The most extremely derived Saber-toothed 'cats'
🗡スミロドン Smilodon ⚔ バルボウロフェリス Barbourofelis🗡
comparison
最も特化型の「剣歯猫」の比較
【解説】
先の記事で、剣歯猫の中で最長の上顎犬歯を持つ形態型=「ダーク型剣歯猫 Dirk-toothed ecomorph」を代表する2タクソン、スミロドン Smilodon とバルボウロフェリス Barbourofelis の咬合状態での上顎犬歯コンディション(露出か格納か)について、論じました。この2タクソンは、ネコ科とバルボウロフェリス科(バルボウロフェリスはニムラヴス科に分類される場合もある)の違いこそあれ、「剣歯猫」として「最も派生の進んだ(the most derived)」クラニオ-デンタル(頭蓋、下顎、歯)を有することで知られ、上顎犬歯も最も長大です。
※(以下、上顎犬歯を単に剣歯と表記します)
「剣歯猫(ネコ科のマカイロドゥス亜科、ニムラヴス科、バルボウロフェリス科)」には数多の種類が存在しましたが、長大で内側圧縮(ナイフ形状)の剣歯を用いる上で開口角度を大きくする必要から、程度の差こそあれ、複数の共通的な適応形質がみられます。
歯を除き最も主だった特徴として、垂直状の側頭窩(temporal fossa)と短縮した下顎筋突起骨(coronoid processes)が挙げられると思いますが、バルボウロフェリスは中新世のタクソンでありながら、スミロドン(更新世)以上にこれら適応形態の派生が進んでいて、「最もアドバンス型のダーク型剣歯猫」と定義することができましょう。
歯を除き最も主だった特徴として、垂直状の側頭窩(temporal fossa)と短縮した下顎筋突起骨(coronoid processes)が挙げられると思いますが、バルボウロフェリスは中新世のタクソンでありながら、スミロドン(更新世)以上にこれら適応形態の派生が進んでいて、「最もアドバンス型のダーク型剣歯猫」と定義することができましょう。
ダーク型などの形態型を問わず、広く剣歯猫が用いたであろう殺傷法としては、Akersten(1985)が提唱した、シアーバイト(スラッシュバイト)仮説(=剣歯猫の多くは下顎筋突起骨が短縮しているため顎の力は比較的弱いが、長く強靱な首が下顎内転筋の顎を閉じる力を補強し、頸部や腹部という柔らかい箇所に、浅い角度で噛みつくというもの。つまり、刺突ではなく漸撃で獲物にダメージを与えたという仮説)が、受容され続けてきました。
しかし、近年の複数の形態分析を経て、剣歯猫間にみられる形態の収斂にもかかわらず、彼らの機能的多様性、ひいては殺傷形態も異なっていた可能性が問われるようになってきています。例えば、Figueirido et al. (2018)など、頭蓋骨の有限要素解析に基づき、ダーク型剣歯猫・スミロドンとシミター型剣歯猫・ホモテリウムとでは、殺傷形態が異なっていた※ことを例証しております。
※(スミロドンのクラニオ-デンタルは非常に密度が高く硬度に優れており、獲物の頸部に素早く上顎犬歯を突き刺す(stabbing)ことに適していることが分りました(ダーク型剣歯猫の「刺突」は、最近まで否定されていた殺傷形態です)。他方、ホモテリウムの頭骨は海綿骨の分布比率が高く現生ヒョウ属種の頭骨に近い柔性を示し、獲物を衰弱させる漸撃的噛みつきの他、「クランプ・ホールドバイト」(窒息をもたらす持続性の噛みつき方)に近似した殺傷形態の可能性も、示唆されています)
このような折、CTスキャン・有限要素解析を用いて、ダーク型剣歯猫の代表格、スミロドン(具体的には、北米種のSmilodon fatalis)とバルボウロフェリス(具体的には、同属最大種のBarbourofelis fricki)の頭蓋力学を比較し、予測される殺傷形態について論じた研究(Figueirido et al., 2024)が、新たに発表されています。前の記事との関連性ということにも鑑みて、少し紹介させてください。研究論文タイトルは、巻末に明記しております。
バルボウロフェリス・フリッキ Barbourofelis fricki 生体復元画
バルボウロフェリス科(ニムラヴス科・バルボウロフェリス亜科)中新世後期(~490万年前)・北米
推定体重~200kg
(Images and text by ©the Saber Panther(All rights reserved)
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スミロドン・ポプラトール Smilodon populator 生体復元画
ネコ科・マカイロドゥス亜科 更新世後期(~1万年前)・南米
上顎犬歯長28cm 推定体重~400kg超
(Images and text by ©the Saber Panther(All rights reserved)
分析の結果、刺突(stab)、引き(pull-back)、捻り(torsion)といった外因性圧のシミュレーション下で、バルボウロフェリスとスミロドンの頭蓋骨は、異なる力学的反応を示すことが分りました。端的に言って、バルボウロフェリスの頭蓋骨の方が、スミロドンのそれよりも優れた圧耐性を示しました。実験での全ての外因性圧のシミュレーションで、スミロドンの頭蓋骨は圧分布が均等でしたが、より多くの部位が高い圧を受けました。バルボウロフェリスでは多くの部位が低い圧を記録したことから、後者の頭蓋骨の、最適化された圧散逸性が窺えるとのこと。
他方、バルボウロフェリスの剣歯はスミロドンのそれよりも長く、内側圧縮の度合いも大きい(つまり、よりフラット)ので、外因性の力への上顎犬歯の折損耐性は弱くなります。剣歯に関する複数の力学的実験(特に、直近のPollock et al.(2025)が総括的。この研究には、私が復元画を数回提供したことのある、新進気鋭のNarimane Chatar博士(カリフォルニア州立大学バークレー校)も、共同執筆に携わっておられます)において、より鋭く細い形状は、より小さい力で皮肉を貫通できることが示されています (Evans & Sanson, 1998; Freeman & Lemen, 2006; Pollock et al., 2025)※。
※(Pollock et al.(2025)による剣歯猫の上顎犬歯の最適度解析では、バルボウロフェリス、スミロドン、ホプロフォネウスといった「最も極端な派生型の剣歯猫」の剣歯は、通常の円錐型犬歯と比して、穿刺(puncture)に要する力を半減し、2倍の穿刺効率のあることが示されました。ダーク型の形態型は複数の系統で幾度も派生しているため、折損耐性をある程度犠牲にしても、「刺突の最適化」の点で適応価値があったということでしょう。もっとも、折損耐性の側面から、ダーク型剣歯猫の殺傷形態は現生大型ネコの「クランプ・ホールドバイト」とは違っていたはずです)
※(Pollock et al.(2025)による剣歯猫の上顎犬歯の最適度解析では、バルボウロフェリス、スミロドン、ホプロフォネウスといった「最も極端な派生型の剣歯猫」の剣歯は、通常の円錐型犬歯と比して、穿刺(puncture)に要する力を半減し、2倍の穿刺効率のあることが示されました。ダーク型の形態型は複数の系統で幾度も派生しているため、折損耐性をある程度犠牲にしても、「刺突の最適化」の点で適応価値があったということでしょう。もっとも、折損耐性の側面から、ダーク型剣歯猫の殺傷形態は現生大型ネコの「クランプ・ホールドバイト」とは違っていたはずです)
したがって、スミロドン以上に細長く鋭利なバルボウロフェリスの剣歯は、獲物の皮膚をより効率的に刺突できた可能性が高く、且つ、剣歯にかかる圧は頑丈な構造の頭蓋骨に一定量伝達され、分散させ得た、ということが述べられています。
これらから Figueirido et al. (2024) は、バルボウロフェリスの殺傷形態はスミロドンにおけるよりも'generalist'であったことを示唆する、といいます。generalistという表現はかなり大雑把で分りにくいのですが、ようは「頭蓋・下顎が堅牢であり、シアーバイトなどの殺傷形態に限定されてはいない」、ということでしょう。これは殺傷形態に関して、特殊化の程度が低いということにも取れます。
しかしそうだとすると、バルボウロフェリスのクラニオ-デンタル形態はスミロドン以上に派生型 / 特化型、とされるわけですから、その事実と反発するようで、なかなか興味深い仮説だと思います。
ともかく、同じ形態型(=ダーク型剣歯猫)のタクソン間ですらも、殺傷形態に潜在的な違いがあったであろうことを、複数の分析が示しているということ。
ましてや、剣歯猫の形態型はダーク型のみならずシミター型、メタイルルス系統と多様なのですから、伝統的な「シアーバイト(スラッシュバイト)仮説」をその全てに普遍的に該当させるのは、もはや不適切ということなのでしょう。このことと関連して、剣歯猫の「剣歯の堅牢さ / 脆さ」に関する認識を刷新する、複数の新しい知見も出てきているのです。
イラスト&文責 Images and text by ©the Saber Panther(All rights reserved)
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【参照学術論文】
Figueirido et al., 'Comparing cranial biomechanics between Barbourofelis fricki and Smilodon fatalis : Is there a universal killing-bite among saber-toothed predators?' 2024
Pollock et al., 'Functional optimality underpins the repeated evolution of the extreme 'saber-tooth' morphology' 2025
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長鼻類、サイ科、クマ科、イヌ科、ネコ科のいずれの愛好家も楽しめるであろう、とっておきの記事を、新しい復元画と共にアップします。Please stay tuned until then.
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