朝鮮半島上空を飛行する米軍のB-52戦略核爆撃機(1月10日)
北朝鮮の第4回核実験から一週間が経過した。日米韓の三国が中心となって、国際社会には「北朝鮮への懲罰と制裁強化」を求める声が喧しい。言うまでもなく三千里鐵道は、すべての国の核保有と核実験に反対する。
最も遅い核保有国となった北朝鮮に対しても然りであり、1945年から現在まで2055回の核実験を敢行した米・露・英・仏・中の5大国(国連安保理を牛耳る常任理事国)は、より厳しい批判と糾弾の対象だと考える。ところが、最近の世論をみると“これら諸国の核兵器は許容できるが、北朝鮮の核開発だけは容認できない脅威だ”と言わんばかりである。
衛星ロケットの発射実験と同じく、核開発もどの国が実行するかによって評価の基準が変わるようだ。北朝鮮と同様にNPT(核不拡散条約)に加盟せずに核実験をくり返したインドとパキスタンは、いつの間にか国連安保理でも制裁の対象ではなくなったようだ。なんとも理解に苦しむ二重基準(ダブル・スタンダード)である。
ともあれ、どうすれば北朝鮮が核開発を放棄し脅威の国でなくなるのか、この難問に取り組むことが喫緊の課題となっている。すべての回答は2005年9月に締結された第4回6カ国協議の共同合意文書にある。合意の核心は、①朝鮮半島の非核化と正常化(朝鮮戦争の平和協定と米朝・日朝の修好)の並行推進、②同時行動の原則(北朝鮮に核放棄の先行義務なし)である。
いつの間にか6カ国協議の合意は歪曲され、“北朝鮮が核放棄を先行させないので、あらゆる対話と交渉は無意味だ”との誤解が蔓延するようになった。北朝鮮が核実験をする度に国連安保理では制裁決議を採択した(1718号、1874号、2094号)が、全く効力を発揮しなかったし、北朝鮮の核開発能力を向上させただけだった。国連安保理ではなく、協議の場を速やかに北京での6カ国協議に戻すべきだろう。
朝鮮半島核問題の参考資料として、以下に二編の文章を要訳して紹介する(JHK)。
(1)1月7日付『プレシアン』チョン・ウクシク氏コラム「北朝鮮に核を放棄させる方法は…」。
(2)1月8日付中国『環球時報』社説(浅井基文WEBサイト「21世紀の日本と国際社会」1月9日付より引用)。
(1)北朝鮮に核を放棄させる方法は...
「核武装し、それを絶対に放棄しない」という金正恩の北朝鮮に、どう対処すればいいのだろうか? 北朝鮮の奇襲的な‘水素爆弾’実験を契機に、国際社会が再び切歯腐心している質問だ。
大まかな方向は予想通り出てきている。韓国とアメリカ政府は「相応する代価を支払わせる」ために、追加的な制裁と韓米連合戦力の強化を予告している。“後頭部を殴られた”中国も「国際社会に対する義務を果たす」とし、対北朝鮮制裁と圧迫に参加する意向を明らかにした。日本も自国の安保に「重大な威嚇であり決して容認できない」と勇ましい。国連安保理は「追加制裁を盛り込んだ新しい対北朝鮮決議案の採択」を推進するという。このように国際社会は、声を一つに北朝鮮の核実験を糾弾して「絶対に核保有国と認定できない」と念を押す。
このような反応は「金正恩の北朝鮮をこのまま放置してはならない」というものだ。だが、直視しなければならないことがある。まず、今回の主要国家と国連安保理の対応は、すでに数えきれないぐらい繰り返されてきたものだ。制裁の強度を高めれば、特に中国が積極的に参加すれば、今回は違う結果が出るとの期待が述べられているが、これも聞き飽きた言葉だ。状況は何も変わらなかったか、かえってさらに悪化した。
このような脈絡で見る時、制裁と圧迫、そして武力示威を中心とするアプローチは、失敗した政策の拡大再生産となる公算が大きい。“北朝鮮の息の根を止める”制裁など存在しない。また、米軍戦術核兵器の再配置や韓国独自の核武装は、可能ではないし妥当でもない。軍事境界線での対北放送再開も、乾燥した山にタバコの火を投げるようなものだ。
私たちが忘れてはいけないことがある。アメリカと中国など周辺国家は、北朝鮮の核開発状況を自分たちの戦略図で見ているという点だ。アメリカは北朝鮮の核開発をアジア再均衡戦略の滋養分としてきた。これを誰よりもよく知っている中国は、北朝鮮の核開発反対と北朝鮮の戦略的価値の間で、動的な均衡をとってきた。北朝鮮はこのようなスキ間を利用して、「両弾一星」(原子爆弾・水素爆弾と人工衛星の開発を目指した1960年代の中国安保政策:訳注)の敷居を越えようとする。これら三国が各々の戦略を持って動いているが、残念なことに、韓国の戦略は漂流を繰り返している。
それなら、どのように対処すればいいのだろうか? 本当に北朝鮮の核開発が韓国にとって「存在論的な脅威」なら、私たちはこれに相応しい非常な覚悟を持たなければならない。その覚悟とは、今まで一度も行ってみなかった道を選択するところにある。即ち、北朝鮮に核開発による安保でなく「他の手段による安保」を提示して一大交渉を追求することだ。
ここで「他の手段による安保」とは、停戦体制を平和体制に代替すること、北朝鮮と米国・日本の関係正常化、朝鮮半島の軍備統制と軍縮、韓国が吸収統一を追求しないという明確な意思表示と南北関係の発展を通した信頼構築、などを網羅するものだ。分かりきった話だと反問するかも知れない。しかし、韓米日の三国がこの道をまともに行ってみたことは一度もないのだ。
交渉の核心は、金正恩の戦略的判断に確実な影響力を行使できる所に合わさなければならない。今までは、苦痛の度合いを大きくして北朝鮮の屈服を誘導しようとする方式だった。これは失敗に終わった。これからは、アプローチの方法を換えなければならない。核放棄を考慮できるほどの利益を提示することが、まさにそれだ。これは決して経済的支援を意味しない。先ほど挙げた「他の手段による安保」が核心なのだ。また、これは北朝鮮にだけ良いことではなく、韓国をはじめとする関連国のすべてを利するものである。
それで、いくつかの提言をしたい。まず、今回の核実験がこれ以上の危機増幅に至らぬよう、断固としていながらも節制された姿勢が必要だ。強硬と強硬がぶつかり合う対決よりは、冷却期を持つべきだ。そして、8年間も中断している6カ国協議を前提条件なしに再開し、2005年の9.19共同声明合意にもかかわらず、一度も開かれていない南・北・米・中の4カ国平和フォーラムも始動しなければならない。
(2)1月8日付『環球時報』社説
朝鮮が水爆実験に成功したと発表したことは、国際社会に対して大きな挫折感を与えるものだった。安保理は速やかに声明を発表して朝鮮を非難した。遠からず新たな対朝鮮措置が作られることが予想される。
この時に及んで、アメリカ及び西側の一部世論は、中国をまな板に乗せ、朝鮮核問題における「中国責任論」を打ち出している。中国が対朝鮮制裁に参加していることを否定できないため、米欧の主要メディアは中国の対朝鮮制裁の力の入れ方が足りないと非難し、中国は朝鮮が全面的に混乱することによる影響を懸念するべきでないとしている。ということは、中国はすべての可能なことをやって、様々なリスクを一手に背負い込むべきだということに等しい。
朝鮮核問題の根っこは極めて複雑であり、朝鮮政権が国家の安全保障政策の方向性の選択を誤ったという問題もあるが、アメリカが朝鮮敵視政策を堅持しているという外部的要因もある。
朝鮮半島が今日もなお平和協定を締結できないことは、平壌をして深刻な安全保障上の焦りを生ませている。アメリカは、多くの責任を負担し、半島の緊張した情勢を緩和し、朝鮮が核を放棄することに積極的になるようにすることを考慮するべきだ。
朝鮮の核問題は今、各国をがんじがらめにしており、朝鮮もそうである。朝鮮の核政策がさらに広汎な核拡散を刺激するならば、全世界が敗者となる。この歪んだ流れを打ち破ることは、いずれかの国が単独で促進することはできないのであって、各国が努力し、集団的な妥協を創造することが求められている。国際問題をそらんじているはずのアメリカの主要メディアが中国だけにこうしろああしろと教えを垂れるのは、朝鮮核問題に対するアメリカ全体の認識がでたらめであることを反映している。
米韓日が積極的に条件をつくり出さず、北京が平壌に圧力をかけることだけでその核開発計画を放棄させることができると考えるのであれば、それは極めて幼稚な考えだ。アメリカのエリートたちは実はそう考えているのではなく、要するに責任を負いたくないだけで、ほかに方法もないために「中国責任論」を言っているのではないかとも疑いたくなる。
中国は、米韓日がやるべきことを代わりにやることはできない。元はといえば、朝鮮と米韓日が敵対することによって核問題の出現を招いたのだ。中国は、中朝関係を敵対関係にすること、ひいては中朝敵対を地域情勢の最大の焦点とするようなことはできないし、するべきでもない。中国社会は、政府がそうすることを許すはずがない。
中国は国連の対朝鮮制裁に参加し、安保理決議を真剣に履行した。その結果、中朝関係の雰囲気は過去のそれに遠く及ばないまでになっている。中国がさらに厳しく朝鮮を制裁するかどうかは、安保理での討議の結果を見る必要がある。
我々は朝鮮の核保有には断固反対だが、半島の平和と安定にも関心がある。ある問題の解決に当たっては、他の問題がコントロール不能になるという代価をもたらすことはするべきでなく、中国のこのような総合的判断は中国の国家的利益に対する考慮から決定されるのであり、中国の対朝鮮政策は全体としての安定性を維持しなければならない。
情勢が引き続き悪化すれば中国としては辛いが、中国がいちばん辛い当事者だと思うものがいるとすれば、それは間違いだ。したがって、中国に対してもっと多くを要求する前に、まずは彼らに先んじて行動を起こすことをお願いする。