内分泌代謝内科 備忘録

人工甘味料の健康と疾病に対する影響

スクラロースとエリスリトール
ー甘いばかりではない
NEJM 2023; 389: 859-861

歴史的に、食習慣の改善や人工甘味料への置き換えによって砂糖の摂取量を減らすことで、代謝に有益な効果をもたらすと考えられてきた。いくつかの人工甘味料が食品添加物として食品医薬品局(および欧州食品安全機関)によって認可され、米国では砂糖代替品の売上がこの 10年の終わりまでに 100億ドルに達すると予想されている。

当初は人工甘味料はほとんど吸収されないので、砂糖の過剰摂取と比べれば代謝に対して有益な効果をもたらし、ヒトで安全に使えると考えられた。今日、人工甘味料は加工食品、清涼飲料水、ソース、キャンディーなどに広く使われている。

一方、人工甘味料は代謝に影響を与えない健康的な化合物であるという見方が覆されつつある。そのため、世界保健機関は最近、体重をコントロールするために人工甘味料を使用することに反対する暫定勧告を発表した。

最近の研究では、人工甘味料であるスクラロースとエリスリトールの使用は、自己免疫疾患のリスクを軽減する効果は認められるものの、免疫と心臓血管の健康に有害な影響を及ぼすことが明らかになった。

Zani らはマウスを用いた動物実験でスクラロースが T細胞免疫と免疫が関与する疾患に及ぼす影響を調べた。スクラロースに曝露されると、ex vivo および in vivo で CD4+ および CD8+ T 細胞の増殖と分化が阻害された。また、リステリア菌感染モデルマウスでは、スクラロースに曝露されると、感染が成立しやすくなった。これらの効果はサッカリンナトリウムへの曝露では認めなかった。スクラロースはまた、T細胞受容体の下流で細胞内カルシウム動員を減少させることも明らかになった。

次に彼らは、リンパ腫と膵臓癌のマウスモデルにおいて、スクラロースによる T細胞免疫抑制の効果を評価し、両モデルにおいて腫瘍浸潤 T細胞の減少と腫瘍増殖の増加を認めた。

一方、1型糖尿病モデルマウスでは、スクラロースの曝露は T細胞が関与する自己免疫に対して保護的にはたらき、1型糖尿病の発症が抑制された。

さらに、T細胞が関与する大腸炎モデルマウス(図1)では、スクラロース曝露により炎症細胞の数が減少した。この所見はスクラロース曝露による T細胞反応の抑制と矛盾しない。

健康なマウスでは、生後 12週までのスクラロース曝露は、摂餌量、体重、空腹時インスリン濃度、耐糖能に影響を与えなかった。

一方、Witkowski らは加工食品に砂糖の代用品として広く使われている(自然に存在する量に比べて過剰に使用されることが多い)天然の炭素数 4の糖アルコールであるエリスリトールの影響を調べた。

心疾患の診断を受けた 1157人の患者を対象として、あらかじめ特定の化合物を標的とせずにメタボローム解析を行ったところ、血中のエリスリトール(および他のポリオール)濃度と 3年以内の心血管有害事象のリスクとの関連が同定された(図1)。

図1. 人工甘味料の生体への影響
https://www.nejm.org/na101/home/literatum/publisher/mms/journals/content/nejm/2023/nejm_2023.389.issue-9/nejmcibr2303516/20230827/images/img_medium/nejmcibr2303516_f1.jpeg

この関連は、2件の独立したコホート研究で他の心血管の危険因子を調整した後の解析でも確認された。

実験的には、エリスリトールは in vitro で血小板を活性化すること、ヒトの血液およびマウスの頸動脈内での血栓形成を促進することが示されている。

さらに、エリスリトール入りの清涼飲料水を飲んだ健康なボランティアの血中エリスリトール濃度は、血小板を活性化させるエリスリトール濃度の範囲内に入っていた。

Zani、Witowski、および他の研究者によって報告された研究は、いくつかの人工甘味料の有益な効果についての認識を覆すものである。さらに、120人の健康な成人を対象とした最近の研究では、人工甘味料が血漿中のメタボロームだけでなく、口腔内および糞便中のマイクロバイオームにも影響を及ぼし、1日に通常摂取される量よりも少ない量で耐糖能を障害することが示された。

人工甘味料の種類が多いことと、人工甘味料が腸内細菌叢に影響を与えるかもしれないこと (それ自体が疾病リスクをもたらす可能性がある) は、人工甘味料が健康に与える影響についての問題を複雑にしている。しかし、最近の研究の結果を踏まえると、人工甘味料のヒトの健康と疾病に対する影響を評価する臨床試験が必要であると考えられる。

https://www.nejm.org/doi/full/10.1056/NEJMcibr2303516
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