COVID-19 とインフルエンザ、RS ウイルス感染症の重症度と長期的な死亡率の比較
JAMA Intern Med 2025. doi: 10.1001/jamainternmed.2024.7452
目的
米国退役軍人における COVID-19、インフルエンザ、呼吸器合胞体ウイルス(respiratory syncytial virus: RSV)感染症の重症度を比較すること。
背景
SARS-CoV-2、インフルエンザ、および RSV によるウイルス性呼吸器感染症は、高齢者や慢性疾患を持つ人の高い死亡率に関連している。米国では、インフルエンザと COVID-19 のワクチン接種がすべての成人に推奨されており、RSV のワクチン接種は高齢者に推奨されている。ウイルス性呼吸器感染症の相対的な重症度を理解することは、的を絞ったワクチン接種の指針となり、公衆衛生政策に役立つ。さらに、COVID-19 はワクチンの流通、異なる病原性を持つ変異型の流行、再感染によって進化してきたため、他のウイルス性呼吸器感染症と比較した疾病負担を再評価することが重要である。
SARS-CoV-2 オミクロン株、インフルエンザ、RSV の間でウイルス性呼吸器感染症の重症度を比較した研究はほとんどなく、2023 年 6 月に新しい RSV ワクチンが推奨された後の現代を対象とした研究も、我々の知る限り存在しない。既存の研究は、選択バイアスが生じやすい検査方法の違いや、軽症患者への一般化可能性が制限され、転帰としての入院の評価が除外される入院患者を対象としたものであるため、限界がある。
退役軍人健康管理局(Veterans Health Administration: VHA)では、3 つのウイルスすべてを同時に検査するマルチプレックスアッセイが広く使用されているため、偏りの少ない方法でウイルス性呼吸器感染症の結果を比較する機会がある。われわれは、2022~2023 年および 2023~2024 年のシーズンにマルチプレックス検査を完了した非入院米国退役軍人における SARS-CoV-2、インフルエンザ、または RSV への感染を評価するために、target trial emulation を用いたコホート研究を実施し、入院、集中治療室(Intensive Care Unit: ICU)入室、および死亡の 30 日リスク、ならびに 180 日に及ぶ長期死亡を比較した。
target trial emulation
https://www.carenet.com/news/clear/journal/55156
デザイン
この後ろ向きコホート研究では、SARS-CoV-2、インフルエンザ、および RSV の即日検査を受け、2022 年 8 月 1 日~2023 年 3 月 31 日、または2023 年 8 月 1 日~2024 年 3 月 31 日の間に単独感染と診断された非入院退役軍人の全国米国退役軍人健康管理局電子カルテデータを解析した。
曝露
SARS-CoV-2、インフルエンザ、RSV のいずれかの感染
主要アウトカム
逆確率による重み付け (inverse probability weighting) を行い、主要アウトカムである 30 日までの入院、集中治療室入室、死亡、および副次的アウトカムである 180 日までの長期死亡の累積発生率とリスク差(risk difference)を算出した。
結果
2022 年から 2023 年のコホートは 68 ,581 例で、内訳は RSV 6,239例[9.1%]、インフルエンザ 16,947 例[24.7%]、COVID-19 45,395 例[66.2%]だった。2023 年から 2024 年のコホートは 72,939 例で、内訳は RSV 9,748 例[13. 4%]、インフルエンザ 19,242 例[26.4%]、COVID-19 43,949 例[60.3%]だった。年齢中央値(四分位範囲)は 66(53~75)歳で 123,090 例(87.0%)が男性であった。
図 1. 解析対象患者の内訳
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2023~2024 年シーズンの 30 日入院リスクは、COVID-19(16.2%)とインフルエンザ(16.3%)で同程度であったが、RSV では 14.3%と低かった(COVID-19 v.s. RSV の リスク差, 1.9%[95%CI, 0.9-2.9%];インフルエンザ v.s. RSV の リスク差, 2.0%[95%CI, 0.8-3.3%])。2022~2023 年シーズンの 30 日死亡リスクは、COVID-19(1.0%)がインフルエンザ(0.7%)(リスク差 0.4%[95%CI, 0.1%~0.6%])または RSV(0.7%)(リスク差 0.4%[95%CI, 0.1~0.6%])と比較してわずかに高かったが、2023~2024 年シーズンでは同程度であった。180 日後の死亡リスクは、両シーズンとも COVID-19 で高かった(2023~2024 年の COVID-19 v.s. インフルエンザのリスク差, 0.8%[95%CI, 0.3~1.2%]、COVID-19 v.s. RSV の リスク差、0.6%[95%CI, 0.1~1.1%])。
図 2. COVID-19, インフルエンザ、RSV 感染症間における入院、ICU 入室、死亡のリスクの比較
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図 3. COVID-19, インフルエンザ、RSV 感染症の診断後の累積死亡率の比較
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前年に COVID-19 のワクチン接種を受けていない退役軍人は、季節性インフルエンザのワクチン接種を受けていない退役軍人と比較して、いずれの季節においても死亡率が高いことが観察された。一方、それぞれの感染症ワクチンを接種した群では、どの時点においても COVID-19 とインフルエンザで死亡率に差はなかった。
図 4. ワクチン接種の有無で分けた COVID-19 とインフルエンザの入院、ICU 入室、死亡のリスクの比較
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考察
COVID-19、インフルエンザ、または RSV と診断され、2022~2023 年または 2023~2024 年の呼吸器疾患シーズンに 3 つのウイルス検査を同時に受けた、このコホート研究に含まれる 141,000 人以上の非入院米国退役軍人のうち、COVID-19 の診断が圧倒的に多く、30 日入院リスクは RSV 感染者で最も低かった。入院リスクは COVID-19 とインフルエンザで同程度であったが、COVID-19 患者では ICU 入室が多かった。COVID-19 の 30 日死亡リスクは、2022 年から 2023 年のコホートではインフルエンザまたは RSV と比較してわずかに高く、2023 年から 2024 年のコホートでは同程度であったが、死亡率リスク差は初診後 6 ヵ月の観察追跡期間を通じて上昇した。入院と死亡の転帰における差は、主に 65 歳以上とワクチン未接種者に認められた。
オミクロン株流行期のウイルス性呼吸器感染症の重症度を比較した最近の研究は、ほとんどが入院患者を対象として実施されたものであった。スイスの研究でも、2022 年初頭に COVID-19 と診断された患者の院内死亡リスクは、2018 年から 2022 年までの過去のインフルエンザコホートと比較して高かった。2022 年から 2023 年のシーズンに入院した成人を対象に実施された別の米国の研究では、RSV の重症度は、COVID-19 またはインフルエンザのワクチン接種を受けていない患者では COVID-19 またはインフルエンザと同程度であったが、ワクチン接種を受けた患者と比較すると高かった。これらの研究の主な限界は、患者が比較対象となるすべての感染症について系統的に検査されていないことであり、診断バイアスが生じる可能性がある。この潜在的なバイアスを最小化するために、本研究では、SARS-CoV-2、インフルエンザ、RSV の検査を同日中に受けることを条件とした。また、ウイルス性呼吸器感染症に罹患した患者の大半を占める非入院患者に焦点を当てた。
COVID-19、インフルエンザ、RSV を比較した外来患者を対象とした最新の研究では、スウェーデンの 救急部を受診した成人患者を対象とし、3つのウイルスすべてについてマルチプレックス検査を実施したものである。COVID-19 と RSV の間の差はあまり明らかではなかったが、RSV 患者の数が少ないため、比較には限界があった。ワクチン未接種のCOVID-19 患者とインフルエンザおよび RSV 患者を比較すると、その差はより大きかった。しかし、インフルエンザワクチン接種の情報は得られなかった。本研究では、COVID-19 群とインフルエンザ群の転帰をそれぞれの感染症のワクチン接種の有無で層別化して比較し、ワクチン接種が相対的な重度に及ぼす影響をより詳細に検討した。
ウイルス性呼吸器感染症後の長期死亡率の差に関する情報は限られている。スウェーデンで行われた救急部における研究では、90 日までの死亡率を調査し、インフルエンザと比較した COVID-19 に関連する死亡リスクの高さは、30 日時点の死亡率の差と同様であった。RSV 感染症と比較して COVID-19 の死亡率が高い傾向は、30 日時点と 90 日時点でも同様であった。VHA の研究者らは以前、2020 年から 2022 年に COVID-19 で入院した退役軍人と、2015 年から 2019 年に入院した過去のインフルエンザコホートとを比較し、COVID-19 が追跡調査の最初の 6 ヵ月間を通して死亡リスクの上昇と関連していることを明らかにした。リスクの相対的指標は 18 ヵ月の追跡期間中にわずかに減少したが、リスクの絶対的指標は 180 日まで着実に増加し、その後は緩やかに増加した。重症度の高い入院患者のパターンは非入院患者と異なる可能性があるが、180 日まで COVID-19 とインフルエンザとの間のリスク差の増加も認められた。
COVID-19 罹患後、他のウイルス性呼吸器感染症と比較して死亡リスクが高い状態が数ヵ月間継続する理由はいくつかある。ICU 入室を含む緊急入院のリスクが高いことが、その後の死亡率の上昇をもたらす可能性がある。さらに、COVID-19 後に複数の臓器系に影響を及ぼし、新たな健康状態や既存の健康状態の悪化をもたらす可能性のある免疫調節障害や持続的な生理学的変化(post-COVID-19 condition または long COVID と表現される)は、長期的な死亡率の上昇に寄与する可能性がある。他のウイルス性呼吸器感染症と比較して COVID-19 で観察された短期的および長期的な有害転帰の高い負担は、特に 2022 年から 2023 年のシーズンでは、ワクチン接種によって軽減されるようであった。ワクチン未接種の COVID-19 患者の死亡リスクは、ワクチン未接種のインフルエンザ患者と比較して 360 日まで着実に上昇したが、それぞれのウイルスに対してワクチン接種を受けた患者ではそのような差は認められなかった。これらの知見は、COVID-19 ワクチン接種の取り組みを支持するものである。
限界
本研究にはいくつかの限界がある。第一に、対象となるコホートを 3 つのウイルス検査を同時に受けた者に限定したため、これらの知見をすべての SARS-CoV-2、インフルエンザ、および RSV 感染症に一般化することはできない。第二に、退役軍人が VHA 以外の医療機関を受診した場合、入院転帰の把握が不完全になる可能性がある。VHA 内でウイルス性呼吸器感染症検査を完了し、最近 VHA のプライマリケアを受診した退役軍人に研究集団を限定することで、誤分類を最小化するように努めた。また、最近の医療利用に関してもグループのバランスをとった。最後に、多くの人口統計学的、地理的、および臨床的共変量でグループのバランスをとったが、それでもなお交絡が残存している可能性がある(例えば、VHA 以外の長期療養施設に居住していたり、以前にウイルス性呼吸器感染症を未検査であったことによる未測定の交絡)。
結論
本研究では、COVID-19、インフルエンザ、RSV 感染症の非入院患者を比較した。その結果、COVID-19 がインフルエンザや RSV 感染症よりもはるかに多く、入院や 6 ヵ月までの死亡など、より重篤な疾患転帰をもたらすことを示した。これは高齢者において最も顕著であり、最新の COVID-19 ワクチン接種によって軽減された。ワクチン接種は、ウイルス性呼吸器感染症、特にオミクロン株の影響を最小化するための重要な戦略である。
元論文
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