かめよこある記

~カメもタワシも~
To you who want to borrow the legs of a turtle

スキップ・ガール 12

2017-08-04 15:45:00 | かめよこ手のり文庫

「時間を逆戻りするにはどうするかといいますと、つまり・・・。」「つぅまぁりい?」
「時間を戻るわけですから、それにあわせて、スキップも後ろ向きになります。」
「うっ、後ろでスキツプッ?」素っ頓狂な声を出した事に恥ずかしがっている余裕もないわたし。「うそでしょ?そんなこと!」
「ふつうのスキップじゃダメなんですか?」納得がいかないわたしに、男は静かに頷き、「論理的にはそうなります。」論理的だあ? コジツケ的だろ。
 しかし、ずいぶんデリケートな会話になってきたな。こんな会話してるところを誰かに聞かれでもしたら。わたしは自然と辺りを見まわしていた。
「だって、わたし、スキップなら出来るけど、後ろ向きでなんか、やったことなんかないし・・・。」
「だいじょうぶ。わたくしがしっかりアシストしてまいります。」
 早くもわたしは後悔していた。後ろ向きでスキップだなんて。それこそ誰かに見られたらどうするんだ? 人前でスキップをしているところを見られるだけでも死ぬほど恥ずかしいのに。それを後ろ向きでだよ。人生経験のまだまだ短いわたしなんかには、もはや想像を絶していた。
 わたしは、鉄の校則と後ろスキップを天秤にかけてみた。校則をのせた、もう片方の皿に後ろスキップをのせてみる。これって、どっちが重いんだ?
「後方スキップは、初めてでしょうが、落ち着いてやればだいじょうぶ。」憎たらしいくらいに男は落ち着いている。
 だいじょうぶなんかじゃない!やはり、この男はなにもわかってない。あんたの言う後ろスキップの壁がどれほど高いものなのか。
「やはり転倒には十分注意していただかなくてはなりませんが、要領は前方スキップと同じです。だいじょうぶですよ。あんなに素晴らしいスキップをなされるあなたなら、きっとうまくいきます。どうか自信をお持ちください。」
 だいじょうぶだなんてそんな言葉、いくら安売りしたところで、後ろスキップの重みを打ち消すことなんて到底出来っこないんだよ!問題はそんな技術的なところにあるんじゃなくて、どちらかといえば精神的なことなんだよ。この男は、そういうところのケアってものがまったくわかってないんだ。
「まわりを見てください。この公園は、ぐるりと緑に囲まれているおかげで人目から遮られています。それに、おあつらえ向きなことに変な噂がたっているせいで人が寄りつきません。まさにタイムスキップを試してみる絶好のいいチャンスじゃないですか。さあ、思い切って一歩、踏み出してみませんか?」
 あたりを見渡す。誰もいないのは確かだ。いるとすれば、砂場に、寝転んだ猫が一匹。
 チャンス、一歩、踏み出す、そんな前向きなワードをいくら並べたてたところでねえ、わたしの心はどんよりと後ろ向きなんだよ。後ろスキップだけに?


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