の大型毛サイ、メルクサイと、更新世の二大骨砕き型ハイエナ群、そしてパンテラ・ゴンバソエゲンシス(パレオ・タイガー)、エクウス属ステノン系統のウマ、更新世ウッドバイソンなど、コンテンポラリー種を描いています。
右後足を負傷するアクシデントで衰弱していたメルクサイ個体を、ホラアナハイエナのクラン(群れ)が執拗に追い詰めています。この騒ぎに引き寄せられるように、ホラアナハイエナよりも一段と強大な骨砕き型ハイエナであるパキクロクタ、更には「パレオ・タイガー」も現場に現れました。
ホラアナハイエナのクランのうち2頭が邪魔者(パキクロクタ)に食ってかかり、一触即発の雰囲気となったその刹那、メルクサイの角のかち上げでハイエナ一頭が高々と空中に放り上げられた❕
Species
from front to back - 前面から後方に向かって
パレオ・タイガー (或いは パレオ・ジャガー?) Panthera gombazsoegensis
ディノクロクタ属種(史上最大のハイエナ ※「超時空ループ」の中に描かれている動物) Dinocrocuta gigantea
パキクロクタ属種(史上二番目に大型のハイエナ) Pachycrocuta brevirostoris
ホラアナハイエナ(のクラン)(史上三番目の大型ハイエナ。現生ブチハイエナとの関連については本文参照されたし) Crocuta spelaea / ultima
メルクサイ(ステファノリヌス属で最大の毛サイ) Stephanorhinus kirchbergensis
エクウス・アルティデンス(ステノン系統最後のウマ) Equus altidens / E. hydruntinu
- 遠景の動物 -
ケブカサイ Coelodonta spp.
更新世ウッドバイソン Bison schoetensacki
以下、当復元画に登場するファウナのうち6種について、最新知見を交えて 比較的詳細な記述を付していきます。いずれも、一次資料(下記表示の学術論文(英文)。オンラインで閲読可能なものと、ペイ・パー・ヴューとがあります)に基づく情報となります。
まずは、
ホラアナハイエナについて。
近年、「出アフリカの時期やユーラシアでの分布の変遷、遺伝子移入などを経た進化過程」が、ヒト属のそれと重複するとの仮説から、Crocuta クロクタ属(「ブチハイエナ属」が和名ですが、この属名は以下述べる事態の理解に混乱をきたしかねないと思い、あえて、クロクタ属と記しています)の進化史に関する研究が、活発化しています。
クロクタ属で現存するのはアフリカのブチハイエナ一種ですが、更新世中期から終盤にかけては、ユーラシア全域に分布する種類が存在しました。
更新世ユーラシアのクロクタ属種は、旧来の形態学や部分的ミトコンドリアDNA情報に基づく分類では、「ブチハイエナ(Crocuta crocuta)の北方亜種(Crocuta crocuta spelaea)」とする仮説が主流でした。近年の核ゲノム情報の解析(パレオゲノミクス)を主とした分類では、現生ブチハイエナと更新世ユーラシアのクロクタ間の遺伝的距離の大きさも、明るみとなっています(Westbury et al., 'Hyena paleogenomes reveal a complex evolutionary history of cross-continental gene flow between spotted and cave hyena' 2020)。
最新の主流仮説としては、更新世ユーラシアのクロクタは、ブチハイエナとは近縁ながら独立の種類Crocuta spelaeaに分類されています。
その俗称は、古くから使われている、「ホラアナハイエナ(ホラハイエナ)(the Cave Hyena)」。なお、Crocuta spelaeaの中にも4つのハプロタイプが確認されていて、アジア分布の個体群はCrocuta spelaea ultima、ヨーロッパ分布のものはCrocuta spelaea spelaeaとして下位(亜種)分類がされます。
その俗称は、古くから使われている、「ホラアナハイエナ(ホラハイエナ)(the Cave Hyena)」。なお、Crocuta spelaeaの中にも4つのハプロタイプが確認されていて、アジア分布の個体群はCrocuta spelaea ultima、ヨーロッパ分布のものはCrocuta spelaea spelaeaとして下位(亜種)分類がされます。
上述の新しいパレオゲノミクス研究の結果、ブチハイエナ(Crocuta crocuta)とホラアナハイエナ(Crocuta spelaea)は、直近の共通祖先から250万年以上前に分岐したことが示されました。
クロクタ属はアフリカ起源であり、同地での最古の化石記録は363万年~385万年前に遡ります。
ユーラシアでの最古の化石記録は約200万年前の東アジア(中国北西部)であり、ブチハイエナとの分岐後、ホラアナハイエナは比較的早期にアフリカを出て、最初にアジアに進出したと考えられます。ヨーロッパ最古のホラアナハイエナ標本はアジア産よりもずっと若く、90万年前の南欧で出土しているので、ホラアナハイエナはアジアからヨーロッパに分布を拡大した経緯が窺われます。
ホラアナハイエナと現生ブチハイエナの遺伝子間には、双方向的(bidirectional)な遺伝子流動の形跡が確認されており、異種間交配現象は、アジアとヨーロッパのハプロタイプが分岐した後に起こったと、推察されています。
この遺伝子流動の結果、ブチハイエナは中枢神経系機能に関わるホラアナハイエナの対立遺伝子(alleles)を獲得したことが分かり、特にブチハイエナにとって、遺伝的混合には「適応上の利点」が存したと考えられます(Hu et al., 'Ancient mitochondrial genomes from Chinese cave hyenas provide insights into the evolutionary history of the genus Crocuta' 2021)。
このように、ミグラトリーのタイミングや分布域、分布変遷、双方向的遺伝子流動などを含む進化史がヒト属のそれと重複することから、古哺乳類研究の領野でクロクタ属は、今最も注目されるタクソンの一つとなっているといえましょう。
パキクロクタ
そして、初期人類と分布が重複し、獲物獲得手段(スカヴェンジング)にまつわる(初期人類との)競合などの観点から、クロクタ属と同様に注目されるのが、更新世の別の大型ハイエナ、パキクロクタ属種です。現生ハイエナ科種よりも吻部が比較的に短いため、英語圏では the giant short faced hyena(ジャイアント・ショートフェイスハイエナ)の呼称も定着しています。
パキクロクタ・ブレヴィロストリスは第四紀最大のハイエナで、更新世前期から中期にユーラシアの広範囲に分布していました。
中国の河南省洛寧県で新発見され、2022年に詳細な報告(Jiangzuo et al., 'A huge Pachycrocuta from the middle pleistocene loess in Luoning County, central China, and the evolution of madible within Pliocrocuta-Pachycrocuta lineage' 2022)があった同種の頭骨は、全長385㎜。これまでのフランス・オーヴァーニュ産頭骨の全長記録を破り、史上最大標本となりました。
本標本の推定体重は150.3kg。ホラアナハイエナも現生ブチハイエナを凌駕するサイズで推定体重90kgになりますが、パキクロクタは比較にならないほど大きく、大型の雌ライオン大に達したわけです。
その頭骨や小臼歯形状はクロクタ属を更に凌駕する骨砕き適応の度合いを示し、前脚が後脚よりも長い後傾気味のポスチャーも近似しますが、四肢遠位部が相対的に短くロバスト型です。このため、頭骨サイズの差異から推察されるほどには、クロクタ属種との肩高の差は大きくないといいます。
四肢遠位部の短縮は、クロクタ属に比べ、走行性よりもパワー重視の形質徴表であり、最高度に発達したクラニオ‐デンタルの骨砕き機能と相まって、ハンターとしても有能なブチハイエナよりも、クレプトパラサイティズムの度合いが強かったとされています(Liu and Zhang et al., 'The giant short-faced hyena Pachycrocuta brevirostris(Mammalia, Carnivora, Hyaenidae)from Northeast Asia : A reinterpretation of subspecies differentiation and intercontinental dispersal' 2021 ⇒この研究には私が懇意にさせていただいている、ブリストル大学のHanwen Zhang博士が携わられていて、博士は論文の共同執筆者に名を連ねています)
更新世のパキクロクタ属は、ヨーロッパ産とアジア産の個体群を種レベルで区別するのが通例でした(ヨーロッパ産ブレヴィロストリス種と、アジア産のリセンティ種とシネンシス種)が、上述の頭骨を始め、近年中国で発見が続いた同属の頭骨とヨーロッパのそれとは形質が重複し、従来分類の見直しの必要が生じました。現在では、「パキクロクタ・ブレヴィロストリス一種が、汎ユーラシア規模で分布していた」という説が市民権を得るに至っています。各地の個体群には、亜種レベルの違いがあるのみだと。
上述の中国の発見にはパキクロクタ・ブレヴィロストリス最古(およそ200万年前)の化石が含まれており、それゆえ、同種は北東アジア起源であり、その後ヨーロッパなどユーラシアの広範囲に拡散したという説が、新たに唱えられてもいます。つまり、ユーラシアにおける分布の時期(最初の出現がおよそ200万年前)、分布変遷パターン(東アジアから西方、ヨーロッパへと分布を拡大した)とも、パキクロクタとホラアナハイエナとは見事に重複していたと考えられるのです。
ヨーロッパなどでは両者の分布は非継続的(年代的に断続的)なので、時代や地域によって化石記録が重複しない例も散見されるものの、更新世中期を通してユーラシアの広範囲で両者の分布が重複していたことは、間違いないようです。
パキクロクタはおよそ50万~40万年前に絶滅しますが、生態的競合関係の末、クロクタ属が優勢を得たことが、前者の衰退を促す原因となったのでしょうか。
当復元画では、群れ社会(パック、クラン)を形成するクロクタに対し、パキクロクタは単独性動物であったという仮説を反映させていますが、両者の盛衰の背景には、クラン形成の有無が要因として考えられましょうか。
なお、パキクロクタは系統的にクロクタ属よりもシマハイエナ×カッショクハイエナの系統に近いという仮説が、根強く残っています。本復元画でも、パキクロクタの毛並みや模様形状に、シマハイエナ的な要素を加えています。
ディノクロクタ(※「超時空ループ」の中に描かれた動物)
しかし!そう、しかし。そんな怪物ハイエナ、パキクロクタをも凌駕する大きさで、かつ、同様に高度な骨砕き適応を具えた大物が、新第三紀(中新世後期)には存在したのです。それが、ディノクロクタ属種。既知の最大頭骨の全長は、なんと43㎝。ディノクロクタ属とその最大種については、この記事
に詳細を述べました。
乳歯の差異をもってハイエナ科とは近縁なれど別の分類群、ぺルクロクタ科('疑似ハイエナ'群)に峻別された経緯はよく知られていますが、中国科学院のYang(2019)がディノクロクタ・ギガンテアの頭蓋底形質や耳嚢の内部構造を比較分析した結果は、ハイエナ科の形質範囲(morpho-space)に収まることが判明し、真正のハイエナ科とみなす妥当性が主張されるに至りました(Yang, 'Basicranial morphology of Late Miocene Dinocrocuta gigantea (Carnivora : Hyaenidae) from Fugu, Shaanxi' 2019)。
これに続いて、ぺルクロクタ科の別のタクソン、ぺルクロクタ属についても、寧夏回族自治区・同心県で見つかった完全な頭骨(中新世・中期初頭由来。同タクソンの化石中、最も保存状態の良い標本)の形質分析に基づく分類の刷新が行われ、ぺルクロクタ標本も耳嚢の内部構造などの類似を根拠に、真正ハイエナ科とみなすべき妥当性が論じられました(Xiong, 'New species of Percrocuta (Carnivora, Hyaenidae) from the early middle Miocene of Tongxin, China', 2022)。
ですから現状、ぺルクロクタ科という分類群そのものが、無効化したとみてよいのでしょう。
ハイエナ科の進化史上、骨砕き適応の形態型の出現は、中新世後期終盤のアドクロクタ属が最初だとされます。ほぼ全種がアドヴァンスな骨砕き適応を示すぺルクロクタ科がハイエナ科に置かれると、骨砕き適応の進化史がずっと遡ることになるので、この分類刷新には重要な意味があると思います。
話をディノクロクタに戻します。ディノクロクタとパキクロクタはサイズと頭骨形状の「皮相的な」類似(細部に至るまで類似するか否かは、該当する比較分析研究が皆無なため、分かりません。よって、皮相的としておきます)、共に高度な骨砕き型適応の度合いを示し、新第三期に起源をもつなど共通点も窺えることから、何らかの系統的繫がりがあるのではないか?と考えているのですが、両者の共通性という問題に焦点を当てた分類研究は皆無であり、今のところ、私の個人的疑問に過ぎません。
ディノクロクタは中新世を越えて存続できなかったので、その結果だけをみれば、パキクロクタが似通った生態ニッチを巡る競合で、優位に立った という見方もできるでしょう。
このように、ユーラシアにおける骨砕き型ハイエナの系譜は、ディノクロクタ→パキクロクタ→ホラアナハイエナと、勢力が移行していった様が看取されるわけです。骨砕き型ハイエナの、栄枯盛衰の交代劇といえます。
メルクサイ & ケブカサイ
第四紀の骨砕き型ハイエナ群のコンテンポラリー種として登場するサイは、メルクサイ(ホラアナハイエナの群れと激闘を展開するサイ)とケブカサイ(復元画の遠景にいるサイがケブカサイ)です。
メルクサイ(Stephanorhinus kirchbergensis 'the Merck's Rhino')は、更新世中期~後期のユーラシアを代表するステファノリヌス属の最大種。
推定体重は1844kg(Saarinen et al., 2016)で、本種は現生インドサイと同等か、僅かに小さいくらいのサイズでした。
近年、東欧、コーカサス、東西シベリア、中国など各地で、メルクサイの骨格発見が報告されており(Cappellini et al.,(2020), Lobachev et al.,(2021)など)、これらの形質や分子情報に基づく系統分類、食生態の解明なども進捗しています。
なかでも、ジョージア(グルジア)・ドマニシで見つかった標本の、臼歯のエナメル質から抽出したプロテオーム由来のシークエンシング(Cappellini et al., 'Early Pleistocene enamel proteome sequences from Dmanisi resolve Stephanorhinus phylogeny' 2020)は、分子系統学の手法でステファノリヌス属の系統分類に取り組んだ初の試みで、注目に値します。
古代DNA情報の保存には年代的な限度があるため、保存性が高い歯のエナメル由来のプロテオーム解析は、古代DNAシークエンシングの限界を補う技術としての期待もあり、その意味でも注目の研究でしょう。
Cappellini et al(2020)によると、メルクサイはケブカサイ(コエロドンタ属 The Woolly Rhino)と遺伝的に最も近縁で、ステファノリヌス属とコエロドンタ属は姉妹タクソン関係を成します。ケブカサイとステファノリヌス属のサイ群は、共通の祖先から分岐したとみられています。
古代DNAシークエンシングにより、ケブカサイは現生スマトラサイと近縁であることも判明しており、即ち、ステファノリヌス属、コエロドンタ属、スマトラサイ属は、側系統群にクラスターされます(このクレードを、'Dicerorhini'(スマトラサイ族)として纏める分類法を唱える学派もあります)。
Cappellini et al(2020)は、メルクサイとケブカサイの双方が「ステファノリヌス系統の初期タクソンから分岐した」ものとみています。
実際、新第三紀に起源をもつケブカサイは、進化の初期段階では最終氷期個体群のような寒地適応は示していないばかりか、明瞭にステファノリヌス属的な解剖的特徴を具えていたといいます。
系統的には近縁なメルクサイとケブカサイですが、食生態についてはどうでしょう。ケブカサイはグレージング特化のサイといわれます。
メルクサイの臼歯は、漸次的なブラウジング特化の進化過程を示すものの、歯の摩耗度の分析から、更新世後期種であっても、摂食に占めるアブレシヴな植物の割合の高さが窺え、純然たる森林生態に適応したサイという見方は、誤りとされています(東アジア産のメルクサイの一部が混合フィーダーであったらしいことについて、拙『プレヒストリック・サファリ25』でも紹介しました)。
西シベリアの標本群の安定同位体に基づき食生態を分析した研究(Lobachev et al., 'New findings of Stephanorhinus kirchbergensis in Siberia' 2021) でも、メルクサイはむしろ開けた系の環境に分布し、灌木など主食としていたことが示されました。
といって、もちろんメルクサイはケブカサイのようなストリクトなグレーザーではなく、寒地適応の度合いも及ばないため、ケブカサイとは対照的に、ステップ・ツンドラ環境に進出することはできませんでした。ケブカサイとは食性に差異があることで、分布域は一部重複していても、棲み分けがなされていたことが分かります。
ただし、更新世中期のコエロドンタ属種は寒地適応が徹底していない段階であり(体毛もずっと少なかったことでしょう。ですから、この段階の本種をケブカサイと呼称するのは、適切ではないかも)、最終氷期個体群とは食生態も少し異なっていたでしょうから、メルクサイとの競合も、ある程度は考えられるでしょう。
パレオ・タイガー(パレオ・ジャガー?)
(※これは、下記紹介の学術論文 ('Not a jaguar after all? Phylogenetic affinities and morphology of the Pleistocene felid Panthera gombaszoegensis')のメイン研究者、Chatar博士公認(2023年)の生体復元画となります)
本種の頭部については、Chatar et al.,(2022)の頭骨復元図に基づき、かつ現生トラの形質要素を色濃くして、描いています。
もっとも、本種は本当のトラ(Panthera tigris)ではなく、トラの祖先筋というわけでもないのです。トラ系統の基底タクソンの一つという位置づけであり、それとて、完全に市民権を得る学説になるか否かは、今後の経過を見守る必要がありましょう。
また、トラの縦縞はネコ科の模様形状としては珍しいパターンであり、再現性の確率は低いという説もあるようです。
以上のことを踏まえ、安易に縦縞模様を採用することは避け、むしろ、中程度の大きさのロゼット形状の模様に仕上げました。
私の独自の造形になります。
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ディノクロクタとパキクロクタは、遠位部の短縮したパワー重視の前脚(あくまで、他のハイエナ科種との相対的比較での表現です)、大柄なサイズ、ハイエナとしては非常に大きな犬歯を持つなど共通しており(進化系統が違うわけで、形態学的な細かい差異を挙げていくことも、できるのでしょうが)、おそらくは単独性で、大物猟にもスカヴェンジングにも長けた肉食獣であり、比較的閉じた系の環境への適応が窺われる(Spassov and Koufos, 2002)といいます。なので、アンフィマカイロドゥスなど大型の剣歯猫との異種間競合は、常に熾烈だったものと察せられます。さらにこの両者、他のハイエナとの競合とその絶滅のパターンも、よく似ているといえます。
ディノクロクタはアドクロクタに、パキクロクタはクロクタ(ホラアナハイエナ)にそれぞれリプレイスされましたが、アドクロクタとクロクタはサイズで大きく劣るものの、より走行性に優れた形態で、クラン(群れ)を形成し、開けた系の環境への優れた適応などが共通しています。つまり、これらハイエナの交代劇の背景には、「社会性の形成能力と、気候変動に伴う開けた系の環境の拡大」ということが、一部要因として考えられそうです(事態をこのように過度に単純化して論じることには、危険性もありますが)。
ともかく、クロクタは更新世中~後期のユーラシアに分布した肉食獣の中で、最も多く骨格標本が出ているタクソンの一つで、生息域も広く、繁栄を極めていました。最近の注目すべき発見(Dan Lu et al., 2021)により、北米を代表する大型イヌ科、ダイアウルフが、更新世後期の東アジアにも分布していたことが示されましたが、Dan Lu et al.,(2021)はホラアナハイエナの絶対的優勢が、ユーラシアにおけるダイアウルフの分布や個体数の抑制に繋がっていた、と推察しています。
こうしたことを踏まえ、更新世ユーラシアで最も支配的な肉食獣の一つとして、ホラアナハイエナを挙げることができるでしょう。