ダイキャスト情報室

鋳造品質を決めるのは、方案と排気かな。。。。

質問がありました。---その記録。

2018-10-27 | DieCast

2015.10.15 「金型を試作したがうまくいかない」という援助要請があった

金型を確認してみるといくつかの不具合があった。

1) ゲート面積の不足(アルミの肉厚なバケツ状製品で内側を左右スライドで抜いている)

製品重量が700gに及ぼうというものにゲート面積が80mmxx2程度しかなく、現状ではゲート速度が70~80m/secというMgレベルの鋳造をしなければならず、このままではスライドに溶湯が衝突して焼き付きを起こすこと確実なので、ゲート面積を1.6倍程度に拡大することを提案した(試作品では焼き付きが発生して割れと変形が起きていた)。更にスライドのバランスが悪いため、摺動部分をかじるような動作をすることが考えられるため、スライドのうしろに重りを付けて重心位置の変更を求めた。コストダウン要請が強かったためにギリギリのスライド設計の結果、ホルダー部分の重さが形状部の重さより少なくなってしまい、鋳造時とおなじ状態で金型を置くと安定して静止できずに頭が定盤についてしまう(金型のなかで局部的な応力は発生している)というアンバランスなもので試作は出来ても量産は無理と説明した。

湯回りがいまひとつ良くならない、対策はあるか?」という質問がありました。  「対策はあります」。 質問者に現状を確認した。 鋳造品は「口」字形をしたもので中央の窓が大きく開いている。C250クラスで現在、二個取りで製品それぞれに50mm幅のチルベントを付けている。ランナーは油圧配管的設計でいまひとつ感心しない形だが今回はOKとしましょう。問題は「口」字形状の下のゲートから入った熔湯が左右に別れて狭い壁を上方に登って行くのだがこの途中にオーバーフローが付いていて、更にご丁寧に、改善と称してオーバーフローを大きく拡大してしまってある。このため左右の狭い壁内を上方に登って行くのだが途中でスピードと圧力を失ってしまい、上方に登る力がなくなってしまっている。狭い通路を通過中にオーバーフローが現れたので、「これ以上流れなくても良いのかな」と熔湯が判断してしまったとしか思えない。対策としては製品の左右にあるオーバーフローを溶接にて廃止する、これだけで到達距離が大きくなり、製品品質は外観も含め大いに改善された。 このような事例はマーレーさんの指摘(5番目の論文紹介参照)にもある通りで、良く見られる。今回も「オーバーフローを大きくすれば品質が改善される」と思い込みが強く、冷静に鋳造品を観察すれば品質がまったく改善されなかったことがよくわかる。

要約すると、
(1) ランナー内の流れで極力損失を小さくする。 滑らかな形状と断面積が大きく変動や増大しないこと。
(2) 製品内に入ってからの損失を小さくする。不要なオーバーフローは廃止する。不安なために無用なオーバーフローを付けてしまっている設計をよく見かける。
   凝固解析ソフトADSTEFANのサイトには実施例がいくつか公開されているが、それを見ても空気が圧縮される部分に湯だまりエアベントつなぎ口を付けるべきだとい
   うことがわかる。


2012.03.18付けで更に追記。
その後 鋳造品の巣がなくならないとのことで数社の鋳造品を詳細に観察すると、熔湯温度が下がった状態でゲートから金型に流れ込んでいると思われる品物が多いことに気付いた。これもマーレーさんの論文にもまた藤野さん(元宇部興産、U-mold, お世話になりました)も指摘している通り、スリーブ内と分流子およびランナーの冷却過剰と思われるケースがある。これは経験を積んだダイキャスターならすぐ判るが、熔湯が半分凝固した状態で流れているため縞状の模様が製品に発生してしまっているのである。
スリーブもなるべく熱損失の少ないセラミックス製が理想ではあるが。ランナー部については、極力水冷をしないで熔湯をゲート部まで送り届けたい。

チルベントに真空を接続して効果があるか?」という質問がありました。

結論を先に言うと「効果はあります」。
質問者に現状を確認したところ、チルベントに真空ポンプを接続した状態で使ってみたが効果がなかったとのこと。
真空ポンプの排気能力(L/Sec.)は、通常あまり大きくないため真空を必要とするときだけ有効に使えるように、ポンプとチルベントの間にタンクとバルブを設ける必要があります。質問者の方法では、チルベントとポンプをつなぐ管内の圧力が下がらず、充填時間内(0.1Sec.程度)に金型内の排気が完了していない可能性がある。
推奨する方法は、チルベント+バルブ+タンク+ポンプと接続し真空を必要としないときにタンクの真空度を高めておき、チップが低速行程(第1フェーズ)を終わったところでバルブを開けて金型内の圧縮されたガスを排出し、溶湯がチルベントで凝固し充填が完了するまで真空吸引を行う。真空度、バルブ開のタイミングは金型の特性によるのでチューニングが必要になりますです。日本ガイシ㈱のCブロックにも真空を接続するタイプがある。japan mold trade の新型形状のチルベントは効果あります。

真空を使う場合に、チルベントに接続して使うか、金型内の真空バルブとつなぐか、は迷うところです。
それはチルベントではベント部での管路抵抗が気になる点、バルブ方式ではややガスが金型内に残る可能性がある点です。これらの使い分けについては次のように考えています。真空バルブ方式に慣れていて使用が苦にならない現場はこれを使う。対象鋳造品が真空を使う必要があるかどうか微妙な場合またなるべくなら使いたくない場合は、チルベントを使ってトライを行い要求レベルに満たない場合に真空に接続するというのがいいかなと考えています。

 筆者が鋳造工場に勤務していた時、大型のWater-Pumpのハウジングを鋳造したことがあるが、かなり肉厚の部分があるためチルベントの使用さらに真空を使えるようにして試作を行った。試作は類似品を鋳造していた他社と同じレベルであった。新規取引が始まったばかりであり現状と同じということは、1%近い加工不良が出る可能性があり、納入先が遠いこともあり真空を使うことにした。この結果は驚くほどの結果でX線写真で見てもほとんどモヤモヤした巣が見えなかった。機械加工の結果も極めて良好であった。

なぜ製品寸法がばらつくのか?」という質問がありました。

「そんなこと言ったって」というのが回答なのですが、これではフザケルナと返されそうなのですこしばかり原因を考えて見ましょう。
(1) 温度が変化してしまうことに起因するもの:  溶湯温度、外気温、スリーブ部の温度、金型温度、冷却水温 これらはたいてい温度管理されているのですが、ある幅の中で上下しています。もっと狭いバラツキに抑えろと言われても、それなら
後加工したほうが全コストは低いと思う。外気温も意外と厄介な問題で、不良が毎年同じ時期に発生するという場合この視点から検討してみる価値はあると思う。また”プログレスのインドネシア工場は温度変化が少ない”という記事を「型技術」で見た覚えがある。測定時の温度も大きな物では設定をしておく必要がある。
(2) 材料の成分によるバラツキ: これは資料があって書いていることではないが、たとえば「ADC12」の成分には必ず幅があるため材料ロットによって加工がしにくいという経験を持つ方もいると思う。
(3) 上記と関連するが、鋳造開始からしばらくは、金型温度が一定にならないためバラツキが生まれる。鋳造工場ではスタートから10個とか決めて(捨て打ちと呼んでいた)ラインに載せないで溶解にまわし、安定してから製品としている。MURRAYさんの論文にもこのことが書いてあった。


なぜ製造費用が安くならないのか?」という質問がありました。

 「いくつもの原因があります」というのが回答なのですが、これだけでは具体性がないので少し一般性のある問題点を指摘しておきたい。
ダイキャスターは、不良品が出ても再熔解すればなかったことにできるため、そこで掛かる費用についてあまりにも無神経であるということである。
再熔解費用(REMELT COST)がどれだけものか、理解把握すべきである。アルミの場合50~80円/Kg程度(最近の情報を把握している方情報ください)鋳造単価と比較してみてください。ということは無用に巨大なランナーとオーバーフローについても再検討すべきである。ランナーのページにも書いたとおりでゲート/ランナー断面比をしっかり考えて置くべきである。オーバーフローもなぜそこにその大きさを設置するかよく考えてほしい。不良率改善という虚構に乗せられているが、実際に不良率は低下していますか?、OFを設置しただけで不良率の確認を怠っていませんか?、間違ったOFを設置して不良率が上がってしまった例を見たことが有ります。ワンパターンの対策ばかりしないで欲しい。だいたいOFを大きくして問題は解決しない。不足していることが明らかになったら増量なり新設すれば良い。これもMURRAYさんの論文にあったが、ランナーは過激に進化してどんどん大きくなるのが普通である。理由を良く考えないから大きくなるんですけどね。無駄・無駄。  以上 2010年のデータ情報による。

ランナーをX線で観察したら巣があって、あまりに品質が悪くがっかりした。良くならないか?」という質問というか溜息を聞きました。

 慰めを言えば、「コールドチャンバーのランナーはそんなものです」ということなのですが、少し考えてみましょう。まず原因を確認しておきましょう。はじめは熔湯に溶け込んでいたガス。これは、熔湯処理で対策ということになりますが完璧を期待することは難しいでしょう。二つ目がスリーブ潤滑剤から発生するガスですが、これはメーカーにより差があるようです。いくつかサンプルを取り寄せて試作テストをしてみることを勧めます。三つ目がスリーブ内で低速時に空気を巻き込むという問題です。これについては、良い方法があって改善の可能性があります。それは講談社のブルーバックスシリーズの「流れのふしぎ」(2004年8月20日第一刷)の中にヒントがありました。この90~95ページに詳しい説明がありますが結論を言ってしまうと「低速時の設定は、全行程を加速形にして一定速にしない」ということです。現実には、このような機能を鋳造機が持っていませんが低速部分を細かく設定できるので速度が徐々に上がるように設定するとそれに近い効果が期待できるかも知れない。このような機能を鋳造機に付けませんかと東芝機械の技術陣に話したところ、「以前そのような機能を付けたマシンを発売したがダイキャスターからの評価が得られず販売中止した経緯がある」とのこと。ペットボトルで実験してみると本書の説明がより理解しやすくなります。チップの動きは、精度の高い測定をすると、速度グラフはのこぎりの歯のようなものになっている場合も多いがこれをスムーズなものにするのは相当難しいかもしれない。まずはチップの動きを注目してみてください。

その後東芝製の新鋭機でテストしてみると、低速時の加速形設定と実際の波形は正確に出来ていた。


'11.01.10
加速型射出をテストしてみました。
「流れのふしぎ」という本を読んで、加速型射出はスリーブ内での空気の巻き込み対策として効果があるということを確信しセミナー等でもそのような説明をはしていましたが、実際に確認を行うに至っていませんでした。昨年(2010)ある企業に協力いただいてJ-350にてテストすることができました。鋳造結果では、ある理由があって明確な差を確認できなかったのですが、スリーブ内でのガス巻き込みを疑いを持っているなら、加速型の射出を行ってその可能性をなくすとその後の展開が楽になります。なおダイカスト協会の掲示板でもこの問題を投げかけてみたのですが、反応はいまひとつでした。また東芝機械製Jー350は設定と速度の再現性に優れていました。(測定データをどこまで信用するかという問題はあるが)以前同じことを古い制御方式の機械で行った時は、油圧バルブの制御遅れが原因で速度は大きく波打ってしまい、加速減速を繰り返すためまったく意味がありませんでした。現在は、制御がずいぶん良くなっています。追記ーーこの件もADSTEFANのサイトに実施例があり、等速射出では空気の巻き込みが起きるという動画がある。

在庫している鋳造品が粉をふいたように錆びてしまうが、なんとかならないか?」という質問がありました。

 この原因としては、工場内を走る運搬車の排気ガスや炉の燃焼ガスが空気中の水蒸気に解けこみ、気温が上昇するときにダイキャスト品に、冷たいコップに水滴が付くように、排気ガス成分を含んだ水滴がアルミの上に付いてしまうためと考えられます。この対策には、気化性防錆紙が有効です。詳しいことは検索いただくとして。この防錆紙は密封された容器のなか(ポリエチレン袋等)にはがき程の大きさにきったものを入れて置くだけで、アルミ表面の光沢を保つことができます。コストもかからず管理も容易です。
防錆紙はベアリングやノギスを購入すると包装に使われている茶色の紙です。なおダイキャスト品には軽合金用というものを使ってください。鉄用は不可です。

T6処理を行ったAC4Cの硬度が規定値まで上がらないが、なぜか?」という質問がありました。
 この原因は、材料分析により問題点はすぐ発見される。ほとんどの場合Mgの不足が原因となっている。ここまではよくある問題で、Mgの添加で解決する。
ところで、なぜMgが不足してしまうのだろうか。これはMgの蒸気圧が他の合金成分に較べて高いためと考えられる。Alの蒸気圧も高いのだが、主成分なので減少したことには、気付きにくい。Mgの場合には元々の量が少なく、硬度が上がらないという具体的問題に直面するため管理を怠れない。定期的なMgの添加と材料分析および硬度計測を行って管理していくしかない。