社会不安障害:SAD、ボランティアとセカンドライフ

SADで会社を休職したが、一年で復帰し、無事定年を務めて、その後の生活とボランティアについて気ままに掲載中

西澤保彦『マリオネット・エンジン』

2010-02-19 07:43:37 | 趣味(読書)

以前読んだ西澤保彦『スナッチ』の西澤氏の作品第2作品目となる。とは言いながら、実はこの作品も、最初は氏の作品とは気づかずに初めての作者かなと思いながら、読んだ。余りには同じSFとは言いながら、その内容と言うか、表現がかなり異なっていたからだが。

カバー裏の作者紹介の主な著作の最後に『スナッチ』(光文社)が掲載されており、初めて、同じ作者と知る事になった。何とも恥ずかしい話ではある。

さて、この作品は、表題にある『マリオネット・エンジン』をはじめとする短編6作品が収録してあるが、特に面白かったのは『シュガー・エンドレス』と『マリオネット・エンジン』の2作品だ。どちらも甲乙つけがたいが、と言いながら、その内容がぜんぜん異なる為、単純な比較ができない中で、ある意味おそろしいのは、身近な題材をテーマとした『シュガー・エンドレス』の方だろう。この作品は余りにも有りそうで、怖い話だ。しかもあっと言う間に読めてしまい、最後には作者が何を伝えたかったのか、全く分からない所が、逆に面白い。

「白砂糖」の取り過ぎは大変危険だが、周りにある健康そうな飲料や調味料として通常よく使われる物に、この「白砂糖」が驚くべき程大量に使用されている。主人公が自分が甘い物を食べる為に、家族に気づかれない様に、酸味や調味料を駆使して、白砂糖の混入量を増やして行く。結果・・・。

この短編集の作品は、6作品ともそうだが、落ちはある様でないような不思議な最後と言うか、考えさせる余韻を残した終わり方がまた何とも言えない。

と言う事で、6作品ともあっと言う間に読める作品なので、気楽に読んでもらえたらよいのではないかと思う。これで氏の別の作品を更に読みたくなってきたのでいつかまた紹介できればと思う。 

マリオネット・エンジン

書籍名:『マリオネット・エンジン』
著 者:西澤 保彦(にしざわ やすひこ)
発行所:株式会社講談社
発 行:2009(平成21)年2月5日初刊発行
定 価:860円+税
頁 数:縦二段組み251ページ+著者によるあとがき8ページ

<裏面の作品紹介>

パートナーを機械で理想のタイプに変換し愛することのできる時代が到来した。
その技術に賛否が渦巻く中、思いも寄らぬ恐怖が開発者を襲う!

表題作『マリオネット・エンジン』をはじめ
恐怖に満ちた6作品を収録!

ロジックに定評ある
西澤保彦のすべてを凝縮した
SFホラー短編集誕生!!

著者紹介 西澤保彦(にしざわ やすひこ)
昭和35年高知県生まれ。米エカード大学創作法専修卒。高知大助手などを経て執筆活動に入る。第1回鮎川哲也賞で『聯殺』が最終候補作に。大胆な設定とめくるめく謎、それを緻密な論理で解決していく本格ミステイリーを偏愛し、こだわりに満ちた作風で新境地を切り拓いている。

主な著作
『解体諸因』『完全無欠の名探偵』『7回死んだ男』『殺意の集う夜』『人格転移の殺人』『麦酒の家の冒険』『死者は黄泉が得る』『瞬間移動死体』『複製症候群』『幻惑密室』『実況中死』『念力密室』『夢幻巡礼』『転・送・密・室』『人形幻戯』『ファンタズム』『生贄を抱く夜』『ソフトタッチ・オペレーション』(以上、講談社ノベルス)、『いつか、ふたりは二匹』(講談社ミステリーランド)、『夢は枯れ野をかけめぐる』(中央公論新社)、『スナッチ』(光文社)など。

<作品と初出>

「シュガー・エンドレス」・・・ 小説現代増刊メフィスト2007年9月号

設楽啓路は高校中退で職にも就かず家事手伝い(買い物や料理)をしていた。両親は離婚し、事業家の母親と双子の妹ルカ、弟イサクと母親の実父と暮らしていた。甘い物好きの啓路は、その甘い物を食べたいが為に、家族に白砂糖を使った料理や飲み物を食べさせ、且つ気づかれない様にする為に、どんどんその調理法や飲み物の研究をして、家族の味覚を白砂糖ずけにしてしまう。その結果、母親と祖父は突然原因不明の病気(骨がすかすかになっていた)で亡くなってしまう。弟イサクは、白砂糖の弊害について教えてくれた啓路の元家庭教師の和久井姫美と、結婚し、葬式の時に帰宅した。この時に、啓路が開発した白砂糖付けの栄養ドリンクを見つけ、その調合方法を啓路から教えてもらう。その後この栄養ドリンクが、売り出され世界的な健康ブームに乗って爆発的に売れる事になる。その10年後世界中で、奇形児や骨がすかすかとなる病気が流行り始める。

一方母親の事業を引き継いだルカだったが、その後も啓路の料理を食べ続け、遂に母親と同じように、骨がすかすかとなって、倒れるが、若かった為に何とか持ち直した。しかし一生治らない車椅子の生活となってしまう。今更遅いがルカの看病に、献身的につくす啓路だったが・・・。

「テイク」・・・・・・・・・・SFオンライン 1999年

日本人タケヒト通称テイクは、ある日突然アーノルド博士の「プロジェクト・イクエス」に加わる事になった。このプロジェクトに引き込んだ博士の愛人のメリッサにより、遡行性自我解析装置を使用して、自分の幼い頃の経験等、本人も覚えていない記憶を深層意識から吸出し、データベース化する被験者(モデル)としての毎日を送る事になる。しかし、この解析装置を使用して、2人で催眠状態を繰り返す内に、2人の過去が作り変えられ、大学時代に知り合い、恋人同士と成っていた事に変化する。しかし突然のアーノルド博士の失脚に伴い、メリッサも行方不明になるが、その1年後アーノルド博士により殺されたメリッサが発見される。テイクは、遡行性自我解析装置が本来の機能は果たさず、意識を過去へ遡らせた事により、自分が意図的に意識を過去に遡る事ができる事をメリッサの死後5年経って気づく。愛するメリッサを失ったテイクは・・・。

「家の中」・・・・・・・・・・異形コレクション『時間階段』1999年

この物語りも不思議な作品であり、上記の「テイク」と同様に、時間が遡る事は遡るが・・・。かなりこの作品はSFと言うより、ホラーに近いかも知れないし、ある意味切なさを感じる作品である。

私は、12歳の時に実の兄に犯されその後ずっと犯され続けるが、兄が大学受験の時にやっと拒否する。しかし、大学受験を失敗した兄は全てを私のせいにし、その後も恨む続ける。一方私は、家の中に誰にも見えない布団が10歳の頃から見えており、私が成長すると同時に布団に老婆が寝ており、その老婆がだんだん若くなり、誰にも言えない悩みをその老婆に語りかける事で癒していた。大学に合格し家を出る時には、既に布団はなく40歳ぐらいの若さになった彼女は家の中を歩き回っていたが、彼女が始めて口をきいた。「わすれないわ、あなたのこと」、私は「これで・・・・おわかれなの?」、彼女は「大丈夫すぐにわたしも後をおうから」

結婚した兄に二人目の子供ができた時に異変がおきる。兄嫁が家の誰もみえない女性が家の中を歩き回っていると・・・。これが元で子供を引き連れて離婚された兄は次々に結婚するが、同じく誰も見えない女性が兄嫁には見え、これが元で離婚を繰り返し、兄は精神異常をきたし同居の母親に暴力を振るう様になる。逃げ出してきた母親を私はかくまうが、そこにあらわれた兄に母親は無残な姿で殺され、私も殺されそうになる。逃げた兄は焼身自殺で見つかるが、私は病院で目覚め、世間の好奇の目にさらされないように、看護婦『片岡真希』に親切にしてもらい、2人で生きる幸せをやっと見つける。

しかし、私は子宮がんが再発し・・・そして真希さんも・・・

「虫取り」・・・・・・・・・・小説現代増刊メフィスト2009年1月号

「青い奈落」・・・・・・・・・異形コレクション『世紀末サーカス』2000年

「マリオネット・エンジン」・・書き下ろし

セクスプロイダ(要はベッド型の人間変形・造形マシーン)とスキットディスク(要は行動パターンを記憶した物)を使って、パートナーを理想的な形に変換(プシュケ変換)して愛し合う事ができる人間の理想を実現した社会。そのシステム開発の技術者であるオギ。そのオギの上司である権力者の市政長官のイアラ。オギのパートナーであるコウ。オギは新型のフェティ・シフトを開発する中で、オギのむかしの知り合いファビアの接触を受けるが、彼(彼女)はこの新型のフェティ・シフト開発の事も、オギがコウと愛し合っている時の映像も知っており、オギを脅す。内部の情報がなぜ漏れているのか?オギはある時に、イアラがその情報を流しているのではないかと気づく。イアラのパートナー兼ボディガードのスズを、オギにパスティッシュ変換し、オートドライブでオギとして動かし、イアラの身辺を探らせようと動かす。しかし真相が見えてきた所で、消却マシンとイアラによって、オギに変換されたスズは消却されてしまう。自宅に仕掛けたカメラで、コウとイアラの関係を知ったオギは、最後の逆転の手を打つ・・・。

と今回はかなり超訳的にあらすじをまとめてしまいましたが、何れにしてもなかなか楽しめる作品です。しかしこの『マリオネット・エンジン』の原作の題名は『屍姦時代』との事ですが、なかなか直接的な表現でその物をずばり表現されていて、これはこれで分かりやすいと思うが・・・。

つまり、人間は本来の種の保存の為にお互いに愛し合い、セックスをするのであり、機械として相手の自由なまま相手が眠った状態でするセックス等死体を抱いているのと同じではないかと言う誠に直接的な題名と取れる。マアーなかなか面白い作品です。


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