「スキップ!」その刹那、わたしの体は弾かれるように飛び出していた。
タッタタッタタッタタッタ・・・。隣りで男も同じリズムを踏んでいるのが聞える。
後ろにスキップというはじめての感覚。後ろに吸い込まれていくような感覚。スキップがまた新たなスキップを生む。
ああ、お父さん、お母さん、ごめんなさい。あなたたちは確かにイケてない親だったかもしれないけれど、生まれる場所を選べなかったわたしを育ててくれた。
わたしは今、誰も見ていないのをいいことに、男と手をつないで後ろスキップをしている。それも会ったばかりのヘンテコなキラキラスーツの男と。
その一部始終は砂場のねこが見ているに違いない。気のない素振りで。
でも、これだけは言いたい。その動機はけっして不純なものではなかったと。ただ鉄の校則を破りたくないそればかりに。
後ろスキップとは、こんなにも悲しくなるものなのか。そんなこと、はじめて知った。しかし、それだってやってみなければわからなかったことなのだ。
もうそろそろ、あの水飲み場が背後に迫ってきているはず。なのに、スキップは止まるきっかけをみつけられないで増々加速していく。
そして、そう、ついにそれは起こったのだ。あの日は傍観者だったこのわたしに。
わたしは宙に浮かんでいた。手足をジタバタさせて。頭をまるで巨大なUFOキャッチャーにつかまれたみたいに。走り幅飛びの選手が、少しでも遠くに飛ぼうともがくかのように。だが、その動きはひどくスローモーションだ。まわりが風景は波打つように揺らいだ。
「もうすこし」男がささやいた。わたしはもがき続けていた。金縛りを解こうと必死になるみたいに。いつ終わるとも知れないはじめての感覚に呑みこまれて気持ちが悪くなってくる。
何かにすがろうにも目にはいってくるもので動くものといえば、先ほどのねこだけだ。スローなわたしと対照的に、せわしなく足を上げたり下げたり、おまたを舐めたり。
「もうすこし」そんな男の言葉を何度聞いただろう。「はい!」男が突然叫んだ。ドスン!
「いててててて・・・」わたしは尻もちをついていた。
「慣れれば着地もいずれうまくなりますからね」男はかるく微笑みを浮かべ、つないでいたわたしの手を引っぱりあげた。
あたりを見渡してわたしは唖然とした。
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