高体温に関連する病態についての総説
Am Fam Physician 2019; 99: 482-489
高体温に関連する病態 (heat related illness) は高温環境曝された人が体温調節機能を障害された結果起こる連続的な症候群 (spectrum of syndromes) である。それは、熱性浮腫 (heat edema) から運動誘発性筋痙攣 (exercise-associated muscle clamps)、運動誘発性虚脱 (exercise-associated collapse) 、熱疲労 (heat exhaustion) 、命に関わる熱中症 (heat stroke) までを含んでいる。
運動選手や屋外作業員 (outdoor laborers)、兵員 (military personnels) は最もリスクが高い。さまざまな内的および外的要因 (基礎疾患、環境要因、薬物の使用、不十分な順応など) が高体温に関連する病態のリスクを高める。適切にリスクを認識し、治療を行うことが合併症を予防するのに役立つ。
高体温に関連する病態のうち、軽度のもの (熱性浮腫、運動誘発性筋痙攣など) に対する治療の多くは支持的なものであり、合併症は稀である。
熱疲労は低灌流 (cardiovascular hypoperfusion) をともない、直腸温は 40℃未満で、中枢神経症状をともなわないことが特徴である。体を軽く冷やし (mild cooling)、安静にし、水を与えること (hydration) が勧められる。
熱中症は直腸温 41℃以上で、多臓器の障害をともない、中枢神経障害をともなう緊急症である。氷水または冷たい水に浸すことが勧められる。30分以内に十分に冷却できれば、予後は良い。しかし、熱中症患者は急速に冷却できたとしても、ふつうは合併症が現れないことを確認するために入院が必要になる。
熱中症などの重度の高体温に関連する病態であると診断された患者は治療終了後少なくとも 1週間は身体活動を控えるべきであり、その後 2-4週間かけて徐々に身体活動を再開するべきである。
高体温に関連する病態を予防するためには、高体温に体を慣らすこと (acclimatzation) 、十分な水分摂取、極端に暑い時の活動を避けることが最も効果的である。
1. 危険因子
鬱熱 (heat accumulation) は環境と代謝、熱放散機構の障害が組合わさって起こる。体を十分に冷やすことができないと、深部体温は上昇し、さまざまな症状が現れる。危険因子としては、激しい運動、高温かつ/または高湿度環境への曝露、高温環境に慣れていないこと、体力がないこと、厚着や保護具などの装備がある。他には基礎疾患や薬物、アルコールの使用なども危険因子となる。
2. 疫学
米国の高校生アスリートにおける高体温に関連する病態の罹患率は 1.6/10万人·年あるいは 9000人/年であり、フットボールのシーズンに多い。
高体温に関連する病態は高校生アスリートの死因の 3位である。米国の軍隊では、2017年には高体温に関連する病態は 2163件起こり、463件の熱中症が起こった。罹患率としては前者は 1.41/1000人·年、後者は 0.38/1000人·年だった。罹患率は 2014年からゆっくりと上昇している。
2006-2010年に救急外来を受診した人のうち高体温に関連する病態だった人の割合は 0.6% (N =326,497) だった。このうち、75%が熱疲労、5.4%が熱中症と診断された。およそ 12%が入院し、死亡率は 0.07%だった。
3. 体温調節機構
視床下部は皮膚や内臓の受容体を活性化して熱を促し、深部体温を正常に保つ体温調節の中枢である。
体は伝導 (conduction)、対流(convection)、蒸散 (evaporatiok)、放射 (radiation) によって(周囲の環境と)熱を交換している。伝導は冷たいものに直わ接触れて熱を逃がすことである。対流は空気の循環によって体表の熱を逃がすことである。放射は電磁波 (赤外線) のかたちで熱を逃がすことである。蒸散は汗が液体から気体に変わる際に皮膚表面の熱を奪うことである。
気温が高く、代謝が亢進している場合は主に発汗によって熱を放散する。さらに、運動中は骨格筋の代謝需要を満たすために心拍出が増加する。内臓から末梢の血管に直接血液が流れるようになり (circulation is shunted from visceral organs to peripheral vessels) 、皮膚から熱が放散される。発汗によって循環血漿量が減少し、低灌流となると熱の放散が難しくなる。熱の産生量が放散量を超えると深部体温が上昇し続け、高体温に関連する病態のリスクが高まる。
4. 評価と治療
治療が遅れなければ高体温に関連する病態の死亡率は極めて低い。高体温に関連する病態が疑われる場合は速やかに活動を中止し、涼しい日陰または屋内に移動させるべきである。過剰な衣類や装備は脱がせるべきである。意識障害をともなう高体温では、熱中症を疑うべきである。熱中症からの生還は直ちに体を冷やせるかどうかにかかっている。理想的には屋外にいる時点から冷却を開始したい。深部体温の評価で最も信頼できる指標は直腸温なので、直腸温を測定するべきである。
高体温に関連する病態の症状と治療のまとめ
高体温に関連する病態の評価についてのアルゴリズム
4-1. 軽症の高体温に関連する病態
熱性浮腫、運動誘発性筋痙攣、あせも (heat rash or milaria rubra) は軽症の高体温に関連する病態である。
あせも
熱性浮腫は典型的には下肢の軟部組織の腫脹が特徴であり、下肢を挙上すると消退することが多い。利尿薬は治療の役には立たない。
運動誘発性筋痙攣は長時間の激しい運動後にしばしば起こる。病態生理はよく分かっていないが、神経筋の制御が障害されるからという説明を支持する証拠が集まりつつあり、脱水と電解質異常が原因とする説明よりも好まれるようになってきている。主に障害される筋肉は腹壁、大腿四頭筋 (quadricepts) 、腓腹筋 (gastrocnemius) である。治療は等張液の補給、ストレッチとマッサージである。
あせもは皮膚の汗腺が閉塞し汗が貯留する結果、紅斑性丘疹 (erythematous papules) や膿疱 (pastules) を来す。衣服で覆われている部位に起こりやすい。皮疹は涼しい環境に移動させ、過剰な衣服や装備を脱がせ、皮膚を乾燥させると軽快することが多い。
軽度の高体温に関連する病態は自然に治り、医療機関での治療が必要になることは稀である。症状が消えると遊びや仕事に復帰することが多い。
4-2. 中等度の高体温に関連する病態
運動誘発性虚脱 (過去には熱性失神 heat syncope と呼ばれた) はふつう激しい運動の直後に起こる。血管内容量低下による一過性の起立性低血圧、末梢の血管収縮、血管運動神経の緊張度の低下 (decreased vasomotor tone) が原因となって失神する。
支持的な治療が主である。患者は仰臥位 (supine position) にして下肢を挙上し、飲水を促す。熱疲労や熱中症の懸念がある場合は冷却する。症状は典型的には 15-20分で消退する。
運動誘発性虚脱は心原性失神と鑑別するのは難しいことがある。心血管疾患のリスク因子がある、高齢、失神前に胸部症状をともなっていた、あるいは回復が遅い場合は、活動を再開させる前に精査するべきである。
熱疲労は高体温に関連する病態の中では最も多く、気づかれずに放置された場合は熱中症に進行し得る。気温が高い中で激しい運動をすると、心拍出量の増加が追いつかず、前失神症状 (presyncopal symptom) 、倦怠感、消化器症状、大量の発汗 (diaphoresis) にも関わらず皮膚は冷たくべとべとの状態になり (? cold and clammy skin) 、深部体温は 38.8-40.0℃になる。意識は清明である。深部体温の値がいくつであろうと、意識障害をともなう場合は熱中症を疑わなければならない。
治療は深部体温が 38.3℃に下がるまで冷却 (暑い環境から移動させ、過剰な服を脱がし、霧吹きしながら扇風機の風を当てる)し、経口あるいは経静脈的に補液し、仰臥位にして下肢を挙上させる。
熱疲労が疑われる患者は救急部で評価と治療を行うべきである。検査では、血算、酸塩基平衡、尿検査、肝機能、凝固、クレアチニンキナーゼ、ミオグロビンを確認する。臨床的に特に必要がなければ画像検査はルーチンには行わない。検査で異常なく、状態が安定している患者は数時間後に帰宅させて良い。
来し得る合併症としては電解質異常 (高ナトリウム血症、低カリウム血症など) 、横紋筋融解症、軽度の肝細胞障害、急性腎障害がある。これらを認める場合は臨床的に熱損傷 (heat injury) と呼び、しばしば入院が必要になる。
4-3. 重症の高体温に関連する病態
熱中症は深部体温 40.5℃以上で、意識障害を呈する緊急症である。熱中症は古典的な (classic) 熱中症と労作性 (exertional) の熱中症の 2つに分かれる。
熱中症の病態生理は複雑であり、蛋白変性、エンドトキシンの放出、体温調節機能不全を基礎として、全身性炎症反応症候群 (systemic inflammatory response syndrome: SIRS) が起こり、多臓器不全や死亡につながる。臨床医は高体温と意識障害を呈する鑑別診断を挙げて精査するべきである。
熱中症の神経症状としては意識消失、せん妄、混乱、興奮、痙攣、昏睡がある。一部の患者は意識状態が悪化する前に一時的に意識が清明になること (lucid interval) がある。
体は暑いが、汗は出ていることも出ていないこともある。他に、低血圧、頻脈、頻呼吸を認める。高体温によって障害されやすい臓器は脳と肝臓であり、予後は高体温に曝されてた時間と関連している。
治療はまず気道を確保し、呼吸と循環を安定させること、そして速やかに体を冷やすことである。発症後 30分以内に冷却できた場合は死亡率はゼロになる。救急外来に到着した時点で、深部体温が 41℃を超え、高体温が続く場合は死亡率は 80%に達する (この数字はより死亡率の高い、非運動誘発性熱中症を含んでいることに注意) 。
熱中症の治療で最も効果的なのは冷たい水 (8-14℃)あるいは氷水 (2-5℃) に体を浸す (immersion) ことである。冷たい水に浸した場合、体温は 1分あたり 0.16-0.26℃下がり、氷水に浸し場合は 1分あたり 0.12-0.35℃下がる。冷房の効いた部屋に患者を置いた場合はふつう体温は 1分あたり 0.03-0.06℃下がる。急速に冷却している間は直腸温を持続モニターすることが多い。
冷たい水や氷水が手に入らない場合は常温の水 (20℃) に浸すことも選択肢のひとつになる。この場合、体温は 1分あたり平均で 0.11℃下がる。
どこまで体温が下がったら冷却を止めて良いかについてはエビデンスが欠けている。不整脈のリスクを最小化し、冷却しすぎによる低体温症を防ぐために、深部体温が 38.3℃まで冷却を続けることが推奨されている。だいたい 20分ほど冷却を続けると、この目標に達する。
太い動脈に濡れタオルやアイスパックを当てたり、扇風機の風を当てたり、霧吹きをしたりすることは効果的ではなく、熱中症の治療としては不適切である。しかし、病院外に患者がいる場合はより効果的な方法が利用できるようになるまではあらゆる方法を使って体を冷やすべきである。
もし、野外で効果的に体を冷やすことが可能であるなら 「冷却第一、搬送第二 cool first and transfer second (10-15分氷水か冷水に体を浸す)」で搬送前に冷却を開始し、搬送中も冷たい濡れタオルで冷却を続けることが適切である。戦場ではアイスシーツ (氷と一緒に冷やし濡れたシーツ) が搬送中の冷却法として好まれる。
最近、熱中症の軍人を搬送する際の冷却法として、4℃に冷やした輸液と常温の輸液+アイスシーツを比較した後ろ向き観察研究が報告された。冷たい輸液は入院期間を短縮し、クレアチニンの頂値を下げ、肝機能をより早く正常化させた。解熱剤 (antipyretics) やダンドロレン (dandrolene) は熱中症の治療には役立たない。
熱中症の中枢神経障害期 (neurological phase) を生き延びた患者では横紋筋融解症、急性呼吸窮迫症候群、コンパートメント症候群、肝障害、急性腎障害、電解質異常、播種性血管内凝固症候群が有意に多くなる。この場合、治療を続け、経過を観察するために入院が勧められる。
熱中症後に活動に復帰する最適な時期についてはエビデンスが十分ではないが、米国スポーツ医学会 (American Collage of Sports Medicine) は以下のような推奨を行っている。
·退院後少なくとも 1週間は運動をしない。
·退院1週間後に身体所見、血液·尿検査の再検を行う。診察で臓器障害が疑われる場合は画像検査も考慮する。
·活動を再開する際には、涼しい環境での運動から始め、順化のために 2週間以上かけて徐々に運動の時間、強度、高温環境への曝露を増やしていく。
·全力のトレーニング耐えられることを 2-4週間かけて確認したら、競技への参加を許可する。
·活発に活動できない場合や症状が戻って来る場合には、高温不耐になっていないか確認する。
5. 予防
高体温に関連する病態のほとんどは予防できる。国立競技指導者協会 (the National Athletic Trainer's Association) と米国スポーツ医学会はそれぞれ似たような高体温に関連する病態の予防についての推奨を発表している。重要な点は、高温環境に体をなれさせること、十分に水分を補給すること、体に密着しない服装 (wear loose fitting) をすること、明るい色の服を着ること、特に暑いときには活動を控えることである。活動を控えることができないなら、頻回に水分補給するようにし、計画的に休憩と回復の時間をとり、小まめに状態を確認することが勧められる。
監督者 (コーチや軍の教官など) は高体温に関連する病態の症状と初期治療についてよく知っておく必要がある。高体温に関連する病態が多い地域では、エビデンスに基づいた標準的治療を行えるように、搬送前、救急外来、入院治療を含めた一連の医療体制の整備を進めるべきである。
高齢者とホームレスにおいて高体温に関連する病態を予防するのは難しい。高齢者は特に暑い時期には運動によらない熱中症のリスクが高い。基礎疾患、薬物の使用、エアコンを使わないことが複合的な要因となっている。家族や世話人がまめに訪問してよく水を飲むように勧め、エアコンが使えるようになっているか確認し、高体温に関連する病態の症状や徴候がないか確認できるように支持する。
都市は予測できない熱波 (heat shock) に対してシェルターと水補給所の提供やホームレスに対する医療体制の整備などの計画を策定するべきである。
暑さ指数 (湿球黒球温度 wet bulb globe temperature meter) は手軽で利用しやすい。暑さ指数は気温、湿度、日射を取り入れた熱環境を評価するための指標である。これにより、トレーナーは酷暑を避けてイベントを計画することができる。
暑さ指数についての解説 (環境省)
暑さ指数のチャート
上記の暑さ指数のチャートは気温と湿度から作成されたものであり、日射は考慮されていない。そのため日向で活動する場合の有用性は限定的である。
https://www.aafp.org/pubs/afp/issues/2019/0415/p482.html