5.18光州民主化運動記念式典で演説する朴槿恵大統領
5月18日、光州(クァンジュ)民主化抗争の日から33年が経過しました。今年の5.18記念式典には朴槿恵大統領が参加し、国民に向けた演説をしています。以下に紹介する書信形式の文章は、大統領の演説に対する一市民の率直な意見です。出展は5月19日付『オー・マイ・ニュース』。
http://www.ohmynews.com/NWS_Web/View/at_pg.aspx?CNTN_CD=A0001866827&PAGE_CD=N0001&CMPT_CD=M0019
保守勢力からは、光州民主化抗争の意義を貶めようとするこころみが続いています。5.18民主化運動への評価をめぐる韓国社会の現状を理解するうえで、何らかの参考になれば幸いです。 JHK
パク・クネ大統領
5.18記念式に参加されたことに、国民の一人として感謝の挨拶を申し上げます。イ・ミョンバク前大統領は就任初年度に参加して以後、退任する時まで一度も参加しませんでした。二年目からは代読の演説文さえ出さなかったので、多くの人々が深く失望していました。
今回、現職の大統領が5年ぶりに5.18記念式典に参加したことで、5.18民主化運動に対する大統領と政府の基本的な認識が前政権に比べて一歩前進したとわかり、安堵している次第です。
ただ、『あなたのための行進曲』をめぐる葛藤から、5.18民主化運動の遺族たちは参加しませんでした。その結果、記念式典の意義が半減してしまったことは、大統領と現政権が発揮できる包容力の限界のように思え残念です(式典の冒頭に参加者全員が斉唱する『あなたのための行進曲』が“不適切”だとして、政府は許可しなかった:訳注)。
大統領が朗読された記念演説は、評価に値するものだったと思います。
あなたは「民主主義のために崇高な犠牲をささげた英霊の冥福」を祈ったし、「遺族の皆さん、そして光州市民の皆さんに慰労の言葉」を述べもしました。とりわけ、大統領が「家族とともに光州の痛みを感じる」と語ったくだりでは、胸が熱くなりました。
「英霊が残した志を受け継ぎ、より成熟した民主主義を作ることが、その犠牲と痛みに報いることだと信じる」と言われたのを聞き、多くの人々が同意したことでしょう。
ところが、大統領の記念演説にうなづくことができたのは、ここまででした。その次の部分からは、まったく何の話なのか、あんな話をなぜ5.18記念式で聞かなければならないのか、いぶかしく思うばかりでした。
大統領は「民主主義において大きな進展を成し遂げたが、階層間、地域間、世代間で葛藤の溝は埋められないままだ」と正しく診断されました。しかし、大統領の演説はそこから一挙に「私はもはや、新しい国家発展の道を開いていくべきだと考える」と飛躍したのです。
数日前に総合編成チャンネル(保守傾向のTV局:訳注)では、5.18当時、“北朝鮮軍が潜入し光州市民に変装して扇動した”という報道をしました。また、名前を上げることも恥ずかしい某インターネット・サイト(日本の「2ちゃんねる」に相当:訳注)には、光州市民の死体を指して"エイを並べて干している"という侮辱的な表現もありました。
33年の間、私たちの社会では葛藤の溝が埋められるどころか、最近になってさらに深まっているのが現実です。ところが大統領は、その埋められなかった溝を指摘しながら、何の対策も出すことなく唐突に「国家発展」を語ったのです。
5.18民主化運動を貶める企図は、今では韓国社会の広い範囲に及んでいます。これはイ・ミョンバク政権から始まった、政府レベルでの5.18に対する名誉毀損の結果です。現政府も、決してその責任から自由ではありません。
「5.18国立墓地を訪問するたびに光州の痛みを感じる」というのが事実なら、5.18の価値を本来のものに復元することから語るべきではないでしょうか?
しかし、大統領は5.18精神とかけ離れた「国家発展」の話だけを続けました。
「私はもはや、5.18精神が国民統合と国民の幸福に昇華されねばならないと考えます。民主主義の究極的な目的は国民の幸福であり、国民が幸福になる時代を切り開くことにあります」。
私はこのくだりで、大統領の歴史意識に絶望するほかありませんでした。5.18精神は、軍部勢力によって歪曲された歴史を再び正常なものへと戻し、この国に正義を打ち立てようとするものでした。当時、権力を強奪した全斗煥(チョン・ドゥファン)ら軍部勢力に対する抵抗であったし、彼らの命令を受けた軍人たちによって市民が虐殺されたのが、5.18光州民主化運動です。
良い暮らし、豊かな生活を目指した「セマウル運動(朴正熙政権期、農村を中心に推進された国民動員運動:訳注)」と混同されるべき性質のものではありません。「経済発展のパラダイムを変えて経済民主化を成し遂げ、国家の発展と国民の幸福が好循環する新しい構造を作る」ことも重要ですが、そこに5.18精神を無理に関連づけてはなりません。
「(現政権が目ざす)道に、民主化のために高貴な犠牲と痛みを体験された皆さんが先導的な役割をして下さることを要請」したところで、5.18の民主英霊と光州市民は唐突に感じるだけです。
大統領にお願いします。大統領が真に5.18精神が国民統合に昇華されることを望まれるなら、前政府から続いている5.18民主化運動に対する冒涜をまず中断して下さい。 5.18民主化運動に意図的な侮辱を加えている総合編成チャンネルとインターネット・サイトへの調査を通じて、彼らの違法行為を明らかにして下さい。
そして、光州虐殺の主犯である全斗煥・前大統領に課された追徴金を全部回収して、今も続けられている前大統領への過度な礼遇を止めるように願います(内乱と不正蓄財などの罪で無期懲役を宣告された全斗煥氏に1672億ウォンの追徴金が課せられた。だが、彼は全財産が29万ウォンしかないと主張し今も滞納している:訳注)。
そうすることによってのみ、「5.18の英霊の前で冥福を祈り、遺族に慰労を伝え、共に胸を痛めた」という大統領の真心が確認されることでしょう。
大統領の賢明な判断を期待します。