内分泌代謝内科 備忘録

慢性創傷の評価と管理

慢性創傷の評価と管理
Am Fam Physician 2020; 101: 159-166

慢性創傷 (chronic wound) とは、正常の秩序立ち、時宜を得た (timely) 修復過程が進まない創傷のことである。慢性創傷はよく見られるものであり、しばしば誤った治療が行われている。慢性創傷の高い罹患率と関連費用から、創傷予防と治療のガイドラインを実施する必要性が浮き彫りになっている。

一般的な下肢の創傷には、動脈性潰瘍 (arterial ulcer)、糖尿病性潰瘍 (diabetic ulcer)、褥瘡 (pressure ulcer)、静脈性潰瘍 (venous ulcer) などがある。身体所見だけで診断できることも多い。非治癒性下肢潰瘍のある患者はすべて、創傷の位置、大きさ、深さ、排膿の有無、組織の種類の記録、足の動脈の触診、足関節上腕血圧比 (ankle-brachial index: ABI) の測定などの血管評価を行うべきである。非典型的な非治癒性創傷は生検を行う。

治療の柱は TIME の原則である。すなわち、組織のデブリードマン (tissue debridement)、感染対策 (infection control)、水分バランス (moisture balance)、創傷の縁取り (edges of the wound) である。これらの一般的な対策を行った後、潰瘍のタイプに応じた治療を行う。動脈性潰瘍の患者は直ちに血管外科医に紹介し、適切な治療を受けるべきである。静脈性潰瘍の治療には、下肢の圧迫と挙上を行い、忍容性があれば運動も行う。糖尿病性足潰瘍は、足に負担をかけないようにし、必要に応じて末梢動脈疾患の治療を行う。褥瘡は患部に負担をかけないように管理する。

はじめに
慢性創傷とは、正常な秩序立ち、時宜を得た一連の修復過程を経ないもの、または修復過程が 3 ヵ月後に解剖学的・機能的完全性を回復できないものを指す。2012 年のドイツの調査では、一般人口における治癒しない慢性創傷の有病率は 1-
2%であった 。慢性創傷、典型的な糖尿病性潰瘍は、切断の 85%に先行する 。一部の慢性創傷は治癒に数十年 (!) を要するため、うつ病などの二次的な症状を引き起こし、最終的には孤立や家族の苦痛につながる。糖尿病性潰瘍を発症した後の 5 年間の死亡率は約 40%である。したがって、創傷の適切な診断と治療、併存疾患の管理が不可欠である。

創傷治癒の段階
創傷治癒は、傷害に始まり治癒に至る複雑な一連の過程である。創傷治癒過程は通常、止血・凝固 (hemostasis/coagulation)、炎症 (inflammation) 増殖 (proliferation)、成熟・再形成 (maturation/remodeling) の 4 段階を経る(表 1)。

表 1. 創傷治癒過程
https://www.aafp.org/pubs/afp/issues/2020/0201/p159.html#afp20200201p159-t1

これらの段階は、サイトカインや成長因子が創傷治癒プロセスを誘導し、重複している。慢性創傷は炎症期を過ぎても治癒過程が進行しないことが多い。

慢性創傷の原因
すべての創傷は慢性創傷になる可能性がある。慢性創傷は病因により、動脈性潰瘍、糖尿病性潰瘍、褥瘡性潰瘍、静脈性潰瘍の 4 つのカテゴリーに分類され、それぞれに典型的な部位、深さ、外観がある(表 2)。

表 2. 慢性創傷の評価
https://www.aafp.org/pubs/afp/issues/2020/0201/p159.html#afp20200201p159-t2

慢性創傷を適切に治療するには、創傷の病態生理を理解することが重要である。病因の違いはあるが、慢性創傷には、過剰な炎症性サイトカインレベル、持続的な感染、薬剤耐性の微生物バイオフィルム (drug-resistant microbial biofilm) の形成、修復刺激に反応しない老化細胞など、一定の特徴がある。

評価と分類
創傷の評価は徹底した身体診察から始める。その後、創傷そのものを重点的に診察することが治療の指針となる。創傷の位置、大きさ、深さ、排膿の有無、組織の種類を記録する。創傷の部位と外観から、ほとんどの慢性創傷を病因別に分類することができ、適切な検査と治療法の推奨が可能となる。

静脈性潰瘍は最も一般的なタイプの慢性創傷である。一般的に浅く、内果上 (内くるぶし上 medial supramalleolar) にできる(図 1)。

図 1. 静脈性潰瘍
https://www.aafp.org/pubs/afp/issues/2020/0201/p159.html#afp20200201p159-f1

浮腫 (edema)、ヘモジデリン沈着 (hemosiderin staining)、脂肪皮膚硬化 (lipodermatosclerosis) などの静脈性高血圧 (venous hypertension) の典型的な徴候がみられることがある。動脈疾患の合併を除外し、(静脈うっ滞に対して) 圧迫する前に十分な動脈灌流があることを確認するために、ABI と下肢動脈触診による動脈状態の評価を行うべきである。必要であれば、逆流評価を含む静脈デュプレックス超音波検査 (duplex ultrasound) および/または動脈デュプレックス超音波検査による検査を追加すると診断に役立つ。

デュプレックス超音波検査
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/books/NBK459266/

動脈性潰瘍は一般的に四肢遠位端に発生し、深達性で腱や骨が露出していることがある(図 2)。

図 2. 動脈性潰瘍
https://www.aafp.org/pubs/afp/issues/2020/0201/p159.html#afp20200201p159-f2

静脈性潰瘍と同様に、初期評価では ABI 測定と足の動脈の触診を行う。ABI 0.8 未満は動脈性疾患候であ り、ABI 1.2 以上は非圧縮性血管 (石灰化や血栓のために圧縮されない) の徴候である。血管の評価から、灌流不良が示唆された場合は、 専門医への紹介を考慮すべきである。

糖尿病性潰瘍は下肢切断の最も多い原因である。糖尿病性足潰瘍は、基礎疾患である神経障害、末梢動脈疾患、および足の患部への圧迫を増大させる足の変形が組み合わさって引き起こされる。糖尿病は感覚神経、運動神経、自律神経機能に影響を及ぼし、これらの複合的な影響により、足が変形し、乾燥し、痛みや反復性の傷害を感知できなくなる。糖尿病は動脈硬化性疾患の発症率も高くする。

糖尿病性潰瘍は通常、足趾 (toe) または中足骨頭の足底 (planter aspect of the metatarsal head) にできる(図 3)。

図 3. 糖尿病性足潰瘍
https://www.aafp.org/pubs/afp/issues/2020/0201/p159.html#afp20200201p159-f3

潰瘍は特徴的なクレーター状の外観を持ち、創床はびらんや壊死組織で覆われ、腱や骨などの深部構造が露出している。潰瘍は浅いものから深いものまであり、通常は厚いリング状の皮膚硬結 (callus) に囲まれている。骨髄炎などの深部感染を除外するために、しばしば画像診断が必要となる。糖尿病患者では、石灰化した非圧縮性動脈を有することが多く、ABI が異常に高くなる。このような患者では、足趾の動脈が石灰化することはほとんどないため、より信頼性の高い検査は足趾上腕血圧比 (toe-branchial index: TBI) である。

pressure ulcer (褥瘡) という用語は、bedsore、decubitus ulcer、pressure sore よりも好まれる。褥瘡とは、通常、仙骨 (sacrum)、尾骨 (coccyx)、臀部 (hip 腸骨陵部、大腿骨転子部)、踵 (heel) などの骨隆起の上に生じる、皮膚またはその下の組織の限局した損傷であり、圧力 (創部に対して垂直にかかる力) と剪断力 (創部に対して水平にかかるずれ) によって生じる(図 4)。

図 4. 仙骨部褥瘡
https://www.aafp.org/pubs/afp/issues/2020/0201/p159.html#afp20200201p159-f4

褥瘡は鼻カニューレ、経鼻胃管、ギプスやスプリントなどの器具によっても引き起こされる。ブラデン・スケールのようなリスク評価ツールは、ハイリスク患者を特定することで褥瘡を最小限に抑えるのに役立つ。これらの潰瘍は、組織損傷の程度に基づいて 6 段階に分類する National Pressure Ulcer Advisory Panel のガイドラインに従って管理される。褥瘡に対しては、感染症の有無、深部感染を除外するための画像検査、栄養状態について評価する。

慢性創傷の感染を評価する際、医師は慢性感染創傷には急性感染創傷とは異なる徴候や症状があることに注意すべきである。紅斑、浮腫、疼痛、発熱などの典型的な感染徴候が常に存在するとは限らない。感染プロセスを伴う慢性創傷の鑑別には 2 つのニーモニック (mnemoic, 記憶しやすいように頭文字を組み合わせて作った語や語呂合わせのこと) が用いられる。

NERDS(バイオフィルムまたは重篤なコロニー形成を伴う創傷の場合):非治癒性 (nonhealing)、滲出性 (exudative)、発赤 (red)、易出血性 (bleeds easily)、デブリ (debris)、臭気 (smell)。3 つの基準が存在する場合の感度は 73%、特異度は 80.5%である。

STONEES(感染の場合):サイズの増大 (size increasing)、体温の上昇 (temperature increased)、os(プローブが骨にあたるまたは骨が露出している)、新たな破壊領域 (new areas of breakdown)、滲出性 (exudative)、紅斑・浮腫 (erythema/edema)、におい (smell)。3 つの基準が存在する場合の感度は 90%、特異度は 69.4%である。

定量的評価を伴う生検は創部培養 (wound culture) の最良の方法であり、10 万集落形成単位 (colony forming unit: CFU) 以上の結果が得られれば陽性とみなされる。その他の方法として、Levine 法と Z 法がある。Levine 法の方が優れており、Z 法と比較して感度と特異度が高いことが複数の研究で示されている。Levine 法は、表層の壊死組織を剥離した後、スワブを 1 cm2 の広さで 5 秒間転がしながら圧迫し、創傷深部から体液を採取する。Z 法では、スワブの柄を指の間で回転させ、創縁に触れずに創をジグザグに横切る。

適切なケアに反応しない慢性創傷は、非典型的創傷である可能性がある。非典型的創傷は異常な場所にあり、外観も異常で、標準的な創傷ケアを 3-6 ヵ月行っても治癒しない。非典型的創傷には、炎症性、感染性、血管障害性、代謝性、遺伝性、悪性、外的病因(石灰沈着症 [calciphylaxis]、壊疽性膿皮症 [pyoderma gangrenosum)、血管炎 [vasculitis]、自己免疫疾患 [autoimmune] など)がある。医師は、非典型的な創傷が疑われる患者では、詳しく評価するために生検を行うべきである。また、創傷治療の専門医、皮膚科医、リウマチ専門医への紹介も必要である。

治療
まず、すべての慢性創傷は TIME の原則に従って治療されるべきである。TIME とは、組織のデブリードマン (tissue debridement)(動脈性潰瘍を除くすべてのケースで行う)、感染管理 (infection control)、水分バランス (moisture balance)、創部の縁取り (edges of the wound) である。

デブリードマンとは死んだ細胞を除去することであり、創傷ケアに不可欠である。慢性創傷に対する第一選択の治療法である。2005 年の研究では、積極的なデブリードマンを行うことで、慢性創傷の治癒率が 2 倍になることが示されている。また、154,664 人の患者、312,744 の創傷を対象とした別の研究では、1 週間以内の間隔で継続してデブリードマンを行うことで、治癒が有意に早くなり、全治癒率は 70.8%であった。

死滅した細胞や組織を除去するだけでなく、バイオフィルム(細胞外マトリックスによって結合された細菌の共同体)の剥離も創傷治癒の重要な要素である。

バイオフィルム
https://www.mdpi.com/2076-2607/11/6/1614

米国国立衛生研究所(National Institutes of Health: NIH)の報告によると、創傷感染症の 80%はバイオフィルムによるものである。バイオフィルムは肉眼では見えないため、さまざまな技術による検出が現在研究されている。バイオフィルムを破壊しなければ、創傷治癒は炎症期に停滞する可能性がある。

デブリードマンには外科的 (surgical)、自己溶解的 (autolytic)、酵素的 (enzymatic)、生物学的 (biologic) などいくつかの種類がある。外科的デブリードマンが最もよく用いられるが、創傷のタイプによっては他の方法が適切な場合もある。感染は通常、銀 (ゲーベンクリームなど)、ポリヘキサメチレンビグアナイド (polyhexamethylene biguanide, プロンタザン)、カデキソマー·ヨウ素 (cadexomer iodine, カデックス軟膏) などの外用薬でコントロールする。

プロンタザン
https://www.jstage.jst.go.jp/article/jsswc/13/3/13_149/_pdf/-char/ja

カデックス軟膏
https://www.smith-nephew.com/ja-jp/health-care-professionals/products/advanced-wound-management/iodosorb-global#%E6%A6%82%E8%A6%81

バイオフィルムが疑われる場合は、抗菌薬による洗浄も有効である。蜂窩織炎や全身感染の徴候がある場合は、抗菌薬の経口投与も適応となる。

創傷ケアにおいて水分バランスは不可欠である。よく勧められているが、慢性創傷を空気に触れさせて「乾燥」させてはいけない。創傷は湿潤な方が治りが早く、感染のリスクも少ない。創傷が乾燥しているようであれば、適切な被覆材(表 3)を選択し、水分を追加する必要がある。

表 3. 創傷被覆材
https://www.aafp.org/pubs/afp/issues/2020/0201/p159.html#afp20200201p159-t3

逆に、創傷から滲出液がある場合は、滲出液をコントロールし、創傷周囲に触れないようにする必要がある。適切な被覆材は創床に水分を保持し、乾燥を防ぐ。

創縁を保つことは重要である。創縁がめくれている場合は切除する。そうすることで、創傷が治癒していることを示す最も明確なサインである上皮化 (epithelialization) が可能になる。

創傷の病因ごとの治療

静脈性潰瘍
静脈不全または静脈閉塞による静脈圧亢進は表在静脈を拡張させ、静脈壁の損傷、間質腔への体液の滲出、および静脈不全による浮腫を引き起こす。治療は、1. 静脈圧を下げる運動、2. 下肢の挙上、3. 動脈狭窄がないことを確認した上での静脈還流を改善するための適切な圧迫 (通常 30-40 mmHg) からなる(表 4)。

表 4. 静脈性潰瘍の治療
https://www.aafp.org/pubs/afp/issues/2020/0201/p159.html#afp20200201p159-t4

血管作用 (vasoactive effect) と抗炎症作用があるスタチン療法は、患者にとって有益であろう。早期静脈内焼灼術 (endovenous ablation) も有益である。

動脈性潰瘍
動脈性潰瘍の管理における最初のステップは、根本的な原因を治療することであり、これには血管バイパス、ステント、血管外科医による拡張術などが含まれる(表 5)。

表 5. 動脈性潰瘍の治療
https://www.aafp.org/pubs/afp/issues/2020/0201/p159.html#afp20200201p159-t5

十分な灌流を得る前の創傷ケアの目標は、感染を予防し、デブリードマンを最小限にすることである。血管インターベンション後は、TIME の原則に従う。

糖尿病性潰瘍
糖尿病性潰瘍の治療は、血糖値を最適にコントロールすることから始まる。糖尿病性足潰瘍の患者の多くは末梢動脈疾患も併発しており、その評価が必要である。糖尿病性足潰瘍の周囲には厚い皮膚硬結が存在するため、外科的デブリードマンが必要である。糖尿病性足潰瘍に対する好ましい治療法は、患部からの圧力を取り除くために足に負荷をかけないことである(表 6)。

表 6. 糖尿病性潰瘍の治療
https://www.aafp.org/pubs/afp/issues/2020/0201/p159.html#afp20200201p159-t6

これは特定の靴やその他の器具で達成できるが、推奨される方法は膝下非着脱式歩行用免荷装具 (total contact cast) である。糖尿病性足潰瘍の一部では高圧酸素療法 (hyperbaric oxygen therapy) が有効である。

褥瘡
褥瘡の局所治療はすべての慢性創傷に用いられる TIME の原則に従うが、圧力の再分配、免荷、マイクロクライメット (微気候とも呼ばれる, microclimate, 皮膚局所の温度·湿度のこと) に重点を置いている (表 7)。

表 7. 褥瘡の治療
https://www.aafp.org/pubs/afp/issues/2020/0201/p159.html#afp20200201p159-t7

よくある間違いは、免荷にドーナツ型クッションを推奨することである。これは患部への血流を妨げ、既存の潰瘍を悪化させたり、新たな潰瘍の発生リスクを高める可能性があるため、使用すべきではない。

元論文
https://www.aafp.org/pubs/afp/issues/2020/0201/p159.html
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