夜、自室で問題集に目を落としながらも、わたしの頭は、風船みたいに天井あたりを漂ってた。
男は、スキップする力を利用して、時間をスキップするのだといった。でも、なんでスキップなんだろう。
考えてみれば、おかしなことばかりだ。あの男は、自分の都合のいいように話を組み立てているだけなのだ。こちらには見せたい手だけを見せて、見せたくないほうはちゃんと隠している。
水飲み場のところで消えたのだって、きっと何か仕掛けがあったには違いない。それを、今のところ、わたしが知らないってだけのことなのだ。
スキップの浮かれた気分が、エネルギーになるみたいなこといっていた。でも、スキップの力って、とても小さいんだよね?
スキップのウキウキなんていう、そんな、チマチマしたもんじゃなくて、世の中にはもっと、それこそ、心臓がドキドキ!いやバクバク!いやいや、ドキッンドキッン!もっと、もっと、キュンキュン!あるいはズッキュッゥーン!なんてこともたくさんあるんじゃないか!
それなのにあの男は、よりにもよってスキップって。スキップなんてねぇ、とっくの昔に世の中から忘れ去られた存在なんだよ。そんな哀れなスキップに時間を動かすだなんて、そんな、だいそれた事が出来るわけがないだろ!
かわいそうに、あの男はダジャレ好きが祟って、たまたま時間とスキップとを無理矢理むすびつけてしまったもんだから、スキップなんてそんなちっぽけなものに、すっかりとらわれてしまっているんだ。
こうして時間をおいて、ちょっとでも冷静に考えてみれば、あの男にだって、それがおかしいことだってことは、すぐにわかるはずなのになぁ。
そもそも、スキップして時間をスキップ出来たからって、いったいなんになる?
結局、何が目的なんだあの男は? やっぱりあやしい勧誘か。こんなくだらない事に割いてしまったわたしの時間を返してほしい。
またしばらくの間、あの公園を迂回しなきゃならないかな。
気がつくと、両手で頬杖ついたうえに、鼻と上唇で鉛筆をものすごい握力で、ぎゅうっと握りしめてしまっていた。
いったい、わたし、何をやっているんだ? スキップごときに足をとられて、問題集のページが全然進んでないじゃないか!
風船あたまを天井から、ようやく引きずり戻して、わたしは、やっと問題集にとりかかった。
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