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三千里コラム:鄭大世へのエール、国家保安法に強烈なシュートを!

2013年06月27日 | 南北関係関連消息


Kリーグのオールスター競技で声援にこたえる鄭大世(6.21)



鄭大世へのエール、国家保安法に強烈なシュートを!

 極右・反北団体が鄭大世(チョン・テセ)を国家保安法第7条で告発したのを受け、6月20日、水原地方検察庁は公安部が担当し捜査に着手すると発表した。李明博政権の末期に吹き荒れた“従北騒動”が、朴槿恵政権のもとで更に狂乱ぶりを増しているようだ。

 首脳会談で訪米中にセクハラを起こしたスポークスマンをはじめ、朴槿恵大統領の人事には何かと醜聞がつきまとう。実務能力よりも大統領への忠誠度を選択基準として優先するからだろう。現法務長官のファン・ギョアン任命に際しても、国会の聴聞会で不適格だとの指摘が少なくなかった。「ミスター国家保安法」の別名を持つ彼が、公安統治を重視するタカ派の法務官僚と見なされていたからだ。

 その指揮下で水原地方検察庁を統括するのが、地検長のキム・スナムだ。彼も政権への忠誠競争では決して後塵を拝しない検察官である。ソウル中央地検の第3次長だった2009年、彼は李明博政権の経済政策を批判するインターネット論客(筆名ミネルバ)を、電気通信基本法を根拠に起訴した。政権批判を封じ込めようとする無謀な試みは、無罪判決と同法への違憲判断で破綻したが、彼の忠誠心に権力者は注目したのだろう。加えて彼は、2012年MBC放送のストライキ弾圧に際し、労組の主要幹部に相次いで拘束礼状を申請しては却下されたことでも有名だ。こうした“功績”が評価され地方検察庁長に昇進した人物が、鄭大世の事件を担当している。

 国家保安法は1948年12月1日に制定された。大韓民国の成立とともに産声をあげ、分断体制を維持するうえで唯一無二の威力を発揮してきたこの法律は、65年を経た今も民主化運動や平和統一運動の弾圧に貢献している。昨日も、検察が「祖国統一汎民族連合(汎民連)南側本部」を押収捜査し、二人の幹部に逮捕令状を発布する事態が起きた。最近になって国家保安法事件が続発しているのは、昨年の大統領選挙で国家情報院の不正介入が発覚し、朴槿恵政権への批判が高まっている状況と無関係ではないだろう。

 国家保安法の本質的な機能は、政権批判の言動を弾圧する法的手段と言えるだろう。国家保安法は、国家「権力」保安法なのだ。同時にこの悪法は、平和統一を願う韓国民が北との和解や交流を、権力者の意向を超えた次元にまで拡大しようとすると、容赦なくその獰猛な牙を向けてくる。言うまでもなく韓国民とは韓国籍の保有者であり、当然ながら在日同胞も含まれる。世界中に居住する数百万在外コリアンの中で、在日同胞にだけ国家保安法やスパイ罪の犠牲者が多数存在することの意味を、噛みしめてほしい。彼らは決して、北の国家体制への忠誠心から苦難の道を歩んだのではないと思う。誰よりも熱い心で「統一祖国」という未来を信じたからこそ、青春と人生を獄中に埋めたのだろう。

 鄭大世への言われないバッシングにも、同じような切なさと怒りを感じる。なぜ彼が今、祖国で国家保安法の標的にされるのだろうか。彼がサッカー選手としての自身の存在を通じて、分断の壁を越えようとしているからだ。その壁はあまりにも厚く高い。しかし、もっと分厚く高大なのは、それを固守してきた国民の「意識の壁」だ。60年を越える敵対的な分断状況のもと、南北は国内外の同胞に対し国家体制への帰属と忠誠の表明を要求してきた。それは「南か北か」の選択を強制することにほかならない。しかし、多くの在日同胞は「南か北か」ではなく、「南も北も」という心情で生きている。それが在日同胞の生活に根ざした素朴な「統一マインド」だから。

 私たちの一世は、大韓民国や朝鮮民主主義人民共和国が成立するはるか以前に、故郷を離れ亡国の民として渡日した。国家よりも民族が先にあった集団である。二世以降の世代は、植民地統治を反省しない宗主国に生まれた分断祖国の在外同胞として、日常的な同化圧力のもとで自身の民族的アイデンティティを探求するしかなかった。私は常々、南の在外国民、あるいは北の海外公民としての誇りで生きる人々に敬意を持っているが、私自身は南や北、そして日本に対して一度も国家への帰属意識を抱いたことがない。韓国籍を持つ私がこのような発言をすると、即刻、韓日の国家主義者たちから「売国奴、非国民」と罵倒されるだろうが...。

 鄭大世は韓国籍を持つ、朝鮮民主主義人民共和国の元国家代表選手である。日頃から、朝鮮学校や北の体制と指導者へのシンパシーを隠さない。彼は在日同胞として、南北の旅券を持つ稀有な存在だ。前回のワールドカップ大会に出場した彼は、北の国歌を聞きながら涙した。競技後に彼は「在日としてこの場に立ったことに、心が熱くなった」と語った。韓国メディアに発した彼の立場は明確である。
 「私のアイデンティティは‘在日’だ。‘在日’が私の祖国であり、私は‘在日’のためにプレーする。でも、そんな国は地球上に存在しない。地図にもない。」

 鄭大世を“国籍”というカテゴリーで縛ることに、なんの意味もないだろう。彼はおそらく、「南か北」ではなく「南も北も」を実践しているのであり、何よりも「在日」というわたしたちのルーツに愛着を持って生きてきたからだ。彼は自らの存在と世界最大の競技人口を持つスポーツを通じて、統一祖国の未来を体現しているのだ。ところが国家保安法は「韓国籍を持つ者が金正日を好きになってはイカンのだ!」と剣幕をあげ、「そんな生き方は許さんぞ!」と、脅しをかけている。

 6月12日に予定されていた南北の当局会談が破綻した。対北世論が悪化すると、南では伝家の宝刀、国家保安法の出番が増える。しかし、金大中・盧武鉉政権の10年間に蓄積された南北の和解・協力という「平和統一マインド」が、韓国市民の間でも着実に育っていることを信じたい。6月21日、水原地方検察庁が国家保安法の刃を抜いた翌日のことだ。Kリーグ・オールスター競技に出場した鄭大世は、終了直前に見事な同点ゴールを決め、詰めかけたファンは彼に歓声を惜しまなかった。

 テセよ、怯むことはない。これからも南であれ北であれ、世界中のどこであっても、君は思いっきりプレーすればいいのだ。われらが誇る「在日」の代表選手として...。
 そして、時代遅れの遺物である国家保安法に、渾身のシュートを蹴りこんでやれ!

                                         2013年6月27日  JHK

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1 コメント

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見事な視点、あざやかな論調 (いそじろう)
2013-06-28 12:15:17
ブログの文章に感じ入ることは、まずない私だが、JHK氏の「――国家保安法に強烈なシュートを!」には胸が熱くなった。
目からウロコ。マスメディアで引っ張りだこの池上某氏が薄く見える(比較するのも失礼だが)。
そうなのだ。鄭大世のプレーの一齣一齣とゴールは朝鮮半島の和解と平和を表現しているのだ。彼自身が自覚的かどうかなど問題じゃない。
なんという具体的な論証と瞠目の着想。
鄭大世という表象に取り憑かれよう、もっと。そして熱く、かつ沈着に応援しよう。
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