内分泌代謝内科 備忘録

ICU における栄養管理

クリティカルケア患者の栄養管理
BMJ 2025; 388: e077979

クリティカルイルネス (critical illness) は、健康と生活の質に壊滅的な影響を及ぼしうる複雑な状態である。栄養サポートは、栄養状態および筋機能の維持または回復を目的とする重症患者に対するケアの重要な要素である。

栄養サポートの構成要素に対する画一的なアプローチは、有益性が証明されていない。最近のランダム化比較試験は、従来の戦略に異議を唱え、重症の初期急性期における通常より低いカロリーおよびタンパク質摂取の安全性および潜在的有益性を支持している。集中治療室 (intensive care unit: ICU) 滞在中の最適な栄養サポートを定義するためには、さらなる研究が必要である。リスク評価ツールまたはバイオマーカーに基づく個別化栄養戦略は、厳格に設計された大規模、多施設、ランダム化比較試験においてさらに調査されるべきである。

重要なことは、栄養サポートはきわめて重要であるが、重症患者の回復を促進するには十分でない可能性があるということである。したがって、最大の効果を達成するには、患者の回復過程全体を通して、個別化された栄養サポートと、多要素からなり全人的なケアプログラムにおける早期および長期の身体的リハビリテーションとの併用が必要であろう。

はじめに
クリティカルイルネスとは、生命を脅かし、機械的人工呼吸などの生命維持のための ICU 入室を必要とする重要な臓器機能障害と定義される。クリティカルケア患者は、炎症、食欲不振、消化管機能障害、代謝障害を伴い、タンパク質の減少、筋力の消耗と衰弱、身体機能の障害を引き起こす顕著な異化が生じ、それが何年も続くことがある。多くの生存者は集中治療後症候群 (post ICU syndrome: PICS) を経験するが、これは ICU 入室後に生じた衰弱、認知機能障害、筋骨格系障害、虚弱、疲労、内分泌障害、気分障害をさまざまに組み合わせたものである。

集中治療後症候群
https://www.jsicm.org/provider/pics.html

このように、クリティカルイルネスは、患者や親族にとって並外れた脆弱性、依存性、変化をもたらす時期なのである(図 1)。

図 1. クリティカルイルネス患者がたどる経過
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栄養サポートは、エネルギーおよび栄養素を供給し、タンパク質合成に必要なビタミンおよび微量元素の欠乏を予防し、タンパク質および筋肉量の喪失を最小限に抑えることにより、クリティカルイルネスの有害な影響を打ち消すように設計された生命維持戦略の不可欠な要素である。

クリティカルイルネス患者の栄養サポートに関する知識は、小規模のランダム化比較試験(randomized controlled trial: RCT)およびエビデンスレベルの低い観察研究に依存してきた。第 1 に、低カロリーおよび低タンパク質摂取は、特にクリティカルイルネスの急性期(すなわち、通常 ICU での最初の 1 週間)に転帰を改善する可能性がある(図 1)。第 2 に、栄養補給だけでは筋肉量と機能を回復させるには不十分である可能性がある。第 3 に、多臓器不全患者において、栄養剤 (pharmaconutrients) は有益性を示していない(図 2)。

図 2. クリティカルイルネス患者の早期の異化亢進に対する栄養介入の影響
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本総説の目的は、重症患者における栄養サポートに関する現在のエビデンスについて考察し、最近の研究から得られた新たな知見を強調し、重症患者における栄養およびリハビリテーションの進化した概念を探求することである。この総説は、一般内科医、家庭医、ICU 医療専門家などの研究者および臨床医を対象としている。

疫学
世界中で毎年数百万人の患者が ICU に入院しているが、そのほとんどが食事ができないため栄養補給が必要である。これらの患者における栄養不良の有病率は 38~78%である。サルコペニアは一般的であり、転帰の悪化と関連している。侵襲的な機械的人工呼吸および昇圧を必要とする重症の重症疾患のサバイバーでは、25~100%が ICU で筋力低下を来し、機能障害、回復の遅れ、および QOL の低下がみられ、これらは数ヵ月~数年間持続することがある。ストレス性異化の影響を予防かつ/または是正するための栄養サポートの有効性は依然として不明である。

情報源と選択基準
本レビューのデータ源として、PubMed データベース、著者のライブラリ、ガイドラインおよび画期的な論文の参考文献リストを使用した。PubMed をキーワードおよびキーワードの組み合わせで検索し、2000 年から 2023 年までに発表された ICU における栄養サポートに関する関連論文を特定した。査読付き学術誌に掲載された英語の論文のみを選択した。以下のキーワードを使用した:critical illness, critically ill, intensive care unit, intensive care, organ support, mechanical ventilation, enteral nutrition, enteral feeding, parenteral nutrition, parenteral feeding, nutritional assessment, malnutrition, energy need, calorie intake, energy intake, protein needs, protein intake, rehabilitation, ICU acquired weakness, gastric feeding, jejunal feeding, intolerance, micronutrients, and vitamins. 大規模データベースの後ろ向き観察研究、前向きコホート研究、ランダム化試験、メタアナリシス、システマティックレビュー、ガイドライン、プロトコールを検討した。観察栄養研究ではバイアスのリスクが高いことを考慮し、患者中心の主要臨床アウトカムおよび公に事前登録された主要臨床アウトカムに関する治療効果を評価するのに十分な検出力を有する RCT が利用可能な場合は、それを優先した。2000 年以前に発表された主要研究も、引用回数が多い場合、最近のデータまたは概念の理解に役立つ場合、または同じ主題に関するより最近の研究が追随していない場合は、対象とした。

栄養ニーズの評価
重症患者は、急性期と回復期の 2 つの段階に大別できる(図 1)。急性期は異化作用が顕著で、通常 ICU での最初の 1 週間が終わるまで続く。対照的に、回復期は筋肉量と機能の回復を伴う同化作用が特徴である。しかし、異化期から同化期への切り替わりを明確に特定するための臨床的または生物学的に関連するマーカーはまだ同定されていない。負のエネルギーバランスを伴う栄養不良は、創傷治癒障害、免疫機能障害、二次感染、筋肉喪失の増加、代謝障害の悪化、および生存率の悪化と関連している。それにもかかわらず、重症時の最適な栄養補給は依然として不明確である。

重症急性期における異化を最小限に抑えるために必要なエネルギーおよびタンパク質の摂取量はどのくらいか
連続大腿超音波スキャンを用いた研究では、少なくとも ICU に入室して 10 日目まで、断面の筋肉量が毎日 1~2%減少することが実証された。筋消耗の悪化と関連する因子は、機能不全臓器の数が多いこと、血清 C 反応性蛋白 (C-reactive protein: CRP) 濃度が高いこと、および驚くべきことに蛋白質摂取量が多いことであった。16 人の重症患者を対象とした代謝調査により、グルコースまたは脂質の静脈内投与では、ICU での最初の 1 週間における内因性グルコース産生およびタンパク質の酸化を抑制できないことが明らかになった。アミノ酸動態に関するランダム化クロスオーバー研究では、持続的静脈-静脈血液濾過 (continuous veno-venous hemofiltration) に依存している 12 人の患者にグルタミンを静脈内投与した。血漿中のグルタミン濃度は回復したが、筋のグルタミン放出は減少せず、同化抵抗の存在が確認された。EPaNIC(evaluation Early versus late initiation of Parenteral Nutrition to supplement insufficient enteral nutrition In Critical illness)RCT に登録された 122 人の患者のサブグループでは、ICU での最初の 1 週間後に大腿筋生検で評価したところ、早期のタンパク質、グルコース、脂質の静脈内補充は、筋原繊維の異化
経路の制御を弱めることも、合成を抑制することもなかった(図 2)。 したがって、ICU での最初の 1 週間の累積エネルギー負荷が平均 9000 kcal を超える群間差にもかかわらず、顕微鏡的筋線維サイズおよび巨視的筋体積の損失は、経静脈栄養開始が早い患者と遅い患者で同程度であった。

クリティカルイルネスの初期の栄養必要量を決定する疫学的根拠
機械的人工呼吸を受けている患者(n = 2772)を対象とした大規模観察研究により、エネルギー摂取量が多いほど 60 日目の死亡率が低いこと(オッズ比 0.76;95%信頼区間、0.61~0.95;1,000 kcal/日増加あたり P = 0.01)、およびタンパク質摂取量が多いほど生存率が高いこと(調整オッズ比 0.84;95%信頼区間、0.74~0.96;30 g タンパク質/日増加あたり P = 0.008)と関連していることが明らかにされた。一方、経静脈栄養を受けている ICU 患者 200 人を対象とした前向き縦断研究では、過剰栄養(36 v.s. 31 kcal/kg/日)が血流感染と関連していた(P = 0.003)。しかし、さまざまな数学的モデルに基づくいくつかの大規模 RCT の再解析では、累積エネルギーまたはタンパク質投与量は、合併症率および死亡率と正、負、または中立の関係にあった。さらに、EPaNIC 試験の事後解析再解析では、エネルギーおよびタンパク質の過剰投与による潜在的危害の観察された閾値は、計算された目標値の 50%未満であった。重要なのは、観察データの解釈が適応バイアス (indication bias) によって妨げられることである。重症度が高い患者かつ/または臨床経過が好ましくない患者は、しばしば摂食が困難であるか、逆に、より積極的な栄養介入が行われる。さらに、不死時間バイアス (immortal time bias) も起こりうる:ICU での経時的な摂食の改善により、栄養摂取量の増加が ICU での滞在期間の延長および ICU 生存率の上昇の原因ではなく結果となることがある。これらのバイアスは、観察研究で示唆された栄養サポートの治療効果が RCT で確認されていない理由を説明しうる。臨床実践に信頼できる指針を提供できるのは RCT のみである。

エネルギー、タンパク質、またはその両方の異なる投与量を比較した RCT に基づく栄養必要量

エネルギー投与量に関する RCT
PermiT(Permissive Underfeeding versus Target Enteral Feeding in Adult Critically Ill Patients)は内科系 ICU、外科系 ICU、または外傷の ICU 患者 894 人を対象とした RCT で、早期の等窒素エネルギー制限(許容的過小栄養)と標準栄養(835 ± 297 v.s. 1299 ± 467 kcal/日、P <0.001;推定必要カロリーの 46 ± 14%v.s. 71 ± 22%、P <0.001)を最長 14 日間比較した。90 日目の死亡率という主要アウトカムおよび副次的な臨床アウトカムは、両群間で差がなかった。TARGET(Augmented versus Routine Approach to Giving Energy)RCT では、エネルギー密度の高い経腸栄養剤(1.5 kcal/mL)による等窒素高カロリー栄養と標準栄養を最長 4 週間(1863 ± 478 v.s. 1262 ± 313 kcal/日)比較したが、ICU に収容された 3,957 人の混合患者において生存率または ICU 依存度に差を認めなかった。まとめると、推定目標値の 40%、70%、または 100%の等窒素エネルギー摂取を重症の初期段階から開始し、最大 4 週間継続しても、質の高い RCT では生存率を改善しなかった。したがって、早期から目標とする栄養投与量を達成することを支持するエビデンスはない(図 3)。

専門家の中には、上記の所見は両群のエネルギー目標値が体重、年齢、性別、その他の臨床的特徴に基づく計算によって推定されたためであるとしている者もいる。酸素消費量、二酸化炭素産生およびいくつかの生理学的仮定に基づく間接熱量測定により、真の安静時エネルギー消費量をより正確に推定できる可能性がある。間接熱量測定の実施は困難であり、その結果は、高い吸気酸素分率、空気漏れのある胸部チューブの存在、機械間の差、およびその他の要因によって混乱する可能性がある。1,171 人の患者を対象とした後ろ向き観察研究のデータから、測定された安静時エネルギー消費量に近いエネルギー投与量を与えることで転帰が改善する可能性が示唆されている。しかし、単一施設の EAT-ICU(Early goal-directed nutrition in ICU)RCT では、間接熱量測定および尿中窒素測定を使用して主要栄養素の投与量を決定したが、主要アウトカムである 6 ヵ月後の身体機能、および副次臨床アウトカムのいずれにおいても有意な改善とは関連しなかった。さらに、経験豊富な医師であっても、ICU で間接熱量測定をルーチンに実施することは困難である。間接熱量測定による栄養誘導を評価した国際的な Tight Calorie Control(TICACOS)RCT は、間接熱量測定の経験がある 7 つの ICU で 417 人の患者が登録されたのみで、6 年後に早期に中止された(10 人/施設/年)。 しかし、最近の間接熱量測定技術の向上を考慮すると、エネルギー必要量の推定における間接熱量測定の有用性をさらに調査すべきだろう。

蛋白質投与量に関する RCT
国際的なガイドラインでは、1.2~2.2 g/kg/日のタンパク質投与量が推奨されているが、支持するエビデンスは弱い。栄養リスクが高い重症患者 1,301 人(EFFORT-Protein RCT)において、ICU からの退院または ICU での 28 日目まで、経腸タンパク質または経静脈アミノ酸供給、または両方の供給を追加することにより、高タンパク質用量の効果が検証された。タンパク質/アミノ酸の平均摂取量は 1.6 ± 0.5 v.s. 0.9 ± 0.3 g/kg/日であった(図 3)。ICU 依存期間も 60 日目の生存率も両群間で差はなかった。高タンパク質/アミノ酸群では血中尿素濃度が高く、タンパク質の異化がより進んでいることが示唆され、以前の RCT と一致していた。

エネルギーとタンパク質の投与量に関する RCT
EDEN の RCT では、急性肺損傷 (acute lung injury) 患者を対象に、エネルギーとタンパク質を大幅に制限した栄養補給(400 kcal および 0.3~0.4 g タンパク質/kg/日、すなわち標準目標の約 25%)を最長 6 日間行った結果、早期の完全栄養補給(1300 kcal, たんぱく質 0.96~1.28g/日、つまり標準目標の約80%) と同等の臨床転帰とより少ない消化器不耐症 (gastrointestinal intolerance) を認めた。重要なことは、174 人の生存者における 6 ヵ月後と 12 ヵ月後の詳細な身体機能検査と認知機能検査、および 525 人の 12 ヵ月後の生存者における自己申告による身体機能検査(36 項目からなる簡易書式(SF-36))により、栄養補給の有害性も有益性も明らかにされなかったことである。対照的に、NUTRIREA-3 RCT に含まれる昇圧剤を必要とする 3,044 人の機械的人工呼吸患者において、最初の 1 週間におけるエネルギーおよびタンパク質の制限(6 kcal/kg および 0.2~0.4 g/kg/日)v.s. 25 kcal/kgおよび 1.0~1.3 g/kg/日)は、ICU 依存および人工呼吸器依存を短縮し、嘔吐、下痢および腹部虚血の発生率を減少させた。同様に、EPaNIC RCT(n = 4,640)では、重篤な疾患の最初の週に早期の経静脈的補助栄養を差し控えることで回復が促進され、ICU 入室後の衰弱 (ICU acquired weakness) およびその他の病的状態が減少した。細胞の完全性および機能を維持するために重要なハウスキーピング機構であるオートファジーの阻害は、重篤な疾患の早期における高カロリーおよび高タンパク質供給の潜在的な有害効果を説明しうる。オートファジーの喪失は、早期の経静脈栄養補給による ICU 入室後の筋力低下の発生率の上昇を引き起こす可能性がある。この仮説は、さらなる研究に値する。クリティカルイルネスの急性期における食欲不振は、20 年前に適応機序として示唆されており、早期のエネルギー制限が急性期の炎症反応による有害な代謝効果を制限し、おそらくは食物由来の微量栄養素の利用可能性を低下させることによって病原性微生物の増殖も抑えている。最後に、クリティカルイルネスの最初の週に経腸栄養不耐性のために早期に経静脈栄養を行わなかった患者において、厳格な血糖コントロールは、血糖コントロールを行わなかった場合と比較して、ICU 依存の期間および死亡率に影響を及ぼさなかった(TGC-Fast RCT、n = 9,230)。この結果は、低カロリー摂取(最初の 1 週間は 400〜800 kcal/日)であったこと、およびその後の高血糖の程度が以前の報告より軽かったことによると考えられる。

まとめると、ICU では数週間は中等度のエネルギーとタンパク質の制限は安全であると思われ、新たなデータは、重症の急性期にエネルギーとタンパク質をそれぞれ 6 kcal/kg/日と 0.3-0.4 g/kg/日に制限することで、回復を促進し合併症を減少させることができることを示している。

ビタミン、微量元素、薬物栄養素
重症時には、血清中のグルタミン、成長ホルモン、ビタミン D、セレン、ビタミン C の濃度が低下する。観察研究では、これらの減少が予後不良につながるという強い関連性が示され、パイロット臨床試験では有望な結果が得られているにもかかわらず、十分な検出力を有する RCT では、是正的介入は有益でも有害でもなかった。これらの予期せぬ結果は、血清レベルが欠乏を評価する上で信頼性に欠けるか、あるいはレベルの低下が重症急性期の適応的なものであることを示唆している。アルギニン、オメガ 3 脂肪酸、抗酸化剤などの他の栄養剤は、免疫反応を調節し、過剰な炎症を抑制することで、臓器障害を予防したり、回復を促進したりすることが示唆されている。しかし、多臓器不全の重症患者を対象とした RCT では、これらの栄養素の供給による利益は示されなかった。

栄養状態および栄養サポート効果の評価
栄養リスク評価用のツールには、主観的グローバル評価 (Subjective Global Assessment)、ミニ栄養評価 (Mini Nutritional Assessment)、栄養不良の臨床的特徴 (Malnutrition Clinical Characteristics)、および栄養不良の普遍的スクリーニングツール (Malnutrition Universal Screening Tool) などがある。ICU に入院していない患者を対象に開発および検証された栄養リスクスクリーニング2002(Nutrition Risk Screening 2002: NRS-2002)は、年齢、食物摂取量、体重減少、BMI、および疾患の重症度を組み込んでいる。これは、RCT に登録された 8,944 人の患者の疾患の重症度、入院前の栄養摂取量、および BMI を比較することにより開発された。スコアが 5 を超えると、ICU での死亡率が増加した。NUTRIC(Nutrition Risk in the Critically Ill)スコアは、ICU に入院中の 597 人の患者の観察データに基づいている。スコアが高いほど 28 日目の死亡率が高いことと関連していたが、この関連はカロリー目標値を満たしている患者では弱かった。修正 NUTRIC(mNUTRIC)スコアは、炎症マーカーである IL-6 を除外したもので、このマーカーを含めても予測能は改善しない。mNUTRIC スコアは、年齢、Acute Physiology and Chronic Health Evaluation II スコア、Sequential Organ Failure Assessment スコア、併存疾患の数、入院から ICU 入室までの日数に依存している。これらの基準は、栄養状態よりもむしろ疾患の重症度に関連している。妥当性が確認されたさまざまなツールを使用した研究の系統的レビューによると、栄養不良は ICU での入院期間の延長、ICU への再入院、感染症の高い発生率、および病院死亡率の上昇と独立して関連していた。

栄養不良の評価に使用される BMI、中上腕周囲径、および上腕三頭筋皮下厚などのさまざまな身体測定パラメータは、感度および特異性に限界がある。例えば、BMI は細胞量を確実に反映しておらず、重症時にみられる体液シフトの影響を受ける。アルブミン、プレアルブミン(トランスサイレチン)、トランスフェリンおよびレチノール結合タンパクなどの血清バイオマーカーは、栄養状態の指標としてしばしば用いられる。しかし、これらのバイオマーカーは、急性感染症または炎症時には必ず減少し、肝疾患またはタンパク喪失性疾患などの非栄養性因子の影響を受ける可能性があるため、栄養サポートに関する決定の指針としては役に立たない。

最近、超音波検査またはコンピュータ断層撮影により評価される筋肉量が、栄養状態の指標として調査された。システマティックレビューでは、コンピュータ断層撮影法を用いて定義された骨格筋量の低さは、ICU 患者の 50.9%に認められ、短期死亡率と関連していた。生体電気インピーダンスなどの身体組成を測定する他の方法は、重症患者における予後予測に役立つ可能性があるが、栄養介入の指針としての役割は依然として不明である。

臨床での実践を検討する前に、栄養バイオマーカーおよびリスクスコアの有用性を RCT で示し、栄養療法に反応する患者とそうでない患者を識別する必要がある。PermiT の RCT の post hoc 分析では、驚くべきことに、低プレアルブミンだけが栄養制限やの潜在的有益性を予測した。mNUTRIC スコア、トランスフェリン、リン酸塩、尿中尿素窒素、窒素バランス、および BMI は、低栄養許容と標準栄養の反応が異なる患者を同定するものではない。同様に、EPaNIC(BMI、NRS-2002、外科的 v.s. 内科的緊急入院、APACHE II スコア、敗血症)、EFFORT(BMI、mNUTRIC、敗血症)、またはTARGET(BMI)の RCT において、以前栄養リスクと関連づけられた人口統計学的特性は、栄養介入に対する反応の異なるサブグループの同定に役立たなかった。栄養リスクが高い群および栄養リスクが低い群(mNUTRIC ≧5、n = 106 および mNUTRIC<5、n = 44)に層別化した後にランダム化した ICU の重症患者において、14 日目および 28 日目の生存率、人工呼吸器、ICU、または病院依存に関して、栄養補給と完全栄養補給の間に差は示されなかった。NRS-2002、mNUTRIC、または 70 歳以上の年齢に基づいて栄養リスクが高いとみなされた患者における 2 年生存率および SF-36 身体機能は、EPaNIC RCT の大規模追跡研究(n = 3,292)において、1 週間の経静脈栄養の差し控えによって損なわれなかった。

まとめると、重症患者における栄養サポートの指針となる有効なツールが不足している。現在利用可能な栄養リスク測定法はいずれも、ICU において栄養サポート戦略の恩恵を受けられる患者を同定できていない。新たに発表された SCREENIC スコア (6 つの基本的な臨床的特徴に基づいて評価) や最近推進された Global Leadership Initiative on Malnutrition(GLIM)基準は、ICU でこれらのツールを使用する前に、RCT で性能が異なるかどうかを調査する必要がある。

死亡率や ICU 依存度だけでなく、患者中心の機能的アウトカムを用いて栄養介入を評価することは重要である。ICU における筋力低下は、覚醒し協力的な患者では Medical Research Council Sum Score によりベッドサイドで評価され、長期的な合併症率を予測する。しかし、死亡や ICU からの退室といったイベントの存在は、このような評価を複雑にする。経静脈栄養に依存している ICU 患者 119 人に対し、アミノ酸を 1.2 g/kg を投与した場合、0.8 g/kg 投与した場合と比較して早期の握力が改善した。しかし、おそらく偶然によるものであろうが、低タンパク群で死亡率がわずかに低かったことを補正すると、握力の増加は有意ではなかった。モニタリングおよび栄養指導に生物学的反応 (biological response) を用いることは自明のことのように思われるが、臨床実践はもちろんのこと、RCT 中に実施するのは困難であり、解釈ミスのリスクがある。表 1 に、侵襲的な機械的換気を行っている患者における栄養サポートの重要な側面を示す。

表 1. 機械的換気を行っている患者における栄養サポートのポイント

栄養補給のルート
ICU における経腸栄養
経腸栄養 (enteral nutrition) は、食事ができないが、消化管が機能している患者における栄養サポートのための好ましい治療法である。経腸栄養は通常、ポンプを使用して経鼻胃管から持続的に投与される。副鼻腔炎および粘膜損傷のリスクを最小限に抑えるには、細径チューブ(14 フレンチ以下)が望ましい。経腸栄養の投与を開始する前に、先端が胃の中央に来るようにチューブを留置することを確認する必要がある。チューブの位置は、胸部 X 線写真、気腹法、経口 CO2 測定、pH 検査、超音波検査で確認できる。盲検下チューブ挿入後の胸部 X 線撮影は最も信頼性の高い方法であり、依然としてゴールドスタンダードである。等浸透圧、等カロリー、正常タンパク質の高分子製剤は必要な栄養素をすべて供給するため、少なくとも重症の最初の 1 週間は望ましい選択肢である。ICU 患者を対象とした観察研究およびランダム化研究の最近のメタアナリシスでは、食物繊維 (dietary fiber) を含む経腸栄養液は、他の有害事象を増加させることなく、下痢の発生率および重症度の低下と関連することが示された。エビデンスの強さは低いまたは非常に低いと評価され、すべての研究はサンプルが少なかったため、食物繊維を含む経腸栄養製剤について十分な検出力を有する質の高い RCT によってこの所見を確認すべきである。カロリーやタンパク質の高い製剤など、その他の製剤は明確な効果を示しておらず、胃腸合併症を増加させる可能性がある(表 2)。

表 2. ICU 入室患者における経腸栄養を改善させる 10 の推奨
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ほとんどの患者において、経腸栄養は、所定のエネルギー摂取量を達成するのに必要な流量で安全に開始することができる。24 時間周期で栄養ポンプを使用して経腸栄養を持続的に投与することは、一般的な方法である。持続栄養の目的は、耐容性を改善し、誤嚥のリスクを減少させることである。しかし、間欠的投与またはボーラス投与は、持続栄養で遭遇する頻繁な中断を回避できるため、栄養供給においてより生理的で効果的である可能性がある。間欠的経腸栄養はまた、タンパク質合成を刺激する上で、連続栄養よりも効果的である可能性がある。連続栄養と比較して、間欠栄養(およびおそらくさらに大きな程度での間欠的絶食)は概日リズムのリセットを助け、消化管の運動、胆嚢および膵の機能、および栄養吸収を調節する食後消化管ホルモンの分泌を刺激する。しかしながら、最良の経腸栄養タイムスケジュールに関する質の高い RCT からのデータは依然として限られている。第 2 相単盲検 RCT(n = 92)では、間欠的経腸栄養は、栄養目標(25 kcal/kg/日および 1.2 g タンパク質/kg/日)の達成度は改善されたものの、持続的経腸栄養と比較して筋肉量(主要アウトカム)の維持とは関連しなかった。ICU 患者を対象とした観察研究およびランダム化研究の最近のシステマティックレビューでは、持続的経腸栄養と間欠的経腸栄養は、ほとんどのアウトカムについて臨床的に関連する差を示さなかった。

合併症
重症患者における早期経腸栄養の最も一般的な合併症は、上部消化管不耐症 (upper gastrointestinal intorelance) であり、これは胃運動低下および胃排出遅延に関連するが、経腸栄養不耐症の定義は研究によって異なる。胃排出遅延は、胃残量の増加、胃食道逆流、上気道への栄養剤の逆流、かつ/または嘔吐につながる可能性があり、人工呼吸中の患者の最大 40%で発生する。ある RCT では、胃残量をモニタリングしなかった場合、嘔吐が多くなるにもかかわらず、人工呼吸器関連肺炎のリスクは増加しなかったことから、胃残量と人工呼吸器関連肺炎との関連はおそらく因果関係ではないことが示されている。経腸栄養不耐性を管理するには、経腸栄養を中止するか、または大幅に減らす必要がある。メトクロプラミド (metoclopramide) またはエリスロマイシン (erythromycin) などの運動促進薬は、経腸栄養不耐症を有する重症患者において胃排出を増加させ、嘔吐を減少させることが示されているが、質の高いエビデンスが不足しているため、その使用については依然として議論の余地がある。したがって、運動促進薬は、安定期にあり、腸閉塞の証拠はないが不耐症が持続する患者においてのみ適切である可能性がある。

経幽門栄養 (transpyloric feeding) または小腸栄養 (bowel feeding) は、重症患者の潜在的に運動低下した胃をバイパスできるという理論的利点がある。ICU 患者を対象とした最近の 2 件の RCT のシステマティックレビューおよびメタアナリシスでは、経幽門栄養は胃経管栄養と比較して、肺炎発生率の低下およびカロリー供給量の増加との関連が示唆されたが、侵襲的機械的換気期間、ICU 滞在期間、死亡率などの他の臨床転帰に関する有益性は示されなかった。したがって、経幽門栄養は通常、胃栄養に対する不耐性が持続し、証明されている患者にのみ行われる。

経鼻胃管 (nasogastric tube) または経口胃管 (orogastric tube) による長期栄養補給は、院内副鼻腔炎、鼻および食道潰瘍、胃食道逆流、院内肺炎などのいくつかの合併症と関連している。これらの合併症は、経皮的胃瘻造設術 (percutaneous gastrostomy) のほうが少ない可能性があり、経皮的胃瘻造設術はまた、栄養補給の中断率の低下および患者の快適性の向上とも関連している。その結果、経皮的胃瘻造設術は、長期の栄養サポート(30 日超)が必要と予想される患者に推奨されている。しかしながら、嚥下障害または嚥下困難があり、栄養サポートの適応がある成人における RCT のシステマティックレビューでは、経鼻腸管栄養と経皮的胃瘻造設術による栄養補給の間で死亡率、合併症、肺炎、栄養状態に差はみられなかった。 ICU の患者では、この 2 つの経路を比較した信頼できる研究はない。胃瘻からの経腸栄養は、経鼻胃管に関連した不快感や合併症を経験し、十分な食事がとれず、そのため長期の人工栄養が必要と予想され、栄養リスクが高く、長期療養施設への退院が予想される重症生存者に対して考慮できる。 この戦略は、COVID-19 のパンデミックの際にも用いられた。

処置前後に経腸栄養が中断されることは多く、しばしば正当化されず、栄養不足につながることがある。専用の経腸栄養プロトコールは、処置中の経腸栄養中断を最小限に抑えるのに役立つ。以前の観察研究では、腹臥位 (prone positioning) または体外膜酸素化 (extracorporeal membrane oxygenation: ECMO) を必要とする患者における経腸栄養不耐性の高い有病率が証明されている。現在までのところ、これらの患者集団において経静脈栄養よりも経腸栄養を優先することを決定的に支持する高レベルのエビデンスは存在しない。抜管前に、経腸栄養はしばしば 4~6 時間停止される。しかし、クラスターランダム化比較試験では、抜管まで経腸栄養を継続した場合でも、胃管持続吸引を行いながら 6 時間の絶食後に抜管した場合と比べて 7 日間抜管失敗率は劣らないことが証明された。そのため、抜管前に絶食にするプラクティスについては疑問視されている。さらに、この試験で経腸栄養を継続した患者は、より早く抜管され、ICU での滞在期間がより短かった。

ICU における経静脈栄養 (parental nutrition)
経静脈栄養は、腹部手術後を含む長期(1 週間以上)の消化管機能障害を有する患者に適応となる。多室バッグに包装された市販の三元混合栄養剤 (ternary admixture) は、3 大栄養素をすべて提供しており、配合非経口栄養製剤 (compounded parental nutrition formulation) の代わりに使用されることが多くなっている。配合非経口栄養製剤の理論的な利点は、個々の患者のニーズに合わせて改良されることである。すぐに使用できる三元製剤には、操作の軽減、作業負担の軽減、および患者のリスクの軽減という理論的利点がある。標準化された三元栄養製剤は、電解質の有無にかかわらず、末梢静脈投与および中心静脈投与用に設計された製剤で入手可能である。ただし、これらの溶液にはビタミンおよび微量元素が欠乏していることが多いため、各患者の必要性に応じて個別に供給する必要がある。経静脈栄養のみで栄養補給を行っている患者では、高カロリーおよび高タンパク質摂取のために高浸透圧溶液を使用する必要があり、静脈損傷かつ/または血栓症のリスクを最小限に抑えるために、中心静脈カテーテルまたは末梢挿入中心静脈カテーテル (peripherally inserted central catheter) を介して投与すべきである。

ICU患者における栄養経路選択の基準
実験的および観察的臨床研究では、経腸栄養が免疫機能および消化管の組織構造と機能の維持に及ぼす有益な効果を支持している。経腸栄養は、ICU 入室後 24~48 時間以内の早い時期に開始すると、利益が最大になる可能性がある。早期の経腸栄養は、多臓器不全および院内感染率、ICU および入院期間、死亡率の減少などの転帰の改善と関連している。低レベルのエビデンスを提供する多数の観察研究およびメタアナリシスにより、経静脈栄養と比較した経腸栄養の有益な効果が示唆されている。経腸栄養に不耐性の患者において、重症の最初の 1 週間に 25~35 kcal/kg/日を達成するように追加される補助的な経静脈栄養は、ICU での入院期間の延長および感染率の上昇と関連しており、急性期には避けるべきである。両群とも多くの患者が経腸栄養と経静脈栄養の両方を受けたため、この研究結果の解釈が妨げられた。経腸栄養に対する相対的禁忌を有する患者を早期経静脈栄養または標準ケアのいずれかにランダム化した場合、主要転帰である 60 日目の死亡率に差がないことを明らかにした。SPN 試験は、305 人の患者を対象に間接熱量測定により経静脈栄養を評価し、経腸栄養単独と比較して患者中心の転帰に影響がないことを明らかにした。主要アウトカムは、8 日目から 28 日目までの院内感染であり、それ以前の感染は考慮されていないため、解釈に課題がある。

最近の 2 件の大規模ランダム化試験、CALORIES および NUTRIREA-2 では、重症の急性期における経腸栄養と経静脈栄養が比較され、主要アウトカムである死亡率、および二次感染や入院期間などの主な副次的アウトカムに差はみられなかった。ショックに対して侵襲的な機械的換気および血管作動薬が投与された患者を含む NUTRIREA-2 では、経腸栄養による腸虚血のリスク増加に関する懸念が提起された。その結果、最近の米国のガイドラインでは、重症の急性期には経静脈栄養または経腸栄養のいずれかを推奨し、個別の患者評価および転帰の注意深いモニタリングの必要性を強調している。急性期以降(すなわち、NUTRIREA-2 試験のようにショックが消失した場合)には、禁忌のない患者では経静脈栄養よりも経腸栄養を優先すべきである。

Refeeding-RCT、SPN 試験、PermiT、EPaNIC および他の多くの RCT のように、主要栄養素が経静脈的栄養または経腸栄養のいずれで提供されるかに関係なく、少なくとも推奨 1 日許容量と同量のビタミンおよび微量元素を十分に投与しなければならない。継続的な腎代替療法を受けている患者、皮膚および軟部組織の病変が拡大しているために入院している患者、または微量栄養素の損失が大きい他の因子を有する患者では、高用量の投与が考慮されるべきである。約 1500 kcal/日を供給する経腸栄養には、推奨される 1 日の許容量をカバーするのに十分な微量栄養素が含まれている。経静脈栄養に加えて微量栄養素を静脈内投与するためのプロトコールは、微量栄養素間の潜在的相互作用、安定性、および日光への暴露を考慮すべきである。

栄養サポートのタイミング
経腸栄養のタイミング
クリティカルイルネスは、透過性の亢進を伴う萎縮性腸粘膜変化、腸免疫機能障害、および栄養吸収の低下など、消化管の構造的および機能的な複数の変化をもたらす。これらの変化により、毒性メディエーターの移行が可能になり、遠隔臓器障害および多臓器不全の一因となる。動物モデルおよびヒトでの研究は、経腸栄養が遅れるとこれらの変化がより重篤になることを示している。また、早期の経腸栄養は、ICU での最初の 1 週間に急速に蓄積する栄養欠乏を緩和しうる。RCT のシステマティックレビューによると、早期の経腸栄養(ICU 入室後 24~48 時間以内に開始)は臨床転帰に有益な効果をもたらす。しかし、組み入れられた試験の中にはバイアスのリスクが高いと考えられるものもあり、早期経腸栄養の至適量について論じたものはなかった。それにもかかわらず、臨床実践ガイドラインでは、裏付けとなるエビデンスの確実性が低いか非常に低いにもかかわらず、ICU 入室後 24~48 時間以内の経腸栄養開始が推奨されている。専門家のコンセンサスでは、制御不能なショック、重度の上部消化管出血、腸虚血、または腹部コンパートメント症候群の患者において経腸栄養の開始を遅らせることを支持している。表 3 は、特殊な状況における経腸栄養開始の推奨事項をまとめたものである。

表 3.
経口摂取ができず、経腸栄養の禁忌がない重篤患者における経腸栄養の開始時期についての推奨
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エネルギーとタンパク質の目標はどの程度早く達成されるべきか?
複数の RCT が、重症時にはエネルギーとタンパク質の必要量を速やかに満たすべきであるという推奨に異議を唱えている。多施設共同 RCT では、最大 14 日間エネルギー摂取量を推定目標値の 40~60%に、または最大 6 日間エネルギー摂取量を15~25%に制限した場合、目標値どおりのエネルギー摂取量と比較して同様の転帰が得られた。後ろ向き観察研究である PROTINVENT (Timing of PROTein INtake and clinical outcomes of adult critically ill patients on prolonged mechanical VENTilation) 研究では、タンパク質摂取量と死亡率との関連に時間依存性があることが明らかにされた。すなわち、蛋白質摂取量を 1~2 日目の 0.8g/kg/日未満から 3~5 日目に 0.8~1.2g/kg/日、5 日目以降に 1.2g/kg/日以上に増やすと、6 ヵ月死亡率が最も低くなった。別の後ろ向き観察研究である PROCASEPT (Association of PROtein and CAloric Intake and Clinical Outcomes in Adult SEPTic and Non-Septic ICU Patients on Prolonged Mechanical Ventilation) では、主要栄養素摂取量と転帰の関連は、敗血症の患者とそうでない患者で異なることが示唆された。敗血症患者では、後期(4~7 日目)の中程度の蛋白摂取量(0.8~1.2 g/kg/日)および後期の高エネルギー摂取量(>110%)が生存率の向上と関連していた。敗血症のない患者では、早期(1~3 日目)の高タンパク質摂取(>1.2 g/kg/日)は 6 ヵ月死亡率の上昇と関連し、3 日目以降の中または高タンパク質摂取(>0.8 g/kg/日)は転帰の改善と関連した。これらのデータを総合すると、主要栄養素の摂取量には時間依存性があることが示唆され、これは同化スイッチの発生時期と関連している可能性がある。さらに、ショックのない機械的人工呼吸患者を対象とした RCT では、目標経腸栄養流量を早期に達成すると、段階的に達成した場合と比較して、重篤な有害事象を増やさずに経腸栄養供給 (enteral nutrition delivery) が増加した。ただし、消化管不耐性を示唆する消化管機能改善薬 (prokinetic) の使用は多かったことが示されている。高リスク患者において、経腸栄養を目標カロリーまで急速に増加させると、代謝不耐性につながる可能性があり、これは長期転帰の悪化と関連している。したがって、臨床実践ガイドラインでは、この戦略を評価する RCT が存在しないにもかかわらず、最初の数日間にわたって経腸栄養量を徐々に増加させることが推奨されている。したがって、栄養投与の目標量に到達するための最適なスケジュールは依然として不明確であり、おそらく患者によって異なる。いつ主要栄養素の供給を増加させるべきかを示す指標を同定する必要がある。

経腸栄養を中止するタイミング
経腸栄養は通常、患者が挿管されている間は継続され、食事ができないと予想される患者では抜管後も維持されることが多い。抜管後、経口栄養の候補者は、ベッドサイドで嚥下機能の多段階評価を受けるべきである。嚥下に障害がある場合、または食事で必要な栄養の 75%以上を摂取できない場合は、経腸栄養を継続すべきである。

重症患者の特定のサブグループ
重症患者のサブグループによっては、特別な摂食戦略が有益な場合がある。EFFORT-PROTEIN 試験のサブグループ分析では、急性腎不全を有するが腎代替療法を受けていない重症患者において、タンパク質制限が転帰を改善する可能性が示唆されている。

重症または病的肥満のある重症患者に対して、アメリカのガイドラインは、低カロリー・高タンパク質目標を推奨しているが、その裏付けとなるエビデンスは限られている。EFFORT-PROTEIN 試験の最近の再解析では、肥満患者において高タンパク質摂取による有益性は認められなかった。通常のタンパク質摂取量(≦1.2 g/kg/日)では、高タンパク質摂取量(≧ 2.2 g/kg/日)よりも生存退院までの期間が短かった(ハザード比、0.6;95%信頼区間、0.4~1.0)。

リフィーディング症候群 (refeeding syndrome) は、長期間にわたって主要栄養素の摂取量が非常に低い状態にあった患者が、通常またはそれに近い摂取量に戻ったときに起こる、よく知られた生命を脅かす可能性のある代謝障害である。低カリウム血症、低リン酸血症、低マグネシウム血症、高血糖、インスリン抵抗性、水分貯留・浮腫などの症状が現れる。診断基準については議論が続いているが、栄養投与開始後に低カリウム血症、低リン酸血症および/または浮腫を発症した高リスク患者は、リフィーディング症候群であると考えるべきである。数日間、または血清カリウム値もしくはリン値、またはその両方が回復するまで、タンパク質とカロリーの摂取量を低レベルまで減少させるべきである。オーストラリアとニュージーランドの 13 の ICU で、成人 339 人を対象とした多施設、単盲検、RCT において、この戦略により 6 ヵ月死亡率が低下した。低リン血症の患者におけるカロリー制限は、ICU 退院後の生存日数を増加させなかったが、60 日目の生存率(91% v.s. 78%, P = 0.002)と全生存期間を改善した。

非閉塞性腸間膜虚血 (non-occulusive mesenteric ischemia) は、重篤な循環不全を伴う ICU 患者の最大 30%が罹患し、壊死性腸炎 (necrotizing enterocolitis) を引き起こす可能性があり、その死亡率は 70~100%である。 主な原因は、臓器不全(心原性ショック、敗血症性ショック、急性呼吸窮迫症候群)、患者の特性(既存の心血管疾患、慢性腎不全)、および薬物(カテコールアミン、血管収縮薬、循環作動薬)である。経腸栄養が非閉塞性腸間膜虚血の発症に関与するかについては、依然として議論の余地がある。NUTRIREA-2 試験では、20~25 kcal/kg/日の経腸栄養を投与された患者は、ICU での最初の 7 日間に経静脈栄養のみを投与された患者と比較して、腸虚血のリスクが 4 倍増加した。しかし、全体的な割合はいずれの栄養戦略でも低く、経腸栄養の流量が転帰に影響した可能性がある。血圧維持のためにカテコールアミンを投与されている患者において、腸管の機能維持目的の低流量の経腸栄養(500 kcal/日以下)が腸灌流に影響を及ぼしうるかどうかについては、さらなる研究が必要である。

栄養サポートに対する集学的かつ包括的なアプローチ
栄養サポートの実践は、ICU 間、同じ病院内、同じ ICU 内の医療提供者間で異なる。多くの ICU では、BMI、クリティカルイルネスの状態、併存疾患、および進行中の臓器機能不全などの患者固有の要因を考慮せずに、カロリーおよびタンパク質の摂取量が決められている。これらの事実は、栄養サポートの多くの側面に関するエビデンスの欠如、手順の複雑さ、および関与する医療提供者の人数などの複数の要因に起因している。さらに、経腸栄養およびその管理に対する不耐性は、しばしば栄養サポートの中断および中止につながる。また、腹臥位での体位変換、ICU 外への搬送、ECMO の設定、および理学療法のための動員などの他の ICU 処置との兼ね合いにより、しばしば栄養補給が中断される。長期の挿管や筋力低下に関連する嚥下障害のリスクを考慮すると、抜管後の経口摂取の再開については注意が必要である。ICU からの退室は、医療チーム、習慣 (habit)、プロトコルが変わることで、ケアの連続性が途切れることを意味する。

このような課題は、医師、看護師、栄養士、理学療法士など、日々のベッドサイドケアに密接に関わるさまざまな分野の ICU スタッフが参加する、包括的かつ集学的な共同アプローチを反映したプロトコルの必要性を強調している。このようなアプローチは実行可能であり、ICU 患者の栄養補給を改善した(表 2)。1,118 人の重症患者を対象とした多施設共同 RCT では、ガイドラインに基づいた多面的プログラムの方が標準ケアよりもエネルギー目標を達成する頻度が高かったが(平均、6.10 日対5.02 日/10 食;差、1.07, 95%信頼区間 0.12~2.22;P = 0.03)、死亡率や ICU および入院期間は変わらなかった。管理栄養士 (dietitians) は、重症患者の栄養管理において中心的な役割を果たしている。最適なアプローチに関する質の高いエビデンスが不足しているため、ICU 患者の食事摂取量を正確に定量化することは依然として困難である。コンピュータ支援型意思決定支援システム (computer assisted decision support system) の使用は、標準的な栄養モニタリングおよび処方と比較して、モニタリングの強化、栄養処方の標準化の改善、および摂取量と処方との間の不一致の減少に関連している。簡易食物摂取評価尺度 (the Simple Evaluation of Food Intake scale) は、抜管および ICU からの退院後の経口摂取量のモニタリングに信頼できることが判明している(言語アナログ式簡易食物摂取評価尺度とエネルギー摂取量との相関: スピアマンの相関係数 0.74; P <0.0001)。カロリーおよびタンパク質の目標値を達成するための食物摂取モニタリングと個別化された栄養サポートを組み合わせた戦略は、クリティカルケア以外での転帰の改善と関連している。EFFORT(Effect of early nutritional support on Frailty, Functional Outcomes, and Recovery of malnourished medical inpatients Trial:栄養不良の医療入院患者の虚弱、機能的転帰、および回復に対する早期栄養サポートの効果に関する試験)では、栄養リスクのある非重症の医療病棟患者において、食事相談を伴うプロトコル指導による個別化栄養支持と標準ケア(食事相談なし)とが比較された。30 日目の全死因死亡、ICU 入室、非選択的再入院、重大合併症、または機能的状態低下の複合主要アウトカムは、介入群 1,015 人の 23%に対して対照群 1,013 人の 27%で観察された(調整オッズ比、0.79;95%信頼区間 0.64~0.97;P = 0.023)。30 日目の死亡率は介入群で低かった(0.65;0.47~0.91;P = 0.011)。

栄養およびモビリゼーション (mobilization) を含む長期的リハビリテーション
重症患者における栄養サポートの目標は、短期的な生存率の向上だけでなく、長期的な生存率の向上、機能的および認知的状態の改善、生活の質 (quality of life: QOL) の向上に及ぶ。ICU 入室後の衰弱は、ICU 退室後 5 年までの QOL の低下を伴う機能的改善速度の遅れなど、短期および長期の合併症と関連している。現在までのところ、ICU における栄養サポートに関する介入に関する RCT のうち、長期的に機能的、認知的、または QOL の転帰に対する有益性を実証したものはない。同様に、早期モビリゼーションは侵襲的な機械的人工呼吸の期間および ICU 滞在期間の短縮との関連は認められず、死亡率または長期的な身体的転帰には影響を及ぼさなかった。早期モビリゼーションと作業療法を組み合わせたケアを通常のケアと比較評価した RCT では、1 年後の長期認知機能障害(24% v.s. 43%;絶対差 -19.2%;95%信頼区間 -32.1~-6.3;P = 0.004)および ICU 入室後の体力低下(0% v.s. 14%;-14.1%;-21.0~-7.3;P = 0.0001)の割合が減少した。しかし、単一施設での結果であることから、さらなる評価が必要である。大規模な多施設共同 RCT では、早期モビリゼーションの有益性が再現されなかったが、これはおそらく、通常ケアの患者が比較的多くの理学療法を受けていたためであろう。有害事象が早期モビリゼーション群でより多くみられたことは問題である。

ICU 入室後の衰弱は、重症患者に関連した栄養不足、無動、炎症に起因する早期の筋力消耗という複雑な疾患である。ICU 入室後の衰弱は重症患者のごく早期から始まり、急性期治療後の改善は非常に緩やかで、重症度や改善率には個人差がある。長期的なリハビリテーションが目標であることを考えると、ICU での滞在に限定した介入や栄養サポート戦略だけでは不十分である可能性がある。現在までのところ、ICU 退室後に適用される栄養戦略を評価した RCT は発表されていない。さらに、栄養サポートとモビリゼーションを同時に行う必要があることから、これら 2 つの介入はおそらく、包括的で個別化されたアプローチの中で併用されるべきである。健康であるがサルコペニアである患者では、アミノ酸補給と身体運動の併用により筋肉量が改善する可能性がある。したがって、ICU に入院している患者には、栄養サポートや、可動性を促進し、心理的ウェルビーイングを最適化し、適時の職場復帰を促進し、痛みや美容上の障害などの後遺症の影響を最小限に抑えるようにデザインされた介入を含む、多面的なリハビリテーションプログラムが必要であろう。このようなプログラムの評価は現在進行中である。

中低所得国における重症患者の栄養サポート
重篤な患者の栄養に関する利用可能なデータは主に高所得国のものであり、中低所得国(low and middle income countries: LMICs)には当てはまらない可能性がある。 最近のレビューでは、LMICs において利用可能な栄養評価ツール(NUTRICスコア、BMI)を使用する際の課題が浮き彫りにされ、栄養不良を検出するために上腕中腕周囲径を測定することの実行可能性が支持されているが、この観察にはさらなる検証が必要である。市販の経腸栄養製品へのアクセスも LMICs では限られており、低コストの経腸栄養製剤を調製するために地元産の原材料が使用されることが多い。LMICs における栄養実践を改善するための世界的な品質および研究イニシアティブが必要である。

新たな治療法
過去 20 年間で、重症患者に対する最適な栄養サポートに関する理解はかなり進歩した。オートファジー、同化抵抗性および代謝抵抗性は、新たに報告された現象であり、その病態生理学および栄養介入との相互作用は調査に値する。

新しいデータは、すべての重症患者に同じ栄養サポート戦略を使用しても、転帰を顕著に改善する可能性は低いことを示している。今後の戦略は、特に併存疾患に関して個々の患者に合わせて調整されるべきであり、急性およびその後の重症疾患の経過、特に臓器不全の存在および重症度によって指示されるように、経時的に変更されるべきである。栄養サポートの恩恵を受けそうな患者を同定し、最適な栄養戦略を決定するためには、より優れた栄養リスク評価ツールおよび新たなバイオマーカーが必要である。理学療法と同化補助療法の組み合わせなどの個別化された栄養サポート戦略を、大規模で実際的な RCT において現在の標準治療と厳密に比較すべきである。特定の患者サブグループにおけるさまざまな主要栄養素の投与法の効果の違いの根底にあるメカニズムを明らかにすべきである。テストステロン、β-ヒドロキシ-β-メチル酪酸、ケトンエステルなどの同化促進薬を追加することで、筋肉量と機能が改善する可能性がある(ISRCTN13903536, NCT05825092)。

ガイドライン
このレビューでは、米国経静脈および経腸栄養学会(ASPEN、米国)、欧州臨床栄養代謝学会(ESPEN)、および欧州集中治療医学会(ESICM)のガイドラインを検討した。欧州のガイドラインは経腸栄養を優先治療として推奨しており、米国のガイドラインは 2 件の大規模 RCT の知見に基づいて、ICU での最初の 1 週間は経静脈栄養または経腸栄養のいずれかを推奨している。目標カロリーの決定について、欧州のガイドラインは間接熱量測定の使用を推奨しており、米国のガイドラインはキロカロリー/kg/日を推定する方程式の使用を推奨している。なお、ESPEN は日常診療におけるガイドラインの遵守が限定的であることを認めている。

結論
栄養サポートは、栄養状態の維持または回復、腸機能の改善、感染症、筋力低下、認知機能低下、衰弱などの合併症の予防に役立つという前提のもと、クリティカルケアの要となっている。しかしながら、これらの目標を達成するための最適な栄養戦略は依然として不明確であり、さらなる研究が必要である。栄養支持の最適な経路および種類はおそらく、各患者の臨床状態、消化管機能、および栄養ニーズに従って個別に決定されるべきである。最近の RCT は、早期の積極的な栄養補給アプローチに異議を唱えている。低カロリーおよび低タンパク質摂取を含むより保守的なアプローチが、回復を促進することが示されている。新たなエビデンスは、重症の生存者における長期的な生活の質の改善を目的として、早期および長期の身体的リハビリテーションを組み込んだ個別化プログラムを支持している。その有効性と安全性を検証するための前向き研究が必要である。

今後の研究課題
·重症患者の異化期と同化期の生物学的マーカーを特定できるか?

·筋肉の消耗および回復に関連する機序、ならびに栄養介入およびモビリゼーションとの相互作用を解明できるか?

·重篤な疾患のさまざまな段階および重症度レベル、基礎疾患、および患者の栄養状態の変化に応じて、栄養戦略を調整することができるか?

·同化促進薬は重症後の筋力回復を改善できるか?

·栄養とモビリゼーションを組み合わせた個別化リハビリテーションプログラムは、重症後の回復の改善に役立つか?

·栄養戦略およびリハビリテーションプログラムの有効性を評価するための最も有効で信頼できる結果を定義できるか?

元論文
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