内分泌代謝内科 備忘録

悪性腫瘍にともなう高カルシウム血症

悪性腫瘍に関連する高カルシウム血症とその治療
Front Endocrinol (Lausanne) 2023; 14: 1039490

がんに関連した高カルシウム血症は、進行がん患者に典型的にみられる一般的な所見であり、約 20-30%の症例にみられる。入院患者における高カルシウム血症の最も多い原因は、悪性腫瘍による高カルシウム血症である。この臨床的問題は、固形がん患者および血液がん患者の両方でみられる。高カルシウム血症は、腫瘍患者の予後不良と関連している。

この病理学的状態はさまざまな機序により起こりうるが、通常は骨吸収、腸管からの吸収または腎排泄に起因するカルシウム恒常性の異常により引き起こされる。高カルシウム血症は、消化器症状から神経症状まで幅広い症状を呈することがある。

医師による迅速な診断と治療の開始は、合併症のリスクを著しく低下させる。治療は、カルシウム排泄を増加させ、骨吸収を減少させ、腸管カルシウム吸収を減少させることにより、血清カルシウムを減少させることを目的とする。治療の主軸は、輸液、ビスホスホネート (bisphosphnate) およびカルシトニン (calcitonin)、デノスマブ (denosumab)、一部の患者ではプレドニゾン (predonisone) およびシナカルセト (cinacalcet) である。基礎疾患として進行した腎疾患があり、難治性の重症高カルシウム血症の患者は、血液透析の適応を評価すべきである。腫瘍患者を扱うすべての医師は、高カルシウム血症の最も迅速で効果的な管理法を知っておくべきである。

1. はじめに
悪性腫瘍性高カルシウム血症(hypercalcemia of malignancy: HCM)は、血清カルシウム値が正常値を超える病態である。高カルシウム血症に起因する症状は、軽度なものから生命を脅かすものまでさまざまである。悪性腫瘍は高カルシウム血症の最も一般的な原因の一つであり、特に骨転移を伴うがん患者において顕著である。高カルシウム血症は、がん患者の約 30%が罹患していると推定されている。

HCM に関連する一般的な悪性腫瘍には、多発性骨髄腫、乳がん、肺がん、扁平上皮がん、腎がん、卵巣がん、および特定のリンパ腫がある。高カルシウム血症の重症度は、血清総カルシウム濃度によって分類される。高カルシウム血症は、がんによる骨形成および骨吸収過程の異常の結果として起こる臨床的問題である。

悪性腫瘍による高カルシウム血症は、新しい治療薬の導入により減少しているが、依然として臨床上よくみられる問題である。本総説の目的は、悪性高カルシウム血症の機序、診断および管理に関する現在の文献を要約することにより、臨床医の啓発に貢献することである。

2. カルシウム代謝
カルシウムバランスとは、体内、特に骨におけるカルシウム貯蔵状態のことである。骨カルシウムバランスは、成長、加齢、後天的または遺伝性の疾患などいくつかの要因によって、正、負または正味の変化なしになる。カルシウムの恒常性とは、副甲状腺ホルモン、1,25-ジヒドロキシビタミン D(カルシトリオール, calcitriol)、および血清イオン化カルシウム自体によるイオン化血清カルシウムのホルモン制御を指し、これらの因子はともに腸、腎臓、および骨におけるカルシウム輸送を調節する(図 1)。

図 1. カルシウム代謝
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC10073684/figure/f1/

悪性腫瘍において高カルシウム血症を引き起こす主な機序は 3 つある。第一に、最も多い(80%)のは、腫瘍からの副甲状腺ホルモン関連ペプチド (parathyroid hormone related peptide: PTHrP の分泌であり、これは副甲状腺ホルモン(parathyroid hormone: PTH)と同様の作用により高カルシウム血症を引き起こす。第二は、腫瘍内の 1α-水酸化酵素による 1,25-(OH)2 D の自律的産生によるカルシウム吸収の亢進である。第 3 の機序は、骨組織における腫瘍細胞の破骨細胞活性の亢進によって起こる骨吸収である(図 2)。

図 2. 悪性腫瘍にともなう高カルシウム血症の原因

2.1. 副甲状腺ホルモン関連ペプチド
固形がん患者における高カルシウム血症の原因で最も多いのは、PTHrP の分泌である。これは、悪性腫瘍の液性高カルシウム血症としても知られる。これは、肺がん、腎臓がん、膀胱がん、乳がん、頭頸部がんなどの固形がんでも、非ホジキンリンパ腫、成人 T 細胞性白血病、慢性骨髄性白血病などの疾患でも起こりうる。

PTHrP による高カルシウム血症は、特に扁平上皮組織型の腫瘍で頻繁に観察される。PTHrP は、特に最初の 13 個のアミノ酸の配列から PTH と相同性を持つ。この PTH との密接な類似性の結果、PTHrP は PTH と同じ PTH-1 受容体に結合し、それによって下流のシグナル伝達経路を活性化する。血中の PTHrP は骨と腎臓の PTH 受容体を刺激する。これにより骨吸収が亢進し、遠位尿細管でのカルシウム再吸収が亢進するため、骨からのカルシウム放出が起こり、カルシウムの排泄能も低下する。

PTHrP は PTH よりも 1,25-ジヒドロキシビタミン D の産生を刺激しにくい。PTHrP は PTH よりも 1,25-ジヒドロキシビタミン D の産生を刺激しにくいため、PTHrP を介した高カルシウム血症の患者における 1,25-ジヒドロキシビタミン D の測定値は変動する可能性がある。液性高カルシウム血症患者における典型的な検査所見は、血清 PTHrP が高く、血清インタクト PTH が非常に低いか抑制されていること、および血清 1,25-ジヒドロキシビタミン D 値が変動することである。

2.2. 1,25-(OH)2 D の産生
正常人では、25-ヒドロキシビタミン D(カルシジオール, calcidiol)は、PTH の影響下、腎尿細管で 1-ヒドロキシラーゼを介して 1,25-ジヒドロキシビタミンD(カルシトリオール, calcitriol、ビタミン D の最も活性の高い形態)に変換される。線維芽細胞増殖因子 23(fibroblast growth factor-23: FGF-23)は、高リン血症を介してこの変換を抑制する。高カルシウム血症は PTH の放出を抑制するため、1,25-ジヒドロキシビタミン D の産生を抑制する。しかし、腫瘍の種類によっては、PTH の制御とは無関係に、25-ヒドロキシビタミン D から腎外で 1,25-ジヒドロキシビタミン D が産生されるものもある。

1,25-ジヒドロキシビタミン D(カルシトリオール)の制御不能な産生は、ホジキンリンパ腫ではほぼ全例、非ホジキンリンパ腫では約 3 分の 1 の高カルシウム血症の原因である。この機序による高カルシウム血症は、卵巣未分化胚細胞腫 (ovarian dysgerminoma) およびリンパ腫様肉芽腫症 (lymphomatoid granulomatosis) の患者でも報告されている。

2.3. 骨吸収
骨吸収による高カルシウム血症は、骨内の腫瘍細胞による破骨細胞活性を亢進させるメディエーターの放出の結果として起こる。TNF ファミリーの一員である可溶性タンパク質 RANKL は破骨細胞の分化、活性、生存の中心的な調節因子である。このタンパク質は骨芽細胞と T 細胞によって合成され、破骨細胞の分化と活性化を指令する。マクロファージコロニー刺激因子(macrophage colony stimulating factor: M-CSF)にさらされた造血前駆細胞は、NFκB(RANK)結合受容体を発現する。RANK と RANKL が結合すると、破骨細胞への分化が誘導される。

加えて、マクロファージ由来タンパク質 MIP-1a, IL-3, -8, -6, -17, -18, アクチビン A を含む複数の RANKL 非依存性破骨細胞(osteoclast)刺激因子が、がん細胞によって産生されるか誘導される。MIP-1α は多発性骨髄腫(multiple myeloma)細胞の 70%が産生するケモカインであり、ヒト破骨細胞の強力な誘導因子である。MIP-1α 遺伝子の発現は多発性骨髄腫における骨吸収と高い関連性があり、MIP-1α 高値は極めて予後不良と関連している。MIP-1α は破骨細胞前駆細胞の走化性因子として働き、破骨細胞前駆細胞の分化を誘導し、RANKL 非依存性の破骨細胞形成に寄与する。さらに、MIP-1α は RANKL とインターロイキン (interleukin: IL)-6 が誘導する OCL 形成を増強する。MIP-1a はまた、腫瘍細胞上の β1 インテグリンの発現を増加させ、腫瘍細胞が骨髄に定着することを可能にする。その結果、骨髄間質細胞による RANKL、IL-6、血管内皮増殖因子(vascular endothelial growth factor: VEGF)、腫瘍壊死因子-a(tumor necrosis factor-α: TNF-α)の産生が増加し、腫瘍細胞の増殖、血管新生、骨吸収がさらに促進される。

IL-3 は骨髄に存在するもう一つの破骨細胞刺激因子である。IL-3 はまた、破骨細胞の発生に対する RANKL の作用を増大させることによって、間接的に破骨細胞形成を誘導することができる。この因子はまた、骨芽細胞の分化を阻止するアクチビン A を刺激することにより、骨吸収にも寄与する。

TNF-α は、骨髄間質細胞における Runx2 と Gfi-1 の発現に対する作用を通じて、破骨細胞形成を誘導し、骨芽細胞分化を抑制することができる二つの機能を持つサイトカインである。

形質転換増殖因子 β (transforming growth factor β: TGF-β) は、骨転移において上昇する因子であり、腫瘍-骨微小環境に複数の影響を及ぼす。TGF-β は腫瘍細胞による IL-6 と VEGF の産生を増加させる。

これら 3 つの主な機序とは別に、悪性腫瘍による高カルシウム血症のあまり一般的でない原因がある。

2-4. 異所性 PTH 分泌
異所性 PTH を分泌する腫瘍は、文献に症例報告として報告されている。これらの腫瘍の例としては、卵巣がん、肺小細胞がんおよび肺扁平上皮がん、神経外胚葉性腫瘍 (neuroectodermal tumors)、甲状腺乳頭がん、転移性横紋筋肉腫 (rhabdomyosarcoma)、膵がんおよび胃がんがある。これらの患者の血液検査では、一般的に PTH 高値、カルシウム高値、リン低値を認める。

2-5. 偽性高カルシウム血症
高カルシウム血症のもうひとつのまれな原因は、偽性高カルシウム血症である。これは、カルシウムが異常な免疫グロブリンに結合することによる測定誤差が原因である。原子吸光光度計 (atomic absorption spectrophotometry) を用いてこれを見分けることが可能である。

2-6. マイクロ RNA(microRNA: miRNA)の役割
miRNA は骨の恒常性維持において微妙な調節因子として働く。miRNA が破骨細胞形成に必須であるという基本的な証拠は、miRNA合成に必須な酵素である DICER1 を欠失させた遺伝学的研究によって得られている。DICER 欠損マウスや破骨細胞特異的 DICER 遺伝子欠損は、破骨細胞の形成と活性の両方に障害をもたらす。破骨細胞の形成を支持・抑制する miRNA が存在することが知られている。miRNA の機能は一部しか知られていないが、今後研究が進めば、悪性腫瘍や高カルシウム血症などの治療にも利用されるようになるだろう。

3. 臨床所見
高カルシウム血症の症状は、少なくとも 2 つの因子、すなわち高カルシウム血症の程度および血清カルシウムの変化率によって異なる。血清総カルシウム値に対する高カルシウム血症の程度は、軽度高カルシウム血症 (10.5-11.9 mg/dL)、中等度高カルシウム血症 (12-13.9 mg/dL)、および重度高カルシウム血症 (>14 mg/dL) である。軽度の高カルシウム血症は、無症状であるか、しびれや痛みなどの軽度の非特異的症状を伴うことがある。対照的に、重症で急速に進行する高カルシウム血症は、生命を脅かすさまざまな症状を伴うことがある。

臨床的に明らかな高カルシウム血症の発現には、高カルシウム血症の程度とその発現速度という少なくとも 2 つの因子が関与していることに注意することが重要である。悪性腫瘍にともなう高カルシウム血症の患者は、非常に高いレベルの高カルシウム血症を短時間で発症するため、他の原因の高カルシウム血症の患者よりも症状が強い。高カルシウム血症によって影響を受けるのは主に、神経系、消化器系および腎である。ほとんどすべての患者で消化器症状がみられる。軽度のカルシウム上昇は、食欲不振および便秘として現れる。重度の高カルシウム血症の患者では嘔気および嘔吐が発現することがあるが、これらの症状は腫瘍治療の副作用または腫瘍自体によって直接生じる症状と混同されやすい。原発性副甲状腺機能亢進症でみられるようなけいれん性の腹痛は稀に遭遇するが、消化性潰瘍や膵炎などの重篤な合併症が起こることはそれよりもはるかに少ない。

高カルシウム血症は腎の尿濃縮能を損なう。尿細管障害は後天性腎尿細管性アシドーシス (aquired tubular acidosis)、尿糖 (glucosuria)、アミノ酸尿 (aminoaciduria) を引き起こす。腎症状としては、腎性尿崩症 (nephrogenic diabetes insipidus) による多尿 (polyuria) がある。臨床的に明らかな高カルシウム血症の全ての患者は、多尿と嘔気および嘔吐による経口摂取量の減少のために腎前性の急性腎障害を来す。腎石灰化および腎結石は、長期にわたる高カルシウム血症を必要とするため、悪性高カルシウム血症ではあまりみられない。

無気力 (apathy)、気分の変化、疲労などの精神神経症状は、高カルシウム血症の症状としてしばしばみられるが、これは基礎にある悪性腫瘍によるものだろうと見なされ、見過ごされることがある。腫瘍患者においては、筋力低下によって運動量が減るために、骨からのカルシウム吸収を促進し、高カルシウム血症を増加させる。高カルシウム血症が悪化し続けると、精神状態の変化、錯乱、最終的には昏睡などの重篤な症状が現れることがある。まれに、可逆性後頭葉白脳症(posterior reversible leukoencephalopathy syndrome: PRES)を発症することもある。これは頭痛、痙攣として発症し、画像では皮質下浮腫を認める。

心血管系の所見は、心電図上の QT 間隔の短縮として認められる。心室細動などの致死的な心室性不整脈は、重度の高カルシウム血症の患者に発現することがある。

骨痛は、悪性腫瘍そのものによっても高カルシウム血症によっても起こり得る、よくある症状である。骨痛は、髄内圧の上昇、虚血、または微小骨折を引き起こす骨転移の存在と関連している可能性があるが、この症状は、明らかな骨転移がない場合にもみられる。

4. 患者の評価
症候性高カルシウム血症が疑われる患者では、まず血清カルシウム濃度を測定する。血清カルシウムは、生理的に不活性な担体結合型カルシウムと血清カルシウムの活性型であるイオン化カルシウムの合計である。したがって、カルシウム濃度が高いことが判明した場合は、これらの検査がイオン化カルシウムを測定しているのか総カルシウムを測定しているのかを知る必要がある。

総カルシウム値は、血清蛋白や pH など多くの因子の影響を受けうる。そのような場合は、イオン化カルシウム濃度がより重要である。カルシウムの恒常性はアルブミン濃度に大きく影響されるため、血清カルシウム濃度の解釈には血清アルブミン濃度の測定が必要である。アルブミンに異常がある場合は、血清カルシウムを以下の式で補正すべきである。

補正カルシウム濃度 (mg/dL) = 総カルシウム濃度 (mg/dL) +[0.8×(4.0-アルブミン (g/dL)]

重度の脱水がある場合、蛋白質やカルシウムの濃度が上昇している可能性がある。アルブミン-カルシウム系は pH に非常に敏感であり、pH の変化によってアルブミンに結合するカルシウムイオンの割合が変化することを覚えておくことが重要である。したがって、血清カルシウムが高いかどうかは、常にくり返し検査して確認することが推奨される。

悪性腫瘍に関連した高カルシウム血症を評価するための次のステップは、PTH と PTHrP の両方を測定することである。PTH と PTHrP は類似した分子であるため、複数の原因がない限り、両者が同時に上昇することはない。悪性腫瘍のほとんどの症例では、血清 PTH 値は抑制されているか正常であるように見える。高カルシウム血症で PTH 値が高値正常の場合は、PTH 介在性高カルシウム血症または副甲状腺がんの存在を示唆する。PTHrP または PTH による高カルシウム血症は、低リン血症、高クロール血症、および軽度の代謝性アルカローシスを引き起こすことがあるため、血清リンおよび他の電解質を測定すべきである。

PTHrP 値が低い場合は、次のステップとして、ビタミン D 介在性高カルシウム血症をスクリーニングするために、1,25-ジヒドロキシビタミン D 値を測定すべきである。PTH、PTHrp、1,25-ジヒドロキシビタミン D が低い患者では、溶骨性転移による高カルシウム血症が、悪性腫瘍に伴う高カルシウム血症の原因と考えられる。

まれではあるが、患者は悪性腫瘍とともに家族性高カルシウム血症の症状を示すことがある。24 時間尿中カルシウムクリアランス-クレアチニンクリアランス比(FECa)は、家族性低カルシウム尿性高カルシウム血症の評価に有用であろう。FeCa が低い(0.01 未満)場合は、家族性低カルシウム尿性高カルシウム血症を疑うべきであり、確定評価には CaSR、AP2S1、または GNA11 遺伝子の変異の遺伝子検査が含まれる。しかし、がん患者において、悪性腫瘍に関連した高カルシウム血症の機序が 1 つだけではないことに注意することが重要である。

5. 高カルシウム血症の治療
高カルシウム血症の治療における主な目標は、根本的な原因を見つけ、治療を開始することである(表 1)。

表 1. 悪性腫瘍にともなう高カルシウム血症の治療選択肢
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC10073684/table/T1/

特に軽症の高カルシウム血症では、この目標に全力を注ぐことができるが、中等症から重症の高カルシウム血症では、対症療法も併用する必要がある。カルシウム値が 14 mg/dL(3.5 mmol/L)を超える患者には、より積極的な治療が必要である。さらに、血清カルシウム濃度に関係なく神経症状(例えば、嗜眠、昏迷)を呈する患者は、緊急の積極的治療が必要である。

5-1. 血管内容量の回復と腎カルシウム排泄促進
前述のように、高カルシウム血症の患者は、嘔気、嘔吐、精神状態の変化による不十分な水分補給、および高カルシウム血症による腎性尿崩症によって脱水状態となる。さらに、体液量の減少自体も、カルシウムの腎クリアランスを低下させ、悪循環をもたらす。したがって、水分補給は高カルシウム血症における治療の基本である。血管内容量の回復のためには、等張晶質液(例えば、正常食塩水)を使用すべきである。一般に、進行した高カルシウム血症の患者には、約 200-300 mL/時の速度から輸液を開始すべきである。

患者は、体液過剰の徴候(例: 呼吸困難、浮腫)がないか定期的に評価すべきである。基礎疾患として心疾患および腎疾患がある患者では、溢水のリスクを最小化するために、輸液速度を低下させるべきである。フロセミドのようなループ利尿薬のルーチン使用は、体液減少および電解質異常の発現のため推奨されないことに注意することが重要である。フロセミドの使用は、輸液を受けている間に体液過剰の徴候が発現した患者に限定すべきである。

5-2. カルシトニン
カルシトニンは甲状腺の C 細胞によって産生される強力なカルシウム低下ホルモンである。薬理学的用量のカルシトニンは、腎カルシウム排泄を増加させ、さらに重要なことに、破骨細胞機能を阻害して骨吸収を抑制することにより、血清カルシウム濃度を低下させる。さらに、カルシトニンは NF-kB リガンド(RANKL)受容体活性化因子の破骨細胞形成作用を阻害する。

カルシトニンは筋肉内または皮下投与する必要がある。カルシトニンは安全であり、軽度の嘔気を伴う過敏反応を除いて副作用はほとんどない。開始用量は 4 単位/kg である。血清カルシウムは 4-6 時間後に測定する。カルシウム低下反応が認められた場合、患者はカルシトニン感受性であり、カルシトニンを 12 時間ごとに合計 24-48 時間繰り返すことができる。反応が不十分な場合は、6-12 時間ごとに 8 単位/kg に増量できる(総治療時間 24-48 時間)。カルシトニンは比較的弱い薬物であるが、速やかに作用し、4-6 時間以内に血清カルシウム濃度を最大 1-2 mg/dL(0.3-0.5 mmol/L)低下させる。

カルシトニンの有効性は、反復投与しても最初の 48 時間に限られる。これはおそらく、受容体のダウンレギュレーションによる脱感作 (tachyphylaxis) のためである。カルシトニンの作用時間には限界があるため、カルシウムが 14 mg/dL(3.5 mmol/L)を超える症候性患者では、水分補給およびビスホスホネート (bisphosphonate)(またはビスホスホネート抵抗性の患者ではデノスマブ [denosumab])と併用したほうがより有益である。

5-3. 骨吸収の抑制
ビスホスホネートは骨表面のハイドロキシアパタイト (hydroxyapatite) に結合することで、破骨細胞による骨吸収を抑制する。破骨細胞がビスホスホネートが沈着した骨を吸収し始めると、吸収の際に放出されるビスホスホネートが破骨細胞の機能 (1. 波状縁と呼ばれるひだ状の細胞膜構造を形成し、2. 骨表面に接着し、3. 持続的な骨吸収に必要なプロトンを産生する能力) を損なう。ビスホスホネートはまた、骨髄前駆細胞の分化と動員を減少させ、骨髄アポトーシスを促進することにより、骨髄の活性を低下させる。

破骨細胞に対する抑制効果に加え、ビスホスホネートは骨芽細胞に有益な効果をもたらすようである。この効果のメカニズムは、プロテインキナーゼの活性化を促進するギャップジャンクションタンパク質であるコネキシン 43 に起因すると考えられている。しかし、この抗アポトーシス作用は、おそらくビスフォスフォネートの強力な抗骨吸収作用以上の抗骨粗鬆症効果には大きく寄与していないであろう。

ビスフォスフォネート系薬剤は、効果が出るまでに約 2-4 日かかるため、遅くとも診断後 48 時間以内に投与すべきである。パミドロネートは 60-90 mg を 4-24 時間かけて静脈内投与する。ゾレドロン酸は 4 mg を 15-30 分かけて点滴静注する。

ビスフォスフォネートの重大な副作用のひとつに腎毒性がある。基礎疾患である腎疾患や高カルシウム血症により腎機能に異常がみられる患者では、治療の有益性を検討し、必要であれば投与量を減らすべきである。ビスフォスフォネート療法に加え、十分な水分補給が腎機能の維持に役立つ。難治性の高カルシウム血症に対しては、ゾレドロン酸による再治療が考慮されうるが、2 回目の投与は初回治療から 7 日後でもよい。ゾレドロン酸を追加投与する前に、血清クレアチニン値で腎機能を注意深くモニターすべきである。クレアチニンクリアランスに基づく推奨減量は以下の通りである。 GFR>60 mL/分では 4 mg、GFR 50-60 mL/分では3.5 mg、GFR 40-49 mL/分では 3.3 mg、GFR 30-39 mL/分では 3.0 mg である。

ビスフォスフォネート製剤の最も一般的な副作用は、腎機能障害に関するものである。これに対する調整が必要なことはすでに述べた。その他の一般的な副作用としては、点滴後 1-2 日間の骨の痛みやインフルエンザ様の症状がある。顎骨壊死は、非常にまれではあるが、患者の QOL にとって非常に重要であり、高用量かつ長期間の治療を受けた患者、治療中に侵襲的な歯科処置を受けた患者、口腔ケアが不十分な患者にみられることがある。

5-4. グルココルチコイド
グルココルチコイドは、いくつかの機序により血清カルシウム値を低下させる。グルココルチコイドは、肺およびリンパ節の活性化された単核球を介して、腎外カルシトリオールの合成を抑制することができる。すなわち、1-α 水酸化酵素を阻害することにより、1,25-(OH)2 D の合成を阻害し、その結果として腸からのカルシウム吸収を阻害する。

さらに、グルココルチコイドは腫瘍細胞から直接放出されるサイトカインに対する阻害作用もあり、これらのサイトカインによって起こる破骨性骨吸収を抑制する。グルココルチコイドは通常、ヒドロコルチゾン 200-400 mg/日を 3-4 日間投与した後、プレドニン 10-20 mg/日を 7 日間投与する。治療は最大 10 日間続けるべきであり、高カルシウム血症に対して奏効しない場合は続けるべきでない。

5-5. デノスマブ
デノスマブは、RANKL とその受容体 RANK との結合を阻害するヒト化モノクローナル抗体である。ビスフォスフォネート抵抗性の悪性高カルシウム血症患者の二次治療に使用される薬剤である。

120 mg のデノスマブを 4 週間ごとに皮下投与した場合と 4 mg のゾレドロン酸を 4 週間ごとに静脈内投与した場合を比較した研究では、転移性骨疾患患者の悪性高カルシウム血症の予防にはデノスマブの方が有効であったと報告されている。この研究では、デノスマブは悪性腫瘍にともなう高カルシウム血症の初回発症を遅らせ(ハザード比[hazard ratio: HR]0.63)、再発高カルシウム血症の発症リスクも 52%減少させることが示された。ゾレドロン酸投与群では 40%であったのに対し、デノスマブ投与群では 31%しか高カルシウム血症を発症しなかった。

デノスマブの副作用もビスフォスフォネート製剤とは異なる。デノスマブはビスフォスフォネートとは異なり、腎臓から排泄されないため、ビスフォスフォネートが慎重に使用されるか禁忌とされている慢性腎臓病患者や何らかの理由で GFR が低下している患者への使用に制限はない。薬物動態および薬力学が腎状態の影響を受けないことから、腎調節の必要性は報告されていない。しかし、デノスマブはビスフォスフォネートよりも強力な薬剤であるため、低カルシウム血症のリスクが高くなる。このリスクは腎不全患者でより高いとみられるため、血清カルシウム濃度の慎重なモニタリングが必要である。

デノスマブはまた、シナカルセトやビスフォスホネート静注剤に抵抗性の副甲状腺癌症例にも有効であることが報告されている。

デノスマブ投与を中止すると、骨代謝マーカーの濃度が急激に上昇することがある。通常、このマーカーは治療前のレベル以上に上昇する。この現象は骨密度の低下とも関連し、「リバウンド現象」と表現される。この現象の根本的なメカニズムは、抗骨吸収剤の中止による RANKL の増加と考えられている。RANKL 発現の異常な亢進は、RANKL 阻害中に蓄積した破骨細胞の前駆細胞からの破骨細胞新生の亢進につながる。骨折リスクと高カルシウム血症を予防するために、デノスマブを中止した患者の後療法として、ビホスフォネート製剤が好まれる可能性がある。

5-6. シナカルセト
シナカルセトは、細胞外カルシウムに対するカルシウム感知受容体 (calsium-sensing receptor) の感受性を高めることにより PTH 濃度を直接低下させ、血清カルシウム値を低下させる。この薬剤は、三次性・二次性副甲状腺機能亢進症および難治性副甲状腺癌への使用が承認されている。副甲状腺癌は、シナカルセトが承認されている唯一の悪性腫瘍である。

5-7. 硝酸ガリウム
硝酸ガリウム (gallium nitrate) は、骨からのカルシウム吸収を阻害することによって血中カルシウム低下作用を示すと考えられている。硝酸ガリウムは骨リモデリングが起こる部位に局在し、破骨細胞の活性を抑制する。

パミドロネートの静脈内投与と比較すると、ガリウムはパミドロネートよりも類上皮腫 (epidermoid tumor) において成功したが、概ね同様のカルシウム低下作用を有するようであった。硝酸ガリウムは、カルシトニンと比較した研究でより強力であることが判明した。また、ガリウムはタモキシフェン誘発性高カルシウム血症に有効であり、患者がタモキシフェン治療を継続している間、カルシウム濃度を正常化をもたらすことが示されている。

推奨用量は、100-200 mg/m2 を 24 時間かけて 5 日間静脈内投与である。硝酸ガリウムは忍容性が高く、有意な腎毒性を示さないが、現在米国食品医薬品局の承認は得ていない。硝酸ガリウムは 2012 年に米国市場から削除された。

5-8. 透析
透析は、心不全や腎不全のために十分な輸液が安全に行えない患者や、他の治療に反応しない高カルシウム血症の患者の治療に用いられる方法である。また、重度の高カルシウム血症により不整脈を発症した患者の緊急治療としても行われる。この目的で使用される透析液は、カルシウムを含まない酢酸溶液またはカルシウム濃度が非常に低い透析液である。

6. 結論
悪性腫瘍による高カルシウム血症は、高カルシウム血症の最も多い原因であると同時に、がん患者の予後に影響を及ぼすという点でも、非常に重要な問題である。高カルシウム血症は、軽度の症状から生命を脅かす症状まで、幅広い所見を呈する。血液学、腫瘍学、内科および緩和ケアの専門家は、高カルシウム血症の診断と管理について十分な知識を持つべきである。

元論文
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC10073684/
  • Xでシェアする
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

最新の画像もっと見る

最近の「電解質異常」カテゴリーもっと見る