入院時の COVID-19 のスクリーニング PCR を中止すると COVID-19 の院内感染が増える
JAMA Intern Med 2023; 183: 877-880
一部の病院では医療スタッフと入院患者が気づかれないうちに SARS-2-CoV2 に感染しないように、入院の際に全ての患者に対して PCR 検査をしている。これは、SARS-CoV-2の感染経路の 3分の2 は無症候性感染者からであり、同室患者間の感染リスクは高く、医療用マスクは感染リスクを減らすことはできるが、ゼロにすることはできないからである。
イングランドでは 2022年8月31日から、スコットランドでは 2022年9月28日から、病院がすべての入院患者に対して PCR 検査することを義務付けなくなった。著者らは、この中止が院内発症 SARS-CoV-2 感染の増加と関連しているかどうかを検討した。
方法
Public Health Scotland(Hospital Onset COVID-19 Cases in Scotland)および National Health Service England(COVID-19 Hospital Activity)の公開データセットを用いて、2021年7月1日から2022年12月16日の間に入院後7日以上経過して新たに SARS-CoV-2 検査で陽性となったSARS-CoV-2 感染症の病院発症症例を週単位でカウントした。
PCR 検査は、調査期間のほとんどで入院時に行う検査として推奨されていた。病院発症の SARS-CoV-2 感染率は市中感染率と密接に相関しているため、病院発症症例の相対的増加を評価するために、市中感染 1000人当たりの新規病院発症症例の週ごとの割合を算出した。
市中有病率の推定には、英国国家統計局(ONS)のCOVID-19 感染調査を用いた。ONS は無作為に抽出した世帯を対象にほぼ毎週検査を行っており、医療機関で行う検査につきものの潜在的なバイアスを回避している。
研究は 以下の 3つの期間に分けて行った。
入院時のスクリーニング検査を行っていたデルタ株優勢の時期(2021年7月1日~2021年12月13日)
入院時のスクリーニング検査を行っていたオミクロン株優勢の時期(オミクロン変異体が SARS-CoV-2 感染症の50%を超えた時期: 2021年12月14日~2022年8月30日[イングランド]、2022年9月27日[スコットランド])
入院時のスクリーニング検査を行わなくなったオミクロン株優勢の時期([スコットランド]2022年9月28日~2022年12月16日、[イングランド]2022年8月31日~2022年12月16日)
結果
調査期間中、スコットランドでは COVID-19 関連入院が 46 517 例(市中発症 34 183 例、病院発症12 334 例)、イングランドでは COVID-19 関連入院が 518 379 例(市中発症 398 264 例、病院発症 120 115 例)であった。
スコットランドにおける推定市中感染1,000 人当たりの新規病院発症 SARS-CoV-2 感染週平均率(標準偏差)は、デルタ株優位期 0.78(0.37)から、オミクロン株優位期 0.99(0.21)に上昇し、入院時のスクリーニング検査を行わなくなった後は 1.64(0.37)へと上昇した。
入院時のスクリーニング検査を行わなくなった直後の感染週平均率の変化は統計的に有意であったが(相対増加率: 41%, 95%信頼区間: 6-76%)、デルタ株からオミクロン株への置き換わった後の感染週平均率の変化は有意ではなかった。
同様に、イングランドでは感染週平均率はデルタ株からオミクロン株に置き換わった時期で 0.64(0.14)から 1.00(0.17)に上昇し、入院時のスクリーニング検査を行わなくなった時期に 1.39(0.34)に上昇した。
入院時のスクリーニング検査を行わなくなった直後の感染週平均率の変化は有意であったが(相対増加率 26%;95%CI、8%-45%)、デルタ株からオミクロン株に置き換わった後の変化は有意ではなかった。市中感染 SARS-CoV-2 による入院を分母とした場合も同様の結果であった。
図 A: 市中感染 1000例に対する院内感染の比率 (スコットランド)、B: 同 (イングランド)、C: 市中感染入院患者に対する院内感染の比率 (スコットランド)、D: 同 (イングランド)
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考察
イングランドとスコットランで入院時に COVID-19 のスクリーニング検査を行わなくなったことは、市中感染に対する院内発症 COVID-19 の割合の有意な増加と関連していた。
可能性のある原因としては、スクリーニング検査を行わないことによって入院中の感染が認識されないことが多くなり、他の患者や医療従事者への感染が起こり、さらに医療従事者から他の患者へと感染が広がったことなどが考えられる。
著者らの解析の限界としては、1. 対照を用いないで事前と事後を比較するデザインであること、2. ガイドラインの変更への遵守が低かったり、遅れていた場合に偽の関連性が生じる可能性があることが挙げられる。
また、一部の市中発症症例が病院発症症例として誤って分類された可能性もある。しかし、オミクロン株の潜伏期間が 3日間であり、入院7日以降に陽性を確認した場合を院内感染とする本研究で用いたプロトコルでは院内感染を過大評価するのではなくむしろ過小評価する可能性が高いことを考えると、市中感染の混入はなさそうである。
オミクロン株の院内感染は依然として多く、粗死亡率は 3%から 13%と推定されている。
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