今、自衛隊の在り方を問う!

急ピッチで進行する南西シフト態勢、巡航ミサイルなどの導入、際限なく拡大する軍事費、そして、隊内で吹き荒れるパワハラ……

④ミサイル攻撃基地・戦場と化す琉球列島(連載第4回)

2022年09月12日 | 自衛隊南西シフト
ノーモア沖縄戦 命どぅ宝の会 メルマガ第55号                   
「ノーモア沖縄戦 命どぅ宝の会」 賛同者・呼びかけ人の皆さま    
いつも活動をご支援いただき誠にありがとうございます。

今回のメルマガは当会オブザーバーである小西誠さんの第4回目の寄稿です。琉球列島のミサイル要塞化は急速にすすんでいることは小西さんの前回の寄稿で具体的にふれていただきました。その是非が問われている「敵基地攻撃能力」ですが、実戦化されている実態があり、今後、琉球列島全体が対中国に向けた「攻撃的ミサイル発射基地」と化した時、キューバ危機以上の危機がアジア太平洋地域に起きると小西さんは警鐘を鳴らします。
本稿をぜひお読みいただき、想像をはるかに超えた形で戦争の危機が深まっていることを知っていただきたいと思います。ぜひ拡散してください。
また小西さんのブログ「今、自衛隊の在り方を問う」と合わせてご覧いただくと今回の内容についてより理解が深まると思います。https://blog.goo.ne.jp/shakai0427


ミサイル攻撃基地・戦場と化す琉球列島

●2022~2023年石垣島・沖縄島へのミサイル配備を阻もう!

前回で見てきたように、現在、奄美から宮古島―与那国島に至る琉球列島のミサイル要塞化の問題は、重大な時を迎えている。

琉球列島では、2019~21年、奄美大島・宮古島に地対艦・地対空ミサイル部隊の配備が完了、2022年度以内には、石垣島に地対艦・地対空ミサイル部隊が、2023年度には、沖縄島の陸自・勝連分屯地(地対艦ミサイルと同連隊本部も編成)へ、地対艦ミサイルを配備する計画が進行している。

つまり、自衛隊は南西シフトの完結のために、奄美・沖縄・宮古島・石垣島で、1個ミサイル連隊の編成を完結しようとしており、石垣島に見るように、急ピッチで基地工事の完成を強行しているのである(有事には数個ミサイル連隊の機動展開での増強)。

いわば、琉球列島のミサイル基地は、2023年度以降、いつでも対中戦争態勢に参戦する態勢が整いつつあるということだ。

問題は、自衛隊(および米軍)が目論んでいる琉球列島のミサイル基地化は、これに留まらない、ということだ。

すでに、防衛省から公表されているが、同省は地対艦ミサイルの射程千キロ以上延伸を計画しており、ミサイル射程1500キロ以上という案さえ提示している。もはや、この長射程ミサイルは、地対艦ミサイルではあるが、トマホーク型巡航ミサイル、あるいは中距離ミサイルというべきものだ(トマホーク型巡航ミサイルについて、防衛省は2017年に開発決定を公表し、開発の予算化が行われている)。

これに加えて、自衛隊はF15搭載の射程900キロ前後のスタンドオフ・ミサイル配備(米国からの購入。対艦ミサイルLRASM 、対地ミサイルJASSM)を決定し導入しようとしている。

――ところで、政府・防衛省は、2022年内に新しい「防衛計画の大綱」を策定し、「敵基地攻撃能力」を付与する新防衛政策を発表すると報じられている。だが、すでに見てきたように、自衛隊はスタンドオフ・ミサイル、地対艦ミサイルの長射程化、トマホーク型巡航ミサイルの開発配備を決定している。つまり、「敵基地攻撃能力」は、すでに決定され、一部では実戦化されているのだ。にもかかわらず、メディアでは、「敵基地攻撃能力」の是非が論議され(あたかもその開発配備が現在なされていないかのように)、平和運動側も「敵基地攻撃能力決定反対」というスローガンがまかり通っている。

これは、誰を欺いているのか? 平和勢力か、国民か? 

 琉球列島へのミサイル配備は、これらに留まらない。すでに、2018年「防衛計画の大綱」で公表されているように、「島嶼防衛用高速滑空弾部隊・2個高速滑空弾大隊」の編成が決定されている。この(極)超高速滑空弾(ミサイル)部隊は、第1段階の「ブロック1・早期配備型」を2026年頃に装備化、第2段階の「ブロック2・性能向上型」を2028年以降に装備化するとされている(このミサイルは、チョーク・ポイントである宮古島への配備が有力)。



 そして、米軍の中距離ミサイル配備であり、米海兵隊・米陸軍の地対艦ミサイルなどの琉球列島配備である。

つまり、沖縄―琉球列島は、対中戦争態勢づくりのために、文字通りのミサイル列島化=要塞列島化されるということであり、この軍事態勢は、従来の日米のA2/AD戦略からの大転換さえ意味するのである。いわば、琉球列島全体・全島々が、対中国への「ミサイル攻撃基地」と化すということだ。

●中距離ミサイルの琉球列島――九州配備

 米海兵隊・米陸軍の琉球列島への地対艦ミサイルなどの配備については、別の機会に述べよう。ここでは、米軍の琉球列島―九州に至る中距離ミサイル配備問題を特筆したいと思う。というのは、この問題は国内だけでなく、中国にとっても軍事環境を一変するような大問題であり、仮にその配備が決定されたとするなら、おそらく「キューバ危機」以上の、アジア太平洋の政治危機が生じると予測できるからだ。

 さて、2019年のINF条約廃棄後の米国は、急ピッチで地上発射の中距離ミサイルの開発を進めていることが報じられており、すでに琉球列島――九州・日本へのミサイル配備についても報道がなされている。だが、日本政府・防衛省は、米軍の中距離ミサイル配備について、米国側からは、今日まで「打診」はないと否定している。

しかし、この政府・防衛省の発言は、眉唾ものだ。これまで叙述したとおり、米軍は、海兵隊・陸軍とも、急いで琉球列島・第1列島線へのミサイル配備態勢を進めているからである。

これら中距離ミサイル配備について、大前提となる「中距離ミサイルギャップ」論から始めよう。

周知のように、この中距離ミサイルについて、自衛隊はもとより、非政府系の評論家らまでもが、中国軍との「中距離ミサイルギャップ」を主張している。曰く、「中国軍の保有する中距離ミサイル1250発に対して、米軍のその保有はゼロ」であると。

「現代戦に欠かせない中距離ミサイルの所持数は、中国が1250発なのに対し、米国はゼロだ。冷戦期の1987年、米国がソ連との間で結んだ中距離核戦力全廃条約により、射程500~5500キロメートルの核弾頭および通常弾頭を搭載する地上発射式の弾道ミサイルと巡航ミサイルの保有を禁じたためだ。一方、INF条約とは無縁だった中国は各種ミサイルを開発し、1250発の中距離ミサイルを持つに至った。米軍が『空母キラー』『グアムキラー』と呼ぶ特殊な中距離ミサイルも保有し、台湾有事には米艦艇が第1列島線に近づくのさえ難しい」(21年6月9日付「現代ビジネス」https://gendai.media/articles/-/83991)

これは無知なのか、意図的なのか。非政府系の防衛ジャーナリストが、堂々とこんなフェイクに近いものを流し、「台湾有事」を煽動する。今起きている状況は、こんなに酷いものだ。

この中国軍と米軍のミサイルギャップ――中国軍が1250発の中距離ミサイルを保有しているのに米軍はゼロという主張が、いかに事実の隠蔽なのか、現実を見れば明らかだ。確かに、米軍はINF条約に縛られ、「地上発射」の中距離ミサイルは、現在保有していない。

だが、米軍は、「潜水艦発射」「水上艦発射」の中距離ミサイル――巡航ミサイルの多数を保有している。例えば、米海軍の潜水艦発射巡行ミサイル(SLCM)を搭載する、改良型オハイオ級原子力潜水艦には、22基のトマホークが搭載されている(1基に7発のトマホークを装填、1艦あたり最大154発)。このオハイオ級原潜は、4隻あるから、合計で最大616発のトマホークが搭載可能である。

なお、米海軍は、2021年2月、東アジア地域でこのオハイオ級原潜の姿を公開し、排水量1万8千トンの巡航ミサイル搭載潜水艦が、沖縄周辺で米海兵隊と共同訓練を行う様子を見せつけた。

原潜だけではない。米海軍の水上艦艇も、多数のトマホークなどを装備している。例えば、米議会の資料によると90年代初め、横須賀に在留する米海軍巡洋艦「バンカーヒル」と「モービルベイ」は、それぞれ26発のトマホークを、駆逐艦「ファイフ」は、45発のトマホークを搭載。巡洋艦「サンジャシント」は、122基の発射管全てにトマホークを装備していた(『情報公開法でとらえた在日米軍』梅林弘道著・高文研)。

見てのとおり、中距離ミサイル保有について、米軍ゼロというのは完全なフェイクである。正確に言えば、今まで米軍の「地上発射」中距離ミサイルについては、ゼロだったということだ。

●「敵基地攻撃能力」としての中距離ミサイルの保有と配備

言い換えると、現在、米軍が目論んでいる「中距離ミサイル問題」は、地上発射を含む潜水艦・水上発射の中距離ミサイル保有量において、中国軍を圧倒する中距離ミサイルを保有しようとしていることだ。

 問題は、日本政府が今に至るまで中距離ミサイル配備問題を隠蔽しているのは、この配備が中国にもたらす影響の大きさである。そして、この中距離ミサイルの日本配備の困難さを米国が承知しているということだ。

これについて、元米国国防総省東アジア政策上級顧問・ジェームズ・ショフは、朝日新聞のインタビューに答えて言う。「(日本は)我々はあなたたちのミサイルをここに配備して欲しくない。その代わり、我々自身でその能力をもとう」と(2021年7月26日付)。

今、日本で進んでいる状況は、まさしくショフが言うように、「我々自身でその能力をもとう」と、自衛隊が「敵基地攻撃能力」を持つトマホークを始めとする「中距離ミサイル」を開発・配備し始めているということだ。もちろん、米軍が日本への中距離ミサイル配備を諦めたわけではない。日本の政治状況を見ながら、虎視眈々と配備発表のチャンスを狙っているのだ。

付け加えると、米国政府、日本政府が発表を躊躇しているのは、この中距離ミサイルの琉球列島配備においては、このミサイルが中国までおよそ10分前後で着弾するということから(弾道ミサイルの場合)、中国が全く防御することも、対処することもできないという事態に追い込むからである。

この問題は、1980年代、ヨーロッパの中距離核ミサイルの配備において大論議された問題だ。この防御不可能の中距離ミサイル配備は、いわゆる「抑止力」が全く効かない、相互に戦争自体を誘発しかねないとして、INF条約を締結する契機になったのである。

ということは、琉球列島―日本に中距離ミサイルを配備することは、中国に防御不可能の刃を突きつけることであり、中国軍が唯一、優位性を保っているミサイル態勢を奪うということであり、これは、中国との深刻な外交的・政治的危機を生じさせることになりかねないということだ。

 ●琉球列島へのトマホーク配備と有事展開

 2019年、米国政府のシンクタンクであるCSBAは「INF後の世界における米国の戦域ミサイルの再導入」というトシ・ヨシハラらの署名する提言を発表している。この提言では、予定する中距離ミサイル導入は、トマホークが有力であるとしている。

「戦域ミサイルを実戦配備するための最も簡単な短期的手段は、おそらく地上発射型・陸上攻撃ミサイルのトマホーク(TLAM)である。米国はすでに多くの中距離TLAMブロックⅣを保有しており、直近の2018年度のトマホーク大量購入費用は、1発あたり140万ドルであった。ランチャー1台に4発のミサイルを搭載した場合、TLAM400発とランチャー50台の取得にかかる総コストは14億ドルとなる」と。


そして、このCSBA提言は、また「米国の同盟国が地上発射型ミサイルの配備のために自国の領土へのアクセスや使用を拒否する可能性がある」が、「同盟国が平時にはミサイルを保有したくないと考えていても、危機の際にはミサイルが同盟国に配備される可能性があり、一部の長距離の戦域ミサイルは米国の領土に配備される可能性もある」という。つまり、中距離ミサイルの、日本への「有事配備」をも検討するということだ。

さらに、CSBA提言は、「戦略家や政策立案者の中には、米国が地上発射型の戦域ミサイルを配備することに対して、考慮すべき重大な懸念を表明している人もいる。まず、米国の地上発射ミサイルの配備は、新たな軍拡競争の引き金になると主張する人がいる」という。

言うまでもなく、中距離ミサイルの琉球列島――日本配備が、アジア太平洋での米中ロ日、あるいは朝鮮までも巻き込む、激しいミサイル軍拡競争を引き起こすことは明らかである。

この事態は、キューバ危機のような一過性の危機ではなく、あるいはまた、80年代ヨーロッパのような局地的危機ではなく、アジア太平洋全域を巻き込むミサイル戦争の危機になりかねない。そして、その最前線に立たされようとしているのが、先島―沖縄なのである。

しかも、このミサイル戦争の戦場である先島・沖縄は、対中国戦の「ミサイル発射基地」として変貌させられようとしているのだ。従来、自衛隊のA2/AD戦略のもとでの、これら琉球列島の戦略的位置は、「島嶼戦争」=通峡阻止作戦下の「拒否的抑止」という、どちらかというと防御的(中国軍に対する海峡封鎖作戦という意味では攻撃的)な戦略であった。

しかし、政府・自衛隊の「敵基地攻撃能力」の保有という状況下では、すなわち、日本型巡航ミサイル、トマホークを始めとした、「日本版・中距離ミサイル」を保有しようとする状況下では、まさしく、琉球列島自体が、対中国に向けた「攻撃的ミサイル発射基地」となるということだ。

 私たちの喫緊の課題は、今や中国へのミサイル攻撃の拠点――「中国本土攻撃基地」として位置づけられようとしている沖縄――琉球列島への各種のミサイル配備に対して、厳としてこれと対峙しなければならないということだ。

小西 誠(軍事ジャーナリスト・ノーモア沖縄戦 命どぅ宝の会オブザーバー)

参考文献『ミサイル攻撃基地化する琉球列島―日米共同作戦下の南西シフト』ほか

第Ⅱ期「島々シンポジウム」 *緊迫する馬毛島ー種子島軍事基地化の状況をリポート!

2022年09月08日 | 軍事・自衛隊


日米の南西シフトの演習・機動展開・兵站として位置づけられた馬毛島ー種子島の要塞化!

――その馬毛島・葉山港の浚渫が8/16早朝から開始された。八板俊輔西之表市長は、9月の西之表議会で基地計画への最終的賛否を表明するとしている。
今、急ピッチで馬毛島の要塞化が進む中、全国からの支援と連帯の大きな声が求められている。
「台湾有事」を始めとする日米の対中戦略が進むこの事態下、琉球列島の要塞化は、私たちの一人一人に成否が問われている。

●この島々で抗する市民が一同に集まるシンポジウムへ、全国から参加と連帯をお願い致します。

●日時 9/23(金・祝日)15:00~17:30

●場所 zoomウェブセミナー


●無料(カンパ歓迎)

●パネラー
・迫川浩英さん(馬毛島への米軍施設に反対する市民・団体連絡会事務局)
・長野広美さん(西之表市議)
・和田香穂里さん(前西之表市議・戦争をさせない種子島の会会員)
・和田 伸さん(種子島在住)

●司会 
・FUJIKOさん(うたうたい、島じまスタンディング) 
・石井信久さん(島じまスタンディング)

●解説 小西 誠(軍事ジャーナリスト)

●登録リンク(アドレス)
https://us06web.zoom.us/webinar/register/WN_QzYB3LT_QR28nuBpILHMpw

*主催 第Ⅱ期「島々シンポジウム」実行委員会

*寄付・カンパのお振込み
(現地の人々にお渡しします!)
・郵便振替 00160-0-161276(名義・社会批評社)(「島々基金」とお書き下さい)

*クレジットでのカンパができます(ただし、9/23(日)の20:50までの受付です。)
https://passmarket.yahoo.co.jp/event/show/detail/02u09anevzi21.html?fbclid=IwAR3Irw6idyYWuDFGVhgsTseV0qnCvG400Q0aI6n6CSzrgPCeSiuIMrUGS7k#detail


*連絡先 shimajima2021@gmail.com

自衛隊のセクハラ・パワハラ・暴力の実態――旧日本軍と連続する軍事組織・自衛隊の矛盾と現在的危機

2022年09月08日 | 自衛隊南西シフト


はじめに

 本日は、韓国外語大学にお招きいただき、ありがとうございます。私の今日のテーマは、日本の自衛隊内でのセクハラ、パワハラの実態についてお話しするのですが、おそらく、このテーマは、日本だけでなく、韓国軍、さらには米軍など世界各国の軍隊に内在する問題であろうかと思います。とくに、先進国の軍隊の在り方が、根源から問われている問題であると思われます(2019/9/21)。

●「自衛官人権ホットライン」とは

最初に、自己紹介すると、私は2004年の自衛隊のイラク派兵を機に「自衛官人権ホットライン」を開設、その事務局長を務めている。このホットラインは、日本では自衛官とその家族の、唯一の民間の相談機関であり、元自衛官と有志がボランティアで運営する機関である。

  もっとも、防衛省においても「防衛監察本部ホットライン」が10年前から開設されているが、隊員からの評判はよくない。その理由は、隊員たちがそこに相談すると、相談者の個人情報が部隊当局へ通報される、と。隊員たちには煙たがられている存在である。 

自衛官人権ホットラインへの相談件数は、ここ2~3年で急増している。その内実は、「辞めたい、死にたい」と悲鳴に近いものが聞こえてくる。具体的には、隊内でのパワハラ、セクハラ、イジメ、退職制限、退職強要、私的制裁(暴力事件)、自殺願望・未遂など、様々な相談が寄せられている。

 相談件数は、年間ではおよそ300件、創設以来では、約2500件、大半はこの5年間である。その特徴を付け加えれば、従来と異なり現役自衛官の中の一般隊員の相談から、特に幹部(将校)・曹(下士官)の相談が大幅に増加していることだ。また、隊員家族からの相談も急増している。

これらの背景にあるのは第1に、現在日本では、「自殺を強いられた隊員家族」からの裁判が急増しており(一般裁判所にて。軍事法廷は自衛隊にはない)、これがテレビなどの報道でも取り上げられ始めており、社会問題化し始めていることがある。        

 この相談が増加しつつあるもう1つの理由は、電子メールでの相談の急増(スマホ、パソコンから気軽に相談)である。当ホットラインでは、以前は電話・メールを併用していたが、現在はメールのみで相談に応じている。自衛隊当局の「メール解禁」(以前は隊内での秘密保全上禁止)という中で、メールだから気軽に相談できるということがあるかも知れない。このメールで、隊員たちがいつでも、どこからでもアクセスできる、ということは、「軍隊は真空地帯」であるという実体が崩壊しつつあるといえよう。

ホットラインへの相談が増えつつある第2の背景としては、自衛隊を取り巻く内外の情勢が変動期にあり、その中で自衛隊の内外ともに動揺が広がりつつあることがある。

1990年代の初めに東西冷戦は終了したのだが、自衛隊はこの東西冷戦の終了という事態からはるかに遅れて、2000年代前半から2010年代にかけて、大きな再編に見舞われている。つまり、北方シフト(対ソ連)から南西シフト(対中国)態勢の再編であり、このために部隊の全国的移動、部隊編成の再編(戦車・火砲の大幅削減とコンパクトな機動連隊・旅団・師団化)であり、このために隊員らの大移動=転勤が行われ始めている。

この中で、自衛隊は、2015年安保法改定にともない、集団的自衛権の行使による日米共同作戦、自衛隊の海外出動を常時可能にしている。

 すでに、自衛隊は、2004年のイラク派兵を皮切りに海外派兵を常態化させており、2009年の海賊対処法制定後は、アフリカ・ジブチ駐留に「海外常駐基地」を設営し駐留している。このような日本と自衛隊をめぐる環境の変化が、自衛隊内に大きな動揺をもたらしていると言えよう。

 少子化社会の中の軍隊

このホットラインへの相談急増の、第3の背景についても挙げよう。それは、韓国など先進国社会でも共通する、社会の「少子高齢化」による入隊者の減少ということだ。これは、実に自衛隊に大きな影響を与えている。自衛隊の少子化問題は、深刻なものである。

具体的に見てみよう。今年、防衛省当局は、自衛隊の任期制一般隊員(陸海空士)の入隊年齢の大幅な引き上げを決定した。現在の入隊年齢26歳以下を、何と32歳以下に引き上げるというものだ。

これらの背景にあるのが、全自衛隊の隊員充足率の厳しい状況だ。自衛隊全体での充足率は91%だが、陸海空士では73.7%(2018/3/31現在)である。将校・下士官では、定員オーバーになっているが、一般兵士が全く集まらなくなっている。

 特に、人気のない海上自衛隊では、今やギリギリの人員で艦船を充分に動かすことすら出来なくなりつつあるという。この結果が「艦艇クルー制」という「苦肉の策」の導入だ(2018年新防衛大綱……2つの乗組員チーム[2つのクルー]で、1つの艦艇を交代勤務するというもの)。

こうして、行き詰まった人手不足の中で打ち出されたのが、女性隊員の大幅増加とその職種の拡大である。2018年現在、全自衛隊の女性隊員は、1万4686人。約23万人の制服自衛官全体の6.9%である。これを2030年度までに9%以上に拡大するという(現員の内訳は、幹部2196人[5.2%]、准尉54人・曹8143人[6.6%]、士4293人[10%])。

正確さに欠けるかも知れないが、日本での報道によると、韓国軍の女性将兵は、1万263人で、将校・副士官のみとされている(2016/9/26付中央日報)。

おそらく、少子化、男子隊員のなり手不足の中で、女性隊員は9%どころかもっと大幅に増加していくであろう。

また、現在の女性隊員の「後方勤務」などの職種の限定を排して、海上自衛隊では、艦艇・潜水艦乗員として、航空自衛隊では、戦闘機パイロットへ、陸上自衛隊では、戦車乗員などへ、つまり、「前線勤務」、男子隊員と同様の職種へと大幅に拡大するという。

これに加えて、自衛隊には現在、歴史的な構造的矛盾というべき問題が生じつつある。それは、先進国の人権意識の拡大と「閉鎖的軍隊生活」の矛盾であり、この結果として、軍隊内の集団的・強制的な「内務班生活」の閉塞性と破綻が顕在化しつつあるということだ。

その結果、約26万の「自衛隊員」(職員を含む)の中、約70~100人の自殺者が出ている。隊内には、セクハラ、パワハラ、イジメが爆発的に増加しつつある。

現職自衛官と家族の告発と裁判

 前述したが、この状況のなか問題になっているのが自衛隊員とその家族からの訴え、裁判への提訴である。国・自衛隊当局を相手とする裁判である。ここ10年のケースを箇条書きで挙げてみよう。

① 現職女性自衛官の性的暴行事件の訴え(2007年)と勝利(2010年)

② 護衛艦「たちかぜ」事件の現職法務官の告発(2004年6月頃に海上自衛隊の「たちかぜ」)内で発生した、隊員への暴行恐喝事件、2014年高裁判決で原告勝訴)

③ 防衛大学校学生のパワハラ訴訟(2013年提訴)、2019年2月一部勝利判決

④ 現職自衛官の安保法違憲訴訟(2019年、訴えを却下とした東京高裁判決を破棄し、最高裁が審理を高裁に差し戻し係争中)

⑤ 統合幕僚長の「会見文書」の流出犯人とされた自衛官の訴訟(2017年、防衛省情報本部の大貫修平3等陸佐、埼玉地裁)

➅埼玉地本の「募集表彰者」疑惑への告発事件(2017年、陸自1尉、東京地裁)

あえて、セクハラ、パワハラ以外の現職自衛官らの裁判を含めて挙げたが、この状況は、セクハラ、パワハラなどによる自殺事件の多発とその責任を問う隊員と家族の訴えの広がりが、現職隊員らの「現職のままの裁判提訴」という、自衛隊創設以来の重大な事態を創り出しているということだ。

ここには、10数年間でおよそ20数件の、セクハラ、パワハラ、イジメによる自殺などの、自衛隊当局を訴えた裁判で、ほとんどの被害者隊員らの勝訴が実現していることが背景としてある。 

 だが、このような隊員と家族からの裁判とその勝利にも関わらず、自衛隊内のセクハラ、パワハラ、イジメは、全く後を絶たない。というか、当局のその対処不能の中、それらはさらに増加しつつあり、自殺者などは高止まりの状況だ。

重大なのは、これらのパワハラ、自殺事件を始めとする「犯罪」の状況下でも、当該部隊の指揮官―艦長・連隊長等などは責任を回避し、刑事事件の告発はほとんどないということである(一昨年、横須賀の艦艇内の自殺事件で初めて刑事事件に)。

本来、パワハラなどによる自殺では、上級指揮官の監督責任を問うべきである(ところが実際は、部下の暴力行為を見て見ぬ振り)。現実は、その監督責任がある上級指揮官が自ら、パワハラを引きおこす事態が続出している。

「3等海尉に艦長が「死ね」「消えろ」などと発言、艦長が他の乗員を殴ったり、ノートを投げつけたりしたとの記述もあった」(2018/12/25付『朝日新聞』)


現職女性自衛官の勇気ある告発――性的暴行事件の訴え(2007年)

 最初に挙げた「現職女性自衛官の性的暴行事件の訴え(2007年)と勝利(2010年)」は、本当に勇気ある行動である(表紙写真)。

この事件の重大な特徴は、自衛隊内のセクハラ、性的暴行事件において、「現職自衛官」が「現職」のまま、当局を訴えるだけでなく、以後も隊内に踏みとどまり裁判を継続し、あらゆる当局の妨害、嫌がらせ、退職強要とたたかい続けたということだ。

事件が起きたのは、北海道・札幌市近郊の航空自衛隊・当別レーダーサイトの基地内である。営内居住義務がある、女性空士長への上官からのセクハラ・性的暴行である。

事件は、このレーダーサイト整備班の女性自衛官(20歳)に対し、同隊のA3曹が営内で「強制わいせつ事件」(性的暴行未遂)を引きおこしたことに始まる。ところが問題は、当局が最初から「隊ぐるみ」で加害者を擁護し、処分もなしにすませようとしたことだ(原告・弁護団は「強姦未遂」事件として、札幌地検に告訴・不起訴)。     

しかも、当局は、訴えている被害者・女性自衛官に「原因を作ったおまえが悪い」として退職を執拗に強要したのだ。

これに対し、女性自衛官は、2007年、国・自衛隊を相手に札幌地裁へ訴えて、現職自衛官として、初めての慰謝料請求訴訟を提起した(「女性自衛官人権訴訟」という)。これに対して2010年、札幌地裁は被害者の訴えを認め勝訴、慰謝料580万円の支払いを命じた(被告側は控訴せず判決は確定)。

 しかし、問題はこれに留まらない。裁判が続く間、当局は「女性の職務怠慢」などの口実で、被害者である女性自衛官の「懲戒処分審理」を始めるという暴挙に出たのだ。これに弁護団は何度も抗議している(筆者は原告の支援側から自衛隊内の懲戒手続きについて相談をうけた)。                      


報道された自衛官の性暴力事件の一部

 さて、ここでは報道された自衛隊内でのセクハラ、性暴力事件の一部を見てみよう。もちろん、この報道は隊内の現実のほんの一部にすぎない。

*「陸自 わいせつ行為で1等陸曹を処分 18人の女性隊員に(「毎日新聞」 2017年8月26日付)」

――陸上自衛隊下志津駐屯地(千葉市若葉区)は26日、18人の女性隊員に対し、わいせつ行為などをしたとして、高射教導隊1等陸曹の男性隊員(51)を停職60日の懲戒処分にしたと発表した。駐屯地広報室によると、男性隊員は2006年7月~13年3月、駐屯地内で事務処理の指導中などに、女性隊員17人の胸や尻、顔などを触ったほか、休憩時間や帰宅の際に『胸が大きいね』などと発言。さらに昨年3月、20代の女性隊員に敬礼の仕方を指導する際、尻を蹴るなどした。駐屯地には約50人の女性隊員が所属。数人が昨年秋、被害を上司に申告し発覚(下志津駐屯地は、地対空ミサイル部隊の学校)。

*防衛大学校レイプ事件(2010年3月4日付「時事通信」)。「防衛大学校で集団レイプ事件 学生3人を警務隊が逮捕」

――幹部自衛官を養成する防衛大学校(五百旗頭真校長)で、前代未聞の大不祥事が起こった。同校の男子学生が集団レイプ事件を起こし、自衛隊警務隊に準強姦の疑いで逮捕されていたのだ。事件が起きたのはこの2月。20代前半の3人の2年生が、自衛官とみられる女性を輪姦したという」。

この被害女性の所属は、プライバシーから明らかにされていないが、防衛大学校の女子学生の可能性が高い。こういう破廉恥な犯罪も防衛大学校で起き始めている。


ほとんどが「泣き寝入り」させられている女性自衛官たち!

 女性隊員の告発などでもなければ、自衛隊内のセクハラ事件は、表に出ることはまったくない。しかし、自衛隊には先述したように女性隊員たちが、男子隊員不足から必然的に増大する。こうなると、自衛隊当局といえども、この問題を無視できなくなる。こうして行われたのが、全自衛隊を網羅する自衛隊内の性暴力事件のアンケート調査である(「防衛省職員セクシュアル・ハラスメント調査結果」)。

調査は、1998年・2007年の2回にわたり、同省人事教育局によって行われた。対象は、男女1万人の隊員である。


アンケートにおいては、1998年では女性自衛官975人のうち182人(18.7%)が「性的強要」を受けたと回答、72人(7.4%)が「強姦・暴行(未遂を含む)を受けた」と回答した。驚くべき数字だ。自衛隊内にセクハラ、性的暴行事件が蔓延していたことが明らかとなった。

しかも、例えば1998年のうち、この「性的強要・強姦」など両者254人のうち73人(28.8%)の加害者が直属の上官であり、この被害を当局に届け出たのはわずか23人(0.98)であったということだ(2008年の「性的強要」は3.4%、「強姦[未遂を含む]」は1.5%)。

16年前の統計であるとはいえ、すさまじい実態だ。女性自衛官の定員は、約1万5千人、この18%は、全体の約3千人だが、これほどの女性隊員らが「性的強要」を受けていたことになる。およそ5人に1人である。 


 この調査では、その他のセクハラ事件も凄まじい。「わざとさわる」が、1998年では59.8%、2008年では20.3%であり、悪質なセクハラは少なくなっているが、セクハラ自体は依然として頻発している。
言うまでもなく、防衛省・自衛隊では「セクシュアル・ハラスメントの防止等に関する訓令」「セクシュアル・ハラスメントの防止等の細部について(通達)」をそれぞれ、2000年前後に制定し、各部隊でもセクハラ防止教育を繰り返してきたはずである。

 それでも隊内での、特に「上級幹部」のセクハラ事件が後を絶たないのである(「防衛省職員セクシュアル・ハラスメント調査結果」全文参照)。

防衛大学校パワハラ、イジメ事件

防衛大は、陸海空3自衛隊の幹部(将校)を養成する4年制の士官学校であり、神奈川県の三浦半島に所在している。

この防衛大学校において、2013年、防衛大学校の一学生(2学年)が、パワハラ、イジメに遭い、退学を強要されたことから、大学校の凄まじい実態が初めて日本社会に晒された。

 掲載資料は、事件から5年後の2018年、防衛大学校当局の調査結果を報告したものである(事件当初はこの事件を隠蔽した)。



 この当局の報告書でも明らかだが、「学生は風俗店に行くことを断ったことから、下半身を露出させ、下腹部にアルコールをかけ、火を点けて火傷を負わせ」られ、その状況を他学生に撮影させ「LINEへ動画を投稿させた」など、執拗ないじめ、パワハラに遭っていたのだ。その結果、被害者学生は、精神的に変調を来し、退学に追いやられるという事態になった。


問題は、被害者学生が、当局を告訴し、さらに民事裁判で訴え出たことで、この防衛大学校のイジメ、パワハラの全容が初めて明らかになったことだ。
これは、防衛大学校当局の2014年・2018年の、2回のアンケート調査で明白となった。

まず、2014年の当局の「聴き取り結果」を参照してほしい。そのイジメ行為の1つである被害学生がやられた「体毛を燃やす」という例を挙げると(③)、「やった」という学生が、1年生1人、2年生5人、3年生5人、4年生22人で、「やられた」という学生が、1年生8人、2年生49人、3年生55人、4年生32人という驚くべき数字がある。

ここであえて「体毛を燃やす」という行為を取り上げたのは、この行為が被害者学生が火傷を負ったように、アルコールをかけて燃やし、火傷を負わせる傷害行為・傷害罪であるという重大な事件であるからだ。

この傷害罪を伴う行為が、訴え出た被害者学生だけでなく、当局調査でも、防衛大学校内に蔓延していたのである。

さて問題は、このいじめ、パワハラは、被害者の提訴後において改善されたのか、ということだ。2018年の同様の調査でも、全く変わらなかったことが明らかになった。2014年の調査では「やられた」が合計144人であるが、2018年の調査でも「やられた」が144人と同数である。つまり、防衛大学校当局が事件を隠蔽した結果が、この内容だ。これは、他のイジメ、パワハラも4年間で同じように変わっていないのである。


防衛大学校の腐敗と崩壊的危機

 当局の調査によれば、大学校では、「殴る、蹴る」の暴力も横行しており、2014年の調査でも、「殴るのを見た」が200~250人、「蹴るのを見た」が240人前後となっている。しかし、問題はこのような暴力事件が多発しているだけではない。もっと悪質な「刑法犯」が続出しているのである。

 資料のここ10年における防衛大学校学生の「規律違反件数」、「懲戒処分件数」を見てほしい(防衛大人権裁判弁護団の裁判提出準備書面から)。この特徴は――

① 年間110数件の規律違反

②年間40~90件の懲戒処分

③年間10から30件の「刑法犯」(詐欺・悪質な暴力・レイプ)

④4年生が一番多い

が挙げられる。

 全防衛大学校学生約1800人の中で、年間最多で167件の規律違反があり、年間最多で30件の「刑法犯相当」の学生がいるという事態、これは防衛大学校の根本からの腐敗であり、その崩壊的危機というべきである。


ここで1つの刑法犯相当の事件を見てみよう。これは、「防衛大学校詐欺事件」として、2014年4月、新聞各紙が「防衛大学校18人、79件の保険金詐欺、不正請求」事件として報じたものである。
――「防衛省は2日、防衛大学校学生18人が2010~13年に計79件・約490万円を不正請求していたとの調査結果を公表した。一部の学生が、傷害保険の請求のために必要な医務室の受診記録を偽造して不正請求を始め、他の学生もまねをした。警務隊は同日、この内同校OBの海自、空自の3尉計4人を書類送検し、懲戒免職にした」

つまり、今回は防衛大学校卒業後、すでに幹部になっていた自衛官4人を含め、全体で18人を摘発したとしている。摘発をこの人数に絞ったのは、すでに任官したものが多数にのぼることからである。

実際は、同大学校のアメリカン・フットボール部、ラグビー部を中心に全学年(100人以上)にわたって保険金詐欺は広がっていたのである。


2011年「防衛大学校改革に関する検討委員会」の設置

防衛省は、防衛大学校学生の裁判が始まる以前から、当局なりに防衛大学校の現状には危機感を抱いていたようだ。これが、2011年、「防衛大学校改革に関する検討委員会」の設置となった。ここには――

――「近年の不祥事の傾向として、集団による不適切な学生間指導などの事案、特に上級生が主導し下級生を巻き込んで引き起こす例が見られる。また、上級生(特に4年生)になるほど事案が増える傾向にある」

として、問題点が指摘され、改革が急務であることも示されている。だが、2014年、2018年においても、何らの改革はなされず、防衛大学校内の暴力事件、刑事事件は後を絶たない。

 この根本的原因は、起こっている事態を小手先の改善で事を済ませようとしているからである。問われているのは、防衛大学校・自衛隊内の人権教育、民主主義教育だ。つまり、命の尊さを顧みない、人としての権利を尊重しない防衛大学校の教育、旧日本軍の「営内班」「内務班」を引き継ぐ軍紀の在り方が、根底から問われているのだ。

 防衛大学校は、創設期から現在まで「真の紳士淑女にして、真の武人たれ」を教育のモットーにしてきた。しかし、いまや「紳士・淑女」はもとより「武人」などと言うのも、おこがましいのだ(この「武人たれ」という教育も旧日本軍の伝統!)。


 *資料は防衛大学校の中途退校者の実態


自衛隊内で広がるパワハラ、イジメ、自殺

 筆者が主催する「自衛官人権ホットライン」のもとへ「死にたい 辞めたい」という相談が急増していることを先述した。この状況の中に、現在の自衛隊が置かれている根本的矛盾が示されている。 

ホットラインに寄せられる相談は、「辞めたいのに、辞めさせてくれない」「ささいなことで退職を強要されている」「パワハラ、イジメ、暴力をうけている」「懲戒処分を理由に、半年~1年外出禁止」「私生活上での干渉(恋愛・結婚など)」「毎日、夜中まで勤務させられていて休みがとれない」「死にたい。『うつ』と診断されているのに怠けていると言われる」という内容のものが多い。

この特徴も、最近は一般隊員だけでなく、幹部(将校)からの相談が非常に多くなっている。その内容も上級幹部から下級幹部へのパワハラ、上級下士官から下級下士官へのパワハラが目立つ。その幾つかの「事件」となった最近のケースを挙げてみよう。

例1、 海上自衛隊・横須賀護衛艦自殺事件(2014/9)
……乗組員の30歳代の男性隊員(3曹)が、上司の1曹から殴る、蹴るなどの暴行を受けるなど、日常的なパワハラをうけ艦内で首つり自殺。総監部は遺族に謝罪。この下士官が、艦内で何回も両手にバケツを持たされ、立たされているのを、同僚35人が目撃しており、艦長も目撃していることが報じられている。バケツを持たされて立たされているというのは、まるで「(昔の)小学生」だ。

例2、海自・横須賀補給艦自殺事件(2018/9)
……海上自衛隊横須賀基地(神奈川県)所属の補給艦「ときわ」で30代の男性3尉が自殺。乗員へのアンケートでは、艦長ら複数の上官からパワハラを受けていたとの複数の証言。海上幕僚監部服務室が、全乗員約140人にアンケート。その結果、3尉に艦長が「休むな」と指示、上官が「死ね」「消えろ」などと発言、別の上官が家に帰らせないと指導――などの回答があったという。艦長が他の乗員を殴ったり、ノートを投げつけたりした。まさしく、艦長が先頭になって陰湿なパワハラを繰り返していたのだ。

例3、遠洋航海中自殺事件
……2016年9月、10月、海上自衛隊員2人が艦内で首をつって死亡。護衛艦「あさぎり」では20代の海曹が、練習艦「せとゆき」では40代の海曹が自殺していたが、原因未公表である。

例4、潜水艦内の拳銃自殺事件
……2013年9月、広島県呉市の海上自衛隊呉基地に停泊していた潜水艦「そうりゅう」艦内の寝室で、2等海尉が拳銃で自殺を図り、一時意識不明となった。パワハラが原因であるとして家族は自衛隊当局を訴えている。この事件とは別に、2017年4月、海上自衛隊横須賀の護衛艦「たかなみ」での幹部拳銃自殺事件が起きている。

海上自衛隊だけを取り上げているようだが、実は自衛隊の中で海上自衛隊がもっともパワハラ、イジメ、自殺事件が多発しているのである。この海上自衛隊横須賀という自衛艦隊司令部の置かれている拠点でも、かつて護衛艦「うみぎり」内での航海中の4回の放火事件も起きているのだ(2002~2008年)。

 この背景にある根本的要因は、もはや歴然としていると言える。先に自衛隊幹部・将校の養成学校である、防衛大学校の凄まじい実態を見てきたが、彼らは学校時代から、理不尽な、非道なパワハラ、イジメを当然のこととして自ら行ってきたのである。こういう幹部隊員が中級・上級指揮官となったとき、当たり前のようにパワハラが日常化していくのだ。

 しかも、海上自衛隊の軍艦旗(旭日旗)に象徴されるように、海上自衛隊は、旧日本海軍の伝統をもっとも引き継いでいると自慢している組織である。かの「精神棒」さえも内容的には引き継いでいると言えよう(旧日本海軍でリンチに使われた棒)。

知られているように、日露戦争下での日本海軍の旗艦であった戦艦「三笠」は、水兵らの叛乱で爆発・沈没したといわれるが、同様の事態が海上自衛隊にもヒシヒシと迫りつつあるのだ(日本海軍は、叛乱で100隻が沈没したという)。

自衛隊と自殺者の増加

ここ20年以上、自衛隊の自殺者の高止まりは、自衛隊のみならず、日本社会でも大きな問題になっている。それもそのはずで自衛隊創設以来、数千人以上、1994~2014年の21年間で合計1651人、特に2000年代からは年間70~100人で自殺者が高止まりしている状況だ。もちろん、この間、当局は自殺予防に必死になっているが、自殺者はあまり減らないのである。これを日本社会一般と比較すると、自殺率(10万人あたりの自殺者数)では、国民平均約27人であるが、自衛官では約39.4人である。しかも、国民一般と対比して自衛隊の場合、若年者が圧倒的に多いのだ。


これらの隊内の自殺者の内訳を分析すると、その特徴として多数が准尉以下の曹クラスであり、下級幹部も多くみられる。つまり、自殺者は、曹士が大多数であり、若年隊員が多いということだ。

ところで、当局発表の自殺原因では、ほぼ半数が、借財や家庭不和、病気などとされているが、その他の過半数が「その他不明」とされている。この「その他不明」とは、なにか? 実は当局が「その他不明」とする、自殺者のほとんどが「パワハラ、イジメ」による自殺と判断されるのだ。

つまり、隊内でパワハラ、イジメ、暴力による自殺が原因とされると、当然、監督者・管理者である部隊指揮官の管理責任・監督責任が問われる。だから、指揮官等は、隊内の警務隊(自衛隊警察)と共謀して、これらの自殺原因の隠蔽を図るのだ。こういうケースは、筆者のホットラインにも相談が寄せられている。 

自衛隊では、最近、隊員らの「不祥事」事件も多発している。ここ数カ月でも、自衛官らによる、隊外での少女らに対する猥褻事件や暴行事件などが大きく報道されている。実際は、これらは氷山の一角で、多数の隊内の事件は、警務隊によって隠蔽されているのである。


19年間の自衛官の自殺者統計(衆議院議員・阿部知子君提出「自衛隊員の自殺、殉職等に関する質問に対する答弁書」(内閣総理大臣安倍晋三、2015年6月5日)
自衛隊のセクハラ、パワハラ、イジメの根本的原因

 先述のように、この隊内でのパワハラ、いじめ事件において、被害者自身や被害者家族による防衛省を訴えた裁判が多発しているのだが、裁判で敗訴するたびに防衛省、制服組トップは「再発防止」を繰り返している。しかし、パワハラも自殺者も後を絶たない。

 いわば、自衛隊自体に「自浄能力」がないということだ。これについて、裁判で証言台に立った航空自衛隊の部隊長は以下のようにいう。

「私たちには、指導とパワハラの区別がつかない」(空自・浜松基地幹部の裁判証言)

 まさしく、正直に証言している。制服組の思想では、何がパワハラで、どこが指導なのか、まったく分からないのである。こういう状況の中で、制服組の部内研究論文でさえも、自衛隊に「軍事オンブズパーソン制度を導入」すべし、という意見も出されるほどだ。「隊内では解決できない!」と。


憲法(人権等)が適用されない隊内(営内班・内務班)

  このパワハラ、イジメ、自殺そして暴力事件の多発が、自衛隊という組織の構造的在り方に深く関わっていることは自明である。つまり、軍事組織、とりわけ旧日本軍・旧日本海軍を引き継いできた自衛隊の存在そのものの矛盾である。

自衛隊は、人的にも旧日本軍の将校によって創設され、形成されたばかりでなく、その軍隊・軍事思想をも継承してきた。戦後においても旧日本軍の将校らは、一貫して自衛隊の幹部団全体を占めてきた(1980年まで旧軍将校が在籍。海上自衛隊は、日本海軍を解体せず継承。日本海軍掃海隊→海上保安庁→保安隊(1952年)→海上自衛隊(1954年)。警察予備隊(1950年陸上自衛隊だけで発足)→保安隊→陸上自衛隊(1954年)。保安隊→航空自衛隊[1954年])

こうした、自衛隊と旧日本軍との連続性のもっとも根幹にあるのが、旧日本軍の軍紀(命令と服従)の継承であり、その軍紀を日常的に貫徹する場としての、特に内務班(営内班)生活である。これは、世界の軍隊の中でも、希有な「軍隊(内務班)生活」として引き継がれたのである。

 しかし、旧日本軍を引き継ぐ内務班(営内班)は、暴力事件の温床となる。有名な「私的制裁」の多発だ。言い換えると、旧日本軍の軍事的特質は、厳格な軍紀「命令への絶対的服従」にあり、その軍紀を貫徹するのが「内務班=兵営生活」であるということだ。

ここでは、兵士への絶対的命令・服従精神の軍紀のもと、24時間勤務態勢下の「営内で起居」し、絶えず上官(先輩)の絶対的命令のもとでの集団的営内生活が強制される。

こういう隊内の環境が、上官の暴力、セクハラ、パワハラ、イジメの温床であり、蔓延化の原因となっている。

そして、自衛官の自殺や「不祥事という犯罪」の多発も、根本の原因は隊員らが極端な抑圧のもと、人権や命が尊重されない、非民主的環境におかれていることにあると言えよう。

また同時に、このような隊内の非民主的=抑圧的状況が、隊内への暴力(女性へを含む)として噴出するとともに、他方で外部への暴力として噴出するのだ。その外部への転化は、旧日本軍と同様、不可避となる。

自衛隊・軍隊と性暴力

旧日本軍は、中国を始めとするアジア太平洋地域で、15年戦争という長期の侵略戦争を遂行し、その過程でアジア太平洋地域の人々に、悪行の数々を行ってきた。この非道な悪行が、「三光作戦」という「焼き尽くし、殺し尽くし、奪い尽くす」いう極悪犯罪である。

これらの三光作戦は、朝鮮半島の人々を始め、中国、フィリピン、シンガポール、インドネシアなどアジア太平洋の全域に被害が及び、未だに解明されていない実態がある(日本国家として謝罪・賠償もしていない国々がある)。

このような、旧日本軍のアジア太平洋地域での非道な暴力支配の根幹が「軍隊慰安婦」という、女性の性奴隷制度であった。つまり、旧日本軍は、一方では軍隊外、対外的に女性への性暴力を行うとともに、他方では「軍隊慰安婦」制度として、合法的に女性のレイプを常態化したのである。

問題は、この旧日本軍において、世界の軍隊では類例のない性暴力を伴わせたのは、その根源に兵営の中の劣悪な環境があったということだ。言い換えると、旧日本軍の、その組織構造上の兵士の奴隷状態が、必然的に対外的に女性への性暴力を、対内的に軍隊慰安婦を常態化したということだ。

この厳格な軍紀による内部統制によって、兵士への直接の暴力支配(「私的制裁」という暴力)によって、内務班生活において兵士らは、非人間化され、人命・人権の尊重という人間性を完全に失うのだ(この軍紀=上官の命令は、即天皇の命令への絶対的服従でもあった)。

こうして、非人間に落とし込められた兵士らの欲望のはけ口は、女性らへの直接的な性暴力となるが、軍当局は、この非道な事態を許容したばかりか、軍当局・上官への反抗を減じる「士気高揚」の一環として位置付け、「軍隊慰安所」を、各駐屯地とその周辺全てに常時設置したのである。

自衛隊の内務班教育(参考)

参考に少しだけ自衛隊の隊員教育について述べよう。
自衛隊の隊員教育は、まさしく旧日本軍の「伝統」を引き継いでいる。営内班での教育とともに、「精神教育」という、日本軍独特の教育内容も日常的に行われている。

その精神教育の根幹が、「中隊は隊内生活における家庭」(陸自第1教育団「訓育指導の参考」)という天皇制的家族主義観の継承である。

同教科書では、具体的に「中隊長はお父さん、先任(下士官)はお母さん、班長はお兄さん」として、旧日本軍の「軍隊内務書」を完全に継承して教育が行われている。

こうして、隊員ら(兵士)は、営内班において「幼児」として扱われ、「躾・訓育」が行われる。「躾」とは、「手洗い、ハンカチ、ちり紙の携行、爪切り、うがい」などなどの日常生活の指導である(同書)。

 また、同書には、「訓育」とは、「精神教育により広い知識を得、訓育により自らが実践陶冶し、これを第二の天性になるようにするしつけ」と書かれている。

 実際の現場の「訓育」とは、例えば「軍歌演習」などで鍛錬するとされる。ここでは、参考として、旧日本軍の幼年学校での「軍人勅諭」による「服従精神」「剛健精神」などの涵養が挙げられている。

米軍内の女性兵士への性暴力

ところで、今まで見てきた軍隊の性暴力問題は、旧日本軍から自衛隊、そして米軍内でも大きな問題として現れている。

報道によれば、イラク、アフガン駐留部隊では、米軍の女性兵士の3割が、軍内部でのレイプ被害に遭っているという(『毎日新聞』2013年03月19日付)。この報道によると、

――米英軍主導の侵攻から20日で10年を迎えるイラクや国際部隊の駐留が続く、アフガニスタンに派遣された米女性兵士延べ28万人の3割以上が、上官らから性的な暴行を受けていたことが分かり、米国内で「見えない戦争」と問題視されている。連邦上院の軍事委員会で13日、「軍内性的トラウマ(MST)」と呼ばれる心的ストレスに関する公聴会が初めて開かれた。新たな被害を恐れ沈黙を余儀なくされてきた被害者は「風穴が開いた」と歓迎している。
 また、カリフォルニア州図書館調査局が発表した実態調査によると、イラクとアフガニスタンに派遣された女性兵士の33.5%が米軍内でレイプされ、63.8%が性的いやがらせを受けたと回答したとも報道されている。

この実態は、アメリカ国防総省も認めているが、軍内での性的暴力は、2010年だけで、男性の被害も含め推計1万9000件にのぼるという。

 凄まじい性暴力の実態だ。かつて、米軍はシビリアン・コントロールが貫徹された理想的な軍、民主的な軍として喧伝されたが、その面影の欠片もなくなっている。どうしてこのような「変質」が生じたのか?

 この答えは、自ずと明らかだ。結論は、軍隊が国外での不正義の侵略戦争を継続する限り、全ての軍隊がこの変質を免れない、ということだ。これは、米軍だけでなくすべての世界中の軍隊が避けられない事態である。

 ドイツ、オランダ、スウェーデン、ノルウエーなどの西欧諸国の軍隊は、すでに20年以上前から、軍隊の民主化を進めている。例えば、将兵の団結権、命令拒否権、勤務外の政治活動の自由などの民主的制度が採り入れられている(軍事オンブズパーソン制度も採用)。この西欧諸国軍の民主化は、たぶんに軍隊・軍事制度と民主主義の矛盾、戦争と民主主義・人権の矛盾の解決へ向かう過渡的在り方と言えるかもしれない。

 だが、この軍事思想、この努力が自衛隊、米軍には皆無である。このような軍隊は、いずれにしても、歴史のふるいにかけられ、衰退・崩壊していくことは疑いない。

 米軍の2001年以来、19年も長期に続くアフガン戦争(イラク戦争)は、その前触れかも知れない。米軍兵士およそ7000人の戦死(と、年間約200人の自殺者)と6.4兆ドル(約700兆円)の戦費をかけながら、そこから抜け出せないという事態が、それを表しているのだ。

 現在の日韓両国の間には、軍隊慰安婦問題、徴用工問題などの戦争賠償に関わる大きな課題が存在している。ここで明らかなのは、戦後の日本国家が一度たりとも国家として韓国に対して謝罪と賠償の責任を果たしてこなかったということである。とりわけ、韓国をはじめとするアジアの女性たちへの、非道な性奴隷制度、「軍隊慰安婦」とされた人々への、「国としての謝罪・賠償」を果たすことは、日本の歴史的責務である。

 過去を見すえないもの、歴史的過ちに責任をとらないものに未来はない。



米国シンクタンク・ランド研究所のウクライナ戦争論

2022年08月09日 | 軍事・自衛隊
米国シンクタンク・ランド研究所のウクライナ戦争論

このリポートは、米国によるロシアの政治的・軍事的実態に関する、特にウクライナ戦争に関しての米国政府のシンクタンク「ランド研究所」の分析である。本文で明らかなように、米国は2019年当初からこのウクライナ戦争を米国とロシアとの「代理戦争」であり、米国のウクライナへの軍事支援が拡大して行くにつれ、戦争がウクライナとロシアの全面戦争に広がり、米国との軍事的衝突に至りかねないことを予測している。

私たちは、メディアによるウクライナ戦争への一方的、偏向的報道に迎合するのではなく、この戦争の客観的実態を観なければならない。なぜなら、このウクライナ戦争は、この戦争に乗じて、今まさに私たちの足下で「台湾有事」を口実とした、対中戦争態勢づくりへと広がろうとしているからだ。(以下のリポートの要約は、特にウクライナ戦争に関する箇所に限定した。全文はリンクから読める)


目次
「ロシアを拡張する――有利な条件での競争」(ランド研究所 2019 RAND Corporation)
まとめとして
本文のまとめ
●「米国は両国(東ウクライナとシリア)でロシアの敵対勢力に限定的な支援を行っており、さらに支援を行う可能性があるため、ロシアのコストを押し上げることになる。このような代理戦争は、決して新しいものではない。
「ロシアを拡張する――有利な条件での競争」(ランド研究所 2019 RAND Corporation)
本報告書は、ランド研究所研究プロジェクト「ExtendingRussia」の一環として実施された調査と分析をまとめたものである。本報告書は、陸軍省本部 G-8 参謀本部副長官室陸軍四年制防衛検討室が主催する研究プロジェクト「ロシア拡張:有利な地盤からの競争」の一環として実施された調査分析を記録したものである。

目次
序文
第1章 はじめに
第2章 ロシアの不安と脆弱性
第3章 経済的措置
第4章 地政学的措置
第5章 思想的および情報的措置
第6章 航空・宇宙の対策
第7章 海上での取り組み
第8章 土地およびマルチドメイン対策
結論


*「本報告書は、ロシアとのある程度の競合が避けられないことを認識した上で、米国が有利になるように競合できる分野を明らかにしようとするものである。ロシアの軍事・経済および国内外での政権の政治的地位を圧迫する方法として、ロシアの実際の脆弱性と不安を利用できる非暴力的な措置の数々を検討する。

私たちが検討した措置は、防衛や抑止を主目的とするものではなく、その両方に貢献する可能性はある。むしろ、これらの手段は、敵対国のバランスを崩し、米国が優位に立つ領域や地域でロシアが競争するように仕向け、ロシアが軍事的・経済的に過剰な拡張をしたり、政権が国内外での威信や影響力を失うように仕向ける作戦の一要素」

まとめとして
●「ウクライナ軍はすでにドンバス地方でロシアに出血している(その逆も然り)。米国の軍事装備や助言をさらに提供すれば、ロシアは紛争への直接的な関与を強め、その代償を払わされることになりかねない。ロシアは新たな攻勢をかけ、ウクライナの領土をさらに奪取することで対抗するかもしれない。これはロシアの犠牲を増やすかもしれないが、ウクライナだけでなく米国にとっても後退を意味する。」

●「ウクライナへの軍事的助言と武器供給を増やすことは、これらの選択肢の中で最も実現性が高く、最も大きな影響を与えるが、そのような構想は、広く拡大する紛争を避けるために非常に慎重に調整されなければならないだろう。」

*「NATO の黒海沿岸に陸上または空中発射の対艦巡航ミサイルを配備すれば、ロシアにクリミア基地の防衛を強化させ、黒海でのロシアの海軍の活動能力を制限し、クリミア征服の有用性を低下させることが可能である。そのような基地の候補としては、ルーマニアが最も意欲的であろう」

*「米軍の地上部隊の大部分を欧州に戻せば、欧州の有事(および一部の非欧州の有事)により迅速に対応できるようになる。しかし、米軍がロシア国境に近ければ近いほど、緊張を高める可能性が高くなり、他の場所に再配置することが難しくなる。従って、中欧に配置するのが望ましいと思われる」

*「これらの措置は、米国が優位に立つ領域や地域でロシアが競争するように仕向け、ロシアに軍事的・経済的な過剰な拡張を促し、国内外での政権の威信と影響力を失わせるなど、敵対国のバランスを崩すことを目的とした作戦の要素として考えられている。」

このような施策の歴史的な参照点として、1980年代のカーター政権とレーガン政権の政策がある。大規模な国防強化、戦略防衛構想(SDI、別名スターウォーズ)の開始、ヨーロッパへの中距離核ミサイルの配備、アフガニスタンの反ソ抵抗勢力への支援、反ソのレトリック(いわゆる悪の帝国)の強化、ソ連とその衛星国の反体制者への支援などであった。

これらの措置がワルシャワ条約機構の崩壊とソ連の崩壊に実際にどの程度貢献したかは不明だが、この10年間の米国の政策は、モスクワにいくつかの困難な選択を迫るものであった。結局、ゴルバチョフ新政権は、まずアフガニスタンからソ連軍を撤退させた。」

*「ロシアは今日、アメりカにとって最も手ごわい潜在的な敵国ではない。ロシアは米国と正面から張り合う余裕ないが、中国は力をつけている。米国にほとんど負担をかけずにロシアにストレスを与えることができる措置があれば、中国の反応を促し、逆に米国にストレスを与えることになるかもしれない。」

*「本報告書で取り上げた措置のほとんどは潜在的にエスカレートするものであり、そのほとんどはロシアの反撃につながる可能性が高い。米国は、利用可能なロシアの反撃オプションを検討・評価し、米国の全体戦略の一環として、それらを拒否または中立化するよう努めなければならない。このように、それぞれの措置に伴う具体的なリスクに加えて、さらに別のリスクがある。核武装した敵対国との競争激化に伴うリスクを考慮しなければならない。」

本文のまとめ

*「現在のロシア軍は、一様ではないにせよ、有能な戦闘力を持っている。地上軍と空軍は国外を軍事的に支配することができ、他の旧ソ連諸国はモスクワとの直接軍事対決で勝利する見込みはほとんどない。また、クレムリンは生存可能な戦略核抑止力を有している。ロシアは、陸上の大陸間弾道ミサイル(ICBM)、潜水艦の艦載弾道ミサイル(SLBM)、空中発射の巡航ミサイルによる爆撃機、および戦術核兵器の強力な兵器庫から構成されている。数十年にわたる持続的な投資により、ロシアは高度な防空能力を誇っている。米国(あるいはソ連)に比べれば、プーチン率いるロシアの戦力投射能力は限定的であるが、自国内でこれを破ることは極めて困難であり、コストもかかる。しかも、図 2.2.14 に示すように、軍事的に弱い国々と同程度の国防予算でこれらの能力を維持している。」

*「2016年、ロシアの国防費は米国の約10分の1であった。この金額は、約30万人の現役部隊の資金源となっている。77万人の兵士と200万人の予備役。重要なのは、ロシアの指導者が国防費を国内総生産(GDP)の約 5%以下に抑えることを確約」


●「米国は両国(東ウクライナとシリア)でロシアの敵対勢力に限定的な支援を行っており、さらに支援を行う可能性があるため、ロシアのコストを押し上げることになる。このような代理戦争は、決して新しいものではない。
実際、「偉大なるゲーム」は数世紀にわたって国家間関係を特徴づけており、世界的な大国が相反する影響圏をめぐって衝突してきた。このような駆け引きの復活は、冷戦の終結後、米国が唯一の超大国として残され、ロシアと米国以外の国との間で一時的に中断していた地政学的競争の形態への回帰を意味すると」

「施策1: ウクライナへのリーサルエイドの提供」
「2017年初頭までに、約6万人のウクライナ軍兵士が、推定5000人のロシア軍兵士を含む約4万人のロシア支援分離主義勢力と対峙し、これまでに約1万人の犠牲者を出した紛争であった。米国と欧州の同盟国はロシアに経済制裁を課し、ウクライナに経済支援と非殺傷軍事支援を行った。2014年、米国議会はウクライナ自由支援法に基づき、軍事・経済支援を承認した。」

「それ以降、2016年度(会計年度)まで、米国は安全保障支援に6億ドル提供し、 これらの資金はウクライナ軍を訓練するために使われたが、これらは対砲兵・対迫撃砲レーダー、安全な通信、兵站システム、戦術的無人偵察機、医療機器などの非殺傷軍事装備を提供」

「米国がウクライナへの支援を拡大することは、殺傷力のある軍事支援を含め、ドンバス地域を保持するためにロシアが負担するコストを血と財の両面で増大させる可能性がある。分離主義者に対するロシアの援助とロシア軍の駐留が必要となり、より大きな支出、装備の損失、ロシア人の死傷者が生じる可能性がある。後者は、ソビエトがアフガニスタンに侵攻したときのように、国内で大きな議論を呼ぶ可能性がある。このような米国のコミットメントの拡大により、もう2つのやや推測的な利益がもたらされるかもしれない。米国に安全保障を期待する他の国々は、心強く感じるかもしれない」

「米国のウクライナに対する安全保障支援が増加すれば、それに比例してロシアの分離主義者 への支援やウクライナ国内のロシア軍も増加し、紛争はより高いレベルで維持される可能性が高い 。元米国陸軍欧州軍司令官 Ben Hodges 中将は、まさにこの理由からウクライナへのジャベリン対戦車ミサイルの供与に反対している 。あるいは、ロシアは逆にエスカレートし、より多くの軍隊を投入し、ウクライナに深く入り込むかもしれない。ロシアは米国の行動を事前に察知し、米国の追加援助が到着する前にエスカレートする可能性さえある。このようなエスカレーションはロシアを拡大させるかもしれない。東ウクライナはすでに疲弊している。ウクライナをさらに占領すれば、ウクライナ国民を犠牲にするとはいえ、負担が増すだけかもしれない。」

「米国がウクライナの NATO 加盟をより積極的に主張すれば、ウクライナの士気と、それを阻止しようとするロシアの決意力が高まり、その結果、ロシアの関与と犠牲がさらに拡大する可能性がある。また、このような動きはNATO内部の反発を招き、ロシアの侵略に対抗するためにこれまでどちらかといえば統一された戦線であったものを損なうことになるだろう。」

「ロシアを拡張する地政学的な動きは、(時間と資源の関係で)ここでは深く検討しなかった他の選択肢、すなわちNATOとスウェーデン、フィンランドとの協力関係の強化、ロシアの北極における主張への圧力、北極におけるロシアの影響力のチェックも考慮する必要がある。」

*「スウェーデンとフィンランドを同盟に組み入れることは、特に魅力的である。スウェーデン海軍はコルベット 7 隻と潜水艦 5 隻を保有し、フィンランド海軍は 8 隻の高速攻撃機と広範な沿岸防衛システムを運用する。ロシアは、スウエーデンとフィンランドを威嚇するために、バルト海での航空・海軍活動を活発化させている。

「これらの行動は、NATOが両国との協調を強化しようとする努力を鈍らせようとするロシアの企てでもある。しかし、最近のロシアの動きが活発化した結果、NATOはスウェーデン、フィンランドとの連携を強めている。バルト海での NATO、スウェーデン、フィンランド、および米国の演習は、この小さなロシア艦隊に対する圧力を強める可能性がある。」

「バルト海の状況は、特に興味深い機会を提供している。NATO 海軍はすでに数的にも能力的にも優位に立っている。スウェーデン軍をNATO軍に含めれば、軍事バランスはさらに有利になる。ロシアは、水上・航空部隊の自由な活動能力を脅かすアクセス拒否能力に多大な投資を行っている。NATO とスウェーデンの部隊の組み合わせは、特に米海軍の定期的な支援を得て、このようなロシアの改良に挑戦することができる。NATO とスウェーデンは海中戦力において大きな優位性を持っており、ロシアに ASW の投資をさせることができる。」

*「黒海におけるNATOの対接近・領域拒否(A2AD)措置の強化は、クリミアのロシア基地防衛のコストを押し上げ、この地域を掌握したことによるロシアの利益を低下させることが最大の利点となる。
ルーマニアは、黒海におけるロシアの増強に懸念を表明し、それに応じてNATOとの関係を強化しようとしてきた。実際、ルーマニアは黒海での NATO 軍の旅団編成や海上演習の強化などを求めている。ウクライナは東部の陸上紛争に重点を置いているが、黒海の安全保障に懸念を示し、NATOが主導するタスクフォースへの参加を申し出ている」

「米海軍のプレゼンスが高まれば、作戦上のリスクも生じる。クリミアに基地を置くロシアの対艦ミサイルの射程は400~500km であり、黒海で活動するほとんどの米艦に到達することが可能である 。プレゼンスの拡大はまた、偶発的な衝突のリスクもはらんでいる。これまでにも、ロシア航空機が黒海で米軍艦に接近し、「ブザー」を鳴らしたことがある」

「ルーマニアに空中発射型または陸上配備型のASCM を配備すれば、米国とその同盟国が許容できるコストで、ロシアがクリミアの施設を利用するためのコストが増加すると思われる。」

*「第一の選択肢は、欧州における米軍の地上戦力を、重戦力と火力を含めて、少なくとも10年前の水準まで大幅に増強することである 。米陸軍は現在、欧州に3つの旅団戦闘チーム(BCT)を置いている。ストライカーと歩兵・空挺部隊、およびローテーション機甲部隊である。このオプションは在欧米陸軍の兵力をおおよそ倍増させ、最大6つの常設または持続的ローテーションBCT、そのうち少なくとも2つは機甲部隊、さらに大砲と対砲兵部隊を大幅に増強することを意味」

*「第 2 の選択肢は、欧州 NATO 加盟国が自国軍の即応性と能力を向上させるために支出を大幅に増加させることである。「防衛費の支出は、ドイツ(現在GDPの約1.2%)でさえ、今後数年のうちに目標のGDP比2%を達成するほど、急速に拡大している」

*「第 3 の選択肢は、米軍または西ヨーロッパの NATO 加盟国軍をバルト三国またはポーランドに直接、より多く展開させるものである。NATO の駐留強化構想は、すでにエストニア、ラトビア、リトアニア、およびポーランドへの多国籍大隊のローテーション配備につながっているが、このオプションでは、はるかに大規模で効果的な戦闘力を持つ部隊を検討することになる。例証のため、バルト海沿岸の各県に1 個以上の BCT または同等の部隊を前方配備することも可能である。」
「バルト諸国またはポーランドにこの規模の部隊を前方展開することは、ロシアと少な くとも一部の欧州 NATO 加盟国から見れば、1997 年の NATO ロシア建国法に違反するように見える」


*「潜在的な利益とリスク欧州における NATO 陸軍の増強、または実効的な能力の向上がもたらす潜在的なメリットは 3 つある。まず、これらの戦略は、(1) 同盟の戦う決意を示し、(2) その戦いに勝つためのNATOの能力を高めることで、ロシアがNATO加盟国への短期警戒攻撃を企てる可能性を低下させる可能性がある。陸上戦力の増強が抑止にもたらす効果は、陸上戦力がない場合にロシアがそのような攻撃を考える可能性に依存する」
「第3に、NATO の陸上戦力の増強は、その潜在的脅威に対抗するため、あるいは国境での優位性を維持し、継続的な行動の自由を確保するために、より多額の投資をモスクワに促すことで、ロシアを拡大させる可能性があることである。」

●ロシア国境付近または国境上に位置するNATO地上軍や、はるかに高い即応性レベルで相当数が維持されているNATO地上軍は、異なる反応を示す可能性が十分にある。NATO の東側諸国への高適応度 BCT の配備は、NATO がロシアへの本格的な地上侵攻を計画している可能性をモスクワに納得させ ることはできないだろうが、それでもロシアの立場からすれば、非常に脅威的な展開となる。このような部隊は、現実的にはモスクワを脅かすことはないだろうが、特に、多連装ロケットシステム(MLRS)や高機動砲ロケットシステムなど、戦場のNATO部隊に対するロシアの砲兵の優位性に対抗するための能力を伴う場合、カリンイングラードを危険にさらす可能性はある。また、これらの部隊は、ウクライナやグルジアなど、ロシアに非常に敏感な地域の他の場所にも容易に配備することが可能である。」
「さらに、この部隊は、自国の「近海」での優位性を含め、ロシアの大国としての役割の再確立に国内の民度を賭けてきた政権に、明確な政治的挑戦を突きつけることになる。バルト海やポーランドに駐留する部隊が、西ヨーロッパのNATO加盟国ではなく、主に米国からであった場合、認識される脅威と政治的課題は拡大する可能性が高い。」

●「西ヨーロッパを中心としたNATO地上軍の強化や能力向上は、ロシアの重要な関心事に対する政治的・軍事的挑戦とは認識されない可能性が高い。しかし、よりロシアに近い場所、あるいは国境に近い場所を中心とした、飛躍的に大規模で高い即応性を持つ地上軍を考えた場合、リスクはより大きくなる。先に述べたように、このような部隊は、ウクライナ、ベラルーシ、グルジアなどにおけるロシアの利益に対する政治的、そして可能性として戦略的な明確な挑戦となるため、まさにロシアの軍事支出を拡大する可能性を持っている。ロシアは、前方姿勢の強化を、近海で争う NATO の全体的な取り組みの一部と見なし、ウクライナなどの国々がモスクワに対してより強硬な姿勢を取るよう促すとともに、欧州への戦略的方向転換を検討している他の国々に物的、精神的支援を与える可能性もある。

このような変化は、ロシアの戦略的軌道から重要な国家を外し、この地域の国家がモスクワの現体制に不都合な政治・経済改革を行う可能性を示すことによって、ロシア政権の安全保障を脅かすことになる。このようなロシアの核心的利益に対する潜在的脅威を示すことで、ロシアは、米国と NATO の配備を抑止するため、あるいは、配備後の撤回を求めるために、強力に反撃する動機付けとなるであろう。この反撃は、以下のような形で行われる可能性がある」
・「配備を受け入れるNATO加盟国を不安定にするため、配備そのものに対する現地の反対勢力を動員することを含む、より大きな努力。
・中東など他の地域における米国または欧州の利益を脅かす水平方向のエスカレーション。
・戦略的軍隊を警戒態勢に入れ、配備そのものが関係における深刻な危機を構成することを強調する。INF条約を脱退し、核武装した中距離ミサイルを配備すること。
・欧米の政治体制を不安定にしようとする動きが強まっている。


*「米国は地上配備型中距離核ミサイルを独自に開発、配備する能力と資源を持っており、選択すればINF条約から脱退することも可能である。しかし、欧州にミサイルを配備するには、配備先の同盟国やパートナー国の同意が必要であり、その実現は難しいかもしれない。1980 年代には、ヨーロッパへのパーシング 2 ミサイルの導入に対して大規模な抗議が行われ、西ヨーロッパ諸国政府は、地理的に近 く、広範囲なソ連の軍事的脅威に直面していたとしても、これらのミサイルを受け入れることに消極的 であった 。このようなミサイルが再導入される状況にもよるが、これらの配備に対するホスト国の支持を確保することは困難であると考えるのが賢明であろう。この政策オプションの他の2つの代替バージョンについては、個別に議論する価値がある。

第一に、米国は、西ヨーロッパではなく、あるいは西ヨーロッパに加えて、ポーランドなど東ヨーロッパのNATO同盟国の領土に、核搭載可能なものを含む中距離ミサイルを配備することができる。これはある意味で、1980年代半ばに行われたパーシングIIミサイルの西ヨーロッパへの配備と同じであり、NATOへの攻撃には核による対応が必要であることをソ連とNATO加盟国の双方に保証するためのものである。しかし、今回はロシア国境に直接配備する。原則的に、このようなミサイルの配備は、米国がNATOの東側諸国を防衛するために核兵器を使用する意思があるという強いシグナルを送り、米国の抑止力を強化する可能性がある。しかし、このような動きは、ミサイルがモスクワに近接し、飛行時間が短いことから、ロシアにとっても大きな脅威となる。米国の海上・空中発射精密攻撃システムの体制破壊攻撃能力に対するロシアの懸念は、おそらく数倍に拡大されるであろう。これは、NATO領域に対するロシアの攻撃を抑止するのに役立つが、同時に、NATO領域に対するロシアの攻撃を誘発する可能性もある。」

●「結論
米国との競争において、ロシアの最大の弱点は、経済規模が比較的小さく、エネルギー輸出に大きく依存していることである。ロシア指導部の最大の不安は、体制の安定と持続性である。
ロシアの最大の強みは、軍事と情報戦の領域である。ロシアは先進的な防空、大砲、ミサイルシステムを配備し、米国やNATOの防空管制や大砲の対砲撃能力を大きく上回っている。このため、米国の地上軍は制空権を失い、劣勢な火力支援で戦わざるを得ない可能性がある。ロシアはまた、誤報、破壊、不安定化という旧来の手法に新しい技術を適合させている。
ロシアに対する最も有望な対策は、これらの脆弱性、不安、強みに直接対処し、ロシアの現在の優位性を損なわずに弱点分野を開拓することである。ロシアを含むあらゆる形態の米国エネルギー生産の継続的な拡大。自然エネルギーを活用し、他の国にも同じことを奨励することは、ロシアの輸出収入、ひいては国家予算や防衛予算に対する圧力を最大化することになる。」

*「ウクライナ軍に対する米国の武器と助言を強化することは、検討された地政学的選択肢の中で最も実行可能なものであるが、そのような努力は、より広範囲の紛争を避けるために慎重に調整される必要がある。」

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RAND_RR3063-ロシア.pdf

●本日発売!「週刊金曜日」は、日本国憲法の特集!―反戦自衛官・小西誠氏に聞く 「自衛隊の憲法明記」で兵士と市民の殺し合い=市街戦を隊員にさせるのか!?

2022年04月29日 | 軍事・自衛隊

●本日発売!「週刊金曜日」は、日本国憲法の特集!
―反戦自衛官・小西誠氏に聞く 「自衛隊の憲法明記」で兵士と市民の殺し合い=市街戦を隊員にさせるのか!?


●特集では、ウクライナ戦争と憲法――「正義の戦争の是非」、「無防備都市宣言」、「日米の南西シフト」、そして「自衛官の人権」などなど……紙面6頁のインタビューをしていただきました(うち3頁を掲載、ぜひ同紙購読をお願い!

●反戦自衛官・小西誠氏に聞く
「自衛隊の憲法明記」で兵士と市民の殺し合い=市街戦を隊員にさせるのか!?

――聞き手・本田雅和(同紙編集部)

ウクライナ戦争を機に、自民党などの改憲勢力は改憲議論を一気に進めようとしている。そもそも他国の侵攻に対する「正義の戦争」とは何なのか。それがもたらすものは――。


以下略(残り3頁)

自衛隊の対テロ作戦――治安出動態勢の歴史と現在その1

2022年04月01日 | 自衛隊一般

はじめに

 私は、一九六九年一一月、自衛隊の治安出動訓練に反対し、訓練を拒否したとして逮捕され、懲戒免職処分を受けた。当時私は、航空自衛隊佐渡分屯基地に所属する三等空曹であった。
 自衛隊ではこの年、「七〇年安保対策」ということでマスコミに公開された治安出動訓練が全国で大々的に開始された。だが、「国民を守る」ために自衛隊に入隊していた私にとっては、この治安出動訓練という「銃口を国民に向ける」訓練は到底許容できるものではなかった。

 したがって私は、その直前から始まっていた同分屯基地での治安出動訓練に反対し、庁舎内外のいたる所に、「治安訓練反対」などのチラシを貼り、そして訓練の初日、全隊員の目前で訓練を拒否した。
 この私の行動は、「政府の活動能率を低下させる怠業および怠業的行為をせん動した」として自衛隊法第六四条違反で起訴されることになった。その後、新潟地裁の一審無罪判決、東京高裁の差し戻し判決、さらに差し戻し後の新潟地裁での再度の無罪判決により、一九八一年、判決は確定した。無罪確定の理由は、「小西の行為は表現の自由の枠内の行為である」というものであった。

 この私の行動を含めて、自衛隊の内外からの批判にあった治安出動訓練は、七〇年直後、一旦中止されることになった。だが今や、この治安出動訓練がおよそ三〇年ぶりに公然と復活し始めている。「対テロ・ゲリラ対策」を口実にである。

 とりわけ、昨年の九・一一事件後の現在、全国の自衛隊が治安出動態勢に突入していることは重大な事態である。が、問題はマスコミのこの状況への「無関心」もあってか、ほとんどの国民に知らされていないことである。
 こうして本書では、いま始まっている自衛隊の治安出動態勢の現段階を分析・解説することに主眼を置いた。資料として収録した自衛隊の治安出動関係(対テロ関係)の未公開文書の一部は、私の刑事裁判における裁判所の「提出命令」により出されたものだが、大半は情報公開法に基づいて請求し、提出されたものである。
 情報公開法に基づく提出文書は、特に「極秘」や「秘」の文書は、ところどころスミで黒く塗りつぶされている(資料には「スミ消し」としてゴシックで表記)。これ自体は非常に不当なものだが、概要をつかんでもらうために全文を掲載することにした。
                          二〇〇一年三月五日
                           小西 誠


はじめに 2
第1章 始動する自衛隊の治安出動態勢 9
  外へ戦時派兵、内に治安出動態勢 9
  在日米軍などを警備する警護出動の新設 11
  「過激派ゲリラ」も対象 15
  治安出動下令前の情報収集活動の新設 20
  四六年ぶりの治安協定の改定 23
  治安の主導権を巡る自衛隊と警察の対立 27
  「不審船」事件と海上自衛隊の権限拡大 30
  領域警備という新任務 34
  政府の対テロ作戦 38

第2章 対テロ作戦に編成される自衛隊 41
  対テロ・ゲリラ戦演習 41
  新中期防衛力整備計画の対ゲリラ戦編成 44
  初めての特殊部隊編成 47
  対テロ作戦を担う旅団の編成 49
  治安出動応招義務をもつ即応予備自衛官 51
  学生の招集を予定する予備自衛官補 54
  予備自衛官制度について 56

第3章「テロ脅威論」下に主任務を転換する自衛隊 58
  新防衛計画の大綱下での対テロ戦略 58
  LICと地域紛争対処 62
  九・一一事件と「二一世紀型の新戦争」論 65
  今なぜ「有事立法」か? 67
  テロ対策特別措置法と防衛秘密 70
  テロを戦争で根絶できるのか 72

第4章「戦死」の時代を迎えた自衛隊員たち 76
  「戦死」を強制する小泉首相 76
  良心的兵役・軍務拒否の歴史的流れ 78
  小泉の靖国公式参拝と自衛隊員 80
  インターネット時代の「兵営」の熔解 84

●資料 自衛隊の対テロ作戦関係未公開文書 87
 第1節 政府・自衛隊のテロ対策関連文書 88
  第1 テロ対策特別措置法全文 88
  第2 テロ対策特措法に基づく対応措置の実施及び対応措置
                  に関する基本計画について 104
  第3 大規模テロ等のおそれがある場合の政府の対処について 115
  第4 国内テロ対策等における重点推進事項
        (法令整備・予算措置関連)の推進状況について 118
  第5 NBCテロ対策の推進について 124
  第6 NBCテロその他大量殺傷型テロへの対処について 127

 第2節 自衛隊の警護出動・海上警備行動 142
  第1 自衛隊法の一部を改正する法律全文 142
  第2 自衛隊の警護出動に関する訓令 153
  第3 自衛隊の警護出動に関する訓令の運用について(通達) 162
  第4 我が国周辺を航行する不審船への対処について 165
 
 第3節 治安出動に関する自衛隊と警察の各協定 167
  第1 治安出動の際における治安の維持に関する協定(新協定) 167
  第2 治安出動の際における治安の維持に関する協会(旧協定) 171
  第3 治安出動の際における治安の維持に関する細部協定 174
  第4 治安出動の際における自衛隊と警察との通信の協力に関する細部協定 178
  第5 治安出動の際における自衛隊と警察との通信の協力に関する実施細目協定 182
  第6 警察に対する物品等の支援要領 188
 第4節 治安出動に関する訓令・通達 194
  第1 「自衛隊の治安出動に関する訓令の一部を改正する訓令」について 194
  第2 自衛隊の治安出動に関する訓令の一部を改正する訓令 196
  第3 自衛隊の治安出動に関する訓令(旧訓令) 198
  第4 自衛隊の治安出動に関する訓令改正要綱(旧) 218
  第5 陸上自衛隊の治安出動準備に関する内訓 224
  第6 陸上自衛隊の治安出動の計画準備に関する内訓の一部を改正する内訓 227
  第7 西部方面隊の治安出動に関する達 229
  第8 治安出動準備支援計画に関する旭川駐屯地業務隊一般命令 242
  第9 「陸上自衛隊第七師団と航空自衛隊北部航空警戒管制団との
               治安出動に関する協定」の送付について(通知) 243

 第5節 治安出動態勢と即応予備自衛官 247
  第1 即応予備自衛官の任免、服務、服装等に関する訓令 247
  第2 即応予備自衛官招集手続に関する訓令 258




第1章 始動する自衛隊の治安出動態勢


  外へ戦時派兵、内に治安出動態勢

 そう、パニックの「演出」と呼んでいいだろう。
 昨年の九月一一日、ニューヨークの世界貿易センタービルとペンタゴンへの航空機によるテロ事件(以下「九・一一事件」という)の勃発以後の出来事を、である。
 テロ事件の直接の被害者であるアメリカはまだしも、日本政府のこのテロ後への「煽り」についてである。この「煽り」では、沖縄への修学旅行の大半が「父母の要望」ということから中止になったのを始め、海外旅行などの「国民的自粛」が今なお続いている。
 「演出」は、警察と自衛隊の対テロ厳戒態勢とともに始められた。九・一一事件以後、警察は、「国内での報復テロの可能性を想定」し、在日米軍基地、民間空港、原子力発電所(以下「原発」という)などの所在する沖縄、長崎、福井、青森など二八都道府県の約五八〇カ所を「重点警備対象」に指定し、機動隊約四二〇〇人で警戒態勢に突入した。

 この警察機動隊とともに、自衛隊もまた、自衛隊の基地・施設だけでなく日米共同基地・施設を重点に警戒態勢に突入した。自衛隊は、とりわけ秋期の年度行事である入間・百里・浜松基地などの航空祭だけでなく、自衛隊記念日の観閲式典や各基地・駐屯地の開庁祭まで中止した。そればかりではない。年度の重要な訓練である航空総隊総合演習も中止し、警戒態勢をとっている。唯一自衛隊が行っている訓練といえば、日米共同訓練のみだ。そして二〇〇二年二月の今なお、この警察と自衛隊の長期の厳戒態勢は続いている。
 このパニック的厳戒態勢は、政府の「演出」であり、「煽り」だということは、後ほど実証しよう。一応、結論を先に述べておくなら「ソ連脅威論」から「テロ脅威論」への煽り、つまり、米・ブッシュ政権の言うところの「二一世紀型の新しい戦争」という「対テロ戦争」の捏造だということだ。

 ところで、この「演出効果」もあって、日本ではわずか三週間の国会審議でテロ対策特別措置法が成立し、そしてその成立のおよそ一カ月後には、自衛隊の海外出動が始まった。
 海上自衛隊の護衛艦三隻・輸送艦二隻、航空自衛隊のC―130六機、人員約一二〇〇人という自衛隊始まって以来の戦時下の中東派兵は、アメリカのアフガン戦争支援というだけでなく、今後の自衛隊の本格的海外派兵への道を開くことになるだろう。
 そして、テロ対策特別措置法に便乗し、まったく何らの国会審議も議論もなしに、自衛隊の警護出動・情報収集活動などの治安出動(領域警備)・防衛秘密関連の自衛隊法改定案が国会で成立した。まさに火事場泥棒と言った方がふさわしい。

 さて、この治安出動(領域警備)関連法の成立によって、今まさに自衛隊が戦後始まって以来の治安出動態勢に突入していることを、国民のほとんどは知らされていない。いや、知らされていないというのは、新聞などのマスコミのほとんどが事の重大性について詳しく報じようとしないからだ。九・一一事件以後の現在、「外へは戦時下の派兵」「内には治安出動態勢」という情勢下にあるのだ。
 本論で私がもっとも検証したいのは、この自衛隊の治安出動態勢の現段階である。

  在日米軍などを警備する警護出動の新設

 自衛隊に警護出動などの新任務を新設した改定自衛隊法は、昨年一〇月二九日に成立し、一一月二日に公布、即日施行された。この自衛隊の警護出動とは何か。まずはその改定された自衛隊法の主要な条文から検討してみよう。
 改定自衛隊法は、「第八一条の次に次の一条を加える」として、「自衛隊の施設等の警護出動」を「第八一条の二」に規定する。

 「内閣総理大臣は、本邦内にある次に掲げる施設又は施設及び区域において、政治上その他の主義主張に基づき、国家若しくは他人にこれを強要し、又は社会に不安若しくは恐怖を与える目的で多数の人を殺傷し、又は重要な施設その他の物を破壊する行為が行われるおそれがあり、かつ、その被害を防止するため特別の必要があると認める場合には、当該施設又は施設及び区域の警護のため部隊等の出動を命じることができる」
 ここでいう「施設又は施設及び区域」とは、同条では第一号で「自衛隊の施設」、また第二号では日米安保条約第六条ならびに日米地位協定でいう「施設及び区域」をいう。

 この自衛隊の警護出動のための武器の使用については、「第九一条の二」を新設し、警察官職務執行法第七条の準用のほか、「その事態に応じ合理的に必要と判断される限度で武器が使用できる」とする。
 さて、まず自衛隊の警護出動の防衛対象は何かということだ。ここでは第一に「自衛隊の施設」があげられている。これは従来、自衛隊の施設一般の警備は警察の仕事であったということだ。自衛隊施設の警備が警察の仕事であったというのは不思議な気もするが、その理由は後述しよう。そして自衛隊の警護出動の対象の第二は、在日米軍の「施設及び区域」であるということだ。
 当初、自衛隊の警護出動の防衛対象は、在日米軍ばかりか皇居、首相官邸、国会、原発、水源地(ダム)なども含まれていたものを公安委員会・警察の反対でこの二つに限定したというものだ。これも後述しよう。
 問題は、この在日米軍の「施設及び区域」とは、どの範囲を指すのかということだ。これは在日米軍の横田基地などの航空施設については、ある程度の限定性は考えられるが、在日米軍の横須賀や佐世保などの港湾の「区域」については、ほとんど限定されていない。

 例えば、長崎新聞(二〇〇一年一〇月三〇日付)は、「佐世保港では日米地位協定で立ち入りを禁止したA制限水域(八%)を提供」しているが、自衛隊の警護出動が「佐世保港の大部分を想定」し、この提供水域以外にも「警護対象の米軍水域にあたる」とする海上自衛隊に疑問を投げかけている。
 自衛隊の警護出動は、陸上自衛隊だけの任務ではない。『警護出動に関する訓令』(二〇〇一年一一月二日施行)によると、その第三条で陸海空の任務分担が定められている。これによると、「海上自衛隊は、警護出動に際しては、海上自衛隊の施設の警護を行うとともに、主として海において施設及び区域の警護を行うことを任務とする」という。つまり、長崎新聞が指摘する佐世保港の水域は、海上自衛隊の護衛艦などが警護するというわけだ。
 こういう意味では、長崎新聞の疑問はまったく妥当といえる。改定自衛隊法でも「警護出動時の権限」のところで「その必要な限度において、当該施設又は施設及び区域の外部においても行使することができる」と規定している。つまり、自衛隊の警護出動の対象となる「施設及び区域」とは、その施設の外部にまでおよび、また、区域の範囲も相当の広がりを意味するのである。

 これについては、防衛事務次官から陸海空幕僚長・統合幕僚会議議長に宛てた『自衛隊の警護出動に関する訓令の運用について(通達)』も、次のように述べている。
 「『施設及び区域』が建造物、工作物等の物的な施設又は設備のみならずそれらの所在する土地等を含む区域全体を指すものであることから、それらの施設等に所在する施設若しくは設備その他の物又は人とを含めて、その区域全体として施設等の警護を行うことである」
 先に述べた、自衛隊施設の警備を警護出動条項の新設以前は警察の仕事としていたのも、「施設の警護」というものが、その施設の「外部の警備」まで及ぶという現実からであろう。
 

 「過激派ゲリラ」も対象

 さて私は、この自衛隊の警護出動の対象は、記述の都合上、今まで九・一一事件などのテロや外国から侵入したゲリラなどを想定して述べてきた。すでに引用した改定自衛隊法も「政治上その他の主義主張に基づき、国家若しくは他人にこれを強要」「多数の人を殺傷」「重要な施設その他の物を破壊」と規定しており、一見すると外国からのテロ・ゲリラだけが相手であるかのように規定している。

 しかし、同法は「外国から」という限定性がないように、国内のテロ・ゲリラも対象としている。これはオウム事件などのテロだけではない。「過激派」のテロ・ゲリラもその対象だ。後述する『自衛隊の治安出動に関する訓令の一部を改正する訓令』(二〇〇〇年一二月四日)もこれを示している。
 ところで、もうひとつの問題は、この自衛隊の警護出動は防衛出動や治安出動のような「有事」下の出動なのか、それとも「平時」下の出動なのかということだ。

 陸上自衛隊などは、この警護出動を「警察予備隊以来の悲願」として、航空自衛隊の「領空侵犯に対する措置」や海上自衛隊の「海上警備行動」と並ぶ「平時」の出動だというようである。
 だが、自衛隊法の規定を見ると、第七八条の「命令による治安出動」、第七九条の「治安出動待機命令」の後の第八一条の「要請による治安出動」の後に「自衛隊の施設等の警護出動」(第八一条二)は追加されている。つまり、この規定は「要請による治安出動」の範疇内の治安出動規定として受け取ることができる。

 実際、改定自衛隊法の警護出動条項には、「内閣総理大臣は、前項の規定により部隊等の出動を命じる場合には、あらかじめ、関係都道府県知事の意見を聴くとともに」として、知事などの意見聴取が義務づけられている。ここでは、すでに述べた自衛隊法第八一条の「要請による治安出動」が、知事等を要請主体として治安出動が行われるのに対して、知事等の「意見を聴く」だけにとどまっている。

 そして、この「警護出動時の権限」もすでに述べたように、自衛隊法の「治安出動時の権限」以下の第八九条、第九〇条の後の第九一条の二として追加されており、武器使用の規定も「その事態に応じ合理的に必要と判断される限度で武器を使用することができる」。つまり、警護出動下の部隊は、治安出動と同様の武器の使用が規定されているのである。

 この治安出動時と同等の武器使用権限は、自衛隊の警護出動というのが治安出動の一環であることを意味する。が、これは後述する領域警備(平時から「非常時」を含む概念)という新任務の中で打ち出されたものである。
 これを裏付けるのが、今回改定された「平時」の自衛隊基地の警備との関係だ。従来の自衛隊法第九五条では、「自衛官は、自衛隊の……人又は武器、弾薬、火薬、船舶、航空機、車両、有線電気通信設備、無線設備若しくは液体燃料を防護する」ためには、「その事態に応じ合理的に必要と判断される限度で武器を使用することができる。ただし、刑法第三六条又は第三七条に該当する場合のほか、人に危害を加えてはならない」としている。
 ところが、今回改定された自衛隊法では、この警備対象に「無線設備若しくは液体燃料を保管し、収容し若しくは整備するための施設設備」「営舎又は港湾若しくは飛行場に係る施設設備」を加え、一段と拡大している(第九五条の二「自衛隊の施設の警護のための武器の使用」)。

 問題は、ここでいう「平時」の自衛隊施設等の警備と警護出動下の警備とは、どこが異なるのか、ということだ。自衛隊施設の警備に限定していえば何ら変わらないと言えるが、重要なのはその武器の使用権限だ。すでに引用したように、自衛隊法第九五条での武器の使用は、事実上「正当防衛・緊急避難」以外の武器の使用を禁じている。しかし、警護出動下においては、この限定は取り払われている。つまり、この武器使用の権限をとってみても、新設された警護出動が治安出動の一環であることが明らかになる。
 この改定自衛隊法による警護出動訓練は、昨年一二月から在日米軍座間基地内で自衛隊と米軍の間で九日間にわたって実施訓練が行われており、日米共同のマニュアルも作成されていると言われている。そして、昨年暮れの新聞報道によれば、防衛庁は警護出動の実施計画策定を急ぎ、また、日米合同委員会を開き、米側が警護を希望する施設・区域を聴取するという。この手続きを経て、政府は、自衛隊の警護出動を行う施設・区域や期間を定めた実施計画を閣議決定することになっている。

 新聞報道では、当面の対象施設は横田・座間の在日米軍基地を予定しているとなっているが、三沢、厚木、横須賀、岩国、佐世保なども候補に挙がっていると言われる。だが、問題は、すでに自衛隊と米軍の共用施設では、自衛隊が自己警備の一環として事実上の警備支援を実施していることだ。
 このように、急速に進んでいる自衛隊の警護出動態勢に対して、都道府県知事らからの危惧の声も出始めている。二〇〇一年一〇月三〇付の「自衛隊法に基づく警護出動にあたっての都道府県知事意見の聴取について(緊急要望)」という文書がそれである。
 「この度、自衛隊法の一部が改正され、同法第八一条の二において、内閣総理大臣が自衛隊の部隊等に対し駐留米軍や自衛隊の施設等の警護出動を命じる場合には、あらかじめ関係都道府県知事の意見を聴くことが定められました。

 このことは住民生活の安全確保を責務とする知事の立場から重要な手続きであると考えているところですが、意見を聴く趣旨、内容などについて明確にされておりません。つきましては、早急にこれらを明らかにしていただくとともに、関係都道府県知事が責任ある意見を表明できるよう十分な情報の提供を要望します」
 この文書は、「渉外関係主要都道府県知事連絡協議会」(会長・神奈川県知事)による緊急要望であるが、このように自衛隊の警護出動という治安出動態勢に対しては、そのなし崩し的・泥沼的出動態勢の進行に、大きな危惧を抱かずにはいられない。

 だが、自衛隊はなぜ、この自衛隊始まって以来の治安出動態勢づくりを急ぐのか? これもまた、アメリカの「ショー・ザ・フラッグ」(態度をはっきりさせろ)という要求によって対米支援法であるテロ対策特別措置法が制定されたように、アメリカの強い要請であることが報道されている(山崎拓自民党幹事長の「在日米軍基地の警備は自衛隊にやってほしいとの米国の強い要請がある」との発言、二〇〇一年一〇月一三日『読売新聞』)。つまり、在日米軍基地からのアフガン派兵による兵員不足に対して、その警備の穴を自衛隊に埋めさせようというわけだ。


  治安出動下令前の情報収集活動の新設

 さて、こうした警護出動とともに、改定自衛隊法のもうひとつの目玉が「治安出動下令前の情報収集」規定の新設だ。これは「自衛隊法第七九条の次に次の一条を加える」とし、「治安出動下令前に行う情報収集」として同第七九条の二として次のようにいう。

 「長官は、事態が緊迫し第七八条第一項の規定による治安出動命令が発せられること及び小銃、機関銃(機関けん銃を含む。)、砲、化学兵器、生物兵器その他その殺傷力がこれらに類する武器を所持した者による不法行為が行われることが予測される場合において、当該事態の状況の把握に資する情報の収集を行うため特別の必要があると認めるときは、国家公安委員会と協議の上、内閣総理大臣の承認を得て、武器を携行する自衛隊の部隊に当該者が所在すると見込まれる場所及びその近傍において当該情報の収集を行うことを命ずることができる」
 そして、この「治安出動下令前の情報収集」活動を行う自衛隊の部隊は、第九二条二の新設により「その事態に応じ合理的に必要と判断される限度で武器を使用することができる」という。

 ところで、自衛隊法第七九条とは、「治安出動待機命令」である。この後の条項として「下令前の情報収集」活動は追加されるのであるから、治安出動の待機命令以前に、つまり「平時」から「情報収集」という名目で自衛隊の部隊は出動できることになる。しかも、この出動する部隊は、治安出動と同等の権限で武器を使用できるのだ。
 この情報収集条項の新設について、二〇〇一年一〇月五日の防衛庁の『自衛隊法の一部を改正する法律案について』という文書によれば、「武装工作員等の事案及び不審船の事案への対処」として説明されている。すなわち、防衛庁の文書によれば、この下令前の情報収集条項の新設は、外国からのゲリラなどの侵入を想定しているだけでなく、不審船事態をも想定しているということだ。

 一九九九年三月には、自衛隊初の海上警備行動(第八二条)が発令されたことは記憶に新しい。この海上自衛隊による「海上における警備行動時の権限」は、従来は武器の使用に関しては「警職法第七条の準用」だけである。この中で治安出動下令前の情報収集条項の新設(大量殺傷武器等を所持した者による不法行為)による「海上警備行動」は、武器の使用権限がより広くなっている。改定自衛隊法案の「理由」のところでは、これについて「海上警備行動時等において一定の要件に該当する船舶を停船させるために行う武器使用につきそれぞれ人に危害を与えたとしても違法性が阻却される」という。つまり、この情報収集活動の新設と武器使用権限の拡大で、「不審船」に対する威嚇射撃だけでなく、正当防衛以外などにも堂々と「船体射撃」ができるというわけだ。
   
 また、この治安出動下令前に行う情報収集活動の範囲は、「当該者が所在すると見込まれる場所及びその近傍」というのであるから、都市部から山間地まで無限に広がることになる。そして、先に見た自衛隊の警護出動の範囲は、自衛隊及び在日米軍の「施設及び区域」の周辺にまで及ぶのであるから、この双方の出動範囲を重ねると日本全国、全土が治安出動態勢に組み込まれるということになるのだ。つまり、自衛隊の警護出動や情報収集のための出動というのは、全国を戒厳態勢に置こうとするものなのである。 

 もうひとつ、この改定自衛隊法が目論んでいるのが、自衛隊の治安出動の対象の拡大だ。これは、自衛隊法の「第七章 自衛隊の権限等」として付加され、「第九〇条第一項に次の一号を加える」として三号に次のようにいう。
 「前号に掲げる場合のほか、小銃、機関銃(機関けん銃を含む。)、砲、化学兵器、生物兵器その他その殺傷力がこれらに類する武器を所持し、又は所持していると疑うに足りる相当の理由のある者が暴行又は脅迫をし又はする高い蓋然性があり、他にこれを鎮圧し、又は防止する適当な手段がない場合」
 自衛隊法第九〇条は、治安出動時の武器使用権限が規定されている。そして、その第一号は、「職務上警護する人、施設又は物件の暴行・侵害」に対して、第二号は「多衆集合しての暴行・脅迫」に対して武器を使用することが規定されている。

 従来の、この自衛隊法第九〇条の治安出動規定は、反政府の大規模な大衆行動、つまり自衛隊のいう「暴徒」を対象にしていたのである。ところが新設された第三号では、新たに「殺傷力の強い武器などを所持」した勢力(ゲリラなど)が対象として追加されたのだ。これは次に述べる「治安侵害勢力」という広義の対象に言い換えられている。

  四六年ぶりの治安協定の改定

 治安出動下令前の情報収集活動や警護出動を新設した自衛隊法の改定を火事場泥棒的と評したが、この根拠は大いにあるのだ。
 もともと政府・防衛庁は、「不審船」や武装ゲリラに対処する「領域警備」関連法案を昨秋の臨時国会へ提出する予定だったという(二〇〇一年九月一三日、朝日新聞)。
 ところで、この「領域警備」関連法の制定は、一九九五年の新防衛計画大綱の決定以来の自衛隊の「悲願」である。そして、一九九七年の新ガイドラインの制定、一九九九年の周辺事態法の制定、一九九九年の能登半島沖事件を口実に、自衛隊は一挙に自衛隊の「新任務」として、領域警備関連法の制定へと突き進むのだ。このあたりの詳しい事情は後述しよう。

 大事なのは、昨秋の九・一一事件と自衛隊法の改定前にすでに、自衛隊は「不審船」や武装ゲリラに対処する新たな自衛隊の治安出動態勢づくりに突入したということだ。
 このひとつが、二〇〇〇年一二月四日に防衛庁長官と国家公安委員長との間で締結された『治安出動の際における治安の維持に関する協定』(以下「協定」という)の改定である。新聞各紙の、このあまり目立たない協定改訂の報道は、今後の自衛隊の行動をうらなう上で非常に大きな出来事であった。
 先に述べてきた、昨秋の自衛隊の治安出動権限の拡大は、すでにこの時点で自衛隊と警察の間の取り決めとして決定していたのだ。つまり、自衛隊はその自衛隊法の改定以前に、警察との協定によって治安出動の権限の拡大を果たしていたのである。もっと言うならば、この協定と同時に、『自衛隊の治安出動に関する訓令』も制定されており、資料として収録したこの関連文書が示すように、治安出動関連の通達・内訓・各種の協定もこの時点で完結していたのだ。

 この出来事は、この間の自衛隊の独走を示して余りある。基本法の制定よりも実際の行動の方が先行しているのである。
 それでは、この自衛隊と警察との協定の改定はどのような内容なのか。
 まず第一に、旧協定(一九五四年九月三〇日締結)は、自衛隊と警察の治安出動対象を「暴動」としていたのだが、新協定では、これを「治安を侵害する勢力」に言い換えていることだ。つまり、現在の情勢判断として警察は「暴動の鎮圧」については、警察力で足りるとし、この警察力で不足する事態の想定対象を「治安を侵害する勢力」、すなわち「武装ゲリラ」などを想定しているというわけだ。

 この新協定と同じ日に『自衛隊の治安出動に関する訓令の一部を改正する訓令』(以下「訓令」という)も改定されたが、ここでも「暴動の制圧」(第三条)から「治安を侵害する勢力の鎮圧」に改められている。ちなみに、この訓令の「改正の内容」では、「治安出動した際における自衛隊と警察との治安維持のための措置について、暴動への対処を想定したものから、武装工作員等への対処をも想定したものとする」と述べている。
 そして第二に、旧協定では、自衛隊と警察の任務分担について、自衛隊は警察の「支援後拠」、「拠点防護」、そして警察に代わって「直接制圧」というように、段階的に逐次移行することになっていた。が、新協定では、こうした段階的移行も確認されてはいるが、「この場合の任務分担は、治安を侵害する勢力の装備、行動態様等に応じたものにする」(第三条の一項の三)として、「治安を侵害する勢力」の武装によっては最初から自衛隊が出動することが明記されている。

 この内容は、新協定と同日に改定された訓令ではさらに明確になっている。すなわち、改定訓令の「改正の趣旨」では、「外部からの武力攻撃に当たらないような事案においては、一義的には警察が対処するが、警察では対処できないか、又は著しく困難な場合には、自衛隊が治安出動により対処する」として、初めの段階からの自衛隊の治安出動を想定していることを述べている。

 また、この改定訓令では、この立場から旧訓令に規定されていた自衛隊の治安出動の段階的移行という規定が削除されたのである(旧協定第五条二項)。
 ここで断っておかねばならないのは、新協定・新訓令は、確かに「暴動」から「治安侵害勢力」に表現が変わったが、それは一部のマスコミが言うように反政府の大衆行動、すなわち「暴動」「暴徒」を対象にしていないということではない、ということだ。つまり、「治安侵害勢力」という、より広い概念を想定して対象が広がっただけなのだ。

 これは新訓令の次の規定で明らかである。新訓令は「第二九条に次の一項を加える」として、「前項に規定する場合において、部隊指揮官は、相手が暴徒のときは、これに対し、解散を命じ、かつ、武器を使用する旨を警告した後でなければ、武器の使用を命じてはならない」としている。つまり、ここでは武器の使用・行使という規定の中で、「暴徒」「暴動」への対処が想定されているのだ。
 ところで、この訓令の第二九条は、治安出動における武器の使用権限について規定しているが、改定訓令では「治安侵害勢力」に対しては、「ただし」という断り書きで「警告」なしに武器を使用することが新設されている。つまり、国内のゲリラ勢力などに対しても自衛隊が「治安侵害勢力」と見なしたならば、警告なしに武器が使用されるということだ。

  治安の主導権を巡る自衛隊と警察の対立

 さて、この自衛隊と警察の新協定を詳しく分析してみると、旧協定では簡単にしか記述していなかった自衛隊と警察の「関係」が詳細に規定されていることに気づく。
「防衛庁長官は、治安出動待機命令を発する必要があると認める場合において……国家公安委員会に連絡の上、その意見を付して行うものとする」(第二条の一項)とか、「防衛庁長官又は国家公安委員会は、治安出動命令が発せられる必要があると認める場合において……それぞれ他方に連絡の上、その意見を付して行うものとする」(同第二項)とか、「前二項の規定による連絡を受けた国家公安委員会は、速やかにこれについて意見を述べるものとする」(同第三項)などなど。

 これは言うまでもない。この新協定による自衛隊と警察の治安権限の力関係の変化のみか、すでに見てきた自衛隊の下令前の情報収集活動や警護出動などの新設、そして治安出動時の権限拡大に対して、つまり、警察にとって代わる自衛隊の国内治安行動態勢への移行に対して、警察が相当の危機感をもって対抗していることがみてとれるのだ。
 昨秋、防衛庁・自衛隊の改定自衛隊法案の提出に対して、警察を代表する村井仁国家公安委員長は「治安維持は警察が担うのが原則」(九月三〇日、朝日新聞)と相当抵抗していることが報じられている。また、野中広務自民党元幹事長も「自衛隊が日本の重要施設を警備するという。恐ろしいことだ。警察はそれほど軟弱ではない」(同紙)とコメントを出している。さらに元警察庁長官の後藤田正晴は、「国民に直接、銃を向ける立場に自衛隊員を立たせてはならない。……治安出動が下令前に国内治安にまで自衛隊が出ていくなんて、間違いもはなはだしい」(同紙)と言っている。

 これらの警察の現・元官僚の言動は、単なる国内治安を巡る自衛隊と警察のヘゲモニー争いとだけ見ることはできない。問題は、自衛隊の制服組の台頭が、こうした警察に取って代わる国内治安行動態勢づくりにまで進行しているということなのだ。
 そして、この自衛隊の制服組の目的は、後述する「領域警備」という自衛隊の新任務の確保にある。
 ここ数年、治安権限を巡る自衛隊と警察の対立は激化している。この発端とも言うべきものが、一九九七年の新ガイドライン制定を巡る対立であった。この新ガイドラインでは、自衛隊に初めて有事下の任務として「ゲリラ・コマンドウ対処」方針が規定された。だが、これに対して、後藤田正晴を中心にした警察官僚は猛然と抵抗することになった。この結論は、自衛隊の「ゲリラなどの対処」は「有事下」の対処に限定するということで妥協がなされた。ところが、冷戦後の、「主敵」を喪失した自衛隊がこれで納得するわけがない。ここから自衛隊制服組の執拗な巻き返しが始まるのだ。

 こうした警察官僚の抵抗の中で、先に述べてきた改定自衛隊法は、警護出動におけるその防衛対象を「自衛隊施設」と「在日米軍基地」に限定することになる。ところが、防衛庁・自衛隊の要求はここにとどまらない。すでに政府・自民党は、警護出動の対象に原発を追加することを決めており、今年の通常国会で自衛隊法の再改定を固めているという(二〇〇一年一二月四日、日経新聞)。
 自民党国防族のドン、山崎拓は、当初からこの警護出動の対象を「皇居、官邸、原発」まで含める(二〇〇一年九月三〇日、朝日新聞)というのであるから、自衛隊の要求はもっとエスカレートするであろう。


 「不審船」事件と海上自衛隊の権限拡大

 ところで、先に引用した治安出動に関する改定訓令の「改正の趣旨」は、この間の自衛隊の治安出動権限の拡大などの背景として、「北朝鮮小型潜水艦の韓国東海岸座礁事件」や「下甑(しもこしき)島中国人密航者不法上陸事件」、そして「能登半島沖不審船事案」をあげている。

 しかしながら、これらの事件を冷静に考えるならば、これらの事件に対して過度に反応し、治安出動態勢などの対処行動へ移行した自衛隊の「新任務」こそ、問題にすべきだ。なぜなら、
一九五三年の朝鮮戦争の休戦以来、朝鮮半島ではこれらの事件は無数に発生してきた。が、金大中政権の成立によって、とりわけ南北首脳会談の開催以来、朝鮮半島の緊張は一段と緩和されるに至っているのだ。
 また、こうした戦後の一貫した朝鮮半島の緊張の激化の中で、国内での「不審船」などの事件がたびたび起こっていたことは、周知の事実である。問題は、今なぜ自衛隊は、こうした北朝鮮への対決政策に出始めたのか、ということだろう。

 戦後初めての海上警備行動の発令となった一九九九年三月の能登半島沖事件は、この自衛隊の対北朝鮮対決政策を象徴する事態といえよう。
 このとき、海上警備行動発令下の海上自衛隊は、停船命令を無視した「不審船」に対して、護衛艦二隻と対潜哨戒機による追跡を行い、そして、その中で護衛艦の機関砲による警告射撃と、対潜哨戒機P―3Cによる多数の警告爆弾の投下を行ったのである。

 問題なのは、なぜ海上自衛隊による海上警備行動なのか、ということだろう。
 言うまでもなく、海上における治安の確保は、海上においての警察である海上保安庁の任務だ。海上保安庁は、機関砲などの武器はもとより、海上における警察としての任務も手慣れている。「不審船」事件以後も、高速船などの導入や特別警備隊の設置(第五管区大阪保安部に設置)など、その対策を強化している。
 ここでも、「領域警備」という「新任務」の付与を求める自衛隊制服組の強い意向が働いていることが推測されるのだ。

 さて、この能登半島沖事件後の一九九九年一二月二七日、海上自衛隊と海上保安庁の「不審船に係る共同対処マニュアル」が作られている。これは、「基本的考え方」として「1、不審船への対処は、警察機関たる海上保安庁が第一に対処」「2、海上保安庁では対処が不可能又は著しく困難と認められる事態で防衛庁は内閣総理大臣の承認を得て、迅速に海上警備行動を発令」「3、防衛庁は海上保安庁と連携して対処」と双方の連携が取り決められた。
 ところが、問題はここではとどまらない。すでに述べてきたように、昨秋国会での自衛隊法改定では、「治安出動下令前の情報収集」という新任務が加わったのである。これは海上自衛隊でみると、従来、「不審船」事案に対して防衛庁設置法による「調査研究名目」で出動し、しかるべき段階で海上警備行動へ移行する、というものから、治安出動下令前の情報収集という名目で出動することが可能になったのである。

 ここでも海上の治安権限を巡る自衛隊と海上保安庁の間の対立、ヘゲモニー争いがみてとれる。だが、この関係は警察と異なり、海上保安庁に比べて自衛隊側がはるかに強くなっていると見なければならない。
 というのは、自衛隊法の第八〇条「海上保安庁の統制」によれば、海上保安庁は、防衛出動、治安出動という「有事下」では、防衛庁長官の指揮下に入ることが規定されているからだ。つまり、海上保安庁は「海の警察」と言っても、その実態は「準海軍」として位置づけられているということなのだ。
 こういう自衛隊法改定の後、偶然にも昨年一二月下旬、東「シナ」海での「不審船」事件が起きた。未だ生々しいこの事件については、詳細は省いていいだろう。ここで問題なのは、海上保安庁が「正当防衛」を主張する根拠は何もないということである。「不審船」が停戦命令を無視したとしても、これは領海外の「排他的経済水域」でのことである。そして、「不審船」は海上保安庁の二〇ミリ機関砲の威嚇射撃のあとに、対抗して発砲したのである。つまり、海上保安庁の「不審船」船体への威嚇射撃(火災発生)という事態がなければ、「不審船」側が発砲しない可能性もあったわけだ。この状況を「正当防衛」というなら、「正当防衛」という名の武器使用は、無限に拡大されることになろう。

 これを国際法が専門の広瀬義男明治学院大名誉教授は、「海上保安庁が威嚇射撃とはいえ、先に船を撃っており、正当防衛とは言い難い」(二〇〇一年一月二二日付、朝日新聞)と述べている。また、刑法・刑事訴訟法が専門の土本武司筑波大名誉教授は、「魚漁法違反という微罪の容疑で船に向けて射撃したとなると、根拠はあっても妥当性に疑問が残り、過剰な射撃となるのではないか」と述べている。
 昨秋の海上保安庁法改定も「領海内における危害射撃の免責」であったはずである。ところが、この事件では、まさに領海外の、中国の排他的経済水域内において、「不審船」を「撃沈」したのだ。それも一五人の乗組員を見殺しにして救助もせずに、である。「海の男」としても失格だ。

 誰しも疑問を持つのは、なぜ海上保安庁はこのような強硬手段を行使しようとするのか、ということだろう。
 今回の「不審船」事件でも、能登半島沖事件でも、海上保安庁や海上自衛隊の強硬政策、つまり、北朝鮮への対決政策がはっきりとみてとれるのだ。これは、繰り返すまでもなく、自衛隊制服組の台頭を背景とした政府の「北朝鮮脅威論」「テロ脅威論」の「演出」「煽り」であるということだ。
 こういう政策の中で、防衛庁は今年一月一〇日の衆院国土交通委員会において「不審船」に対処する海上警備行動を発令する前段階として、「海上警備行動準備命令」あるいは「海上警備行動待機命令」などの自衛隊法改定の考えを示している。これを政府内の調整がつけば、通常国会にも提出するという。また、政府・与党は、今後の対策として「領域警備法」の新設に動くという(二〇〇一年一月一四日、共同通信)。
 「治安出動下令前の情報収集」に加えて、この新しい権限の新設である。まさに「屋上屋を架す」(防衛庁幹部)としか言いようがない、新法づくりである。
 この政府・防衛庁の意図を正しく把握することがいま必要だろう。 

  領域警備という新任務
 
 さて、ここで解説しておかねばならないのは、最近、新聞などでたびたび出てくる「領域警備」という概念についてである。この概念が初めて出てくるのは、私の知る限り一九九八年だ。 これについて、元統合幕僚会議議長の西本徹也は次のように言う(一九九八年五月一五日付、元自衛官組織の機関紙『隊友』)。
 「ポスト冷戦時代の大きな柱として、平常時と有事、平常時と周辺事態との間に発生し、あるいは周辺事態に伴い発生する可能性の高いテロ、海賊行為、組織的密入国、避難民の流入、隠密不法入国などに対する対処の責任、ならびにこのような状況の中で起こり得るゲリラ・コマンドウ攻撃や弾道ミサイル攻撃など、新たな脅威の態様やこれに伴う部隊運用の変化に対応し得る法制の整備も必要である」

 そしてまた、「この際、これらの事態への対応に密接な関係のある自衛隊に対する『領域警備の任務の付与』及び『武器等の使用基準(ROE)』についても本格的検討が必要と考える。特に領域警備については、ポスト冷戦時代の特性にかんがみ、我が国の領域を保全するため、国際法規・慣習に基づき、平常時から自衛隊の任務として早急に整備されるべきである」。
 自衛隊の言う領域警備とは、ここで西本が言うように、「テロ、海賊行為、組織的密入国、避難民の流入、隠密不法入国」、そして「ゲリラ・コマンドウ攻撃」などから「我が国の領域の保全」をすることである。そして、この事態とは「平常時と有事」「平常時と周辺事態」の間のこと、つまり自衛隊用語でいう「非常時」の事態ということになる。

 ところで、すでに別のところで述べてきたように、自衛隊法は「領空の保全」に関しては「領空侵犯に対する措置」を航空自衛隊の任務としており、「領海の保全」に関しては「海上警備行動」を海上自衛隊の任務として、すでに付与している。もっとも、これらの「領海・領空の保全」の任務は、「平常時」における任務である。
 そして、自衛隊の警護出動や下令前の情報収集行動は、主として陸上自衛隊の「領土の保全」という領域警備関連法として制定されたことを述べてきた。

 こうしてみると、領域警備とは、まず第一に「平常時」の「領空・領海・領土の保全」ということであり、これは「海と陸」においては改定自衛隊法で制定・強化されている。また、第二に領域警備とは、「非常時」という事態における「領空・領海・領土の保全」ということであり、これも改定自衛隊法では、その一部が制定されている。
 つまり、領域警備とは、「有事」に至る前の平時から非常時までを含む自衛隊の行動ということになる。
 だが、問題はなぜこのような領域警備という新任務が必要なのか? すでに繰り返し述べてきたが、西本の言うゲリラ・コマンドウ対処はともかく「海賊行為、組織的密入国」などへの対処は、海上保安庁の仕事である。また「領空の保全」や、海上保安庁が対処できない「領海の保全」は、すでに自衛隊法に定められているのだ。
 ここからの結論は明らかだ。つまり、ソ連脅威論の崩壊によって「有事」事態を喪失してしまった自衛隊が、その膨大な装備と予算を維持するために、新任務を創り出そうとしている、ということだ。

 山崎拓は、昨年暮れの「不審船」事件に対応して「自衛隊の海上警備行動と海上保安庁の海上警察行動の連係プレーをスムーズにやり、両者を一体とした領域警備法の整備が必要」(二〇〇一年一二月三一日、朝日新聞)と言っている。また、改憲論者の中曽根康弘もまた、「領域警備法を提唱」しているという。
 いずれにしても、このような自衛隊の領域警備という新任務への移行は、戦後の自衛隊のあり方を根本から転換させることになる。つまり、自衛隊は、当面の主任務を「有事下に出動する軍隊」から「平時・非常時に出動する軍隊」へ、すなわち、警察機関に代わり「国家の危機管理」を軍事的に担う実力組織へと移行しているのである。この事態の現出は、かならず、国民の軍事管理・統制へと行きつくだろう。それは今年早々、有事立法の整備として始まりつつある。
          
  政府の対テロ作戦

 以上のような領域警備に関する自衛隊法の改定に基づいて政府は、昨年一一月二日、『大規模テロ等のおそれがある場合の政府の対処について』(閣議決定)という文書を発表した。
 この文書は、九・一一事件のようなテロ、「小銃、機関銃、砲、化学兵器、生物兵器等の殺傷力の強い武器を所持した武装工作員等による破壊活動、その他のこれらに類する事案(以下『大規模テロ等』という)が我が国において発生するおそれがあり、一般の警察力では対応できない事態」について、内閣総理大臣を本部長とする「対策本部を設置」し、「事態が緊迫し、治安出動命令の発出が予測される場合には、対策本部の下に……防衛庁を中心に、あらかじめ、治安出動命令の発出に係る、対処方針の検討、自衛隊と警察の間の役割分担及び連携の確認、必要な情報の共有等について、相互に最大限の協力を行い、内閣総理大臣が治安出動を命じた際には速やかに強力な対処を行うことができる態勢を整える」としている。

 また、同文書は「治安出動命令の発出が予測される場合」、そして「治安出動待機命令及び武器を携行する自衛隊の部隊が行う情報収集命令」の発出の場合、電話等による「迅速な閣議手続」を決定している。
 この自衛隊始まって以来とでも言うべき、自衛隊の治安出動態勢に関わる閣議決定を新聞等のマスコミは、ほとんど報じていない。この文書は、政府のインターネット上のホームページでは公開されている。なぜ、マスコミはこの重大な、自衛隊の初めての治安出動に関わる閣議決定の報道をひかえているのか? 
 その疑問は深まるばかりだが、大事なのは、すでに政府が自衛隊の治安出動態勢を一挙に押し進めているということだ。自衛隊の治安出動態勢が決定的な段階にあるということである。もっとも、この態勢は、「対テロ対処」ということを口実にはしている。しかし、一旦、こうして作られた自衛隊の治安出動態勢は、すでに述べてきたように、自衛隊ばかりか、国内の社会状況にも大きな転換をもたらすだろう。

 こうしてまた、昨年の一二月一九日には、自衛隊法の改定などを踏まえて『国内テロ対策等における重点推進事項』(閣議決定)も決められている。ここでは、「出入国管理の強化やテロ資金動向把握」などとともに、とりわけ、「重要施設警備の強化」として「警察・自衛隊などの即応体制の強化」「原発等における防護措置の強化」も決められている。
 もうひとつ関連して明記しておきたいのが、政府の生物・化学兵器テロ対策関連の動きである。例えば昨年四月には、政府の「NBCテロ対策会議」が開催され、これへの「対処計画」が決定されている。
 この文書によると、「地下鉄サリン事件のような重大テロが発生した場合」について、「内閣に対策本部を設置」するとともに、「必要な場合には安全保障会議を開き、自衛隊の治安出動も想定し、対応を協議」すると、この手順が明記されている。

 問題は、ここでも安易に自衛隊の治安出動が謳われていることだ。確かにオウム事件などの生物・化学兵器などに対しては、それなりのしっかりとした対策は必要だろう。しかしながら一九九五年の地下鉄サリン事件を想起すれば明らかなように、この時点では自衛隊は、「災害派遣」として出動していたのである。なぜ、この災害派遣が一挙に治安出動になってしまうのか。ここには、やはり、「有事事態」を喪失した自衛隊への新任務の付与、という明確な意図があるといわねばならない。

第2章 対テロ作戦に編成される自衛隊


  対テロ・ゲリラ戦演習

 「訓練は『(敵の日本での潜入破壊活動で)防衛出動が発令された』との想定で実施。軽装備の敵遊撃部隊がA市市街地の三階建てビルに潜入していることをつかんだ陸自は、直ちに四一普連(別府)の三個中隊をもって同ビルの一帯を包囲。ビル周辺から一般人はすべて退去、人質などもない、という状況設定だ。現在の陸自の教範、編成、装備でどれだけ効果的なゲリラ掃討できるか、実員をもって検証するため、火砲で敵を粉砕するような作戦はとらず、あえて人員を突入させて撃滅する作戦がとられた」

 「敵の規模は軽装備の一~二個班(十数人)と推定。四一普連ではこれを撃滅するため、一個中隊約百人とヘリコプター三機により空・陸からの突入を決定した。突入に先んじて、まずヘリが屋上にいる敵を掃討。低空から高速で侵入したUH1ヘリの機関銃が見張りの敵二人を撃ち倒す。……同時刻、地上からも一斉突入が始まっていた。爆薬により開けられた共同溝の穴から組単位(三人程度)で、次々と隊員が飛び出し、ビルへ突入を開始。まず84ミリ無反動砲で一階の入口扉が破壊され、援護射撃を受けながら一個班が突入……」(二〇〇一年二月二二日、いずれも朝雲新聞)

 引用記事は、二〇〇一年二月一三日の陸上自衛隊西部方面隊初の「市街地戦闘訓練」の風景である。市街地に潜伏した敵ゲリラ・コマンドを掃討するという、大分・別府駐屯地でのこの訓練は、報道陣に公開して行われた。
 だが、この市街地戦闘訓練は、対ゲリラ戦訓練おいて初めての訓練ではない。この前年、二〇〇〇年三月一八日には、陸上自衛隊西部方面隊において「対遊撃戦訓練」が「山地内に拠点を置いた敵の捜索と同拠点に対する攻撃」という想定で、日出生台演習場で行われた。この陸上自衛隊初という山地での対ゲリラ・コマンド撃滅作戦を想定した訓練は、第一二普通科連隊(小倉)基幹の約六〇〇人が、二五人のゲリラを包囲し、制圧する訓練である。そして、この対ゲリラ戦訓練は、自衛隊が初めて訓練模様を報道陣に公開した訓練でもある。
 この二〇〇〇年三月、二〇〇一年二月の対ゲリラ戦訓練を皮切りに、陸上自衛隊の対ゲリラ戦訓練は、続々と開始されている。

 二〇〇一年一一月一三日からは、第一〇普通科連隊基幹(滝川)の一三七〇人と米第三海兵連隊一大隊(ハワイ)六五〇人による日米共同訓練による「対ゲリラ対処市街地訓練」「対ゲリラ対処山地索敵訓練」などが、北海道大演習場で行われている。
 指摘しておかねばならないのは、以上紹介した訓練が報道陣に公開されているのに対して、まったく公開されていない対ゲリラ戦訓練、すなわち、秘密裏に行われた訓練もあるということだ。
 一九九九年六月には、東京・市ヶ谷駐屯地(第三二普通科連隊)で極秘で「市街戦対テロ訓練」が行われたという。市街地で対テロ・ゲリラを想定した訓練は、事実上、これが初めての訓練だ。

 また、一九九八年後半より、全国の各師団では、極秘裏に山岳ゲリラ対処訓練が開始されたとも言われている。
 つまり、自衛隊はこれらの公開された訓練よりもはるか前に、対ゲリラ・コマンド戦訓練・演習を行っていたということになるが、問題はこれらの訓練は、先に示した警察との治安協定や、治安出動に関する訓令の改定よりもはるかに先行して行われていたということだ。訓練・演習に対する秘密主義の問題も指摘しなければならないが、もっと重要なのは、このような法令の改定以前に先行する自衛隊の行動である。ここにも、この間の自衛隊制服組の「独断専行」が働いているのだ。(以下略)
      
  

●ロシアーウクライナ戦争についての覚え書き的試論! ――反戦平和運動の混乱を止揚するために!

2022年03月21日 | 軍事・自衛隊


・この戦争の政治的性格(歴史的性格)を規定することは、今決定的に重要であり、この試みなしには、現在、世界で始まっている「新冷戦」=世界的「国家間争闘戦」(覇権争い)には対処できない。
かつ、反戦運動の歴史的後退を防ぐことはできない。 以下は、私の「覚え書き的試論」である。

・この世界的危機ー戦争の始まりを、あえて、2018年のアメリカの「国家安全保障戦略(NSS)」による「対中ロ競争戦略」の開始=新冷戦の歴史的始まりからとする(2014年の東ウクライナ戦争を基点とはしない)。

・この「対中ロ競争戦略」によってアメリカは、世界的な帝国主義的争闘戦(覇権戦争)に突入した。

・これがアジア太平洋においては、日米を軸とする「対中包囲戦略」として発動され、「Quad」、「AUKUS」などの英仏豪を巻き込んだ、対中政治・軍事態勢がつくられている。

・ヨーロッパにおいては、このアメリカの対ロ競争戦略は、東西冷戦後から一貫して引き継がれてきた、東欧へのアメリカの覇権政策――NATOの東方拡大政策として強化され、これに欧州もまた巻き込まれてきた。

・ウクライナの「民族運動」(「民族解放運動」ではない)も、歴史的なロシアのウクライナ民族への抑圧政策の中で、このアメリカの東欧覇権戦略に乗っかり、それを利用して進められてきた。

・したがって、このロシアーウクライナ戦争の政治的性格は、端的にいえば、「米ロ間の帝国主義的争闘戦」(覇権争い)に、ウクライナ民族運動が巻き込まれた、「本質的に帝国主義間戦争」と見るべきだ。

・問題は、この米ロ間の「本質的に帝国主義間戦争」に、欧州と日本(そして中国も!)も巻き込まれる「世界的戦争」(新冷戦の本格的始まり)に発展しようとしていることである。

・この戦争を「専制ロシアとウクライナー民主主義国間の戦争」と規定する大きな流れがあるが、これは、第2次世界大戦の、歴史的規定の誤りにも起因する。

・第2次大戦は、独伊日対米欧の「帝国主義間戦争」にソ連が巻き込まれた世界大戦であり、アジア的には、中国ーアジア市場の争闘(覇権)を巡る、米英蘭対日本の帝国主義間争闘戦であり、これに中国の民族闘争ー「民族解放戦争」が巻き込まれたものである。

・世界と日本の歴史学説は、この戦争を「民主主義対ファシズム」の戦争として規定してきたが、これは、米英、特にアメリカの「戦争犯罪」(ヒロシマ・ナガサキ、東京大空襲などの無差別爆撃)を免罪するための主張である。

・この戦争の正確な規定は、特に、急迫するアジア太平洋戦争ーアメリカ(米日)の対中戦争(南・東シナ海戦争ー「台湾有事」)の歴史的はじまり、という事態が進行する中で、とりわけ重要である。

・繰り返すが、アメリカの2018年「国家安全保障戦略(NSS)」による「新冷戦」宣言は、アフガンーイラク戦争後の、アメリカの世界的戦争態勢作りであり、対中戦争態勢づくりである(実際上は、ウクライナ戦争が先行しただけ!)

・この事態の中、現在の反戦のスローガンは、

*「ロシアのウクライナ侵攻反対」
*「米ロの帝国主義間戦争反対」
*「アメリカのNATO東方拡大戦略反対」
*「ウクライナの中立政策支持」
*「ウクライナーロシアの即時停戦を」
*「市民の犠牲をなくすためにキエフ等の無防備都市宣言を」 となろう。



そして、「台湾有事」キャンペーンによる、日米豪(欧)の対中戦争が切迫の中、今私たちが、特に求められているのは、ウクライナ戦争に反対するとともに、日米の対中戦争態勢づくり――琉球列島へのミサイル要塞化を阻むための、沖縄島――奄美・石垣島・宮古島と連帯した、全国的たたかいである!

●参考文献『ミサイル攻撃基地化する琉球列島―日米共同作戦下の南西シフト』


「台湾有事」キャンペーを糺す!

2022年01月03日 | 軍事・自衛隊


注 本論文は、21/12/8発行の拙著『ミサイル攻撃基地化する琉球列島―日米共同作戦下の南西シフト』の「序論」である。アジア太平洋地域の情勢が緊迫している中、これを公開したい。

序論 煽られる「台湾有事」論

サイル軍拡競争が始まった琉球列島
 2021年3月9日、米インド太平洋軍のデービッドソン司令官(当時)は、米上院軍事委員会で「今後6年以内に中国が台湾を侵攻する可能性がある」と証言。これを契機に日本のメディアは、一斉に「台湾有事」キャンペーンを始めた。メディアだけではない。名だたる識者や軍事評論家らも、この喧伝に飛びつき、唱和している。

 だが、デービッドソンの上官、ミリー米統合参謀本部議長が、米上院歳出委員会で「中国には現時点で武力統一するという意図も動機もほとんどないし、理由もない」と証言(21年6月19日付朝日新聞)したのだが、ほとんどのメディアはこれを無視した。

 また、同年7月5日、麻生副総理(当時)が都内の会合で「台湾海峡は石油に限らず日本の多くの輸出入物資が通る」とし、「台湾有事」を念頭に「日本にとって存立危機事態に関係」(同日付沖縄タイムス)と発言すると、メディアは一斉にこれに呼応し、さらに「台湾有事」を鼓吹するという状況である。

 だが、この麻生発言は、完全なフェイクである。「台湾海峡は……日本の多くの輸出入物資が通る」と? 台湾海峡はどこだ! 中国大陸と台湾の間だ。この中国大陸に沿う海峡を通る、日本の船舶はほとんどない(「日本の海運SHIPPINGNOW2020―2021」日本船主協会作成)。

 日本の実際の「シーレーン」は、台湾とフィリピンの間のルソン海峡、バシー海峡だ。台湾海峡という「危険地帯」を通過する必要は全くない。
 こんな麻生のフェイクを真に受け「台湾有事が切迫」と、危機アジりに唱和してはならない。現在、いかなる危機が生じているのか? この実態は、正確に見据えねばならない。

進行する琉球列島のミサイル基地化
 現在、急ピッチで進んでいるのは、九州から与那国島に至る、琉球列島=第1列島線に沿う、ミサイル部隊を軸とした大がかりな自衛隊の新配備計画だ。この事実をメディアは、ほとんど報じない。

 これらの琉球列島の基地建設の中で、いち早く自衛隊が配備されたのは、日本の最西端・与那国島だ。台湾まで約110キロという距離にある同島と台湾との間の海峡は、頻繁に中国の軍民艦船が行き来する。

 この与那国島の山頂に5基、異様な形で聳え、配備されているのが、陸自(陸上自衛隊、以下陸自・海自・空自という)沿岸監視隊160人の部隊だ(2016年3月配備)。沿岸監視レーダーは、与那国西水道を通過する中国軍艦を常時監視する。また、与那国駐屯地東側の一段と高い場所には、対空レーダーも設置。同島には、今後、空自移動警戒隊、陸自電子戦部隊も配備される予定だ(与那国と台湾間の海峡の公式名称はない。便宜的に筆者は「与那国西水道」とした)。


 与那国島の東に位置する石垣島には、陸自の対艦・対空ミサイル部隊、警備部隊(普通科部隊)計約600人が配備される予定だ。この石垣島では、宮古島、奄美大島よりも遥かに遅れて、2019年3月、基地造成工事が始まった。そして現在は、コロナ禍でもほとんど休止することなく、本格的なミサイル基地造成工事が続いている。


 しかし、石垣島でも、与那国島と同様、激しい基地建設への抵抗が起きている。基地建設の発表以来、予定地である平得大俣地区の農民らを中心にして、石垣市民の間にも根強く運動は広がっていく。平得大俣地区は、島への食糧を供給するもっとも豊かな農村地帯であり、戦後沖縄本島から移住してきた農民たちが、厳しい環境下で切り開いてきた開拓農地だ。しかもこの地帯は、沖縄においても最高峰を誇る於茂登岳から湧き出してきた豊かな水源地帯である。

 この地にミサイル基地を造るという自衛隊の横暴に、農村の青年たちが起ち上がった。この運動は、基地建設の是非を問う、住民投票を求める闘いへと発展する。この住民投票署名は、わずか1カ月の期間に石垣市有権者の4割を超える、1万4844筆の署名を達成。しかし、この状況に驚いた石垣市長らは、この「市条例に基づく住民投票実施」を拒否するという暴挙に出たのだ。これに対し、住民投票の実施を求めて石垣市を訴えた裁判が、今なお続いている。
(注 市長に住民投票実施を義務付ける「義務付け訴訟」は、1審、2審、最高裁とも却下されたが、2021年10月、市民たちは「石垣市平得大俣地域への陸自配備計画の賛否を問う住民投票において投票することができる地位にあることの確認請求」という新たな訴訟を提起。)

 石垣島とともに、今なおミサイル基地を阻む激しい運動が続いているのが宮古島だ。2019年3月、ここには陸自の警備部隊が配備。また地対艦・地対空ミサイル部隊も、1年遅れの2020年3月に配備された(約800人)。こうして宮古島には、ミサイル部隊が配備されたのだが、この部隊は未だ「ミサイルなし」(弾なし)の部隊(2021年11月10日現在)。同駐屯地には、対艦・対空ミサイル部隊の車両多数が配備されたが、これらの「ミサイル搭載車両」は、キャニスター(発射筒)だけを搭載したものだ。
 
 というのは、ミサイルを保管する弾薬庫は、21年4月に同島南東の保良地区にようやく一部開設したが、肝心のミサイル弾体が未だに搬入されていない(写真上、宮古島・保良ミサイル弾薬庫)。この理由は、保良の居住地区のすぐ側(200㍍)に造られているミサイル弾薬庫に抗し、住民たちは2年以上にわたって工事現場に座り込み、弾薬庫反対の行動を続けているからである。そして、4月から現在まで、この住民の行動に、沖縄の海運業界が共鳴し、今なおミサイル弾薬の輸送を拒んでいるのだ。もちろん、この保良を始め宮古島では、千代田地区の宮古駐屯地に対しても、反対の闘いが粘り強く続けられていることは付言しておかねばならない。


南西シフトの機動展開基地となる奄美大島・馬毛島
 奄美大島のミサイル基地開設は、宮古島と同じ2019年3月だ。奄美大島では、警備部隊と地対艦・地対空ミサイル部隊が、島の3カ所、計550人規模で配備された。さらに、今後、空自の移動警戒隊(大熊駐屯地内)・通信基地(湯湾岳)、陸自電子戦部隊が配備される予定だ。

 奄美大島で驚くのは、これらの基地の規模である。奄美駐屯地(大熊地区)の敷地面積は、約51㌶、瀬戸内分屯地(瀬戸内町)は、約48㌶(石垣基地の約2倍・宮古基地の約2・5倍)。瀬戸内分屯地には、巨大弾薬庫(約31㌶)が今なお建設中だ。山中にトンネル5本を掘るミサイル弾薬庫は、それぞれが約250㍍の長さの地中式弾薬庫である。弾薬庫は、現在2本目が完成しているが、情報公開文書によると全ての完成は2024年だ。

 この奄美大島のミサイル弾薬庫には、作戦運用上の目的もある。奄美大島―馬毛島は、先島諸島有事への、兵站・機動展開・訓練拠点として位置付けられている。つまり、この瀬戸内弾薬庫は、南西諸島有事へのミサイル弾薬の兵站(補給)拠点である。問題は、これら奄美大島の基地建設について、本土のメディアが全く報道しないことだ

 種子島―馬毛島の基地化が、自衛隊の南西シフトの一環であることは、以前から防衛省サイトでは公開されている(「国を守る」)。
 このサイトでは「他の地域から南西地域への展開訓練施設、大規模災害・島嶼部攻撃等に際しては、人員・装備の集結・展開拠点として活用、島嶼部への上陸・対処訓練施設」などを明記。

 馬毛島基地(仮)について、ようやく用地買収のメドがたった2019年12月、防衛副大臣が種子島を訪れ「自衛隊馬毛島基地」(陸海空の統合基地)建設を市に要請。つまり、馬毛島は、自衛隊の南西シフトの兵站・機動展開・訓練拠点として公に位置付けられたのである。

 これは、以前から筆者請求の情報公開文書でも裏付けられている。2012年、防衛省文書「奄美大島等の薩南諸島の防衛上の意義について」は、「南西地域における事態生起時、後方支援物資の南西地域への輸送所要は莫大になることが予想→薩南諸島は自衛隊運用上の重大な後方支援拠点」、また情報公開文書「自衛隊施設所要」(2012年統幕計画班)でも「統合運用上の馬毛島の価値」として、「南西諸島防衛の後方拠点(中継基地)」であること、「島嶼部侵攻対処を想定した訓練施設」であると明記。こうして、2本以上の滑走路建設予定の馬毛島は、自衛隊史上最大の航空基地、そして軍港(後述)として、まさに「要塞島」が造られるのだ。


沖縄本島の増強とミサイル要塞と化す琉球列島
 以上の先島などと同時進行しているのが、沖縄本島での全自衛隊の大増強だ。すでに2010年、那覇の陸自第15混成団は旅団へ昇格、空自も2017年、南西航空混成団から南西航空方面隊に昇格。那覇基地のF15戦闘機は、2倍の40機へ増強された。

 そして、沖縄本島の全自衛隊は、2020年には、約9000人に増大(2010年約6300人)、陸自・沖縄部隊は、最大勢力の約5100人に増強された。
 問題は、この中で沖縄本島へ地対艦ミサイル部隊の配備が決定されたことだ。新中期防衛力整備計画(2018年~)では、宮古島・石垣島を含む3個中隊の追加配備が決定されたが、このミサイル1個中隊の陸自・勝連分屯基地への2023年度の配備が通告された(21年8月21日)。しかし、勝連への配備は、ミサイル中隊だけではなく、石垣島・宮古島、奄美大島の地対艦ミサイル部隊を隷下におく、地対艦ミサイル連隊本部の配備(約180人)と発表されている。この配備で琉球列島では、地対艦ミサイル1個連隊「4個中隊」が編成・完結される。



  2023年、地対艦ミサイル配備予定の陸自・勝連分屯基地
 海自(空自)でも、「いずも」型護衛艦の空母への改修工事が完了しつつあり、すでに海自・空母と米強襲揚陸艦との共同運用が行われ始めている。
 その他、南西シフト下で「島嶼奪回」部隊として、華々しく喧伝されているのが、佐世保市で編成された水陸機動団だ。これは現在、2個水陸機動連隊が編成され、新たに1個連隊が増強予定だ。この他、南西シフト下では、九州の空自増強と日米共同基地化が進行、新田原基地では、2021年7月、F35B配備・基地化が通告された。

 以上の宮古・奄美・沖縄本島などへの地対艦・地対空ミサイル配備を皮切りに急ピッチで進んでいるのが、さらなる琉球列島全体のミサイル要塞化計画だ。
 2018年防衛大綱では、「島嶼防衛用高速滑空弾部隊・2個高速滑空弾大隊」の新設が発表された。高速滑空弾とは、現在、日米中露が激しい開発競争をしている新型のミサイルであり、迎撃不可能であるといわれる。チョークポイント・宮古海峡封鎖のための配備が推定される。

 自衛隊は、この他、中国大陸まで射程に収める12式地対艦ミサイルの約900キロの射程延伸を計画し、自衛隊初のトマホーク型巡航ミサイルの開発などを含む、凄まじいミサイル戦争態勢づくりを推し進めている。

 そして、2019年8月2日、トランプ政権は、中距離核戦力(INF)全廃条約からの脱退を決定したが、この目的は米軍の琉球列島を中心としたミサイル軍拡を押し進めるためである。条約脱退発表の直後に米軍は、沖縄―九州などへの中距離弾道ミサイルの配備(非核戦力)を発表したのである。一部の御用評論家などは、米中の中距離ミサイルの戦力比が「米ゼロ対中国1250発」とフェイクを流し、中国の多数の中距離ミサイルに対抗するには、米軍の中距離ミサイルの日本配備が必要だと吹聴している。

 しかし、米軍は、SLCM(潜水艦発射巡行ミサイル)を始め、すでに艦艇などに多数のトマホークなどの中距離ミサイルを配備している。SLCMは、1隻に154発のトマホークを装備している(搭載潜水艦4隻保有)。明らかに、米軍が目論むのは、地上発射のトマホークや中距離弾道ミサイルの日本配備によって、ミサイル軍拡競争において中国に対し圧倒的優位に立つということだ。

 さらに、急ピッチで進みつつある米海兵隊・陸軍の「第1列島線シフト」でも、地対艦・空ミサイル部隊の配備計画が明らかになっている。つまり、日米の双方による、琉球列島への凄まじいミサイル配備計画が押し進められており、対中国の激しいミサイル軍拡競争が、すでに始まっているということだ。

対中国の日米共同作戦
 自衛隊の南西シフトの初めての策定は、2010年の新防衛大綱だ。この南西シフトは、米軍のエアーシーバトル(2010年QDR)のもとで決定された。この具体的な運用計画が示されたのが「沖縄本島における恒常的な共同使用に係わる新たな陸上部隊の配置」(2012年統合幕僚監部)という文書である。

 この文書では、驚いたことに在沖米軍基地―嘉手納・伊江島航空基地等を含む在沖全米軍基地の、自衛隊との共同使用、さらにこの後編成予定の陸自1個連隊のキャンプ・ハンセンへの配備も記されている。つまり、このハンセン配備予定の水陸機動団が、辺野古新基地をも使用し、日米共同基地にするということだ(21年1月28日付沖縄タイムスは、これを裏付ける辺野古新基地の水陸機動団との共同使用密約を報道)。

 こうしてみると、自衛隊の南西シフトは、初めからエアーシーバトル下の日米共同作戦として決定されたといえる。
 この作戦の特徴は、在沖・在日米軍は中国軍のミサイルの飽和攻撃を逃れ、あらかじめ空母機動部隊のグアム以遠への一時的撤退を予定していたことだ。そして、中国軍のミサイル飽和攻撃が終了した後、米空母機動部隊などは、第1列島線に参上し参戦する。


 すなわち米軍は、対中戦略では自衛隊の南西シフトに依拠する。つまり、第1列島線沿いに配備された、自衛隊の対艦・対空ミサイル部隊が、初期の対中戦闘の主力となる。米軍の初期構想では、これら琉球列島に配置されたミサイル部隊の任務は、中国軍を東シナ海に封じ込め、「琉球列島を万里の長城、天然の要塞」にするとしている。これはまた、中国の軍民艦船を東シナ海へ封鎖する態勢であり、中国の海外貿易を遮断する態勢づくりだ。

 だが、このエアーシーバトルという戦略は、一時的であれ、米海軍の西太平洋の制海権を放棄する態勢である。これは米海軍においては「制海権放棄」という第2次大戦後の初めての事態となる。

 こうして、これを全面的に修正する戦略が、「海洋プレッシャー戦略」として米軍に対して提言された(戦略予算評価センター[CABA]、2019年5月)。「海洋プレッシャー戦略」とは、端的にいうと、中国の初期ミサイル飽和攻撃に対処する「撤退戦略」を修正し、「対中・前方縦深防衛ライン」を構築し、戦争の初期から西太平洋の制海権を確保する戦略だ。


 作戦の中心は、第1列島線沿いに分散配置された対艦巡航ミサイル、対空ミサイルなどを装備した地上部隊が、中国の水上艦艇を戦闘初期で無力化する。つまり、琉球列島に配備された自衛隊の対艦・対空ミサイルと、米軍の新たな対艦・対空ミサイルとの共同作戦である。


 この戦略下、海兵隊も「フォース・デザイン2030」を提唱し、その構想が「紛争環境における沿海域作戦」(LOCE)、「遠征前方基地作戦」(EABO)としてすでに具体化している。第1列島線上で海兵隊が、地対艦ミサイルなどで武装することが最大の核心だ。2027年までにそれを担う「沿岸連隊」を沖縄に配備するという方針である。

 問題は、米海兵隊のミサイル部隊配備だけではない。この海兵隊に加えて、米陸軍もまた、マルチ・ドメイン・オペレーション(MDO)という運用構想の中、第1列島線に地対艦ミサイル部隊などを配備することを決定しているのだ。詳細は本文で述べるが、実際は米海兵隊よりもこの陸軍のミサイル部隊配備が先行するという状況だ。

「台湾有事」論の実態
 このような日米の南西シフト下の、対艦・対空ミサイル配備、そしてトマホークを始めとする中距離ミサイル配備計画が急ピッチに進行する中、東シナ海・南シナ海とも、軍事衝突の緊張が一段と高まっている。

 しかし、冒頭に述べてきた「台湾有事」論の本当の狙いは、米軍による第1列島線の完結・完成、つまり、台湾を対中戦略に動員し、台湾とフィリピンとの間の、ルソン――バシー海峡の封鎖態勢を完成させることである(中国海軍―海南島に配備された原潜の太平洋への出口を遮断)。そして、「台湾有事」論のもう1つの重大な狙いは、中距離ミサイルの日本配備のための、一大キャンペーンでもあるのだ。

 現在、これら日米中露のミサイル軍拡競争は、熾烈な段階に入りつつある。この事態を放置したとすれば、アジア太平洋は「キューバ危機」以上の危機に突入する。極超高速滑空弾、中距離弾道ミサイルは、中国におよそ10分前後で着弾する。

 だが、迫りつつあるこの戦争の危機を、逆にアジア太平洋の軍縮に転化すること、日米の南西シフトを中止に追い込むこと、琉球列島へのミサイル基地建設を凍結し、基地の廃止に追い込むこと――これらが今緊急に必要である。私たちは、再び沖縄を最前線とするこの戦争態勢づくりに、黙してはならない。
(注 「序章」については、雑誌『アジェダ』2021年9月号発表の論文に加筆。


『ミサイル攻撃基地化する琉球列島』目 次
序 章 煽られる「台湾有事」 9  
    ミサイル軍拡競争が始まった琉球列島 9 
    進行する琉球列島のミサイル基地化 11
    南西シフトの機動展開基地となる奄美大島・馬毛島 14
    沖縄本島の増強とミサイル要塞と化す琉球列島 16
    対中国の日米共同作戦 18
    「台湾有事」論の実態 21

第1章 アメリカの「島嶼戦争」論  25
    クレピネビッチの「群島防衛」論  25
    「台湾問題」を全面化したクレピネビッチ論文 30
    トシ・ヨシハラらの「島嶼戦争」論 35
    対ソ抑止戦略下の「三海峡防衛」と第1列島線防衛 38
    海峡防衛論=島嶼防衛論の虚構 42
    「台湾有事」論による中国南海艦隊の封じ込め 43
    海峡防衛をめぐる(対)着上陸作戦 45
    チョークポイント・宮古海峡の要塞化 47

第2章 エアーシーバトルから海洋プレッシャー戦略へ  51
    エアーシーバトルの限界 51
    中国本土攻撃を想定するエアーシーバトル 54
    オフショア・コントロールと「海洋拒否戦略」 58
    「制限海洋」作戦による「海洋限定戦争」論 63
    海洋プレッシャー戦略とは 66
    「インサイド・アウト防衛」部隊の運用構想 70
    海洋プレッシャー戦略が想定する戦場 75
    第1列島線構成国によるA2/ADの完結 77

第3章 米海兵隊・陸軍の第1列島線へのミサイル配備 81
    海兵隊作戦コンセプト(2016年) 81
    「紛争環境における沿海域作戦」(LOCE)構想の策定 85
    「フォース・デザイン2030」による米海兵隊の大再編 89
    海兵沿岸連隊へのトマホーク配備 93
    米陸軍ミサイル部隊の第1列島線配備 98
   
第4章 自衛隊の南西シフトの始動と態勢 105
    南西シフトの始動 105
    陸自『野外令』の大改訂 114
    「日米の『動的防衛協力』」による南西シフト 117
    「日米の『動的防衛協力』」による琉球列島の部隊配備 123
    宮古島などのミサイル配備はいつ決定されたのか? 125
    自衛隊の南西シフトの運用 127
    南西シフト態勢下の統合機動防衛力 131
    10万人を動員した機動展開演習「陸演」 132
    陸上総隊の創設―軍令の独立化 134
    2018年防衛大綱・中期防の策定 135
    多次元横断的(クロス・ドメイン)防衛力構想 137
    南西シフト下の空自の大増強 141
    南西シフト下の海自の大増強 143

第5章 琉球列島のミサイル戦場化 149
    地対艦・地対空ミサイルの運用 149
    対艦ミサイルを守る対空ミサイル 152
    ミサイル部隊の空自・海自との統合運用 153
    陸自教範『地対艦ミサイル連隊』では 154
    敵基地攻撃能力を有するミサイルの配備 158
    極超高速滑空弾の開発・配備 161
    中距離ミサイルの琉球列島――九州配備 165
    中距離ミサイルは核搭載か? 169
    ミサイル攻撃基地となる琉球列島 172

第6章 無用の長物と化した水陸機動団 177
    水陸機動団の編成 177
    水陸機動団の作戦運用 179
    自衛隊の水陸両用作戦とは 182
    陳腐化した水陸機動団の強襲上陸 188
    水陸機動団の装備 192
第7章 機動展開・演習拠点としての奄美大島・馬毛島の要塞化 195
    明らかになった南西シフト下の馬毛島要塞 195
    統合演習場・機動展開拠点としての馬毛島 196
    空母も寄港できる巨大港湾設備 201
    馬毛島配置人員のウソ 203
    南西シフト下の演習拠点となった種子島 204
    機動展開拠点としての馬毛島・奄美大島 206
    奄美大島・瀬戸内分屯地の巨大ミサイル弾薬庫 208
    南西シフトの軍事拠点としての馬毛島 211
    種子島―薩南諸島の演習場化 214
    臥蛇島のミサイル実弾演習場化と新島闘争 217
    「南西有事」への民間船舶の動員 223
    「統合衛生」という戦時治療態勢 226

第8章  アメリカのアジア戦略と日米安保 229
    「太平洋抑止イニシアティブ」(PDI) 229
    アメリカの西太平洋へのリバランス 232
    アメリカの「国家安全保障戦略」(NSS) 237
    「インド太平洋戦略報告」による対中国・台湾戦略の始動 240
    急激に進むアメリカの台湾への武器売却 244
    安保法制定の目的とは 246
    日本の「インド太平洋戦略」 251
    激化する対中演習と新冷戦態勢 253

結 語 アジア太平洋の軍拡競争の停止へ 257
    メディアの「台湾有事」キャンペーン 257
    日米中の経済的相互依存と戦争 259
    沖縄を再び戦争の最前線にするのか? 261
    ワシントン海軍軍縮条約による島嶼要塞化の禁止 264
    琉球列島の「非武装地域宣言」 266
    日中平和友好条約に立ち返れ 267


●本書の「結語」は「note」からhttps://note.com/makoto03/n/n34aad4e72be7

●本文は以下のアドレス https://www.hanmoto.com/bd/isbn/9784907127282

「海峡防衛戦」=通峡阻止作戦下の、宮古島・保良ミサイル弾薬庫ー訓練場の軍事的意味と、ミサイル弾体の搬入ー運用について!

2021年06月02日 | 自衛隊南西シフト
*「海峡防衛戦」=通峡阻止作戦下の、宮古島・保良ミサイル弾薬庫ー訓練場の軍事的意味と、ミサイル弾体の搬入ー運用について!


●現在、宮古海峡に接する保良ミサイル弾薬庫・訓練場について、ミサイル弾体の搬入ー運用開始という事態が切迫している。この状況を理解するためにも、日米の南西シフト態勢下の「海峡戦争」=通峡阻止作戦の意味を理解すべきだ。

●この日米の南西シフト態勢が、「台湾有事」=米中戦争論などという虚構(危機煽り)としか捉えられないことも、琉球弧=第1列島線における通峡阻止作戦(島嶼戦争=海洋限定戦争)の意味を認識できていないというべき。

●添付資料は、ソ連脅威論下の北方シフト――宗谷・津軽・対馬の三海峡封鎖作戦のものであるが、この三海峡封鎖作戦を南西シフトに転換・適用したのが、第1列島線、琉球弧へのミサイル部隊等の配備である。


●これらの「海峡防衛論」=通峡阻止作戦で明らかになったのは、宮古島へのミサイル部隊とその司令
部配備ー保良ミサイル弾薬庫・訓練場建設が、第1列島線の通峡阻止作戦の重要な拠点(チョークポイント)となることであり、そのための、宮古島・保良地区の恐るべき「要塞化」が、今後目論まれている、ということだ。


●間違いなく、宮古海峡を望む保良地区には、「海峡防衛」のためと称して、堅固な地下施設、監視所、演習場など、一連の要塞システムが構築される。

●この要塞には「対空、対海上、対水中、対地ミサイル、火砲、爆雷、機雷等の火力機能と、水中、水際等の障害を備え、さらに砲爆撃、ミサイル攻撃に十分堪え得る防護力を持った施設」(『海峡防衛』)が造られるということだ。

●そして「この要塞と連携して、国有地、公有地を中心に所用の地域を防空演習場として確保し、事態切迫時に迅速に防衛諸施設を構築できるよう、平時からそなえておく」(『海峡防衛』)ということだ。
――「重要土地等調査法案」=要塞地帯法の必要性が叫ばれている!

*宮古島・保良ミサイル弾薬庫の運用を停止せよ
「海峡防衛においては、海峡周辺の住民の避難・保護の問題をはじめ、陣地の構築のための土地の使用、建築物の利用、民間の船舶、航空機、車両の運行統制、電波統制等民生一般に関連する問題が必然的に出てくる」(同)とする。
――防衛省は、先日の超党派「沖縄等米軍基地問題議員懇談会」において、宮古島市が要望すれば、宮古島市の住民避難計画の実施検討を進める、としている。

*防衛省・自衛隊は、この宮古島・保良地区の「要塞化」計画の全貌を明らかにするとともに、ミサイル弾体搬入ー運用を停止せよ!

(引用資料は『海峡防衛』日本戦略研究センター)




「オンライン・島々シンポジウム―要塞化する琉球弧の今」の 開催決定!

2021年06月02日 | 自衛隊南西シフト
*「オンライン・島々シンポジウム―要塞化する琉球弧の今」の
  開催決定!
 ――第3回 奄美ー種子島から琉球弧の要塞化を問う!



●日米軍隊の南西シフト下、急ピッチで進行する奄美のミサイル基地と馬毛島(種子島)の航空要塞化
――これに抗して、厳しいながらも必死に闘い続ける、奄美大島ー種子島の住民たちの、現地からの声を聞こう!

●日時 6月26日(土)13時~

●場所 奄美市「AiAiひろば」での公開・ZOOM ビデオウェビナーによるシンポジウム      
(入場無料・カンパ歓迎。先着500人の事前登録制。すでに登録済みの方は、登録なしで参加できます)

●パネラー
城村典文さん(戦争のための自衛隊配備に反対する奄美ネット代表)
荒田幸司さん(奄美市議会議員)
牧口光彦さん(奄美のミサイル部隊配備を考える会代表)
佐竹京子さん(同・考える会)
迫川浩英さん(馬毛島への米軍施設に反対する市民・団体連絡会事務局)
和田香穂里さん(前西之表市議)
古川正則さん(種子島漁師)

●ゲスト 山里節子さん(いのちと暮らしを守るオバーたちの会)
 解説  小西 誠さん(軍事ジャーナリスト)
 司会  三上智恵さん(ジャーナリスト・映画監督)


*申し込み用アドレス(登録リンク)
https://zoom.us/webinar/register/WN_QzYB3LT_QR28nuBpILHMpw


●寄付・カンパのお振込み
・郵便振替 00160-0-161276(名義・社会批評社)(「島々基金」とお書き下さい)
*シンポジウムは無料ですが、現地の運動支援のためのカンパを、ぜひともお願いします!
・クレジットカードからもカンパができます!
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●お問い合わせは shakai@mail3.alpha-net.ne.jp
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