甲状腺機能亢進症
Lancet 2016; 388: 906-918
甲状腺機能亢進症は甲状腺ホルモン合成と分泌の亢進であり、甲状腺中毒症は過剰な甲状腺ホルモンによる臨床症候群を指す。
甲状腺機能亢進症の最も多い原因はバセドウ病 (Grave's disease) で、プランマー病 (toxic nodule goiter) がそれに続く。甲状腺中毒症の他の原因としては、甲状腺炎 (thyroiditis)、ヨード誘発性甲状腺機能障害 (iodine-induced thyroid dysfunction)、薬剤性甲状腺機能障害 (drug-induced thyroid dysfunction)、甲状腺ホルモン摂取による詐病 (factitious ingestion of excess thyroid hormones) などがある。
バセドウ病の治療法には、抗甲状腺薬 (antithyroid drugs)、ラジオアイソトープ治療 (radioactive iodine therapy)、手術がある。プランマー病では、抗甲状腺薬は中止後に甲状腺中毒症を再発することが多いため、一般に長期的には使用されない。β 遮断薬は症候性甲状腺中毒症に使用され、甲状腺ホルモンの過剰産生が原因でない甲状腺中毒症に必要な唯一の治療法である。妊娠中および出産後の甲状腺機能亢進症は、慎重な評価と治療が必要である。
1. はじめに
甲状腺機能亢進症は、甲状腺によって過剰な甲状腺ホルモンが合成・分泌される病的状態である。甲状腺機能亢進症をともなう甲状腺中毒症あるいは真の甲状腺機能亢進症では、甲状腺の放射性ヨウ素の取り込みが正常か高いことが特徴である。
一方、甲状腺機能亢進症を伴わない甲状腺中毒症とは、1. 甲状腺外からの甲状腺ホルモンの供給がある、あるいは 2. あらかじめ合成され、(濾胞内に貯蔵されている) 甲状腺ホルモンが血中に放出されることによって引き起こされる (表 1)。
表 1. 甲状腺機能亢進症の病態生理と原因
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC5014602/#R1
明らかな甲状腺機能亢進症 (overt hyperthyroidism) は、血清甲状腺刺激ホルモン (thyroid-stimulating hormone: TSH) 濃度が低く、甲状腺ホルモン:サイロキシン (thyroxine: T4)、トリヨードサイロニン (tri-iodethyronine: T3)、またはその両方の血清濃度が高いことが特徴である。潜在性甲状腺機能亢進症 (subclinical hyperthyroidism) は、血清 TSH 濃度が低いが、血清 T4 と T3 濃度が正常であることを特徴とする。ここでは潜在性甲状腺機能亢進症については触れないが、最近別の Lancet セミナーでレビューされている。
2. 疫学
甲状腺機能亢進症の有病率は、ヨーロッパでは0.8%、アメリカでは1.3%である。明らかな甲状腺機能亢進症の有病率は、ヨーロッパでは0.5-0.8%、アメリカでは 0.5%である。民族差に関するデータは少ないが、甲状腺機能亢進症は白人の方が他の人種よりもわずかに頻度が高いようである。
3. 病因
3-1. 甲状腺機能亢進症を伴う甲状腺中毒症
ヨウ素充足地域で甲状腺機能亢進症の最も多い原因はバセドウ病 (Grave's disease) である。スウェーデンでは、バセドウ病の年間発症率は増加しており、2000 年代には人口 10 万人当たり 15-30 人の新規患者が発生している。
バセドウ病の原因は多因子性であり、1. 免疫寛容の喪失と、2. TSH 受容体に結合して甲状腺濾胞細胞を刺激する自己抗体の発現から生じると考えられている。しかし、一卵性双生児における一致率はわずか 17-35%であり、浸透率 (penetrance) が低いことを示唆している。
バセドウ病に関与する遺伝子は、免疫調節遺伝子(HLA 領域、CD40、CTLA4、PTPN22、FCRL3)とサイログロブリン遺伝子やTSH 受容体遺伝子などの甲状腺自己抗原である。バセドウ病発症の非遺伝的危険因子には、心理的ストレス、喫煙、女性であることがある。バセドウ病の有病率が女性で高いことから、性ホルモンや X 染色体の偏った不活性化などの染色体因子が引き金になることが疑われている。
その他、感染症(特に TSH 受容体との分子的な類似性によるエルシニア・エンテロコリチカ [Yersinia enterocolitica])、ビタミン D やセレンの欠乏、甲状腺の直接的な障害、免疫調節薬などの要因も疑われている。
他に甲状腺機能亢進症の原因として多いのは、中毒性多結節性甲状腺腫 (toxic multinodular goiter) と孤立性中毒性腺腫 (solitary toxic adenoma) である。
中毒性多結節性甲状腺腫と孤立性中毒性腺腫
https://www.kuma-h.or.jp/kumapedia/encyclopedia/detail/?id=223&sub_category=
ヨウ素充足地域 (※日本はヨウ素充足地域) では甲状腺機能亢進症患者の約 80%がバセドウ病であるが、ヨウ素欠乏地域では中毒性多結節性甲状腺腫と中毒性腺腫が甲状腺機能亢進症の全症例の 50%を占め、高齢者に多い。甲状腺結節は自律性 (autonomous) になり、TSH や TSH 受容体抗体からのシグナルとは無関係に甲状腺ホルモンを産生する (図 1)。
図 1. 甲状腺の自律性の病態生理
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC5014602/figure/F1/
甲状腺機能亢進症の原因で多くないものとしては、中枢性甲状腺機能亢進症 (thyrotropin-induced thyrotoxicosis) や絨毛腫瘍 (trophoblastic tumor) があり、それぞれ過剰な TSH やヒト絨毛性ゴナドトロピン (human chorionic gonadotropin) によって TSH 受容体が刺激される。
3-2. 甲状腺機能亢進症を伴わない甲状腺中毒症
甲状腺機能亢進症を伴わない甲状腺中毒症はあまり多くなく、ふつう一過性である。無痛性甲状腺炎 (silent thyroiditis)、分娩後甲状腺炎 (post-partum thyroiditis)、亜急性甲状腺炎 (subacute painful thyroiditis) の患者では、甲状腺濾胞細胞の破壊によりあらかじめ合成され、貯蔵された甲状腺ホルモンが血中に放出される。
薬剤性甲状腺機能障害の原因薬物で多いのは、リチウム、インターフェロン-α、アミオダロンである。
外因性甲状腺中毒症は詐病または医原性で、過剰量の甲状腺ホルモンを摂取した後に発症し、血清サイログロブリン濃度は低下する。
異所性甲状腺機能亢進症はきわめてまれで、機能性甲状腺癌の転移や、機能性甲状腺組織を含む卵巣腫瘍である卵巣甲状腺腫 (struma ovarii) などがある。
4. 臨床症状と合併症
4-1. 甲状腺ホルモン過剰による症状
過剰な甲状腺ホルモンはさまざまな臓器系に影響を及ぼす(表 2)。
表 2. 甲状腺機能亢進症の徴候および症状
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC5014602/table/T2/
よく報告される症状は、動悸、疲労、振戦、不安、睡眠障害、体重減少、暑熱不耐、発汗、多飲多尿である。頻度の高い身体所見は、頻脈、振戦、発汗、体重減少などである。
4-2. 甲状腺機能亢進症の原因別の徴候および症状
バセドウ病では眼症 (opthalmopathy)、甲状腺皮膚症 (thyroid dermopathy)、甲状腺先端症 (thyroid acropathy) を認めることがある。
結節性甲状腺腫では食道や気管の圧迫による喉の異物感 (globus sensation)、嚥下困難、起坐呼吸 (orthopnea)、有痛性亜急性甲状腺炎では前頚部痛などの徴候や症状がある。
眼症 (opthalmopathy) は、バセドウ病眼窩症 (Grave's orbitopathy) としても知られ、バセドウ病患者の 25%にみられる。活動性または中等度から重度のバセドウ病眼症を管理する専門知識を持たない臨床医は、評価と管理のために甲状腺眼科クリニックに患者を紹介すべきである。
甲状腺皮膚症 (thyroid dermopathy) はバセドウ病のまれな甲状腺外症状であり、甲状腺眼症の患者の 1-4%にみられる。ほとんど全ての患者が眼症を併発している。病変の特徴は、主に脛骨前面部を巻き込んだ、わずかに色素沈着した肥厚皮膚である。
甲状腺皮膚症の肉眼所見
https://www.mayoclinic.org/diseases-conditions/graves-disease/multimedia/graves-dermopathy/img-20007558
先端症 (acropathy) はバセドウ病の甲状腺外症状で最もまれなもので、手指と足指の肥大を呈する。
甲状腺先端症の肉眼所見および X 線写真
https://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S2376060520300286
4-2. 甲状腺機能亢進症でみられる合併症
甲状腺機能亢進症の臨床症状は、患者の年齢や性別、併存疾患、罹病期間、原因などいくつかの要因によって異なる。
高齢の患者では、若年患者よりも症状が少なく、目立たないが、心血管合併症を起こす可能性が高い。甲状腺機能が正常な 60 歳以上の人と比較すると、甲状腺機能亢進症の人は心房細動のリスクが 3 倍になる。
甲状腺機能亢進症に続発する心房細動に関連した心原性脳梗塞は、甲状腺以外の原因による心房細動に関連した心原性脳梗塞よりも有意に多い。しかし、甲状腺機能亢進症に続発する心房細動患者に対して抗凝固療法を行うべきかどうかについては、まだ議論されている。甲状腺機能亢進症患者において、心房細動はうっ血性心不全発症の独立した予測因子であるとも考えられている。
甲状腺機能亢進症にともなうもう一つの重篤な合併症は、甲状腺中毒性周期性麻痺 (thyrotoxic periodic paralysis) である。甲状腺中毒性周期性四肢麻痺はアジアで多く、北米での罹患率は 0.2%であるのに対し、日本では 2%である。甲状腺中毒性周期性四肢麻痺は筋麻痺、急性低カリウム血症、甲状腺中毒症の三徴候で特徴付けられ、筋肉細胞内へのカリウムの移行によって起こる。疑われる場合には、不整脈を予防し筋機能を回復させるために、低用量のカリウムと非選択的 β 遮断薬による治療をできるだけ早く開始すべきである。
長期にわたる甲状腺中毒症のその他の合併症には、骨粗鬆症や、男性では女性化乳房、女性では生殖機能の低下や月経不順などの生殖器系の異常がある。
5. 診断
血清 TSH は甲状腺疾患の診断において最も感度と特異度が高いため、最初に測定すべきである。
TSH 低値の場合は、潜在性甲状腺機能亢進症 (甲状腺ホルモン正常) と顕性甲状腺機能亢進症 (甲状腺ホルモン増加) を区別するために、血清 free T4 または free T4 index、free T3 または total T3 濃度を測定すべきである。また、TSH 産生下垂体腺腫や甲状腺ホルモン不応症のように、甲状腺ホルモン濃度が上昇し、TSH 濃度が正常かわずかに上昇しただけの疾患も鑑別できる。
甲状腺中毒症の原因を評価するために好まれる方法は、集団の特徴、文化的背景、社会経済的理由などから大きく異なる。米国甲状腺協会 (American Thyroid Association: ATA) と米国臨床内分泌医会 (American Association of Clinical Endocrinologist: AACE) の甲状腺機能亢進症と甲状腺中毒症に関するガイドラインでは、バセドウ病の診断が確定していない場合は、放射性ヨウ素シンチグラフィを推奨している。 一方、欧州、日本、韓国では、甲状腺超音波検査と TSH 受容体抗体 (TSH receptor antibodies: TRAb) による評価が推奨されている。米国のガイドラインでは、特に放射性ヨウ素シンチグラフィが利用できないか禁忌の場合に、バセドウ病診断の代替手段として TRAb を測定するとしている。この勧告はブラジルの甲状腺コンセンサスでも共有されており、TRAb 検査は特定の症例にのみ有用であるとし、甲状腺中毒症の初期評価には放射性ヨウ素シンチグラフィを推奨している。この推奨はブラジルの甲状腺コンセンサスでも共有されており、TRAb 検査は特定の症例にのみ有用であり、甲状腺中毒症の初期評価には放射性ヨード取り込みを推奨している。
バセドウ病患者の放射性ヨウ素シンチグラフィは、びまん性の取り込み増加を示す。一方、中毒性多結節性甲状腺腫では放射性ヨウ素の取り込みは正常~増加、非対称で不規則な取り込みパターンを示す。中毒性甲状腺腫では限局性の取り込みパターンを示し、残りの甲状腺組織では取り込みが抑制される。甲状腺ホルモンが甲状腺以外に由来する場合や、無痛性甲状腺炎や亜急性甲状腺炎のように貯蔵されていた甲状腺ホルモンが放出されることによって甲状腺中毒症を来している場合は、放射性ヨウ素の取り込みは非常に低い (図 2)。
図 2. 甲状腺機能亢進症の評価アルゴリズム
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC5014602/figure/F2/
甲状腺超音波と甲状腺放射性ヨウ素シンチグラフィは、バセドウ病の診断において同程度の感度を持っている (それぞれ95.2%、97.4%) 。超音波の利点は、電離放射線への被爆がないこと、甲状腺結節の検出精度が高いこと、放射性ヨウ素シンチグラフィに比べて費用が安いことである。さらに、カラードップラー超音波検査は、バセドウ病 (血流増加、低エコーのびまん性甲状腺腫) と破壊性甲状腺炎 (血流減少) を区別する。欧州と米国の内分泌専門医間のアプローチの違いは、甲状腺機能亢進症の疫学が異なる結果かもしれない。
TRAb 測定は最近数年で信頼性が向上し、費用も安くなった。さらに、TRAb 測定は抗甲状腺薬投与中止後の再発リスクの予測や、バセドウ病の女性患者における胎児または新生児甲状腺中毒症の検出に有用である。これらの抗体は容易に胎盤を通過するからである。
6. 治療法
甲状腺機能亢進症の患者を治療する 3 つの選択肢は、抗甲状腺薬 (antithyroid drugs: ATDs)、放射性ヨウ素アブレーション、手術である。中毒性甲状腺腺腫や中毒性多結節性甲状腺腫の患者では、寛解に至ることはほとんどないため、放射性ヨウ素治療か手術のどちらかを受けるべきである。中毒性結節性甲状腺腫の患者において、ATDs は一般的に、手術または放射性ヨウ素による根治療法の前に甲状腺機能を正常化させるために使用され、他の 2 つの治療法が禁忌であるか、患者の余命が短い場合に長期治療として使用されることが稀にある。
バセドウ病の治療法は地域によって異なる。北米では、放射性ヨウ素治療が最初の治療としてよく使われる。米国以外では、ATD が一次治療として好まれ、確定治療は持続性または再発性の甲状腺機能亢進症の患者にのみ行われる。甲状腺中毒症の症状を緩和するために β 遮断薬が処方されることもある。
6-1. 抗甲状腺薬
抗甲状腺チオナミド薬 (antithyroid thionamide drugs) はプロピルチオウラシル (propylthiouracil)、チアマゾール (thiamazole)、カルビマゾール (carbimazole) である。いずれも甲状腺に積極的に輸送され、甲状腺ペルオキシダーゼ (thyroid peroxidase: TPO) をの活性を阻害することでヨウ素の酸化と有機化を阻害する。これにより、T4 および T3 の合成に必要なヨウ素化チロシンのカップリングを阻害する。
カルビマゾールはヨーロッパとアジアの一部の国で入手可能で、体内でチアマゾールに変換されるプロドラッグである。プロピルチオウラシルを大量に投与すると、T4 の外環脱ヨウ素化酵素 (outer ring deiodinase) を阻害することにより、末梢組織における T4 から T3 への変換が減少する。この作用はチアマゾールでは認めない。プロピオチオウラシルには抗炎症作用や免疫抑制作用もあるかもしれない
T4 から T3 への変換
https://images.app.goo.gl/d82dVXzaob8pidnU6
ATA/AACE のガイドラインでは、バセドウ病ではチアマゾールが望ましい薬剤として推奨されている。例外は、妊娠初期とチアマゾールに対する副作用のある患者の治療である。チアマゾールはプロピルチオウラシルと比較して、有効性が高いこと、半減期と作用時間が長いこと、プロピルチオウラシルの 1 日 2-3 回投与と比較して 1 日 1 回投与が可能であること、副作用が少ないことなど、いくつかの利点がある。
プロピルチオウラシルを投与された患者における肝障害の報告により、ATA と米国食品医薬品局はバセドウ病の管理におけるプロピルチオウラシルの役割を評価し直し、第一選択療法としてのプロピルチオウラシルの使用を推奨しなかった。
ATD とヨウ化カリウムの併用による初期治療が提案されているが、この方法は一般的には推奨されていない。
6-2. 抗甲状腺薬療法とフォローアップ
バセドウ病の治療には、漸減法 (titration) とブロック & リプレース (block & replace) の 2 つのアプローチがある。漸減法では、ATD の投与量を時間をかけて漸減し、甲状腺機能低下状態を維持するのに必要な最低量にする。2 つのレジメンは同等に有効であるが、ブロック & リプレースは漸減法よりも副作用の発生率が高いようである。したがって、漸減レジメンを第一選択とすべきであるが、どちらのアプローチも同等に安全であると考える著者もいる。
チアマゾールの開始用量は甲状腺機能亢進症の重症度と甲状腺の大きさによって異なる。軽度の甲状腺機能亢進症で甲状腺が小さい場合は、チアマゾールを 1 日 10-15 mg、重度の甲状腺機能亢進症で甲状腺が大きい場合は 1 日 20-40 mg 必要である。
カルビマゾールの等価用量はチアマゾールの 140%である。プロピルチオウラシルの開始用量は、通常 50-150 mg を 1 日 3 回投与する。甲状腺機能は治療開始後 4-6 週間後にチェックし、その後、甲状腺機能が正常になったら 2-3 ヶ月毎にチェックすべきである。TSH は数ヶ月間抑制されたままかもしれないので、治療の効果を評価するために血清 T4 と T3 をモニターすべきである。一度、甲状腺機能正常 (euthyroid) が達成されたら、チアマゾールの維持量として 1 日 5-10 mg、またはプロピルチオウラシル 50 mg を 1 日 2-3 回、またはそれ以下の量を 12-18 ヶ月間続けるべきである。
ATD 療法の欠点は、薬剤中止後の甲状腺機能亢進症の再発率が高いことである。再発のリスクは患者によって大きく異なるが、26 件の無作為化臨床試験のコクランレビューによると 50-55%と推定されている。再発のリスクが高い患者は、重度の甲状腺機能亢進症、大きな甲状腺腫、高い T3:T4 比、持続的な TSH 抑制、ベースラインの TRAb 濃度が高い患者である。治療終了時に TRAb 濃度を評価することは、治療中止後に甲状腺機能亢進症が再発する患者を同定するのに有用であろう。
ある前向き研究では、甲状腺機能亢進症が再発した場合、チオナミド系薬剤投与を再開することで長期寛解がもたらされることが示唆されている。それでもなお、ATD 療法の 2 コース目の有効性と副作用を放射性ヨウ素アブレーションや手術と比較するためには、さらなる研究が必要である。
6-3. 副作用
ATD の軽度の副作用は患者の約 5%にみられる。これらの副作用には、そう痒、関節痛、胃腸障害などがある。軽度の皮膚反応がみられる患者では、抗ヒスタミン薬を追加するか、一方の ATD を他方の ATD に置き換えても良い。
ATD の重度の副作用はまれである。顆粒球数が 500 /mm³ 未満となる無顆粒球症 (agranulocytosis) は、最も頻度の高い重度の副作用であり、生命を脅かす可能性がある。患者は通常、発熱または咽頭痛、あるいはその両方を呈し、頻度は高くないが悪寒、下痢、筋肉痛など症状を伴うこともある。無顆粒球症の年間発生率は 0.1-0.3%と推定されており、一般的に治療開始後 90 日以内に発症する。ATD を投与されている患者がこのような症状を呈した場合は、白血球分画を測定し、顆粒球数が 1000 /mm³未満であれば、ATD を直ちに中止すべきである。無顆粒球症およびそれに関連する感染症の治療も必要な場合があり、例えば、広域抗生物質の投与や顆粒球コロニー刺激因子 (granulocyte colony stimulating factor: GCS-F) の投与が挙げられ、これは回復時間を短縮することが示されている。無顆粒球症については、チアマゾールとプロピルチオウラシルの交差反応性が報告されているため、他の ATD に切り替えることは禁忌である。
ATA/AACE のガイドラインは、治療開始前に全患者にベースラインの全血球数を測定することを推奨しているが、治療中は定期的なモニタリングを行わないよう勧告している。無顆粒球症の症状を認識し、発熱やのどの痛みが生じたら、できるだけ早く薬剤を中止し、医師に連絡するよう患者に指導すべきである。ある調査では、ATD を服用している患者において無顆粒球症に関する知識が不足していることが示された。ATD の他の非常にまれな血液学的副作用としては、再生不良性貧血、血小板減少症、低プロトロンビン血症などがある。
もう一つの重度の副作用は肝毒性で、患者の 0.1-0.2%にみられる。肝毒性はまれに急性肝不全として現れることがあるが、これはチアマゾールよりもプロピルチオウラシルの方がより高い頻度で関連し、肝移植を必要とすることがある。ATA/AACE のガイドラインでは、ベースライン時に肝機能検査を行うことを推奨しているが、そう痒性発疹、黄疸、淡色便 (light-coloured stool)、暗色尿 (dark urine) などの肝機能障害の症状を患者が訴えない限り、定期的なモニタリングを行わないことを推奨している。チアマゾールを服用している患者では、胆汁うっ滞が起こることがある。この副作用はプロピルチオウラシルではまれで、肝障害は主に肝細胞壊死に関連する。
血管炎は、ATD による治療中に報告された非常にまれな合併症である。抗好中球細胞質抗体 (antineutrophil cytoplasmic antibody) と関連する血管炎は、チアマゾールを服用している患者よりもプロピルチオウラシルを服用している患者でより頻度が高い。患者は発熱、関節痛、皮膚病変を呈することもあれば、臓器不全(主に腎臓と肺)を起こすこともある。
6-2. 放射性ヨウ素治療
放射性ヨウ素治療は安全で費用対効果が高く、バセドウ病、中毒性腺腫、中毒性多結節性甲状腺腫の第一選択治療となる。絶対禁忌は、妊娠、授乳中、妊娠計画中、放射線の安全に関する勧告に従えない場合などである。
生検検体から甲状腺がんが疑われる、または甲状腺がんと診断される甲状腺結節患者では、放射性ヨウ素は禁忌であり、手術が推奨される。
メタ分析では、放射性ヨウ素治療を受けた患者では、バセドウ病眼症の悪化リスクが ATD で治療された患者より明らかに高く(RR 4.23, 95%CI 2.04-8.77)、手術と比較してリスクがわずかに高い(RR 1.59、0.89-2.81)ことが報告されている。したがって、活動性の中等度から重度のバセドウ病眼症または視力を脅かすバセドウ病眼症の患者では、放射性ヨウ素治療は禁忌である。
軽度の活動性バセドウ病眼症の患者では、放射性ヨウ素治療後に予防的ステロイド治療(プレドニンを 0.3-0.5 mg/kg/day、放射性ヨウ素投与 1-3 日後から開始し、3 ヵ月かけて漸減する)を行うべきである。
放射性ヨウ素治療後にバセドウ眼症を発症・悪化させる危険因子としては、喫煙、治療前の T3 濃度が高い (5 nmol/L 以上)、TRAb 力価が高い、放射性ヨウ素治療後の未治療の甲状腺機能低下症などがある。危険因子を有するがバセドウ眼症を発症していない、または発症していない患者におけるグルココルチコイド予防の必要性については議論がある。
6-2-1. 放射性ヨウ素治療を受ける患者の管理
高齢者や基礎疾患(特に心血管疾患)がある場合、重度の甲状腺中毒症がある場合には、放射性ヨウ素治療に先立って、ATD による前処置が必要となることがある。
しかし、前処置の必要性と放射性ヨウ素治療に対する ATD の効果については議論がある。チアマゾールによる前処置は放射性ヨウ素治療の効果には影響しないが、放射性ヨウ素治療前にベースラインの甲状腺ホルモン濃度を下げるので保護的であるという意見がある。メタ分析によると、ATD による前処置は治療失敗のリスクを増加させ (RR 1.28, 95% CI: 1.07-1.52)、放射性ヨウ素治療後の甲状腺機能低下症のリスクを減少させた (RR 0.68, 95%CI: 0.53-0.87)。
ATD は放射性ヨウ素治療の 3-5 日前に中止し、3-7 日後に再開し、甲状腺機能が正常化したらすぐに中止すべきである。
最適な放射性ヨウ素の用量については、あらかじめ決められた用量を用いる方法と甲状腺の放射性ヨウ素取り込み量に基づいて用量を計算する方法との間で議論されている。あらかじめ決められた用量を用いる場合、バセドウ病の治療では 10-15 mCi、中毒性結節性甲状腺腫では 10-20 mCi が推奨線量である。
6-2-2. 放射性ヨウ素治療を受けた患者のフォローアップ
甲状腺機能は、放射性ヨウ素治療後 1-2 ヶ月後にモニターすべきである。特にバセドウ病眼症を発症または悪化させるリスクのある患者では、甲状腺機能低下症を発見するために (※TSH 高値はバセドウ眼症を悪化させ得るため)、放射性ヨウ素治療後 6 週間以内に free T4 を測定することを勧める人もいる。
もし、患者が放射性ヨウ素治療後 1-2 ヶ月経っても甲状腺中毒症のままであれば、患者が甲状腺機能正常または甲状腺機能低下になるまで 4-6 週間ごとに甲状腺機能をモニターすべきである。
甲状腺機能低下症となったらすぐにレボサイロキシン (levothyroxine) の補充を始めるべきである。放射性ヨウ素を投与された患者の中には、一過的に甲状腺機能低下症となり、その後甲状腺機能亢進症が再発することがあるので、甲状腺機能低下後のモニタリングは重要である。
6 ヶ月後に再発または甲状腺機能亢進症が持続している患者には、再び放射性ヨードを投与しても良い。
6-2-3. 副作用
眼症を除けば、放射性ヨウ素の副作用はまれであり、よく知られているものはない。副作用の一つに急性甲状腺炎がある。これは患者の 1%にみられ、数週間持続し、非ステロイド性抗炎症薬 (non-steroidal anti-inflammatory drugs: NSAIDs) で簡単に治療できる。甲状腺機能亢進症をともなう場合は β 遮断薬が用いられる。
他に、心血管系疾患と脳血管イベントのリスクが増加する可能性が指摘されているが、これらのイベントが甲状腺機能亢進症そのものによるものか、放射性ヨウ素治療によるものかは不明である。
甲状腺機能亢進症の患者では、甲状腺機能低下症の患者と比べて、癌の発生率がわずかに高いが、甲状腺治療の種類とは関係がない。
通常甲状腺癌の治療に使われる高用量の放射性ヨウ素は性腺機能障害を来し得るが、甲状腺機能亢進症に用いられる低用量の放射性ヨウ素では来さない。妊娠前に甲状腺機能亢進症で放射性ヨウ素を投与された患者の子孫の健康への悪影響は報告されていない。
6-3. 甲状腺全摘術
甲状腺全摘術はバセドウ病甲状腺機能亢進症に対する最も成功率の高い治療法である。甲状腺全摘術は、甲状腺亜全摘術に比べて成功する頻度が有意に高く(OR: 40-37, 95% CI: 15.03-108.44)、合併症の発生率には差がないため、推奨される。
甲状腺摘出術は、特に次のような特徴を持つ患者に勧められる。甲状腺腫が大きいか、放射性ヨウ素の取り込みが低い (または両方)、甲状腺癌の疑いがある、あるいは甲状腺癌が証明されている、放射性ヨウ素治療が禁忌である中等度から重度の眼症がある、そして最後に手術を希望している場合。妊娠は相対的な禁忌であると考えられている。
6-3-1. 甲状腺摘出術を受ける患者の術前管理とフォローアップ
手術前に、甲状腺機能を正常化させるべきである。ATD による前処置は手術によって誘発される甲状腺クリーゼのリスクを減らし、β 遮断薬は甲状腺機能亢進症の症状をコントロールする。バセドウ病患者では、ヨウ化カリウムのような無機ヨウ素による前処置 (ヨウ化カリウム 50 mg を 1 日 3 回、手術 7-10 日前から) を検討しても良い。
術後はレボチロキシンの補充を開始し、術後 6-8 週間後に TSH 濃度をモニターすべきである。カルシウムおよびカルシトリオールの経口補充は、術前および術後の血清カルシウム濃度に応じて行う。
6-3-2. 合併症
外科的合併症はまれで、患者の 1-3%にみられる。最も頻度の高い合併症は、永続的な副甲状腺機能低下症による低カルシウム血症であり、次いで永続的な反回神経損傷である。このような合併症のリスクは、甲状腺切除術の経験が豊富な甲状腺外科医が行った場合に低くなる。
7. 甲状腺クリーゼ
甲状腺機能亢進症は、日本では 10 万人年あたり 0.2 人の発生率で、甲状腺中毒症で入院した患者の 1-5%にみられるまれな疾患である。死亡率が 8-25%と高い緊急疾患である。
甲状腺クリーゼの症状は甲状腺ホルモンの濃度には依存せず、甲状腺クリーゼにおける甲状腺ホルモンの濃度は代償性甲状腺中毒症と同等である。危険因子としては、急性疾患、甲状腺または甲状腺以外の手術 (現在では、適切な術前準備の結果、あまり見られなくなった)、外傷、ストレス、妊娠などがある。
甲状腺クリーゼの病態はまだよくわかっていない。診断は臨床的なもので、重篤で生命を脅かすような症状のある患者において甲状腺機能亢進症が存在する場合に診断される。診断を下すために、Burch と Wartofsky はスコアリングシステム (表 3) を提案し、赤水らによって修正された。
表 3. 甲状腺クリーゼの診断基準
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC5014602/table/T3/
治療の目標は、1. 甲状腺ホルモン合成および分泌の抑制、2. 血中甲状腺ホルモンの減少、3. 甲状腺ホルモンの末梢作用のコントロール、4. 全身症状の消失、および 4. 誘因に対するの治療である。治療の選択肢を表 4 に示す。
表 4. 甲状腺クリーゼの治療
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC5014602/table/T4/
治療を開始すると甲状腺機能は通常 24 時間以内に改善する。甲状腺機能が改善したらはヨウ素を漸減中止し、グルココルチコイドを漸減することができる。ATD と β 遮断薬は甲状腺機能に応じて漸減すべきである。甲状腺切除術または放射性ヨウ素による根治療法は、甲状腺機能が正常化してから行うことが望ましい。
8. 妊娠中および産後の甲状腺機能亢進症
妊娠中の甲状腺機能亢進症の原因で最も多いのはバセドウ病である。米国における甲状腺機能亢進症の発症率は、妊婦 1000 人あたり年間 5-9 人である。デンマークで行われた集団ベースのコホート研究の結果、妊娠中の甲状腺機能亢進症のリスクには大きなばらつきがあり、妊娠初期は高く (RR: 1.5, 95%CI: 1.09-20.6)、妊娠後期は非常に低い (RR: 0.26, 95%CI: 0.15-0.44)。
妊娠中および産後の甲状腺疾患の診断と管理のための ATA ガイドラインでは、血清 TSH 濃度が 0.1 mIU/L 未満のすべての女性で血清 free T4 濃度を測定することを推奨している。この推奨は、total T3 濃度と TRAb 濃度も測定することを推奨している内分泌学会 (the Endocrine Society) のガイドラインとも一致している。
甲状腺刺激抗体は胎盤を通過するため、TRAb 評価は胎児または新生児の甲状腺機能亢進症のリスクを検出するのに有用であり、TRAb 濃度は妊娠 20-24 週で評価すべきである。
血清甲状腺ホルモン濃度の評価は、顕性甲状腺機能亢進症と潜在性甲状腺機能亢進症を区別するために重要である。これは、潜在性甲状腺機能亢進症は通常妊娠中に治療する必要はないからである。
顕性甲状腺機能亢進症が確認された場合は、妊娠一過性甲状腺機能亢進症 (gestational thyrotoxicosis) を除外すべきである。妊娠一過性甲状腺機能亢進症は良性で一過性の障害であり、典型的には妊娠初期に起こり、おそらくヒト絨毛性ゴナドトロピン (human chorionic gonadotropin) 高値または変異型ヒト絨毛性ゴナドトロピンに起因する。TRAb は陰性でバセドウ病の臨床的特徴はみられない。妊娠一過性甲状腺機能亢進症は対症療法しか必要としない。
一方、バセドウ病や中毒性結節性甲状腺腫は、ATD で治療すべきである。一般に、妊娠初期はプロピルチオウラシルが使用され、妊娠中期にはチアマゾールに切り替えられる。これは妊娠初期においてチアマゾールは胚障害のリスクに関連するためである。この関連性は、ATD 投与によるものではなく、甲状腺機能亢進症によって説明できると主張する著者もいるが、皮膚無形成症 (aplasia cutis)、咽頭閉鎖 (choanal atresia)、食道閉鎖症 (oesophageal atresia)、小頭症 (omphalocere) などの先天異常は、甲状腺機能亢進症患者そのものではなく、チアマゾール投与によって報告されている。
頻度は低いが、プロピルチオウラシルもまた、顔面・頸部および泌尿器系の先天性欠損症に関連することが示されている。一方の ATD から他方の ATD に切り替える場合、プロピルチオウラシルとチアマゾールの等価用量は 10-15:1 と考えられる。ATD を服用している妊婦では、TSH、T4(妊娠中は通常 150%上昇)、free T4(または free T4 index)を 2-6 週間ごとにモニターすべきである。T4 および free T4(またはfree T4 index)は、正常基準範囲の上限またはわずかに上にあるべきである。しかし、free T4 測定法の中には、血清 T4 結合グロブリン (T4 binding globulin) 濃度が高いため、妊娠中は信頼できないものもある。
ATD が禁忌であるか、甲状腺機能亢進症が ATD で十分にコントロールできない場合は、甲状腺摘出術が選択肢となる。甲状腺摘出術は、麻酔薬による催奇形性の可能性を最小限にするため、妊娠中期に行うべきである。放射性ヨウ素治療は胎盤を通過し、胎児に重篤な甲状腺機能低下症を起こす可能性があるため、妊娠中は禁忌である。
分娩後、バセドウ病による甲状腺機能亢進症は、分娩後リンパ球性甲状腺炎 (post-partum lymphocytic thyroiditis) と区別すべきである。分娩後にバセドウ病と診断された場合、授乳中の母親は中用量の ATD すなわち、チアマゾール 1 日 20 mg まで、またはプロピルチオウラシル 1 日 300 mg までを安全に服用できる。
分娩後甲状腺炎
9. 亜急性甲状腺炎と無痛性甲状腺炎
分娩後リンパ球性甲状腺炎/無痛性甲状腺炎はその後の妊娠中に再発することが多く、永続的な甲状腺機能低下症になることがある。分娩後リンパ球性甲状腺炎/無痛性甲状腺炎では、甲状腺ペルオキシダーゼ抗体 (thyroid peroxidase antybody) が陽性であることがほとんどである。したがって、これらの患者では生涯にわたって甲状腺機能低下症の発症について定期的なモニタリングが必要である。甲状腺ホルモン合成が増加せず、甲状腺の放射性ヨウ素の取り込みが低いため、ATD や放射性ヨウ素治療は両疾患とも禁忌である。患者は通常、甲状腺中毒期に β 遮断薬を投与される。
痛みを伴う亜急性甲状腺炎の患者では、甲状腺の痛みと全身症状の緩和のために NSAIDs やサリチル酸塩が役に立つかもしれない。グルココルチコイド、例えばプレドニゾン 15-40 mg を 1 日 1 回、4-6 週間かけてゆっくり漸減する方法が、より重症の症例には望ましい。
10. アミオダロンとヨウ素誘発性甲状腺中毒症
アミオダロン誘発性甲状腺中毒症には 2 つの型があり、治療法が異なるため型を区別することは非常に重要である。I 型アミオダロン誘発性甲状腺中毒症は通常、基礎に甲状腺腫または潜在性バセドウ病を持つ患者がヨウ素を多く含むアミオダロンに曝露された際に起こる。ヨウ素への曝露により甲状腺ホルモンの過剰な合成と放出が起こる点は、アミオダロン以外で過剰なヨウ素を投与された患者におけるヨウ素誘発性甲状腺機能亢進症と似ている。II 型アミオダロン誘発性甲状腺中毒症は、アミオダロンの甲状腺細胞に対する直接的な毒性作用によって起こる破壊性甲状腺炎である。
I 型アミオダロン誘発性甲状腺中毒症は、ATD で治療し、場合によっては、ナトリウム/ヨウ化物シンポレーター (sodium/iodide symporter: NIS) の阻害剤である過塩素酸カリウムを追加して甲状腺のヨウ素取り込みを阻害する。II 型アミオダロン誘発性甲状腺中毒症では、炎症を抑え、末梢組織で T4 がより活性の高い T3 に変換されるのを阻害するためにグルココルチコイドが使われ、通常 6-8 週間かけて漸減される。
11. 今後の研究
甲状腺機能亢進症の治療は過去数十年間大きく変わっていない。1. ATD による再発のリスクを伴う長期療法か、2. 放射性ヨウ素または手術による甲状腺機能低下症を伴う甲状腺の破壊かの選択である。
ATD は保存的な治療法であるが、再発率は約 50%である。しかし、甲状腺切除術と放射性ヨウ素治療は根治療法であるが、その後の甲状腺機能低下症は生涯にわたる甲状腺ホルモン補充療法が必要である。
今後の研究は、バセドウ病による甲状腺機能亢進症の病態をよりよく理解し、甲状腺機能亢進症の根本的な原因を治療標的とし、安全で、保存的で、確実な治療法を得ることを目標とするべきである。
バセドウ病による甲状腺機能亢進症の評価と管理戦略は地域によって異なるので、米国以外の甲状腺学会によるガイドラインが有用であろう。
元論文
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC5014602/