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韓国・中国・日本の三国外相会議

2015年03月23日 | 三千里コラム

三国外相会議(左から日本・韓国・中国の外相、3.21ソウル)



3月21日、韓国・中国・日本の三国外相会議が3年ぶりにソウルで開かれた。会議後の記者会見ではメディア向けの共同発表文も出されている。それによると、三国の首脳会談を「最も早期で都合のよい時期に開催すべく努力する」ことで一致したという。

日本政府は、懸案であった韓国・中国との関係改善において大きな前進だと自賛しているが、首脳会談開催への前途は多難なようだ。と言うのも、中国政府が安倍政権の歴史認識に深い疑念を抱いているからだ。

共同記者発表の場で中国の王毅外相は、「歴史の直視」という表現をくり返した。彼は冒頭発言で“正視歴史、開闢未来。この八文字が本日の会議における最も重要な合意だ”と述べ、華麗な外交文書に幻惑されてはならないとの意を明確にしている。

共同発表文にも「歴史を直視して未来に向かうとの精神を根本に」と表現されている。‘未来志向’の後半部だけにスポットを当てがちな日本政府の報道は、要注意なのである。その間、くり返し強調してきたように、中国政府は戦後70年の「安倍談話」を注視している。三国首脳会談の開催は、「安倍談話」の内容次第といえるだろう。

中国政府の立場を誤解しないために、王毅外相の発言をもう少し追ってみよう。共同記者発表の場で彼は、“終戦から70年を迎えるが、三国にとって歴史問題は過去形ではない。依然として現在進行形だが、今後も未来形となって障害になってはならない。”と警告を発した。

さらに21日の夜、中国メディアとの取材では、より明確に“歴史を直視することは、すなわち過去の侵略の史実と植民地支配を否定しないことだ。今年は日本にとってテストであり、機会でもある。日本がこの機会を捉え徹底的に過去を清算できるのか、われわれは目を凝らして注視している”と述べている。

一方、共同発表文には朝鮮半島の核問題に関する記述も盛られている。「朝鮮半島での核兵器開発を明確に反対する立場を再確認し、関連する安保理決議および9.19共同声明が定めた国際的義務と約束が誠実に履行されねばならない。...朝鮮半島非核化の実質的進展を成し遂げるために、6者会談の意味ある再開に向け共同の努力を継続していく」という内容だ。

韓国政府はこの点に関し、“三国外相会議の共同発表文で、北の核開発に反対する合意が記述されたのは初めてのことだ”と高く評価した。確かに中国政府は一貫して北朝鮮の核開発反対の立場を堅持し、国連安保理の制裁決議にも賛同している。しかし、一方的に北朝鮮の核放棄先行を主張しているわけではない。中国が常に6者会談の『9.19共同声明』を重視していることを看過してはなるまい。

2005年の第4回6者会談で採択された『9.19共同声明』は、双務的な内容である。北朝鮮に核放棄の先行義務を定めたものではない。米国が朝鮮戦争の平和協定締結に応じ、米日が北朝鮮との国交正常化を同時に推進するとの合意だった。また、核施設の解体に伴い、五カ国による対北エネルギー支援も含まれている。

北朝鮮が核開発に依拠しなくても自国の主権と安全を確保できる内容であったからこそ、共同声明が採択されたのだ。
中国はその原点に立ち戻ることを主張しているに過ぎない。「9.19共同声明の誠実な履行」と、「朝鮮半島非核化の実質的進展を成し遂げる6者会談の意味ある再開」が、共同発表文に明記された所以はそこにあるのだ。くれぐれも、‘我田引水’の解釈は禁物である。

最後に、今回の三国外相会議の背景には、米中の葛藤と対立があることにも触れておきたい。アメリカ政府は対中国包囲網の一環として、THHAD(終末高高度防衛ミサイル)システムの配備を推進している。当面の候補地は韓国と日本だ。日本では着々と導入準備が進んでいるが、韓国では市民の反対が高まっている。そして、中国政府の強い懸念表明に朴槿恵政権の苦悩は深まるばかりだ。

最大の貿易相手国である中国との経済関係を考慮するなら、安易にTHHADの導入を推進するわけにはいかない。かといって、‘命綱’である韓米軍事同盟を損傷するような行為は言語道断であろう。米政府の要求を拒否することは、まさに‘逆鱗’に触れることであるからだ。

そこで、妥協策として登場したのが、中国政府が推進するAIIB(アジア・インフラ投資銀行)への参加である。AIIBは2013年10月、中国が主唱しインド・パキスタン・ネパールなど21カ国が設立覚書を締結している。今年の3月末までに創設会員国を募り、年末に出帆する予定だ。AIIBは米日が主導するADB(アジア開発銀行)や米国主導のWB(世界銀行)に対抗し、中国が主導して設立する国際銀行である。

ADBなど国際開発銀行の議決権は、供与国の持分によって左右される。ADBにおける持分は2013年末の時点で、日本15.67%、米国15.56%、中国6.47%である。理事会で個別の投資事案を審議する際には85%の賛同が必要なので、米日が反対すれば何一つ推進することができない。しかも最近のADBは、病院・医療・福祉など貧困国の問題解決を重視しており、インフラ投資の比重は約10%(年間100億ドル規模)にとどまっている。ADBの現状に不満を抱く中国は、AIIB資本金1000億ドルのうち500億ドルを出資することで、50%の持分と49%の議決権を確保した。中国が約束するAIIBの‘公正で民主的な運営’に関しては、今後も検証する必要があるだろう。

AIIBの創設は国際開発金融システムの根幹を揺るがす変革であり、米国にとって容認したくない事態である。それで、日本を始めとする主要な同盟国には、参加しないように圧力を行使してきた。ところが最近になって、イギリスを始めドイツ・フランス・イタリアなどが相次いでAIIBへの参加を表明している。中国の台頭によって、米国主導の国際秩序が変移せざるを得なくなっているのだろう。

また、英・独・仏・伊などEU主要国にとっても、中国やミャンマーなどアジア地域インフラ投資の膨大な需要(OECDの推算では2030年までに8兆3千億ドル)を見過ごすわけには行かない。米日主導で排他的に運営されるADBではなく、AIIBの出現で新たな可能性を見出そうとするのだろう。世界的な不況の折、これほどの魅力的な市場は他にないからだ。

アメリカの意向に忠実な日韓両政府は、中国のAIIB勧誘に無関心を装ってきた。だが、G7の大半がすでに中国になびいている現状を前にして、いつまでも‘禁欲’を貫くことは難しいようだ。韓国政府は否定しているが、三国外相会議に先立って開かれた韓中外相会談で、韓国側はAIIB参加に前向きな反応を示したという。

はたして、朴槿恵政権はどのような決断を下すのだろうか。‘軍事は米国、経済は中国’という安易な弥縫策が通じるほど、国際政治の舞台は甘くない。民族分断という敵対状況を続けていては、南北のどちらも国力を消耗するだけだ。そして単独で東北アジアの周辺大国に対処するには、自ずと限界が生じるしかない。南北が和解し協力することで、互いに生かし合う道を選択してほしいものだ。(JHK)