内分泌代謝内科 備忘録

原発性アルドステロン症

原発性アルドステロン症の診断と治療
Endocrinol Metab Clin North Am 2019; 48: 681-670

かつて原発性アルドステロン症 (primary aldosteronism) は、高血圧のまれでニッチな二次的原因と考えられていた。しかし、原発性アルドステロン症は以前考えられていたよりもはるかに一般的であることがわかってきた。アルドステロンの自律的分泌は心血管疾患の一因であり、また標的を絞った治療が可能であることから、この有病率の増加は公衆衛生にとって重要である。この総説では、原発性アルドステロン症をより多く、より早期に診断するための臨床的アプローチと、心血管疾患の発症リスクを軽減するための実際的な治療目標に焦点を当てる。

1. はじめに
原発性アルドステロン症は、かつては高血圧のまれでニッチな二次的原因と考えられていた。しかし、急速に進展したトランスレーショナルリサーチにより、この疾患に対する見方が劇的に変化した。現在では、原発性アルドステロン症が一般的であり、過小診断され、心血管疾患の重大な原因のひとつとなっていることは明らかである。この総説では、原発性アルドステロン症の臨床診断と治療に対する実際的なアプローチに焦点を当てる。

2. 原発性アルドステロン症の病態生理
原発性アルドステロン症の特徴は、その主要な調節因子であるアンジオテンシン II、高カリウム血症、コルチコトロピン(corticotropin: ACTH)とは無関係に、片方または両方の副腎からアルドステロン (aldosterone) が自律的に分泌されることである。

アルドステロンは、遠位ネフロンの主要細胞のミネラルコルチコイド受容体(mineralcorticoid receptor: MR)に結合し、上皮ナトリウムチャネル(epithelial sodium channel: ENaC)を介したナトリウム再吸収と、それに伴うカリウムイオンまたは水素イオンの排泄を誘導する。

ENaC を介したナトリウム再吸収は、水分再吸収を促進する浸透圧変化を引き起こし、血管内容量増加、糸球体過濾過、レニンとアンジオテンシン II の抑制をもたらす。アンジオテンシン II は近位ネフロンでのナトリウム再吸収の重要なメディエーターであるため、アンジオテンシン II が抑制されると遠位ネフロンへのナトリウム供給が増加し、アルドステロン駆動性のナトリウム再吸収と血管内容量増加、さらにカリウムと酸の排泄が増幅される。原発性アルドステロン症患者が典型的に高血圧、低カリウム血症、代謝性アルカローシスを呈するのは、このような腎および血行動態の影響によるものである。

重要なことは、後者が腎 MR を介した病態生理を説明する一方で、自律的なアルドステロン分泌は腎外 MR、特に心臓や心血管組織の活性化を介した病態生理も誘導することである。具体的には、体液量増加かつ/またはナトリウム過剰とMR 活性化の組み合わせが、原発性アルドステロン症における血圧に依存しない心血管疾患のメカニズムであると推測されている。

3. 有病率
原発性アルドステンロン症は、歴史的には高血圧のニッチあるいは稀な原因と考えられてきたが、最近の研究では、しばしば見逃されるよくある疾患であることが示唆されている。有病率を推定する上での課題は多岐にわたる。まず、真の有病率を知るためには、適切な集団をサンプリングしなければならない。第二に、原発性アルドステロン症の定義について普遍的または国際的なコンセンサスはなく、病理組織学的またはその他のゴールドスタンダードも存在しない。したがって、「原発性アルドステロン症」とみなすのに十分な自律的アルドステロン分泌の基準が地域によって異なり、世界中のさまざまな標本集団からの異なる有病率推定値をもたらしている。

いずれにせよ、原発性アルドステロン症は現在、内分泌性高血圧の最も多い原因として認識されている。Monticone らは、原発性アルドステロン症の有病率の推定を試みた最大規模の研究の 1 つとして、プライマリケアの高血圧患者 1,672 人を対象に原発性アルドステロン症の検査を行った。著者らは、原発性アルドステロン症を定義するために厳格なスクリーニングと確認検査のカットオフを用い、一般高血圧患者の 6%が原発性アルドステロン症と診断されたと報告している。

原発性アルドステロン症は重症の高血圧症例に多くみられ、未治療の血圧が 160-179/100-109 mmHg の患者の約 12%が原発性アルドステロン症であることが確認されたが、より軽症の高血圧症(140-159/80-99 mmHg)の患者でも 4%の有病率が観察された。この研究で副腎静脈サンプリング(adrenal venous sampling: AVS)を受けた患者のうち、原発性アルドステロン症の約 3 分の 1 は片側性疾患(典型的にはアルドステロン産生腺腫[aldosterone-producing adenoma: APA]による)であったが、残りの 3 分の 2 は両側性疾患(典型的には両側性副腎過形成[bilateral adrenal hyperplasia: BAH]または特発性アルドステロン症 [idiopathic hyperaldosteronism] による)であった。この研究で報告された有病率は、他国で行われた独自の標本集団を用いた先行研究と類似していた。

もし、これらの研究者が、スクリーニングや確認検査のカットオフ値について、わずかに異なる基準を用いていたならば、以前にも報告されているように、より小さい、あるいは大きな有病率の推定値が観察されたかもしれないことに注意することが重要である。このように、比較的恣意的な基準を用いた場合の有病率の決定には困難が伴う。

抵抗性高血圧など、より重症の高血圧集団における原発性アルドステロン症の有病率の推定値は、約 12-20%とさらに大きい。新しい知見によると、抵抗性高血圧におけるこの高い有病率でさえも過小評価である可能性がある。

4. 原発性アルドステロン症が健康にもたらす影響
原発性アルドステロン症の有病率が比較的大きいことの重要性は、特に早期に診断されなかった原発性アルドステロン症がもたらす臨床的影響によって最もよく理解される。MR 拮抗薬による標的治療や副腎摘出術が行われなれば、原発性アルドステロン症患者は、本態性高血圧患者と比較して、血圧とは関係なく、多くの有害な健康アウトカムのリスクが高いことが、多くの研究で証明されている。これらの研究のほとんどは、心筋梗塞、心不全、脳卒中、心房細動、糖尿病、およびメタボリックシンドロームを含む心代謝系のアウトカムに焦点を当てている。

最近のメタアナリシスでは、本態性高血圧患者に比べて、標的治療が行われていない原発性アルドステロン症患者では、臨床的に関連するほぼすべての有害な心代謝系アウトカムのオッズ比(odds ratio: OR)が高いことが示された(表 1)。

表 1: 原発性アルドステロン症と本態性高血圧の健康アウトカムの比較
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC6824480/table/T1/

他の研究では、標的治療前の原発性アルドステロン症患者では、糸球体過濾過やアルブミン尿を含む腎疾患や死亡のリスクも高いことが示されている。

5. 診断的アプローチ
原発性アルドステロン症における前述の心代謝性疾患のリスクを考慮すると、この疾患の患者を早期に発見し、標的治療を開始できるようにすることが不可欠である。

5-1. 原発性アルドステロン症のスクリーニング対象者
現在の内分泌学会のガイドラインでは、最も有病率が高いと報告されている集団において原発性アルドステロン症のスクリーニングを推奨している(表 2)。

表 2. 原発性アルドステロン症のスクリーニングの適応
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC6824480/table/T2/

上記の原発性アルドステロン症のスクリーニングの適応のごく一部しか実際にはスクリーニングがされていないことには注意が必要である。このことは、原発性アルドステロン症の有病率の高さと早期発見の重要性について、より多くの教育が必要であることを意味している。あるいは、原発性アルドステロン症のスクリーニングを十分に行うには、プライマリケア医や高血圧非専門医が割ける時間と労力では不十分なのかもしれない。

さらに、これらの推奨はエキスパートオピニオンに基づいて作られたものであるが、現行のスクリーニングの適応では相当な程度の血管障害がすでに生じている可能性のある、重症の原発性アルドステロン症の患者を同定する可能性が高いことに注意すべきである。最近の研究では、原発性アルドステロン症は、それほど重症でない高血圧や、上記のスクリーニングの適応にならない正常血圧の人でさえもみられることが報告されている。

5-2. 原発性アルドステロン症のスクリーニング方法
原発性アルドステロン症のスクリーニング検査として最もよく推奨されるのは、アルドステロン-レニン比 (aldosterone-to-renin ratio: ARR) である。最も広く受け入れられているスクリーニング陽性の定義は、ARR>30 ng/dL/h、血清アルドステロン濃度 >15 ng/dL である。ARR の指標そのものに注目するのではなく、アルドステロンとレニンの絶対値を個別に評価し、レニンに依存しないと思われる不適切で自律的なアルドステロンの分泌があるかどうかを判断することが重要である。

自律的で不適切なアルドステロン分泌のある患者において、アルドステロン濃度の下限値がどの程度なのかを知ることは臨床的な課題となっている。というのは、原発性アルドステロン症の診断のための普遍的な病理組織学的方法などが存在しないため、ARR は既知のゴールドスタンダードに対して校正または検証されていないからである。

あまり保守的ではない基準では、PRA が抑制されている(例:1.0 ng/mL/h 未満)場合、より低いアルドステロン濃度(例:6 ng/dL 以上または 9 ng/dL 以上)を認めている。レニンの抑制、または少なくともレニンの低下は、一般に、アルドステロンの自律的分泌を支える生化学的必要条件である。このような観点から、アルドステロン値をどの程度にすれば「スクリーニング陽性」とみなすかは、個人のスタイル、費用対効果、特定の環境におけるその他のリソースによって決定されることが多い。より保守的な基準(レニンが低値でアルドステロン値が非常に高い)に頼ると、軽症例(すなわち偽陰性)を見逃す犠牲の上に典型的な症例が検出される可能性がある。一方、より緩やかな基準(レニンが低値でアルドステロン値が中程度または正常)に頼ると、偽陽性の数が増える犠牲の上に典型的な症例や軽症例が検出される可能性がある。

何十年もの間、レニンの主な臨床指標は血漿レニン活性 (plasma renin activity: PRA) であり、研究においてもこの指標が主に用いられてきた。しかし、世界的な傾向として、PRA をレニン濃度に置き換える動きがある。同様に、アルドステロンの測定は、ラジオイムノアッセイではなく、LC-MS/MS を用いて行われるようになってきている。LC-MS/MS によるアルドステロンの測定値は、他の測定値よりもかなり低いことが示されている。したがって、今後は臨床的に適切なアルドステロン濃度の新しい校正法と、カットオフを検討する必要があることを示唆している。

よくある疑問は、偽陰性を避けるために、検査前に降圧剤を中止する必要があるとすれば、それはどの薬なのかということである。ここでもまた、地域や個人的な習慣が異なる。レニンを上昇させ、ARR を低下させる降圧薬(MR 拮抗薬、ENaC 阻害薬など)を使用してもレニンが抑制されたままであれば、アルドステロンの自律的産生があると解釈できる。一方、これらの降圧薬のいずれかを服用しておりレニンが抑制されていない場合は、再検査の前にウォッシュアウト期間(通常はもっと短いが、最大 4-6 週間かかることがある)が必要な場合がある。このウォッシュアウト期間中は、レニン測定に影響を与えない降圧薬(例えば、α 遮断薬かつ/またはヒドララジン)とカリウム補充で患者の血圧と血清カリウムをコントロールする。

アンジオテンシン変換酵素(angiotensin-converting enzyme: ACE)阻害薬やアンジオテンシン受容体拮抗薬(angiotensin receptor blocker: ARB)は、正常な生理機能ではレニンを上昇させるため、しばしばレニン·アルドステロンの評価をする前にウォッシュアウト期間を設けることが推奨される。しかし、原発性アルドステロン症の病態生理においては、もともとレニンとアンジオテンシン II は抑制されているため、ACE 阻害薬や ARB が診断に影響を与えることはまれである。

β 遮断薬はレニンを低下させるため、ARR 偽陽性のリスクを増加させる。しかし、正常な生理機能においては、レニンを低下させると、アンジオテンシン II およびアルドステロンは低下するのが一般的である。したがって、β 遮断薬の効果のみで偽陽性となることは少ない。

同様に、カルシウム拮抗薬や利尿薬はすべて ARR に影響を与える可能性があるが、実用的にはほとんどの場合、その影響は診断を劇的に変えるほどではない。したがって、これらの薬を服用しながら ARR を測定することは可能である。これらの理由から、多くの専門家は、1. 患者がどの薬を使用しているかにかかわらず、原発性アルドステロン症が疑われる場合にはスクリーニングを行うこと、そして、2. レニンが抑制されていない場合にのみ MR 拮抗薬または ENaC 阻害薬のウォッシュアウト期間を設けることを考慮することを推奨している。ただし、原発性アルドステロン症の患者は、高血圧と低カリウム血症のコントロールが非常に困難なことがあるため、慎重な経過観察が必要である。

5-3. 機能確認検査 (confirmatory testing)
しばしばスクリーニング結果の裏付けとなる確認検査が必要となる。高血圧、低カリウム血症、レニン活性または濃度が測定感度未満で、血清アルドステロン値が十分に高 い(すなわち、15 または 20 ng/dL以上)患者については、 機能確認検査を追加する必要はなく、診断を確定できる。

初期スクリーニングの結果が圧倒的に納得のいくものでない場合は、機能確認検査を行ってもよい。機能確認検査はと事実上アルドステロン抑制試験であるが、プロトコル、結果の解釈、すなわち、どこから「陽性」とし、どこから「陰性」とするのかについては、かなりのばらつきがあり、コンセンサスが得られていない。推奨される主な機能確認検査は以下の 4 つである。

A. 経口ナトリウム負荷 (oral sodium load)
患者には、4000-6000 mg のナトリウム食を3-4 日間摂取するよう指示し、必要に応じて塩化ナトリウムの錠剤を追加する。ナトリウムを負荷すると尿中カリウム排泄が増加するため、通常はカリウムの追加補充も必要となる。食事療法の最終日には、24 時間蓄尿を行う。24 時間尿中ナトリウム排泄量が >200 mEq の場合に、24 時間尿中アルドステロン排泄量が >12 μg ならば原発性アルドステロン症と診断される。ただし、24 時間尿中アルドステロン排泄量が >10 μg を超える場合は、原発性アルドステロン症を強く示唆する。

B. 生理食塩水負荷試験 (saline infusion test)
患者に等張食塩水を 4 時間かけて 2L 輸液する。伝統的に、この検査は患者を仰臥位にして行うとされてきた。しかし、最近の研究では、患者を座位にして行うことにより、原発性アルドステロン症を同定する特異度を低下させることなく感度を高めることが示唆されている。輸液終了時に血清アルドステロン濃度が >10 ng/dL であれば原発性アルドステロン症と診断され、血清アルドステロン濃度が <5 ng/dL では原発性アルドステロン症は除外される。血清アルドステロン濃度が 5-10 ng/dL では不確定とみなされる。患者を座位にして検査を行った場合、ACTH の影響を除外するために、血清コルチゾール濃度が負荷前より負荷後の方が低い場合に限って、負荷後の血清アルドステロン濃度が >6 ng/dL で原発性アルドステロン症と診断される。

C. フルドロコルチゾン抑制試験 (fludrocortisone suppression test)
患者にフルドロコルチゾン 0.1 mg を 6 時間ごとに 4 日間投与し、ナトリウムとカリウムを補充する。4 日目の午前 7 時に血清コルチゾールを測定し、午前 10 時に座位で血清アルドステロン、PRA、コルチゾールを測定する。血清アルドステロン >6 ng/dL、PRA<1.0 ng/mL/h、午前 10 時の血清コルチゾールが午前7時の値以下であれば、原発性アルドステロン症と診断される。

D. カプトプリル負荷試験 (captopril challenge test)
少なくとも 1 時間座位または立位で過ごした後、25-50 mg のカプトプリルを投与する。血清アルドステロンと PRA は、カプトプリル投与前、投与 1 時間後、2 時間後に測定し、その間患者は座ったままとする。血清アルドステロンは正常人では抑制されるが、原発性アルドステロン症ではアルドステロンは上昇したままで、PRA は抑制されたままである。多くの異なる診断基準値が提案されている。PRA が抑制されたまま、アルドステロンの抑制がベースラインから 30%未満であれば、原発性アルドステロン症と確定される。あるいは、ARR >20 または >30 (ng/dL)/(ng/mL/h) であれば、診断を強く示唆する。

5-5. 局在診断
原発性アルドステロン症の診断が確定したら、局在診断を行う。アルドステロン産生副腎皮質がんのまれな例を除外するために、手術に関心がない患者に対しても、画像検査が推奨される(図 1)。

図 1. 副腎皮質がんと副腎腺腫の CT 所見
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC6824480/figure/F1/

しかし、画像検査で左右どちらの副腎からアルドステロンが過剰分泌しているかを判定することは一般には推奨されておらず、誤解を招く可能性がある。非機能性副腎偶発腫が存在する可能性があるし、画像検査で目に見える異常がなくても片方または両方の副腎にアルドステロン産生腺腫が存在する可能性がある(図 1)。このため、ほとんどの専門家と専門学会は、副腎摘出の適応があり、副腎摘出を行う可能性のある原発性アルドステロン症患者のほとんどに対して、AVS による局在診断を推奨している。ただし、画像上明らかな片側腺腫があり、低カリウム血症を伴う重症の原発性アルドステロン症の若年(35 歳未満)患者では、目に見える片側腺腫がほとんど常に原因病変であるため、AVS は必要ないかもしれない。

一方で、ランダム化比較試験(SPARTACUS 試験)では、CT を用いた局在診断と AVS を用いた治療のどちらが効果的かを評価し、両アプローチとも 1 年後の血圧コントロールは同等であったと結論付けている。

AVS 手技は技術的に難しく、十分な経験を積んだ専門家が行うべきである。AVS の最適な方法論とプロトコルは、大きな議論となっている。

5-4. 診断アプローチ
図 2 は、原発性アルドステロン症の診断アプローチを示したものである。

図 2. 原発性アルドステロン症の診断アプローチ

6. 遺伝学
原発性アルドステロン症の評価における遺伝子検査は、日常臨床では一般的ではない。遺伝性の原発性アルドステロン症はまれである。最近の総説では、原発性アルドステロン症の遺伝学について詳細に論じられている。

6-1. 糖質コルチコイド反応性アルドステロン症(glucocorticoid remediable aldosteronism: GRA)
GRA は家族性アルドステロン症(familial hyperaldosteronism: FH)I 型としても知られ、常染色体優性遺伝する BAH による原発性アルドステロン症のまれな型であり、原発性アルドステロン症の全症例の 1%未満である。

これらの患者は、CYP11B1(11β-水酸化酵素)遺伝子のプロモーター配列と CYP11B2(アルドステロン合成酵素)遺伝子のコード配列が融合した変異を有し、ACTH 駆動性のアルドステロン分泌をもたらす。

GRA 患者は、他の原発性アルドステロン症患者よりも低カリウム血症になりにくい。これは、ACTH 分泌の概日性に関係していると考えられる。臨床的に疑われる場合には、遺伝子検査によって診断を確定すべきであるが、遺伝子検査を実施できない、または実施する余裕がない環境では、デキサメタゾン抑制試験を第二選択として用いることができる。デキサメタゾン抑制検査では、デキサメタゾンを 1 回 1 mg、1日 2 回、3 日間処方することができる。3 日目の血清アルドステロンが 4 ng/dL 未満であれば、GRA 陽性とみなされる。GRA が確認されれば、MR 拮抗薬に加えて、ACTH を抑制するための低用量グルココルチコイドを開始することができる。

6-2. 家族性アルドステロン症(familial hyperaldosteronism: FH)II-IV 型
従来、家族性の原発性アルドステロン症患者は、GRA が除外された場合、FH-II 型に分類されていた。FH-II 型は現在でも FH の最も一般的な型と考えられている。FH-II は通常は常染色体優性遺伝であると考えられており、臨床的には原発性アルドステロン症の散発型と類似している。最近まで、FH-II の原因となる変異は不明のままであったが、連鎖解析により染色体 7p22 に位置づけられた。最近の2つの研究により、遺伝性原発性アルドステロン症の原因となる CLCN2 クロライドチャネルの変異が発見され、少なくとも FH-II の一部の症例を占める可能性があることが示された。

FH-III は、KCNJ5 カリウムチャネルの変異に起因する極めてまれな疾患であり、重度の小児高血圧と原発性アルドステロン症を呈する。

FH-IV の表現型には、神経認知障害、てんかん、自閉症も含まれる。CACNA1D の L 型電位依存性カルシウム遺伝子の de novo 変異は、原発性アルドステロン症を引き起こす可能性があり、小児期の発作や神経学的異常(PASNA として知られている)とも関連している。

6-3. アルドステロン産生腺腫の遺伝と病態
遺伝性原発性アルドステロン症のまれであるが、現在では APA の大多数がアルドステロンの自律的分泌をもたらす既知の病原性突然変異を有していることが明らかになりつつある。最も多く同定された変異は、KCNJ5(43%)、CACNA1D(21%)、ATP1A1(17%)であった。KCNJ5 変異は女性に多く、若年で発現し、より重症の原発性アルドステロン症の表現型と関連し、副腎摘出術後の臨床的治癒率が高いことが示されている。

これらの体細胞性変異によって副腎皮質の球状帯 (zona glomerulosa) 細胞の電位依存性カルシウムチャネルは、直接的または間接的に影響を受ける。しかし、これらの変異によって引き起こされる原発性アルドステロン症がカルシウムチャネル遮断薬による治療に特に感受性があるかどうかはまだ不明である。結局のところ、これらの突然変異の検査は現在のところ標準的な臨床診療の一部ではなく、この知識が日常臨床診療に実際どのように影響するかは未定である。

6-3. アルドステロン産生細胞クラスター
近年、アルドステロン産生細胞クラスター(aldosterone-producing cell clusters: APCC)と呼ばれる自律性アルドステロン分泌細胞の非腫瘍性クラスターが、原発性アルドステロン症の有無にかかわらず、剖検 (post-portum studies) で同定されている。APCC は、CYP11B2 の発現領域として定義され、原発性アルドステロン症に関連する病原性体細胞変異を一般的に保有していることが知られている。APCC は、1. BAH(または特発性アルドステロン過剰症)、2. 加齢に伴う自律性アルドステロン症、および 3. 腫瘍性原発性アルドステロン症の前駆病変の 1 つである可能性が提唱されている。

7. 原発性アルドステロン症の管理

7-1. ナトリウム制限
本態性高血圧と同様に、原発性アルドステロン症の患者では減塩を奨励すべきである。生理学的には、食事からのナトリウム摂取量を減少させると、レニンとアンジオテンシン II の両方の上昇につながる血管内容量の低下をもたらす。このアンジオテンシン II の上昇は、遠位尿細管へのナトリウム供給の減少につながり、原発性アルドステロン症におけるアルドステロン-MR-ENaC を介した遠位尿細管における病的なナトリウム再吸収を抑制する。

しかし、ナトリウム制限だけでは、多くの原発性アルドステロン症患者の長期的な健康上の有害なアウトカムを改善するには不十分である可能性が高い。例えば、ある先行研究では、<50 mmol/日の厳格なナトリウム制限を行うと、原発性アルドステロン症が確認された患者の半数以上でレニンが有意に上昇し、ARR が正常化した。しかし、これほどのナトリウム制限を続けることは、ナトリウム摂取量が平均で 150-200 mmol/日である北米および欧州のほとんどの患者には極めて難しいだろう。

7-2. ミネラルコルチコイド受容体拮抗薬
生涯にわたる MR 拮抗薬服用は、両側性原発性アルドステロン症の患者だけでなく、外科的副腎摘出術を受けることができない、または受けたくない片側性原発性アルドステロン症の患者に対しても推奨される。最も一般的な 2 つの MR 拮抗薬はスピロノラクトン (spironolactone) とエプレレノン (eprelemone) であり、スピロノラクトンはエプレレノンの約 2 倍の効力があるが、男性では女性化乳房のリスクがあり、服薬が難しくなることがある。MR 拮抗薬は、ENaC を介したナトリウムの再吸収とそれに伴う血管内容量の増加を減少させ、カリウムと水素イオンの排泄を減少させる。この点で、MR 拮抗薬は通常、血圧を大幅に低下させ(あるいは降圧薬の数を減らし)、カリウムバランスを改善することができる。

原発性アルドステロン症では MR 拮抗薬を生涯にわたって使用することが推奨されているにもかかわらず、1. 本態性高血圧患者と比較した場合、これらの薬剤が長期的な健康上の有害なアウトカムを減少させるのにどの程度有効なのか、また、2. 最適な臨床結果を得るためにはこれらの薬剤をどのように投与すればよいのかは不明なままであった。

この知識のギャップを埋めようと試みた最近の多くのコホート研究では、MR 拮抗薬による治療にもかかわらず、原発性アルドステロン症患者は本態性高血圧患者と比較して長期的な健康アウトカムが引き続き悪いことが示唆されている。最近の大規模コホート研究では、MR 拮抗薬による治療を受けた原発性アルドステロン症患者と、年齢をマッチさせた本態性高血圧で血圧コントロールが同程度の患者における心血管アウトカムが比較された。MR 拮抗薬で治療されているにもかかわらず、原発性アルドステロン症患者は、血圧コントロールが同程度である本態性高血圧患者と比較して、心筋梗塞、心不全による入院、脳卒中の発症リスクが 2 倍高かった。MR 拮抗薬による治療を受けた原発性アルドステロン症患者では、心房細動、糖尿病、慢性腎臓病、死亡のリスクもかなり高かった。

重要なことは、これらの有害な心血管アウトカム(心筋梗塞、心不全、脳卒中、心房細動)および死亡の超過リスクは、MR 拮抗薬で治療されているにもかかわらずレニンが抑制されたまま(<1.0 ng/mL/h)であった患者に効果的に限定されたことである。レニンの大幅な上昇(≧1.0 ng/mL/h)を達成した原発性アルドステロン症患者で、MR 拮抗薬の投与量もやや多かった患者では、心血管イベントと死亡の発生リスクが低く、本態性高血圧患者で観察されたリスクと同様であった。

これらの研究は、複数の先行研究とともに、原発性アルドステロン症における有害な健康上のアウトカムの超過リスクの多くが、血圧コントロールとは無関係に生じているという事実を強調している。したがって、原発性アルドステロン症では、血圧のみでは治療効果の十分な指標とはならない可能性がある。

対照的に、これらの研究は、血管内容量減少を反映するレニンの上昇が、MR 拮抗薬が適切に使用されているかを評価する臨床的に有用なバイオマーカーである可能性を示唆している。しかし、スピロノラクトンの抗アンドロゲン作用と高カリウム血症のリスク(特に腎臓病患者において)のために十分量のスピロノラクトンを使用することは必ずしも可能ではないかもしれない。MR 拮抗薬とナトリウム制限を併用して血圧とカリウムを正常化し、レニン活性を検出可能な範囲まで上昇させることが、持続的に達成できる場合には理想的な治療法かもしれない。

7-3. 副腎摘出術
原発性アルドステロン症の根治療法としての副腎摘出術は、手術を受けられるほど健康な片側原発性アルドステロン症患者に選択される治療法である。この手術は現在、主に腹腔鏡下、あるいは後腹鏡下で行われ、その結果、合併症の発生率は低く、入院期間は短くなっている。

低カリウム血症の消失、高血圧の消失または重症度の低下、生化学的治癒によって示されるように、原発性アルドステロン症の治癒における高い成功率が複数の研究で実証されている。 原発性アルドステロン症の治療におけ副腎摘出術と MR 拮抗薬の直接的比較についての知見は、片側性疾患と両側性疾患の人口統計および臨床像の偏りのために限られている。しかし、これらの偏りをコントロールしようとした数少ない研究では、副腎摘出術は MR 拮抗薬治療と比較して、長期的な心血管アウトカム、腎アウトカム、死亡率が改善することが示唆されている。したがって、片側原発性アルドステロン症で、安全に手術を受ける意思と能力がある患者には、手術療法を強く推奨する。

原発性アルドステロン症の治療における未解決の重要な問題は両側性原発性アルドステロン症の特定の症例において、疾患による負荷を軽減することを目的として片側の副腎摘出術を考慮すべきかどうかである。

上述したように、コホート研究では、MR 拮抗薬を用いた原発性アルドステロン症の治療成績が、1. 片側性原発性アルドステロン症に対する副腎摘出術と、2. 血圧コントロールが同程度の本態性高血圧の両方と比較して、劣っていることが示唆されている。両側性の原発性アルドステロン症で、MR の最大投与量でのコントロールが困難な場合や、女性化乳房や高カリウム血症などの副作用により MR 拮抗薬の投与が制限される場合(慢性腎臓病の割合が高い場合など)には、片側の副腎を摘出することで、内科的治療が必要な自律性アルドステロン分泌を減らすことができる。しかし、この問題を扱う既存のデータが少ないことから、この決定は個々の臨床医の判断に基づいてケースバイケースで行う必要がある。

8. 結論
原発性アルドステロン症は、比較的よくみられるが、しばしば見過ごされる高血圧の原因であり、血圧への影響とは無関係に、かなりの合併症と死亡率に関連している。この論文では、この疾患に関する最新の知見について述べ、入手可能な最新のデータに基づく診断および治療アプローチについて提案した。

自律性アルドステロン分泌のより早期で微妙な病型への認識を深め、原発性アルドステロン症患者のケアを改善するための個別化された治療法を特定するためには、今後の前向き研究や介入研究が必要である。

元論文
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC6824480/
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