もう27年前のことになるが、こどもの誕生は嬉しいものだ。
例えそれが何人であろうとも。
特に第一子の誕生は忘れられない。
勤務先から自宅に帰ってすぐだった。
何かいつもと妻の雰囲気が違う。
何かもったいぶっているようだ。
「あなた、そこにすわって頂戴」
「何なんだよ。何があったんだ?」
おとなしく言われるがままに座った。
「あなた、おめでとう」
「おめでとうって、何が?」
またまたもったいぶって次の言葉を待つ。
「あなた、お父さんになるのよ」
「ええ~~っ‼」
妻から妊娠を知らされた瞬間だった。
思わず唐突な喜びとともに、うろたえてしまった自分がいた。
しかし、何か落ち着かない。
『そうだ。俺は父親になるんだ。人の親になるんだ。うんうん・・・いよいよかあ』
『一人から二人、二人から三人か あ・・うんうん』
『また一人家族が増えるんだなあ・・・』
顔は驚きから満面の笑顔に変わっていくのを感じていた。
それからは、自宅へ帰る時間がいつもより数段早くなった。
『今、このお腹に自分の分身がいるんだなあ』と思いつつ、お腹の子に毎日といっていいほど声をかけた。
徐々にお腹が大きくなって いくのがわかる。
それとともに生まれる時を想像して、父親になる自覚を高めてゆく。
妻は初産、産科医がついているとは言え、何が起こってもいいようにいろいろと妻とともに考えた。
いよいよ、出産の日が近づく。
妻は県内ではあるが、自分の勤務地とは離れた郷里で出産することになった。
それから産まれる日まで毎週、妻の実家へ通った。
お腹はますます、はちきれんばかりに大きくなっていく。
妻から出産予定日を知らされ、ますます心の準備をは高まってゆく。
「先生はまだだから、落ち着いていていいよ。産まれたら職場か、自宅へ連絡を入れるから。」とは妻の言。
「そうか、それじゃあ病院かお母さんからの連絡を待つよ。」
落ち着かない時間が続いた。
出産の当日の明け方に近い時間、連絡が来た。
妻の母からだった。
「○○さん、△時△分に産まれましたよ。母子ともに元気だよ」
「どうもありがとうございます」
とるものとりあえず、病院へ向かった。
まず、真っ先に妻のもとへ。
「ご苦労様。本当にありがとう」
妻への心からの感謝と産まれた時の様子を聞いた。
いよいよ我が子とのご対面である。
ガラス越しにベビーベッドの中で寝ているわが子を見つめる。
『ああ、間違いなく俺の子だあ。これが我が子っていうものかあ』
感動した♡ 1時間、2時間、ずっとガラス越しに見つめていた。
涙が止め処なく溢れでていた。
『ああ、父親になったんだなあ。これが父親の実感かあ』感動的な時間だった。
妻への感謝の気持ちと、父親になった感動。
あの感動は生涯忘れることはないだろう。
『ありがとう僕の奥さん。。』
『ありがとう無事に生まれてくれて。。。』