前回の記事⏬の補足
《バルボウロフェリス属 Barbourofelis の分類》
最近の複数の分岐系統研究(Robles et al.(2013), Wang et al.(2020), Barret et al.(2021), その他複数)によると、バルボウロフェリス科 Barbourofelidae(バルボウロフェリス属の他、サンサノスミルス属やギンスブルグ属など、高度に派生したダーク型の剣歯猛獣が含まれる)は、ニムラヴス科の下に分類し直されるようになっています※。Barret et al.(2021)に準拠すると、ニムラヴス科・ニムラヴス亜科に属する単系統群として、バルボウロフェリス族(Barbourofelinii)が提起されました。複数の明瞭な共有派生形質に基づく再分類のようですから、このブログでも今後、ニムラヴス科の分類群として扱います。
※(旧来ニムラヴス科と見なされていたものが、2000年代にMorlo et al.やPeigné et al.の分析を経てネコ科の姉妹科(バルボウロフェリス科)として別個に分けられた後、また元の分類に戻ったことになります)
ネコ亜目・ニムラヴス科 Nimravidae は始新世に起源を持つ、最古の食肉類群の一つです。漸新世ー中新世境界に起源を持つネコ科に先んじて、キャットフォルムの多様な形態型が派生しました。ニムラヴス科とネコ科では中耳の耳小骨の構造が大きく異なることから、厳密に区別されています。
ネコ科・マカイロドゥス亜科(ネコ科の剣歯猫群)に対比させて、ニムラヴス科は「疑似(偽)剣歯猫(false saber-toothed cats)」と通称されていますが、この科には圧縮型(ナイフ形状)の「剣歯」を持つ種類だけでなく、控えめな長さで円錐型の上顎犬歯を持つ種類や、チーターと収斂したポストクラニアル形態を持つ種類も存在しました。派生しなかった形態型は、ネコ亜科の小型ネコ群の形態型くらいだといえます(ニムラヴス科にも小型種は存在しましたが、頭蓋下顎の形態はネコ亜科の小型種とは明瞭に異なっています)。
ネコ亜科の一部と収斂した形質を持つニムラヴス科のタクソンが統計・形態計測学的に示されたのは、大体 Barret(2021)くらいからでしょうか。実は最近のことです。
《多様なキャットフォルムの派生》
ネコ科、ニムラヴス科の包括的な頭蓋ー下顎データセットに基づく200に及ぶ3Dモデルを用いて、キャットフォルムの形態変異、収斂、表現型の統合性、進化速度を解析した研究(括弧内)が発表されていますから、紹介しましょう。
ネコ科、ニムラヴス科の包括的な頭蓋ー下顎データセットに基づく200に及ぶ3Dモデルを用いて、キャットフォルムの形態変異、収斂、表現型の統合性、進化速度を解析した研究(括弧内)が発表されていますから、紹介しましょう。
(Chatar et al., 'Evolutionary patterns of cat-like carnivorans unveil drivers of the sabertooth morphology', 2024)
解析の結果、キャットフォルムの「形態空間(morphospace)」を最も密に占有する形態型は、ヒョウ属を含む「円錐型犬歯の中~大型の種類」、及びエオフェリス(ニムラヴス科)、プセウデルルス、メタイルルス系統、そしてパラマカイロドゥスなど基底剣歯猫群からなり、これらが、最も繰り返し派生した(=平均的な)形態型となります。
マカイロドゥス亜科の大多数が推定体重40kg以上の中~大型種で占められていたことや、メタイルルス系統や基底剣歯猫群は後期のアドバンス型剣歯猫(アンフィマカイロドゥス、ホモテリウム、スミロドンなど。加えて、ニムラヴス科のダーク型剣歯猫も、多数がアドバンス型と定義される)と比して肥大化した上顎犬歯や開口角度を大きくする適応形態を未得であったことから、ある程度ヒョウ属種と頭蓋ー下顎形質が収斂していたことが窺えます(メタイルルス系統のディノフェリスなど、殺傷形態もヒョウ属と同様であったことが推察されている(Pollock et al., 2025))。
(パラマカイロドゥス属種 Paramachairodus spp.)生体復元画
イラスト Images and text by ©the Saber Panther(Jagroar)(All rights reserved)
また、特に頭蓋形質において、ネコ亜科の小型種(小型のヤマネコ類、我々に身近なイエネコなど)は、上記の「最も繰り返された(平均的)形態型」から、後期のダーク型剣歯猫と等しく逸脱していることが示されました。プロアイルルス(祖先ネコ)に見られる最初期の形状からの派生距離的な観点からも、「ダーク型剣歯猫と並び最も派生の進んだ形態型」であることが示されました。これは一見、意外に感じられるかもしれません。
(イエネコとフェレット ドローイング drawing 'Kura the cat and Chipcon the ferret' by ©the Saber Panther / Jagroar (All rights reserved))
ネコ亜科の小型種の「形態型」は更新世の化石記録に初めて登場したもので、上述のようにニムラヴス科で類似のものは派生していません。
キャットフォルムの頭蓋ー下顎の多様性の度合いがピークに達したのは、ニムラヴス科とネコ科が並存していた中新世後期終盤。それ以降、キャットフォルムの多様性は縮小していることも判明しました。
《オリジナル・キャットフォルム》
頭蓋下顎の形態やサイズ範囲に至るまで、ニムラヴス科はネコ科よりも数千万年も前から、後者に匹敵するほど多様なキャットフォルムの形態型ニッチを開拓していたのです。したがって、ニムラヴス科をネコ科との対比で「疑似剣歯猫」と限定的に呼ぶのは適切でなく、「疑似ネコ科」と通称すべきでしょう。もっと言えば、彼らこそ先駆的「キャットフォルム」の食肉類なのですから、ネコ科の方を「疑似ニムラヴス科」と呼ぶべきかもしれませんね。
頭蓋下顎の形態やサイズ範囲に至るまで、ニムラヴス科はネコ科よりも数千万年も前から、後者に匹敵するほど多様なキャットフォルムの形態型ニッチを開拓していたのです。したがって、ニムラヴス科をネコ科との対比で「疑似剣歯猫」と限定的に呼ぶのは適切でなく、「疑似ネコ科」と通称すべきでしょう。もっと言えば、彼らこそ先駆的「キャットフォルム」の食肉類なのですから、ネコ科の方を「疑似ニムラヴス科」と呼ぶべきかもしれませんね。
バルボウロフェリス亜科はニムラヴス科最後期の分類群ということになり、特にBarbourofelis fricki と Barbourofelis loveorum はダーク型の形質派生が最も進んだ二種です。中新世後期のバルボウロフェリス・フリッキが、史上最も派生の進んだ(the most derived)ダーク型剣歯猫とされることについては、ニムラヴス科の長い進化史を考えれば納得がいくことといえます。
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