ペニシリンアレルギーのラベル外しを目的とする臨床判断支援ツール PEN-FAST の精度
JAMA Intern Med 2023; 183: 883-885
患者が申告するペニシリンアレルギーは抗菌薬の不適切な選択、抗菌薬への耐性形成、悪い予後と関連する。適切な抗菌薬の選択とペニシリンアレルギーのラベル外しを目的とする臨床判断支援ツールは開発されているが、その使用を促進するためにはさらなる検証が必要である。
PEN-FAST は、高い陰性的中率(NPV)を有する臨床判断ツールであり、経口ペニシリンを投与する前に皮膚テストを必要としない低リスクのペニシリンアレルギー患者を同定することができる。著者らは世界で PEN-FAST がさらに利用されるようになり、ペニシリンアレルギーのラベル外しが促進されることを目的として、PEN-FAST が開発された国以外 (米国) の 3次医療機関における PEN-FAST のペニシリンアレルギーを申告している患者のリスク層別化の性能の評価を行った。
方法
2020 年 10月 9日から 2022年 7月 7日までに、米国の三次医療機関のアレルギー外来でペニシリンアレルギー検査を受けた、ペニシリンアレルギーの報告がある非妊娠患者を対象として後向き観察研究を行った。
アレルギー検査としては、1. 皮膚プリックテストおよび皮内テストと、皮膚テスト後の経口チャレンジ、または 2. 皮膚テストを行わずに直接経口チャレンジのいずれかを行った。PEN-FAST スコアを、ペニシリンに対するアレルギー検査の結果と比較した。アレルギー検査陽性は皮膚テスト陽性または経口チャレンジ 60分以内のアレルギー反応と定義した。
PEN-FAST スコア
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PEN-FASTスコア の点数毎に、ペニシリンアレルギーの予測に対する感度、特異度、NPV、および陽性尤度比を計算した。また、総合的な診断能を評価するために ROC 曲線下面積 (AUC) を計算した。
結果
120人の患者(年齢中央値[四分位範囲 interquartile range: IQR]: 54[37.3-67.0]歳;女性95人(79.2%))を対象とした。
16例(13.3%)で皮膚テストを行わずに直接経口チャレンジ (direct challenge: DC) を行った。DC を行った患者の PEN-FAST スコアは 0点( 5人[4.2%])または 1点(11人[9.2%])であり、アレルギー反応または非アレルギー反応認めた患者はいなかった。
PEN-FAST スコア 2 点以下 (低リスク) の患者は 88 名 ( 73.3%)であり、全例がアレルギー検査は陰性だった。
4 人の患者( 3.4%)がペニシリン検査で陽性だった。 2 人は皮膚検査で陽性( PEN-FAST スコア3 点)、2 人は皮膚検査で陰性だったが、経口チャレンジで陽性だった( PEN-FAST スコア 3 点、5点)。
PEN-FASTスコア 2 点をカットオフとすると、ペニシリンアレルギーの予測に対する感度、特異度、NPV、および陽性尤度比はそれぞれ、100%( 95%信頼区間 39.8-100%)、75.9%( 95%信頼区間: 67.0-83.3%)、100%(95%信頼区間: 95.9-100%)、4.14(95%信頼区間: 3.00-5.72)だった(表)。
表: PEN-FAST スコアの点数毎のペニシリンアレルギーの診断特性
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考察
ペニシリンアレルギーは公衆衛生上の問題であるが、報告されたペニシリンアレルギーのうち、正式な検査で確認されるのは 10%未満である。
PEN-FAST はユーザーフレンドリーなツールであり、NPV は 93-100%と報告されている。本研究の結果では、PEN-FAST は安全に経口チャレンジできる低リスクの患者を特定する場合の NPV は 100%だった。
ペニシリンアレルギーの患者をリスク層別化するためのツールは PEN-FAST の他にも開発されているが、外的妥当性が検証されておらず一般性に欠ける。
PEN-FAST の利点は、その簡便さであり、特にアレルギー専門医へのアクセスが容易でない地域においてプライマリ・ケア医に広く使用される可能性がある。
本研究の限界は、後方視的デザイン、紹介バイアス (referral bias) 、単一研究施設であることである。本研究で得られた知見は、先行研究およびそれに続く欧州の単一施設研究での検証結果を支持するものであり、皮膚テストを経ずにペニシリン直接負荷試験を行えるようようにする信頼できる臨床判断ツールとして PEN-FAST の利用を促すものである。
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