the Saber Panther (サーベル・パンサー)

トラディショナル&オリジナルの絵画芸術、化石哺乳類復元画、英語等について気ままに書いている、手書き絵師&リサーチブログ

『バトル・ビヨンド・エポック』 其の四 "ルミナント" 大型反芻動物5選

2017年10月22日 | バトル・ビヨンド・エポック

Battle Beyond Epochs  Part Ⅳ 

 'Ruminants'  selective 5 grandest





多様さを極める鯨偶蹄目のうちで、反芻消化を共通の特徴とし、遺伝系統的にも近縁な動物群を、ウシ亜目(または反芻亜目'Ruminantia')として一括りに類別することは、周知のとおりです。ウシ科の全種が含まれることから、鯨偶蹄目の中でも大規模なグループを成しています。

このウシ亜目からは、蹄を有する偶蹄類全体の進化史の中でも、最大級の大型種が多数派生しているのですが、「ウシ亜目史上の最大種」を特定するという問題になると、複数異見が対立し明確な結論が出るには至っていないと思います。


大型反芻動物をフィーチャーする今回の『バトル・ビヨンド・エポック』では、「史上最大」の可能性が云々される複数種を特に選別してみました。このうち、史上最大のシカ、Cervalces latifronsブロードフロント・ムース※)は、Megaloceros giganteus(オオツノジカ)に比べると不当なまでに(?)認知度が低い点を鑑みて取り上げる価値があると判断したまでで、大きさ(推定体重)的にはもちろん、キリン科、ウシ科の大型種には劣ります。


(※この通称が示す通り、ヘラジカにごく近縁な種類です。ブロードフロント・ムースの形態に関する詳細は、Breda et al. ‘The palaeoenvironment of Cervalces latifrons from Fornaci di Ranica’ 2005 を参照のこと)


Featured Species

左から


Sivatherium giganteum
シヴァテリウム属最大種

鮮新世 ユーラシア中部

 

Pelorovis antiquus
ペロロヴィス属最大種

更新世 アフリカ東部

 

Bison latifrons
ロングホーンバイソン

更新世 北米北部

 

Cervalces latifrons
ブロードフロント・ムース

更新世 ユーラシア西部

 

Giraffa tippelskirchi
マサイキリン

完新世 アフリカ東部


キリンの仲間、シヴァテリウム亜科の最大種とされるSivatherium giganteum のサイズについては、近年、ヒマラヤ山麓の鮮新世地層で出土した状態の良好な骨格に基づき、3D容積分析で算出した推定体重の報告(Basu et.al. 'The extinct, giant
giraffid Sivatherium gigantium: skeletal reconstruction and body mass estimation ' (2016))があるので、参考にすることができます。

1246 kg(857-1812 kg) という推定体重は現生キリンの雄とほぼ同等ですが、上述の著者の見解によると、被験骨格は角(cranial appendages)の有無が判然としないことから、雌の可能性が否定できないこと(眼窩上に生えるオシコーンとは別に、シヴァテリウム属の雄はシカ科を彷彿させる掌状の頭角を有していました)、また、同地層からはより大柄な個体のものと考えられる骨も見つかっていることから、この数字は平均体重幅の下端を示している可能性が高いということです。

この見解も憶測にすぎないので、何とも断定はし難いのですが、著者はシヴァテリウム最大種(Sivatherium giganteum)が現生キリンを凌駕し、キリン科のみならず、ウシ亜目全体でも最重量級であった可能性に言及しています。際立った肩高、重厚な骨格を併せ持つ種類ですから、その可能性は否定できません。


ウシ亜目最大種の有力な候補としては、他に、ウシ科・ウシ亜科の大型種を挙げないわけにはいかないでしょう。何といっても、骨格の重厚さ、筋量共に抜きん出ています。

野生種に限って言えば、ウシ科有数の大型種はことごとく更新世に産していて、それらの中でもアフリカ東部、南部に生息したペロロヴィス属最大種(Pelorovis antiquus 現生アフリカスイギュウと近縁な種類)と、同北米のバイソン属最大種(Bison latifrons)は史上の二大野生ウシとされている※ので、キリン科の地位を脅かし得る存在であると考えられます。

事実、ロングホーンバイソン、またはジャイアントバイソンの通称で知られるBison latifrons に関しては、私も上野の国立科学博物館に展示されている全身骨格を見た経験から、その魁偉さを実感しているわけです。


写真 ©The Saber Panther (All rights reserved) 


ものの本に記されているような、肩高2mを超えるなどということはありませんが、本個体を凌駕する他の反芻動物の存在などにわかには信じ得ないほどの、驚くべき大きさです。生前の体重が1.5t以上になったとしても、不思議ではない気がします。

とまれ、Basu et al. (2016) のCGI骨格復元図を見ると、シヴァテリウム最大種の上述の個体は肩高が(骨格レベルで)2mを超えるので、少なくとも高さに関してはシヴァテリウム属に軍配が上がるとみてよいのでしょう。


現生キリン、シヴァテリウム属、ウシの絶滅大型種…。現時点で結論を出すことは、恐らくできませんが、ウシ亜目は個人的にも好きな動物が多く含まれるグループであり、その最大種をめぐる話題には魅力を感じるし、興味が尽きません。

 

※更新世ユーラシアの三大野生ウシについては、拙『プレヒストリック・サファリ④ ユーラシア3大猛牛』を参照してください。


バトル・ビヨンド・エポック 其の四 『ルミナント』大型反芻動物5選
イラスト&テキスト ©The Saber Panther (All rights reserved)


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6 Comments

コメント日が  古い順  |   新しい順
いいなぁ(^^)(^^)(^^) (うさぎ)
2017-10-21 23:00:26
久々の更新に気が付いたのは休憩時間のニュースチェックのスマホ。
早く家でパソコン開けたい開けたいでダッシュで帰宅でダッシュで諸々雑用。
今、ゆっくりと拝見しております(^^♪
嬉しいですm(_ _)m
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ありがとうございます。 (管理人)
2017-10-25 01:02:29
温かいコメントを寄せていただき、ありがとうございます。報われたような気分です。

こちらこそ、もっと高いレベルで期待に応えていけるよう-更新頻度とか作品の質などですね-
努力したいと思います。

PS,

うさぎさんのPCでは、大小2枚のイラストは両方とも記事中に表示されますか?私の場合、PC
に原因があるのでしょうが、大きいほうのイラスト画像が表示されないことがあるので、少し心配
になりました。
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遅れてすいませんm(__)m (うさぎ)
2017-10-29 00:55:58
私の方は、パソコンもスマホも大丈夫です(^^)v
パソコンはVAIOです。スマホはXPERIAです。
ただ、全部表示されるまでに少し時間が(といっても、ほんの数十秒くらいですが)かかります。
たぶん、私が拝読しているブログ(gooばかりでなく他も含めて)の中では一番重いと思います。
機械音痴なのでもうごめんさいとしか。ごめんさいm(__)m
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Unknown (管理人)
2017-10-29 17:01:03
貴重なフィードバックを、どうもありがとうございます。
そうですか、数十秒というのは、やっかいですね(-_-;)

フォーマット設定の見直し等の、契機にさせていただきたいと思います。
ひとまず、うさぎさんに限らず辛抱強く閲覧してくださることを願います。
返信する
Unknown (Unknown)
2017-10-30 17:50:29
セルヴァルケスは名前だけ知ってましたがオオツノシカより大きかったのは、初耳です。 一般には余り、知られてない古生物の情報が、ここでは豊富で、有り難いです。
返信する
Unknown (管理人 )
2017-10-31 01:44:19
どうもありがとうございます。

ブロードフロントムースがCervalces、あるいはAlcesの最大種との定評は割と古くから通用し
ていたようですが、その認知度は低いままであるように思います。Cervalcesといえば北米種の
スタッグムースのほうが比較的に有名かと思いますね。

Cervalces二大種の大きさは共にオオツノジカを凌ぐとされますが、特に更新世中期の初頭頃
のブロードフロントムースは別格的で、クルテンなども「北米のCervalces種(つまりスタッグムー
ス)すらをも凌駕する大きさ」について言及しています。ただ、具体的な推定体重について私も正
確には把握していません。ウィキペディアの英語記事にオオツノジカの倍の体重との記述がみ
られますが、これはいかにも大袈裟だと思います。

もっとも、枝角の差し渡しではその名が示すように、オオツノジカの独壇場です。
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